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リアクション
剛次のハートを動かして
ヨシオの元にミツエ軍から使者が訪れたり、ミツエに憑依した邪霊を何とか静めようと彼女の仲間達が奮闘している頃、志方 綾乃(しかた・あやの)は移動生徒会室『金剛』に鷹山剛次を訪ねていた。
剛次に会うのは少々苦労するかと思っていた綾乃だったが、ヨシオタウンから同盟の申し入れに来た、と告げたらすぐに金剛に繋げてくれた。
サルヴィン川を上る金剛には陸路で進む護衛もついていた。彼らが艦内に連絡を取って剛次へ繋ぎ、許可が下りたところで空飛ぶ箒で甲板に渡ったのだ。
そして、綾乃は今、生徒会室にいる。
「それで、我らと手を組みたいという話だったか?」
「はい。生徒会の最大の目的はミツエ軍の討伐だと聞きました。それならば、ここでミツエとヨシオタウン占領を競っても、かえって占領すべき都市が荒廃してしまうのではないですか?」
剛次は紅茶を飲みながら聞いている。
綾乃は彼のささいな反応も見逃すまいと、じっと見つめながら話を進めた。
「まずは共に力を合わせて一つの大きな敵を倒し、その後で良雄軍と全パラ実の命運を賭けた決戦をしても遅くはないと思いますが、どうですか?」
「ミツエのところには、すでに攻撃部隊が出ている……」
剛次はカップを置いた。
彼らがミツエ軍を潰し、自分達はヨシオタウンを制圧するから、わざわざ手を組む必要はないと剛次は続けた。
そこで綾乃は、前回の敗北の件を突いた。
「確か、負けたせいで懸賞金を払えなかったそうですね。もし、今回また負ければ生徒会の権威は地に落ち、力を付けているヨシオ軍が次のパラ実の覇権を握るでしょうね」
剛次の表情が強張った。
「確実かつ圧倒的な勝利、逆らう者は決して許さない姿勢はパラ実生が生徒会に抱く権威を不動のものにできるのではないでしょうか?」
剛次は目を閉じ、考え込む。
綾乃はいまだカップに手をつけないまま、返事を待った。
数分の後、目を開いた剛次の口から出た言葉は、綾乃が期待していたものではなかった。
「この話、良雄の意思なのか?」
そういえば、と綾乃は王宮を出た時のことを思い出す。
ちゃんと了承を得ていなかったような……?
綾乃は知らないことだが、これはミツエ側にも言えることだった。
勝手にしろとミツエは言ったが、むしろ自分を止められるものなら止めてみろ、といった意味合いだった。
剛次は薄く笑って言った。
「良雄自らがここに来るなら考えよう」
本来ならその後に、パラ実において生徒会は絶対であるからパラ実生である者が同盟を持ちかけるなど思い上がりもはなはだしい、と続くところだが、綾乃に指摘された件もあり剛次はそれは口に出さなかった。
その時、剛次の携帯が鳴った。
それはバズラ・キマクからで、告げられた内容に剛次はニヤリと口の端をつり上げた。
陸上部隊を率いるバズラの元に桐生 円(きりゅう・まどか)が戻ってきた時、その馬の背にいた人物にバズラは「よくやった!」と手を叩いた。
円の後ろに乗っているのは立川 るる(たちかわ・るる)だった。ぼんやりとした表情は、目の焦点が合っていない。
バズラはオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)からプレゼントされたBL本を閉じ、いったいどうやってるるを連れてきたのか尋ねた。
ちなみにプレゼントされた本は、体格の良い男が華奢な男とアレしてコレする内容である。誰かに似ているのは気のせいである。
円はオリヴィアとミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)と目を見交わし、話し始めた。
円は先に行かせたメイド姿の配下から、良雄軍の現状の情報を入手していた。
良雄軍には円が想像していたような統一された鎧などの装備はなかった。その代わり、ピラミッドのマークがプリントされた腕章をつけていた。
その中の弱そうな奴を捕まえて腕章を剥ぎ取り、良雄軍になりすまして潜入したのだ。
ちなみに腕章提供者はミネルバの忘却の槍で、ちょっとの間記憶喪失になってもらった。
堂々とヨシオタウンを歩き、ピラミッドへ続く大通りを一人で歩いていたるるを見つけた。
円はるるを呼び止めると、姿勢を低くして丁寧に言った。
「立川様、御人良雄様が二人っきりでお話をしたいと申しております。一緒に来ていただけませんか?」
「うん、わかった。どこに行けばいいのかな?」
「こちらです」
るるは何の疑いも持たずに円についていく。
大通りを外れ、細い通りに。だんだん人通りが少なくなっていく。
二人っきりと言うのだから、人がいては困るのだろうとるるは思った。
「もうすぐですよ」
前を行く円がそう言った時、何者かが背後からるるに抱きついてきた。
るるの意識はそこから曖昧になる。
体から力の抜けたるるを支えるオリヴィア。彼女がるるに抱きつき、吸精幻夜で眠らせたのだ。
オリヴィアの後からミネルバが物陰から出てくる。
円はるるの手を取ると、
「ちょっとだけだよ」
「はいはーい。了解したよー」
ミネルバは忘却の槍の先で、ちょんとるるの指先を突いた。
そして三人はヨシオタウンを脱出し、外に繋いでおいた駿馬でバズラのところへ戻ってきたのだった。
「なるほどね。で、この女を使ってヨシオを脅しちゃおうってわけだな」
「そういうこと。さて、ヨシオに連絡を……」
ポケットから携帯を取り出した円だったが、そこから動きが止まってしまった。
円はバズラを見て苦笑する。
「ヨシオの番号知らないや」
「何だ、そんなこと。教えてやるよ」
円がヨシオと話をしていると、ミネルバがやって来てバズラが持っている本を指して言った。
「ミネルバちゃんも、その本見てもいい?」
「いいよ。移動中のために他にもあるんだ。オリヴィアからのも増えたしね」
バズラは中からお勧めの本を何冊かミネルバに渡した。
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