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精霊と人間の歩む道~風吹くウィール遺跡~ 前編

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精霊と人間の歩む道~風吹くウィール遺跡~ 前編

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 その頃、イナテミスでは。
(ウィール遺跡か……思えば最初に訪れた時は、途中の森で訳も分からず意識を失わされたな。それがサティナの仕業と分かってリベンジを挑み、勝利した場所……おそらく中の様子も変化が見られるのであろうな)
 部屋の一室に腰をつけて、エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)が筆を走らせる。

『『闇龍』の影響を受けて発生する異変。誰もが不安を覚える状況下で、そんな人知を超えた存在を相手にしようとしているのだ。蔦に覆われ雷が弾けるその場所では、発狂する者が現れたところで何もおかしくはない。だがこの戦いに参加した生徒は誰も、発狂するような者はいなかった。何故ならば――』

「――全員、既に発狂していたようなものだからである。……先読みしやすい文章書いたって、誰も読まないわよ……?」
「うるさいぞ色ボケ魔道書。それで、どうだった?」
 部屋に戻ってきたヴァレリア・ミスティアーノ(う゛ぁれりあ・みすてぃあーの)を軽くあしらって、エリオットが街の状況を尋ねる。
「住民が疑心暗鬼に陥っていたのは、キィを助けたホルンが元地球人で、この街の元からの住民じゃなかったことも影響しているみたいね。それについては生徒たちが住民に話をして、少しずつだけど緩和されてってるみたい。他にも炊き出しとか、門の修理とか、色々やってるわよ。皆働き者ね」
「そう思うならお前も働け。報告が終わったら次の調査だ」
「物使いが荒いわね……まあいいわ、もう少ししたら行ってあげる」
 ひらひらと手を振るヴァレリアにエリオットが溜息をついたその時、扉を開けてミサカ・ウェインレイド(みさか・うぇいんれいど)が飛び込んでくる。
「た、大変ですエリオットさんっ」
「どうした、まずは落ち着け、そして冷静に報告するんだ」
 エリオットに言われて、ミサカが深呼吸を三回繰り返し、三回目でむせる。ようやく落ち着いたところで、少し青ざめた表情をして、ミサカが聞いたことをエリオットに告げる。

「何……? 『龍』が現れた、だと?」


 ウィール遺跡、及び氷雪の洞穴での事態が急展開を迎える中、イナテミスにも最大の災厄が迫ろうとしていた。
「ふふ……これこそ私が望んでいた脅威です。自然の脅威に人は無力? いいえ、諦めた時こそ人は死ぬ。諦めず信じること、繋がり合うこと、それこそが人が作り得る最強の力。……今ここに見せてご覧にいれましょう、絆の力を」
 背後にイナテミスの門を背負って、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が微笑を浮かべて目の前の『敵』を見据える。
 一行の前には『敵』、遙か天空まで渦を巻く竜巻が全ての物を飲み込みながら、ゆっくりとイナテミスへ向かっていた。
「……本気なんだな。ならばボクも久しぶりに本気を出そう。心踊る戦いを、今ここに」
「わたくしはマイロードの魔道書、総てをマイロードのために振り絞りますわ!」
 シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が超電磁砲を携え、両手に炎を浮かび上がらせたナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)もアルコリアに続いて、決死の表情で『敵』を見据える。
「あわわ……こ、こんなことになるなんてあたしおもってなかったよ〜? まさかほんとうにみつけちゃうなんてびっくりだよ〜」
 一行の背後で、最初に『敵』を発見した樂紗坂 眞綾(らくしゃさか・まあや)が怯えつつも、その小さな全身から勇気を振り絞って『敵』を見据える。
 その『敵』、巨大な竜巻は、自然に発生したものとは異なり電撃を迸らせながら、まるで何かの意思を含んだようにも感じられて、そしてイナテミスに目的があるかのように、ゆっくりと巨体を推し進めていった――。