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リアクション
バズラ・キマクが向かってくるという知らせに、ヨシオタウン防衛に当たっていた孫権と周瑜 公瑾(しゅうゆ・こうきん)に緊張が走った。
その前にミツエが放った兵馬俑が攻めてきていたが、それらは水橋 エリス(みずばし・えりす)やいんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)達が市街地入り口あたりで防いでいた。
周瑜も孫権をチクチク突付くのをやめ、配下達の配置を素早く決めていく。
と、そこに聞き覚えのある明るい声がした。
「やぁ、大将、元気してた〜? 生徒会とやるんなら手伝うよ」
「カリン! 助かるぜ。バズラは強敵だ、何か良い手はないか?」
カリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)は連れてきた忍犬の頭を撫でて言った。
「ゆる族はこいつに任せてよ。それと、バズラは私に」
「わかった。勝てよ」
孫権はゆる族や他のバズラ隊を相手にすることにした。
ミツエ軍のことは羽高 魅世瑠(はだか・みせる)達に任せたバズラと騎馬隊は、土煙と地響きを立ててたちまち迫ってきた。
カリンの忍犬が低くうなる。
バズラの姿はまだ見えないが、騎馬隊の先鋒とヨシオ軍の防衛隊が最初の接触をした。
戦闘の中、時折飛んでくる矢や銃弾は騎馬隊の後方部隊かゆる族だろう。
目に見える相手はともかく、見えない相手の対応は難しい。しかも敵味方入り乱れての戦闘となればなおさらだ。
忍犬が吠えている方向へゆる族用に割いた部隊が攻撃しているが、相手も動くので侵攻の阻止が精一杯のようだ。
「ま、それでいいんだけど……」
囲まれることだけは避けたい孫権だった。
「ですが、もう少し援護があると」
いいですね、と周瑜が続けようとした時、後方から飛んできた矢が見えない敵を貫いた。
さらに周瑜とは反対側の孫権の隣にギルガメシュ・ウルク(ぎるがめしゅ・うるく)が愛馬エンキドゥに乗って並ぶ。
「援護はホワイトに任せてください。さあ、押し返してやりましょう!」
先ほどの矢はホワイト・カラー(ほわいと・からー)の放ったものだったようだ。彼女は完成間近のピラミッドの上段に配下と共に陣取っているという。
「それじゃ伝えてくれ。カリンの忍犬が吠えているところへ撃てってな」
「わかりました」
ギルガメシュはすぐに携帯でこのことを伝えた。
ふと、ギルガメシュは雰囲気を変えて小声で孫権に言う。
「その、戦いが落ち着いたら、渡したいものがあるのですが……」
「何を?」
「クッ……」
クッキーを、と言おうしたギルガメシュだったが、得体の知れない照れが出て舌がもつれてしまった。
前回、エルと共に生徒会に捕まってしまった時、ホワイトと助けに来てくれた孫権にお礼をしようと作ったクッキーだ。ホワイトの指導を受けながら、いびつだけど一生懸命作った。
剣を持てば勇猛果敢なギルガメシュだが、何故だか今は妙に臆病だ。
それが反動となってか、こんな台詞が飛び出た。
「かっかかかっ勘違いするんじゃないぞ。嫌なら食べなくてもいいんだからな!」
「は? くれるものって食い物か?」
「……!」
これ以上口を開くとどつぼにはまりそうで、ギルガメシュは無理矢理戦いに意識を注いだ。
ピラミッドの上でホワイトは、
「ギル、ちゃんとクッキーを渡せたでしょうか?」
今は忙しいから戦いが終わってからかもしれませんね、とその時の様子を思い浮かべて微笑んでいた。
が、すぐに表情を引き締めて、連絡を受けたとおりに忍犬が吠え立てている場所をスナイパーライフルで狙った。
カリンを見つけたバズラが「お前は!」と声をあげ、一直線に突っ込んでくる。
そのバズラに応じるように勢いを増す騎馬隊。
ギルガメシュはディフェンスシフトを敷くように指示を出す。
突進してくるバズラへ鬼眼を放つカリン。
が、さすがと言うべきか期待したほどの効果はなく、バズラはほとんど勢いを殺されることなくカリンへ槍を振り下ろしてくる。
カリンはそれを星輝銃の銃身で受け止めると、もう片方の手で槍の柄を掴み思い切り引き寄せた。
バズラが馬上から引き摺り下ろされる。そして槍を捨てると素早く剣を抜いた。
カリンは星輝銃を腰のホルダーに戻し、素手で構える。
「さて、決着つけようか……?」
「ふん、あたしに敵うわけないだろ」
挑戦的なカリンの笑みをせせら笑うバズラだった。
茫然自失状態となったヨシオは、王宮へは戻らずに道端でどうにか気持ちを落ち着けようとしていた。
それを助けていたのが百々目鬼 迅(どどめき・じん)や秋月 葵(あきづき・あおい)、エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)である。
エレンディラがお土産に持ってきたヴァイシャリーの銘菓を食べたことも、落ち着きを取り戻す手伝いになっていた。
迅がヨシオを気遣うように肩に手を置いて言った。
「一度王宮に戻ろうぜ。それで、あそこにいる連中の知恵借りてるるの居場所を突き止めよう。そうじゃないと落ち着かねぇだろ」
ヨシオが頷き、立ち上がりかけた時。
とう! という元気の良い掛け声と共に、ショートカットの女がどこからか飛び出してきた。
「見つけたっスよ、星帝良雄! お前の悪行もここまでっス!」
「……悪行」
立ち上がりかけのうつむいた姿勢から、こちらを指差すサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)を見るヨシオ。
何でもない時であれば、悲しみに打ちひしがれて猫背になったヨシオが、やや見上げるようにサレンを見た、というだけなのだが、この状況下ではサレンは闇を背負ったヨシオに睨み上げられたように感じた。
「ピラミッド建設のために多くの人を強制労働に従事させるなんて、絶対に許せないッス」
迅や葵はサレンの勘違いに気づき訂正しようとしたが、新たな闖入者により誤解のまま話が進んでいく。
「ここはオレにやらせてもらおうか」
重みのある声で名乗り出たのは吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)。いくつもの修羅場を共に乗り越えてきた血煙爪を肩に担いでいた。
「竜司先輩……」
「てめえはてめえのやるべきことをやれ。迅、良雄を頼んだ」
「はいっ、竜司先輩!」
ヨシオは竜司の背を見た後サレンを見て、そして迅に支えられながら王宮へ戻っていった。
暗い視線を残して去っていったヨシオに鉄拳制裁するには、まず竜司を倒さなければならないことがわかったサレンは、拳を突き出し挑発するように身構える。
先に仕掛けたのはサレンだった。
雷光の鬼気を装備した拳が電気を散らして竜司に繰り出される。
竜司は身を引いてそれを避けたが、かすった服の一部が焦げたにおいを発した。
サレンは体の勢いをそのままに今度は足払いをかけた。
とっさに飛んでかわした竜司が反撃だと血煙爪を振り下ろす。
転がってよけたサレンの上着の裾が切られた。
立ち上がり、いったん下がったサレンは「さすがっスね……」と呟くと、裾を切られた上着を脱ぎ捨てた。
「これは良雄のためにとっておきたかったっスが……。裸王神拳、行くっスよ!」
気合を入れるように叫び、突っ込んでくるサレン。
本気の勝負か、と竜司も気を引き締めたが。
竜司がサレンの攻撃を防いだり反撃がきいたりするたびに、彼女は威勢良く服を脱いでいくではないか。
何のパフォーマンスかと竜司の動きも鈍ってしまいそうになるが、これこそが裸王神拳である。脱衣によって気を高め、全てを脱ぎ捨てて自然と一体となってエネルギーをためる伝説の技なのだ。
「そんなわけないでしょー!」
ついに下着だけになったサレンを、ハラハラしながら見守っていた葵とエレンディラが脱ぎ捨てられた服を抱えて押さえつけにかかった。
竜司も呆気に取られたような表情で立ち尽くしている。
と、その時、殺気立った剣戟が響いてきた。
市街地の入口付近からバズラの騎馬隊の一部が攻め込んできているのが見えた。孫権達が取りこぼした者達だ。
それから、不思議と気持ちが高ぶってくるオーケストラ。
「ヴォルフガングか!」
ヴォルフガング・モーツァルト(う゛ぉるふがんぐ・もーつぁると)がどこかで演奏会を開いて味方を鼓舞しているに違いないと思った竜司は、すぐにそこへ向かおうとして──ヨシオを追うことにした。もし、また狙われることがあったら大変だからだ。竜司の野望のためにも。
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