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リアクション
第3章 再会・その1
ニコ働北部に位置する工場地帯は比較的警備が薄い。
大半の戦力は駅のある南部とニコ働本部のある中央に集中しているためだろう。
椎名 真(しいな・まこと)は誰か自分達に協力してくれる死人がいないか探して彷徨っていた。
初めは奈落人の協力を取り付けられないかと考えたのだが、この都市にいる奈落人はハヌマーン、タクシャカ、ガルーダの三人と、それから羅刹兄弟の二人、あとは幽閉されているガネーシャだけで、協力は見込めそうにない。
しょうがないので、労役を課せられている死人に話を訊こうと考えている。
それにトリニティに聞いた話では、ここには殺された一般市民もいるらしい、真には思うところがあった。
「すこし話を聞かせてくれないかな?」
道ばたで野菜の箱詰めをしている三人の死人を見つけて話しかける。
「なんのようだ?」
「俺はこの都市のことを調べてる。都市を支配している奈落人について知ってることをおしえてくれないか?」
三人は顔を見合わせると、質問に答えた。
「直属の兵士じゃないから印象の話になっちまうが、そうだな……、タクシャカは狡猾な奴だ。如何に効率よく領土を広げるかってことばかり考えてる。もし、こいつから取引を持ちかけられても信用しないほうがいい」
「奴らの中じゃハヌマーンがマシだな。乱暴者だが、意外と家来には優しくて、信頼も厚いようだぜ」
「ヤバイのはガネーシャだ。普段は温厚だがキレると手がつけられねぇ。おっかねぇぞ、あいつは……」
「ガルーダはどうなんだ?」
尋ねると三人はまた顔を見合わせた。
「……よく知らん。奴がここの支配者になってから日も浅い、表にもあまり出てこないからなぁ」
「そうか、ありがとう」
それから、真は死人達の協力が得られないか聞いてみた。
もしガルーダの支配を望んでいないのなら、自分たちに協力してもらえないか。
また、現世に残した家族に伝えたい言葉があればそれを届けるから、引き換えに力を借りられないか。
しかし、死人達の反応は芳しくなかった。
「おまえらに手を貸したところで俺たちは得しないんだぜ」
「そうそう、ボスがガルーダだろうがガネーシャだろうがどっちでも大して変わらねぇんだ」
「家族って言っても、折角俺のことなんて忘れてるんだ、今さら思いださせても可哀想だろうよ」
三人はまた箱詰め作業に戻った。
まだ何か言おうとすると、その肩を原田 左之助(はらだ・さのすけ)が叩く。
「もういいだろう、皆のところに戻ろう」
「でも、まだ他に手を貸してくれる人がいるかもしれない。いや、手を貸してくれなくたっていい……、彼らが現世に残してきた人がいるなら、何か伝えたいことがあるなら伝えてやりたいんだ。俺の身体に憑依出来るならそれで……」
「馬鹿言うな!」
左之助は真を殴った。
「おまえさん、まだカシウナのことを引きずってんのか……?」
「助けられなかった人がたくさんいた……、俺が傷つけた人だっていたんだよ……、兄さん」
真は地面に手を突きわなわなと震えた。
「……そんなもん背負うもんじゃない。人間ってのは後ろを見ながら前には進めねぇんだよ」
◇◇◇
突然、ガッシャアンと言う音が近くから聞こえた。
駆けつけると、プスプスと煙を上げている無数の矢が刺さった小型飛空艇が転がっていた。
傍にはボロボロの菅野 葉月(すがの・はづき)とミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)の姿がある。
「どうしたんだい、おまえさん達? どうもただごとじゃなさそうだが?」
「実は西にある宮殿……【チャンドラマハル】とかいうところに行ってたんですよ」
「なんでまたそんなところに……?」
左之助が首を傾げると、葉月は服の汚れを払いながら説明を始めた。
「僕たちはルミーナさんの行方を追っていたんです。もしかしたらナラカに連れ攫われた可能性もあるのではないかと思いまして。それでカンナ様が移送される予定の宮殿に先行して赴いたのですが……、いやはや……」
「警備が尋常じゃなくてとても忍び込めなかったんだよ……」
ため息まじりにミーナは言う。
宮殿ともなれば警備体制もすごいだろう、そこにたった二人で乗り込もうと言うのは無謀過ぎる。
環菜を救出するために動いている仲間と一緒なら大丈夫かと思ったのだが、そう上手くは行かなかった。
彼らは移送前に押さえようと動いていたので、結局、葉月たちは単独で行動するハメになってしまったのだ。
「残念ながら手がかりは何も得られませんでした……」
「そうかい、大変だったな」
「ええ……、ところでどうしたんです、頬が腫れてるようですが?」
問われて真は頬を隠す。
「いや、なんでも……」
その時、どこからか悲壮な呻き声がどこからか聞こえてきた。
葉月は妖刀村雨丸を抜いて周囲を警戒するが特に不審な人物は見当たらない。
ただ、しいて言えば不審なダンボールなら置いてあった。『ガンダム』と書かれたでっかいダンボールと、『萌えるゴミ』と書かれたダンボールである。これに怪しさを感じなければ、一度眼科か脳外科に行くことをお勧めする。
「なんでしょう、これは……?」
「だから、ガンダムでしょ。早く皆のところに戻ろうよ、ぐずぐずしてると敵が集まってくるよ」
「いやいや、ガンダムにガンダムって書いてないでしょう!」
小首を傾げるミーナを横目に、葉月はおもむろにダンボールをひっぺがす。
中にいたのはルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)とコトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)だった。
もうひとつの『萌えるゴミ』からは、蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)が発見された。
三人とも、矢のたくさん刺さった飛空艇に股がっていたので、その身に何があったのか容易に想像出来た。
「君たちもチャンドラマハルに行っていたのですか?」
「ええ、環菜に会うために行ったのですが……」
「その先は言わなくても大丈夫ですよ。僕も先ほど体験した出来事ですので……、おっと、気をつけてください」
葉月は妊娠2ヶ月の身重のコトノハの手を取り、飛空艇から降りるのを手伝う。
「ヌマーンやガルーダが出払ってるから警備も手薄かと思ったのだが、厳戒な警備体制が敷かれていたな」
そう言って、ルオシンは肩をすくめる。
奈落人が連れているのは言ってみれば私兵である。
たしかにハヌマーンとガルーダの子飼の死人戦士は出払ってはいるが、タクシャカ配下の死人戦士が残っている。これから移送する宮殿に兵を配置しないなど愚の骨頂、安全に移送を行えるよう厳戒な警備体制が敷くのが当然だろう。
「でも、どうして身重の身体をおしてまでこんなところに……?」
「この子に環菜を転生できないかと考えたんです」
「転生……?」
「私は世界の理を破るような方法で環菜を生き返らせるのは反対です。世界の歪みがもっとひどくなりそうですし。でも、転生なら……と思ったんです。奈落人は別の身体に入ることが出来ると聞きました。もしその方法を応用出来るなら、私の赤ちゃんに環菜の魂を定着させることも可能じゃないかって思ったんです」
ふむ……、と葉月はしばし考えた。
「あの、コトノハさん。僕の予想が正しければその方法は不可能だと思います」
「ど、どうしてです?」
「奈落人が他人の身体に入り込めるのは彼らの獲得した特性でしょう」
葉月の言う通りであった。
それは技術とかではなく種族特性に他ならない、奈落人以外が真似をしようとしても出来るものではないのだ。
ガックリと肩を落とすコトノハに、夜魅が抱きついて優しくお腹を撫でる。
「でも、ママに矢が当たらなくて良かった……」
「ありがとう、夜魅……」
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