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嘆きの邂逅~闇組織編~(第1回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第1回/全6回)

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 危険だから出歩かないようにといわれていたので、冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)は、如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)を誘って、最上階のバルコニーへ出た。
 昨日まで子供達の世話をして過ごしていた2人だけれど、今日は皆とは過ごさず、2人きりで初日の出を見ていた……いや、視力を失っている日奈々の目に光は届かない。
「ゆっくり昇ってるよ。半分くらい昇ったところ」
 千百合は日の出の様子を、日奈々に教えていく。
「うん」
 見えなくても、光の暖かさを日奈々は感じていた。
 そして、隣にいる存在も、とても暖かくて。
「千百合ちゃん……私ね……」
 日奈々はゆっくりと言葉を紡いでいく。
「千百合ちゃんのこと……好き、だよ……愛してるよ……」
「えっ?」
「……いきなり……こんな、こと……言っても……困る、かも……しれない、けど……どうしても……言いたかったんだ……」
 千百合の声が聞こえる位置に見えない目を向けて。
「……これからも……一緒に……いて、くれる……?」
 素直な想いを、大切な人に伝える。
「うん。当たり前っ」
 言って、千百合は、日奈々の肩を抱き寄せて、日の出の方を一緒に見て、
「今年も日奈々を守る」
 そう誓うのだった。
 太陽が昇りきった後、千百合は日奈々のに手を伸ばして、微笑みながら撫でた後、腕を組んで部屋の中に戻っていく。
「冷えたね。一緒にお風呂入ろっ」
「うん……一緒」
 日奈々は嬉しそうに答えて、2人は一緒に準備をして、一緒に部屋のお風呂に入ることにした。
 ちょっと狭いけど。2人で、一緒に。

 自分はパラミタに来てから変わった……と思う。
 昇っていく太陽を見ながらメリナ・キャンベル(めりな・きゃんべる)は、パラミタに来てからこれまでのことを振り返っていく。
 自分自身ではよく分からないのだけれど、パートナーにそう言われたのだ。
 多分……きっと、ファビオの事件が原因だろう、と。
 メリナは共に初日の出を見に屋上に上がった友人達に目を向けた。
 アユナ・リルミナルは、手すりに掴まって目を細めながら太陽を眺めている。
「あの太陽打ち落とせないかなー」
「そ、それは夢が壮大すぎます」
 エミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)はニヤニヤ笑いながら、稲場 繭(いなば・まゆ)は、眩しげな顔で微笑みながら共に朝日を浴びていた。
(あの事件でメリナはアユナや友人達と出会うことが出来た)
 友達の姿に軽く笑みを浮かべて、メリナはまた太陽の方に目を移す。
 最初はファビオが気に入らず、ぶっ飛ばしてやりたい。……それだけだった。
 だけれど、彼を探すために、アユナや友人達と一緒に過ごしていった中で、なんとなく、知らない間に彼女達がメリナにとって大切な友人になっていた。
「眩しい……」
 アユナが小さく声を上げた。メリナはこくりと頷く。
(アユナが悲しそうだと、メリナも凄く悲しくなった。アユナが嬉しそうだと、メリナも凄く嬉しくなった。――こんな百合園なんていうお嬢様の学校で、こんな気持ちになるとは思ってなかった)
 そっと息をついて、メリナは日の出に誓いを立てる。
「今年はアユナをたくさんたくさん笑顔にしてみせる」
 振り向けば、笑みを浮かべているアユナと友人達がいる。
「アユナの抱負は?」
 メリナが訊ねると、アユナは首を縦に振って突如太陽に向かって大きな声を上げた。
「素敵な恋人を作るーーーーーーー!」
 叫んだ後、友人達の方に顔を向ける。
「ために、女を磨くの!」
「そっか。女を磨くのか」
 メリナはくすくすと笑みを浮かべた。
「今年はどうするのですか? そのお相手は……?」
 繭が優しい瞳でアユナに訊ねると、アユナは少し悲しげな目で、ゆっくりと答えるのだった。
「ファビオ様はアユナには手の届かない遠い遠い人。どんな人なのかもやっぱりわからなくて、アユナは自分の理想で勝手にファビオ様を作り上げてるのかもしれない。好きな気持ちは変わらないけど、アユナにはアユナに相応しい人がいると思うんだ。だから、遠くで見ているだけとか待っていることしか出来ない人じゃなくて、一緒に生きていける人とお付き合いしたいな」
「そうですか」
 繭はふわりと微笑んだ。
 アユナが危険なことをしないなら、それが一番だ。
「アユナにはアユナの出来ることで、ファビオ様の助けになるんだ……。そして認めてもらえたら……! う、うっ、やっぱり諦めきれない。ダメだって分かってるのに」
 アユナは手すりに顔を押し付けて悶えた。
「……それじゃ、私もアユナさんのお手伝いしますね」
 繭がそう言うと、アユナは弱々しい顔を繭に見せた。
「アユナの問題なのに……ごめんね」
「だって、私たち友達じゃないですか」
 くすりと繭は笑って、眩しい光の中で誓う。
「今はそんなに力はないけれど、絶対友達を助けられるようになりたい」
「やっぱり友情って大事だよね……ふふ」
 エミリアはそんな繭達の様子を見ながら、
「私も一緒に行動するよ」
 と、言うのだった。
 ……エミリアの場合、純粋な友情からではなく、面白そうだからという理由だけれど。
「アユナ」
 メリナがアユナの名を呼び、自分の方に顔を向けたアユナの手をそっととって、その腕に鈴のついた腕輪を嵌めた。
「もし何か辛いことや悲しいことがあったらその鈴を鳴らして欲しい。きっとどこにいてもメリナが駆け付けにいくぞ」
 それはメリナが自分の首につけている鈴と同じ鈴だった。
「ありがと。それじゃ、メリナちゃんがピンチの時も首の鈴鳴らしてアユナ達を呼んでね!」
 こくりとメリナが首を縦に振ると、アユナは微笑みを浮かべて、手を広げて、メリナ、繭、エミリアにぐっと抱きついた。
「今年も、お友達っ」
「庭で餅つき大会やりますから、下りてきて下さい。着物も用意してありますので、皆さんもよかったら着て下さいね」
 太陽が完全に顔を出し、温かな光に包まれていく屋上にリチェルが顔を出して皆に声をかけた。
「校長はこちらへ」
 ティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)が怪しい笑みを浮かべながら、静香の腕を掴んで引っ張った。
「見なさい、ここにラズィーヤ様承認の静香を好きに着せ替えしてOK券があります」
「え、ええええええ?」
 偽造券を見せられ良く分からないまま、校長はティアに連れられていく。勿論、白百合団員や静香を守りたくて付き添っている百合園生もついていく……。

 まだきちんと整備が行なわれていない庭に、テーブルと椅子を出して、新年のお祝いが行なわれていた。
「子供用の杵はこれだよ。危ないから飛ばないで足つけてね」
 フィーニは子供達に教えながら、餅つきを行なってる。
「のびるよのびる、すごいのびるよ」
 柔らかな餅に、起きたばかりの子供達はとても楽しそうだ。
 百合園生達と子供達はとても仲良くなっていた。
「ホント、すごいね。黄な粉つける? 砂糖混ぜようか」
「うん、黄色いの」
「あたしは、大根の辛いやつつけるー!」
 子供達の世話に手を焼いていたどりーむも、沢山の子供達に囲まれている。
「お雑煮出来たよ〜。順番にどうぞ。お屠蘇は飲みすぎないようにね」
 着物姿の瑠菜は温めた雑煮を器に入れていく。昨晩のうちに作っておいたお節も、テーブルに並べてあり、百合園生達、特に地球人の百合園生達が嬉しそうな笑みを浮かべながら、箸を伸ばしていく。
「やっぱりお節を食べないと正月って気しないわよね」
「冷えた体、温まる〜」
 生徒達は鍋の前に列を作り出す。
「こっちは私が作ったお節どす。数の子手に入れるの大変どしてなぁ」
 清良川 エリス(きよらかわ・えりす)も着物姿でお節をテーブルに出していく。
「戴きます」
 下りてきたアユナが、メリナ、繭、エミリアと一緒に皿に載せて食べていく。
 京風のダシが効いた薄味のお節だった。
「クリスマスで脂と味が濃い料理が続きはりますよって、酢の物やお煮しめが口恋しゅうなりますん」
「ん。毎日同じようなものばかりじゃ、飽きちゃうもんね」
 アユナが酢蓮を食べながら微笑む。
「校長のおな〜り。どうです、このお姿」
 ティアが静香を連れて現れる。
 静香は沢山の淡い色の花が描かれた、桃色の着物を纏っている。
「さぁ冷えた身体にはこれが一番ですわよ」
 ティアは持って来たお屠蘇を盃に注いで静香に渡した。
「あ、ありがと」
 強引なティアに押されながら、静香は屠蘇を飲む。
「……なんか、濃いような……」
「こ、こここれ」
 エリスがお節を持って、静香に近付く。
「こ、こここ、校長せんせに食べていただきたく、き、ききき、気合入れて作ったんどぶぇっ」
 緊張して舌を噛み、お節を落としそうになる。
「あっ、ありがと。凄く美味しそうだね」
 落ちそうになった重箱を手を伸ばして支え、そのまま静香はエリスが作ったお節を受け取った。
「校長や団長もどうですか?」
 邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)が、御籤を静香と、一歩後から付き添っている鈴子に向けた。
「昨今は神に仕える者がこの様な物をもって一年の吉兆を占うと聞き用意してみたのです」
「それじゃ……これ」
 静香が引いた棒には中吉と書かれていた。
「中吉ですね。『凄いモテます……がそれ故に注意しましょう』」
 壹與比売が、結果を読み上げる。
「モテ……注意……!?」
 静香は複雑な表情だった。
「私は大吉ですわ」
 鈴子は大吉と書かれた棒を見せる。
「大吉は、『恋も作物も大豊作です』」
 結果に鈴子はくすりと笑みを浮かべる。 
「アユナも!」
 アユナが手を伸ばして、棒を1本選んだ。
「末吉だって」
「末吉は、『日々精進し己を磨けば、結果は返ってきます』」
「精進かあ……」
「私もいい?」
「わたしも」
「くじ?」
 百合園生や他校生、妖精達が壹與比売の作った御神籤を順番に引いていく。
「わっ、凶だわ」
 マリザは凶を引いてしまった。
「凶は『足元に注意』です」
「……ずっと飛んでようかしら」
「私は小吉だそうよ?」
 マリルは小吉をひいた。
「末吉は『為す事快調に感じます。然しそれで躓かぬよう』」
 その結果に、マリルはこくりと頷いた。
「きゃー、大凶……」
 小さく叫び声を上げたのは、白百合団員のミズバ・カナスリールだった。
「大凶は『闇に注意』です」
「気をつけます……」
「じゃ、ミルミも!」
 別荘所有者であるルリマーレン家息女のミルミ・ルリマーレンも御籤をひいた……。
「吉だって!」
「吉は『思いを貫けば道は開けます』」
「うん、ミルミ今年も思いを貫くよ!」
「ミルミちゃんはちょっと抑えた方がいいんじゃ……」
 控え目に言ったの言葉に、皆が一斉に大きく頷いた。 
「あ〜れ〜」
 突如響いた声に振り向けば、ティアが静香の着物の帯をぐいぐい引っ張っている。
「いつもより多めに回しております」
 帯を巻き取られて、静香はぐるぐる回っていた。お屠蘇を飲まされていたので、酔いで目も回っているようだ。
 帯が解けたあとも、ぐるぐる目を回している。
「静香さま」
「校長!」
「静香さん」
「静香校長」
「校長先生」
 静香を守り、付き従っていた乙女達が一斉に駆け寄って介抱しだす――。
 今年も校長は弄られ、そして守られ続けるのだろう。

担当マスターより

▼担当マスター

川岸満里亜

▼マスターコメント

ご参加ありがとうございました、マスターの川岸満里亜です。
別荘、農園側は事件もなく、楽しくクリスマス、年明けが迎えられたことを嬉しく思います。

ところで今回、場所をお間違えの方が何人かいらっしゃいました。
『ルリマーレン家の別荘と農園』と『農家の田畑と分校』は離れた位置にあります。2つの農場は別の農場です。
今回の舞台は、ルリマーレン家の別荘周辺(農園、牧場等含む)でした。説明が分かりにくくて申し訳ありませんでした。
ガイドのマスターコメントに書いた通り、別荘以外の行動については例外の方を除いて、採用を控えさせていただいております。

PL情報とPC情報の違い、PCの立場、PCのおかれている状況にどうぞご注意下さい。
闇組織に関しては『狙われた乙女』『嘆きの邂逅〜聖戦の足音〜』の通り、一筋縄ではいかない組織です。PLの頭脳プレイが必要になります。
普通の学園生活を送っている善人系PC(所謂パラ実、鏖殺寺院以外)には特に入り込むことは難しく、非推奨行動……と思われます。いわばハイリスク、ハイリスク(リターンがない?)のような……。
これまでの関連リアクション、マスターガイドをよく読んで、アクションの『手段』で入り込めるだけの行動(組織側との駆引き等)をしていなければ、マスター側で勝手に手段を作り上げて入り込めたと書かせていただくことはありません。
また、情報をそのまま素直に受け取っては有利に事は運びません。例えば、綾と一緒に組織に来られたことがある方(友人)に、綾を殺せと指示を出していますが、本当にそれをただ実行した場合、組織側に利はありますが、組織にとって信頼できる人物にはなりえない、とか。
どうしてもこちら方面て立ち回りたい方は、先の先、裏の裏の裏そのまた裏まで読んだ行動を期待いたします。

○神楽坂有栖さん
今回を持ちまして、見習い期間満了といたします(LCも含め)。次回からは普通の団員としてご活動下さい。

次回は分校でバレンタイン(パーティ?)を予定しています。
ガイドの公開は2月上旬から中旬頃になると思います。

こちら闇組織編1回にご参加いただいた方は、離宮編1回(今月末ガイド公開予定)にはご参加いただけません。
お間違いのないよう、十分ご注意下さい。
ちなみに、闇組織編と離宮編は2つで1つのシナリオですので、じっくり楽しみたい方にはその辺りも楽しんでいただければと思います〜。
今回マリル、マリザに過去の話を聞こうとした方がいませんでしたが、色々聞き出していたのなら離宮編のスタートが少し変わっていたり、離宮編に参加されるPLの参考になったと思われます。

それでは、次回も皆様にお会いできましたら、とても嬉しいです。