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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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◇交渉の章◇

 
陸路 4
ヴァイシャリー交渉
 
 
 コンロンへ向けての出発から、時を少し遡る。
「団長が、現時点で東の校長たちに今回の実質の軍事行軍を非通達なのは、各校の校長が口をつぐんでくれたとしても、学内にいる帝国派が帝国(エリュシオン)へ密告することを恐れ、ギリギリまで公にしていないからであります」 
 とくにヴァイシャリーにはエリュシオンの使節団も駐留する。これらに出兵が伝わらないよう、校長に内々に親書を届け、その上で何とか交渉を成功させたい。
 ヴァイシャリー某所で、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)と秘密の会合をするマリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)
 もちろん、行軍については、ヴァイシャリーを堂々通過するようなことにはならない。なるべく大荒野寄りのルートを通り、ヴァイシャリーはあくまで近郊辺りをかすめる程度だが、その際にヴァイシャリー関係から何らかの干渉を受けては、駐留軍に刺激を与え動かしてしいかねない。それは避けたかった。
 
 陸路行軍を無事、ヴァイシャリー通過させるため、騎凛の前に名乗りを挙げたのが、第四師団軍師のマリー、それに琳 鳳明(りん・ほうめい)がいた。
 琳はこれまで、百合園任務(キャンペーン)に積極的に協力してきて、【『白百合団』の友】として認められている。そのコネを使って、百合園の上層部に内々の交渉のアポイントメントを取ってみせることを申し出ていた。
 マリーはというと、百合園における協力者と見込んだ【生徒会執行部『白百合団』班長】でもあるロザリンド・セリナに個人的に会うことをまず考え、早速、実行に移したわけであった。ロザリンドは、これまでも第四師団の任務に積極的に協力を行ってきている。

「なるほど。コンロンに出兵……」
 マリーの打ち明けにふっと考え込むロザリンド。
 ロザリンドは自らの考えとして、出兵までの期間に、ヴァイシャリー近郊の情報通にあたって、教導団に友好的もしくは中立的なグループ、また過激派グループを割り出すことは可能だろうと述べた。友好的・中立的なグループには、補給等の協力をお願いすることも。
「ただ、私自身、とくに強い身分や肩書きを持っているわけではありませんから、その方々にあくまで提案としてお願いにして回ることが精一杯かと思いますが……」
 表立ってはできない。ロザリンドは彼らに根回しを行い接触することになる。
 ロザリンドはまずそれを資料をまとめてマリーに渡すことを約束した。更に、
「私も、行軍に付いていきます。
 彼らとの顔つなぎになりますし、過激派グループから何らかの妨害が起きそうなときには、仲裁を」
 ロザリンドは東側ロイヤルガードである。
 東側の監視として、教導団行軍が彼女を受け入れているとすれば、それも可能だろう。
 マリーは、涙を流した。
「あの。……マリーさん?」
「く、く、この弁髪、ロザリンド殿の慈愛に触れこの先犬馬の労を厭いませんぞ! 合体!!」と称してロザリンドに肩車しようとするマリー。「きゃぁああ、マ、マリーさん!!」
「それはそうとロザリン殿」
 マリーは急にまた真面目になり、泣きそうなロザリンドにもう一つお願いを持ちかけた。
「は、はい……(びっくりしました)。何でしょう? 何か、他にお力になれますか」
 マリーは親書の件を話した。
「どうかロザリンド殿?
 先ほど、とくに強いお立場にないと申されましたが、白百合団班長であるロザリンド殿なら、桜井校長に秘密裏に親書を渡すことはできないでありますかな?」
「えっ。……さ、桜井校長に、……私が、秘密裏に……」
「む、どうでありますかな?」
 
 一方で、マリーの方の事の成り行きを知らなかった騎凛は、琳からの案も受けていた。
「そぉっかそれは心強いですね琳さん!
 じゃ、あぽいんとめんと……お願いしていいですか」
「え、は、はい! お任せくださいっ騎凛教官」
 琳はこれまで百合園の主要な幾つかの作戦に参加しており、あちらの主だった人物との面識もあり事情にも詳しい。
 交渉なら実験を握るであろうラズィーヤ・ヴァイシャリー氏が理想であるが……
 ともあれ、交渉そのものはちょっと不得意な琳である。ひとまず電話での連絡を取る際には、セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)にしっかり隣に付いていてもらうことに。電話をかける琳。「緊張するなあ、何て言ったら……つ、つまったらセラフィーナお願い」「いえ、大丈夫。キミにならできますよ」「ええっそんなぁ……、あ、あのもしもし。白百合団の……」
 ラズィーヤにいきなりつないでもらうことはできなかったので、白百合団に連絡を取り、桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)に話すと事情を伝えアポイントを取ることができた。
「はぁ……よ、よかったぁ」
 
 騎凛部屋。
 マリーと琳が呼ばれている。
「えっ、ななんと。アポイントメントが取れた?! でありますか……!」
「はい、そうですよ? マリー。琳さんは、白百合団のお友達ですからね。白百合団団長の桜谷鈴子殿に。
 琳さん、よくやってくださったであります!」
「え、ええ。やりましたっ」
「そうでありますか……ならば桜谷殿を通して」
「ですので今度、琳さん伴いヴァイシャリーへ……」
「直接行くでありますか!? ま、まあそれがいいでありましょうか……。なればこの弁髪もお供いたしますぞ」
 

 
 マリーは、ロザリンドと桜井 静香(さくらい・しずか)の間の事情まではよく知らなかった。ロザリンドは少々戸惑っていた。桜井校長に今、何てお声をかければ……
 すると、またマリーの方から連絡があった。 
「な、そうなのですか! 何と交渉のアポイントメントが無事に取れたのですね」
「そうであります。すまないであります。
 なので、わいらが直接、親書を持ってヴァイシャリーに向かうであります。ええ、騎凛も一緒にであります。
 ロザリンド殿は引き続き、補給等の件でわいとやり取りを進めて頂けるとありがたいであります。何、もう資料はまとまったでありますか! ええ、今度わいが取りに伺うでありますよ。ええ、ええ、騎凛はロザリンド殿が従軍してくれると聞くと、大変嬉しがってたでありますわ。何か褒美を出すようわいからよく言っとくでありますっ! はは、ええ、ええ、いや、そんないいでありますよ、騎凛も最近は、少しだけは前より潤ってきたようでえへへとかぬかしているでありますからなぁ、はっははは!」
「マリーさん?」
「おわ、騎凛師団長! これは、これは。わいは一足早くヴァイシャリー満喫……いや、ロザリンド殿との補給関連の交渉に向かうであります! ではこれにて!」
 ……がちゃん。
「……マリーさん。電話、切れてしまい……あ、騎凛先生ですか。はい、ロザリンド・セリナです。
 ええ、今回もよろしくお願いいたします。そんな、はい、もちろんです。では……はい、ヴァイシャリーで」
 

 
 騎凛らは秘密にヴァイシャリーの一室で桜井校長に会い、金団長からの親書を渡し、交渉を行うことができた。
 土下座する男II・マリー。
「わ、そ、そんな土下座なんて……」
「コンロンの最低限の治安を守るため、第四師団の派兵が決まりました。我々はコンロン問題の平和的解決を望んでいます。船団の通過を黙認してください」ふふり、マリーは静香様の情に訴えた。
 船団の通過は、補給において、実際にはヴァイシャリーの湖の北付近からサルヴィン川を水路として利用することになるかと思われる。補給は表立ってのものではない。商業輸送の船団ということで、目をつぶってもらうわけだ。
「そのまま通り過ぎるだけです。だから、その、何らかの干渉があると……」
 琳も、素直に包み隠さず……とはいかないのでと何とか必死に伝えようとした。干渉が、ヴァイシャリーに駐留するエリュシオン使節団に動く口実を作ってしまうとまずい。
「黙るであります(御免)! 琳、へんに口を滑らすといかんであります」
「わ、ごめんなさい……私なかなか上手く言えなくて」
 騎凛は、にこにこと見ていた。(「私交渉は、苦手です。琳さんより、もっと苦手。何言うかわかんないし」)
 桜井校長の返答は、
「そ、そうだね……うん。
 僕自身が、このことをエリュシオンの人達に言うことはしないよ。ヴァイシャリーをかすめていく程度のことなら、こちらが干渉しない限り、彼らを刺激することもないと思う……。近郊を警備する生徒会執行部とは、その辺のことは話してあるよ。船団についてもへんに詮索したりとか、しないよう注意しておく」
「よっしゃであります!」
「よかった……」
 こうして教導団側・騎凛先生は百合園の桜井校長に丁寧にお礼を述べ、退室した。