リアクション
卍卍卍 どこまでも濃い闇が弁天屋 菊(べんてんや・きく)、親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)、葛葉 明(くずのは・めい)の三人を飲み込むように押し包んでくるここは奈落魔道。 ミツエが劉備達英霊に出会ったところだ。 闇龍による世界の危機を回避するため、蒼空学園をはじめ多くの学生達が対抗手段を求めてここを訪れている。 三人も途中まではそんな他校生達と共に歩いていたが、ふと気づけば彼らの姿は見えなくなっていた。 息苦しささえ感じてしまう暗い道の先頭を行く卑弥呼は、ただひたすらに董卓を思っていた。 卑弥呼はこの奈落魔道を黄泉比良坂になぞらえていた。 それに基づいて考えた結果、董卓がいるのは根堅州国か黄泉比良坂の途中ではないかと思った。 高天原をパラミタに、葦原中ツ国を葦原島と地球の中国に。 黄泉比良坂はパラミタと地球を結ぶものに。 正解かどうかはわからない。あくまで、卑弥呼個人の考えた。 途中でわけのわからない魔物らしきものに襲われたが、戦いは避けて無駄に体力を消費することはしなかった。 いつ果てるとも知れないでこぼこの道を前へ前へと進んでいると、不意に呼び止めてくる者がいた。 「あんたら、もうこの先には行かんほうがいいよ。引き返したほうがいい」 無視できない力を感じた卑弥呼は仕方なく足を止め、声のしたほうへ向いた。 道の端の岩に、真っ白な髪と髭をたくわえた年を取った男がいた。知性の光る目をしていて、まるで仙人を思わせる。 ためしに、卑弥呼は董卓について聞いてみることにした。 「つい最近ナラカに落とされた董卓っ人、知ってる?」 「董卓? ああ、あの食いしん坊か。知ってるよ。あいつは、もっともーっと先のナラカで今でも魔物達と大食い大会でもやってるだろう。だが、あんたらはそこに着く前に別の魔物に食われてしまうだろうな」 卑弥呼の心を見透かしたように彼は言った。 卑弥呼は一瞬言葉に詰まった後、今度は火口敦のことを聞いた。 「……ザナドゥ、という魔族の国がある。そこにそのような名の者がいると聞いたことがあるよ。いやぁ、危険だから行ってはいかん! ここで行かせて死なせたら寝覚めが悪すぎる!」 「わ、わかったよ……」 必死な老人に不承不承卑弥呼が頷けば、彼は安堵の息をついた。 ここは董卓と火口敦の居場所がわかったことを良しとすべきなのだろう。 「どれ、途中まで送っていこう」 とたんに笑顔になった老人にやや疲れながら、卑弥呼と菊は来た道を引き返すのだった。 ふと、菊は明が出発時に言っていたことを思い出した。 「なあ、おまえ強い英霊見つけるって……いない!?」 てっきり一緒にいると思っていた明の姿がどこにもなかった。 「ちょっと待って、連れがいないっ」 「何? そりゃいかん。どこではぐれた、どんな奴だ?」 菊は明の特徴を教え、三人は老人を先頭に明の捜索に歩き出した。 その頃、強い英霊を求めてここに来ていた明は、いつの間にか一人になっていたことに気づいていたが、慌てることなく辺りを窺っていた。 が、何かがいる気配はない。 ここが危険な場所であることはわかっているので、壁沿いに身を隠すようにしながら歩き、常に禁猟区を張って自分を目掛けてくる殺気に気を配っていた。 つい先ほどまでは、向けられてくるいくつもの得体の知れない視線をひしひしと感じていたのだが、それももうない。 明は足を止めた。 そして、ポケットから英霊珠を取り出し手のひらで転がす。 「持ってきたこれ、役に立つのかしら?」 ここに来るまでに出会った、いわゆる英霊に明は片っ端から声をかけていた。 この辺で一番強い英霊は誰か、と。 誰もが答えた。 「自分こそが一番だ」 と。 「困ったなァ、もう……」 一番の群の中から一番を選ぶのか? もう少し奥に行ってみようか、と英霊珠をしまって再び歩き出した時、後ろから呼ぶ声があった。さっきまでいた菊と卑弥呼だ。 振り向くと、知らない人が一人増えている。 先頭にいるその知らないおじいさんを、菊が追い抜いて明の前まで走ってきた。 「こんなとこにいたんだ。どう? 強い英霊は見つかった?」 「う……ん」 「……そっか。あのさ、これ以上は危険なんだって。気になるのはわかるけど、もう少し安全なとこで待ってみないか? おまえが死んだら元も子もないだろ?」 「戻らないと、あのじいさんがうざいんだよね」 卑弥呼が明に顔を近づけてコソッと囁く。 老人のことは知らないが、菊の言うことはもっともだった。 「じゃ、もう少し戻るよ。ここ、誰もいないしね」 老人を道案内に戻る間、不思議と魔物に出会わなかった。 そして、見覚えのあるようなところに出た瞬間、一瞬目の前が光ったかと思うと老人の姿は消えていた。 「ここなら比較的安全ってこと?」 「そうかもな」 明の疑問に菊が答える。 「あたし達の用事はとりあえずは済んだんだけど、おまえはどうする?」 「もう少しここにいるよ」 菊達と明はそこで別れることになった。 三人が奈落魔道でそんな体験をしている頃、地上のイリヤ分校では。 きつく蓋を閉めた瓶を手放すと、だいぶ経ってから水音がした。 「どうか無事で──」 ガガ・ギギ(がが・ぎぎ)が祈りを込めて瓶を井戸に落としていた。 届いてほしいのは、菊と火口敦。 中身は近況を綴った手紙だ。 時々、受け取っても困るようなものを詰めそうになったが、どうにか思いとどまっている──いや、もしかしたら一瓶くらいうっかりやらかしているかもしれない。 それでも、想いは彼らの無事、ただ一つだった。 もし、この瓶詰めの拾うことがあって、その時道に迷っていたなら、この手紙が道しるべになればいい、と。 |
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