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嘆きの邂逅~闇組織編~(第1回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第1回/全6回)

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 畑や牧場から少し離れた位置の森の傍では、仕事の合い間に食べる食事作りが行なわれている。
「皆綺麗に手、洗ったかな〜?」
「あらったよ」
「ごしごしあらったよ」
「きれいきれい」
 メイド服姿の神代 明日香(かみしろ・あすか)の問いに、妖精の子供達が手を開いてみせる。
「それじゃ、おにぎり作ろうね〜」
「最初は見ていて下さいね」
 神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)が、具材をテーブルに並べていく。
「瀬蓮達も手伝うね」
「お願いします〜」
 明日香に誘われて手伝いに来た高原瀬蓮(たかはら・せれん)アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)は、この別荘周辺で過去に起きた嫌な事件を楽しい思い出に変えるべく、積極的に料理に取り組んでいく。
「日本では、梅干が定番なんです〜。皆は何が好きかな〜?」
「私は、この昆布のがいい!」
「僕は、こっちのお魚の細かいの」
「あたしは、このきゅうりのやつ!」
 明日香が訊ねると、子供達が好きな具材を指差していく。
「それじゃ、瀬蓮は定番の梅干を握るね。種はとった方がいいかなぁ」
「僕は、昆布を握ろうか。瀬蓮に教わってね」
 アイリスの言葉にこくりと首を縦に振って、瀬蓮は両手を広げた。
「それじゃ、ご飯乗せますね〜」
 明日香はしゃもじに白米を適量乗せると瀬蓮の濡れた手の中に落とした。
「おにぎりにぎにぎ〜♪」
 瀬蓮は楽しげに歌を歌いながら、握っていく。それを真似してアイリスも握り始める。
「皆は皆の手の平に合った量のご飯を握りましょうね」
 夕菜が声をかけると、子供達は「はーい」「はあい」と可愛らしく返事をする。
「こぼさないように、落ち着いて握って下さいね〜」
 明日香は子供達の小さな手の上に、ご飯を乗せていく。
「あちっ」
「おにぎり、にぎにぎ〜」
 瀬蓮の歌を真似して子供達が歌い、はしゃぎながらまるで工作のようにおにぎりを握っていく。
「おかずも出来ましたので、運んでいきましょうか」
 共に料理を作っていた神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)が言うと、
「それじゃ、僕は運搬を担当するよ……。おにぎり作りじゃ子供達にも敵わないからね」
 言って、アイリスがスープの入った鍋を持ち上げた。
 
「出来ましたよー!」
 仕事をしている百合園生や、柄の悪い少年達に有栖が声をかける。
 この間炊き出しを行った神楽崎分校予定地とは距離があり、道中盗賊が出ると噂もあるため、キマクへ野菜の仕入れに行くことはできなかったけれど、ヴァイシャリーから持って来た野菜や肉類を利用して、温かな料理を作り上げた。
 今回はパートナーは同行しておらず、有栖1人なので、存分に料理の腕を振るうことが出来た。
「はい、特製のポトフとかぼちゃのポタージュです」
「どうも」
「戴きます」
 柄の悪い少年達だが、礼をいって受け取っていく者も多い。分校にいたパラ実生とは少し違う……いや、聞いた話では彼等は元々はルリマーレン家の別荘を占拠していた少年達だという。
 解体に訪れたルリマーレン家の協力者達の説得により、少しずつ心を開き、こうして畑仕事に力を貸してくれるようになったのだという。
「子供達が作ったおにぎりもあるよ」
「小さいけれど、美味しいですよ〜」
 アイリス、それからおにぎりを運んできた夕菜がテーブルに大小さまざまな大きさの沢山のおにぎりを並べていく。
「美味い」
 ポトフを食べてそう言葉を漏らした彼等に微笑みを向けた後、有栖はパックの蓋を開ける。
「こちらはジャーマンポテトですっ♪」
「おっ、美味そう」
 少年達が次々に手を伸ばしてくる。
 おにぎりを右手に、左手にはフォークを持ち、おにぎりとジャーマンポテトを同時に口に入れている少年もいた。
「ゆっくり召し上がって下さいね」
 有栖はそんな少年達の姿に微笑みを浮かべる。
「野菜スープもそろそろ飲み頃だ」
 近くでスープを煮込んでいた主人がそう言うと、有栖は頷いた後学友達に向けて声を上げる。
「プレナさん達も休憩してくださいー!」
「これ終わったら行きます〜」
 すぐにプレナの生き生きとした声が返ってくる。
 更に、
「真希さん、ユズさん! スープ出来ましたよー!」
 遠くに見える、2人にも手を振って呼びかけると、真希がぶんぶん手を振り返し、ユズに声をかけて一緒に歩いてくるのだった。

○    ○    ○    ○


「寒い中、皆頑張ってるね」
 昼食後、桜井 静香(さくらい・しずか)は白百合団員に付き添われて、農園と牧場を見学して回っていた。
「まさか百合園の生徒達が、ここまで農園のお仕事手伝ってくれるとは思わなかったよ」
 ルリマーレン家の息女であるミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)は、お嬢様である百合園生が汚れる仕事をも進んで行なっている様子に、驚いていた。
「オジョウサマってのは、贅沢ばかりして、キラキラな服を来て着飾っている『飾り物』のように思ってたけど、そうでもないんだなぁ」
 指導に当っていた農家の主人も熱心な百合園生達の姿に感心をしている。
「聞けば、この辺りは不良グループに占拠されていたようだが?」
 農園を手伝っていたパラ実の織田 信長(おだ・のぶなが)が、静香達に近付いてくる。
「広い土地の中に、ミルミん家の別荘しかなかったんだけどね。長い間使わないで放置してたら、不良達の溜まり場になっちゃってたの」
「分校となる場所もそうだが、このような農園を築けば、あのような輩にも狙われるというもの。自衛体性が甘ければまた占拠されてしまうだろう。気をつけることだな」
「そっか、警備とか全然考えてなかったね、ラザン」
 ここはルリマーレン家の私有地であり、管理人や作業員の雇い入れは開始しているのだが、警備員についてはさほど考えてはいなかった。
「古来より農園が賊に襲撃略奪されるのは繰り返されてきた事。この辺りもキマクよりはマシとはいえ、治安が良いとは言えんからな」
 ここは日本ではない。作物を育てればそれを狙う人物も出るだろう。
「うん、白百合団の皆とかいる今は大丈夫だけど、今後の為に警備員も雇うことにするね。ありがと〜」
 ミルミは信長に礼を言った。
「一帯調べてみたよ。別荘の前から人道までは私道を作るみたい。川の方向に農園は広がってて、綺麗な水を引けるようになってるよ……。はあ……」
 ニニ・トゥーン(にに・とぅーん)は、調べてきたことを報告し、地図を信長に渡す。
「ご苦労。しかし何だその頭は。何時もより大きいぞ」
「あっ……き、気の所為だよっ。そ、それじゃ、お兄ちゃんに頼まれてる仕事もあるから」
 こちらに近付く南 鮪(みなみ・まぐろ)の姿がちらりと見え、ニニは見事なデラックスモヒカンを押さえて、ぱっと走り去る。
 このモヒカンが、鬘の上に被った偽物のモヒカンだと南 鮪(みなみ・まぐろ)に知られたら大変だから。
 鮪が見ていない場所くらいは、自由な髪型で過ごしたい。……だってニニは11歳の女の子だもん。
 そんな可愛いアリスの少女の気持ちを知って……いや知らずか気にせずか、鮪が陽気な顔で静香達に近付いてくる。
 静香にひらひらと手を振った後、鮪は農家の主人に袋を1つ渡す。
「俺はこう見えてもお前らの方に近いんだぜ、挨拶代わりにこれをやろう」
「おっ、ありがとう。結構広いんで種が足りなくなりそうだったんだ」
 鮪が渡したのは種モミが入った袋だった。
「でさ、馬や鶏はいるが、牛や羊がいないじゃないか。乳牛飼おうぜ乳搾りしようぜ」
 手を開いたり閉じたりしてみせる……乳搾りのまねというより、なんだかいやらしい手付だ。
「仔羊も飼ったらどうだ、育てて毛を引ん剥いて裸にするのが気持ち良いぜェ〜HEHEHE」
 これまた手付きがいやらしい。まるで服を剥いでいくかのような……寧ろ、お前の服を剥がしたいと言われているような。そんか感覚を受け、静香を取り巻いていた百合園生が一歩後に下がる。
「そうだね、牛や羊もいるといいよね!」
 しかし、静香は純粋に言葉だけ捉えていた。
「けど、この規模で肉用動物は駄目だ。飼育コストがかなり高いぜ」
 しかし突如ガラリと表情を変え、真剣なプロの目とも言える鋭さの混じる目で、鮪は遠くに目を向ける。
 ギャップの激しさに百合園生達は眉を顰める。
「そうだね、肉の加工とかは無理だし」
 しかし、静香は純粋だった。