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リアクション
第2章 黄金の羅刹、白銀の羅刹・その1
『ニコニコ労働センター前ー、ニコニコ労働センター前ー』
奴隷都市アブディール東部に位置する『ニコニコ労働センター』周辺はたくさんの工場で構成されている。
ニコニコ労働センター(以下ニコ働)では、死人に労役が課せられると言うから、その職場なのだろう。
工業地域にはたくさんの死人戦士が哨戒をしており、ピリピリとした緊張感が立ち込めている。
ここで環菜救出隊は四手に別れる。
ひとつは、地下牢に捕われたガネーシャの元に向かう隊。ひとつは、奈落人の主力であるガルーダを足止めする隊。もうひとつは、移送されようとしている環菜を救出する隊。そして、羅刹兄弟なる奈落人を陽動する部隊である。
「ここは異世界、協力と連携が必須よっ!」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はグリントフンガムンガを掲げて敵陣へ切り込んでいく。
それぞれの隊がそれぞれの活躍を出来るように、立ちはだかる死人戦士を足止めする必要がある。
「ニコ働東部より敵襲来、死人戦士は至急こちらに集結せよっ!」
「ニコニコ労働センターは我らが砦、ここを落とされてはナラカの戦士の名が泣くっ! 死んでも守れぇ!!」
「もう死んでるっつーの!」
手裏剣の如くフンガムンガを放り投げつつ、ルカルカはぼやいた。
「それにしても、な〜にが《ニコニコ》労働センターよ、人馬鹿にして!」
「確かに……」
相棒のダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)もポツリと呟く。
人には原罪もある。勝手に判じられるなど、御免だ……、彼は内心そう思った。
「……って、ダリル〜。記録もいいけどこっちを手伝ってよ、ちょっと向こうの数が多過ぎるわ」
デジタルビデオカメラを回し、前回から引き続き情報収集中のダリルである。
「どうしてもか?」
「どうしても〜」
「……わかった、貸しだぞ」
ナラカでもどこでも無駄に元気な奴だ……、とため息まじりに肩をすくめる。
それから、両手利きで魔道銃を2丁拳銃で構え、突撃してくる死人戦士の武器を正確に撃ち抜いていく。
「流石、ダリル。いやらしく阻害するわね」
「効果的妨害と言ってくれ。ほら、右前方がガラ空きになったぞ、さっさと敵陣を掻き回してこい」
「はいはい、人使いが荒いんだから」
「どっちがだよ……」
ルカルカはブリザードで死人戦士を牽制しつつ、フンガムンガ二刀流で敵陣に突っ込む。
右のフンガムンガで縦に斬り上げ一刀両断、左のフンガムンガで首を横一文字に断つ。まるで舞を舞っているかのような軽やかなキリングステップであるが、なんだかフンガムンガ書き過ぎてゲシュタルト崩壊してきた筆者である。
そして、返す刃で前方に放り投げたフンガムンガが、更に二人の死人戦士の脳天を直撃。
刹那の内に、計四名を血祭りに上げる卓越した戦闘技術を見せつける。
「おのれ……! 貴様……、ただものではないな……?」
ルカルカと死人戦士の間には、男女の間よりも深くて広い、戦闘能力の隔たりがあるようだ。
「誰が呼んだか『最終兵器乙女』! ルカルカがいる限り皆には手出しさせないんだからねっ!」
「ぬぅ……! ええい、弓兵隊! 一斉射撃だ、奴らの進撃を止めろ!」
「ゆ、弓……!?」
ルカルカははっとして前方に立ち並ぶ工場を見上げる。
屋上や窓からたくさんの死人戦士が身を乗り出し、弓に矢を番えてこちらを指向しているのが見えた。
位置的に回避のしようがない、いやよしんばルカルカ達は避けられても、移動中の別働隊に当たる。
◇◇◇
だがしかし、突如巻き起こったファイアストームが弓兵達を飲み込む。
「な……、なにごとだ……?」
うろたえる指揮官をあざ笑う、ナゾの高笑いが真上から降ってくる。
光る箒に股がるのは、蒼穹の魔女セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)。
「我が名は学園最強の魔女、セシリア・ファフ……」
……とその途中で、雨か霰かと言うほどの矢がセシリア目がけて飛んできた。
「こらあぁぁぁ!? 前口上中に攻撃するとか、奈落人には常識がないのかえ!」
この状況で名乗りを上げるのは常識的なのだろうか。
奇襲は大成功であるが、無意味に注目を集めてしまったため、今や格好の的となっている。
集中砲火を避けるため低空飛行で身を隠す。
「奈落人といってもそんなものかえ! 所詮陽の当たらぬ場所に住む者共、私が本気を出すまでもないのう!」
「何言ってんの、めっちゃ追い込まれてるじゃない」
相棒のミリィ・ラインド(みりぃ・らいんど)は暗澹たる表情である。
「挑発にはハッタリが大事なのじゃ」
「何がハッタリなのよぉ……。うう……、もう帰りたいよぉ……」
「ここから帰るのは大変だと思うぞ?」
「……わかってるわよ、一人で逃げた方が危険ってことくらい! うわあぁぁん!!」
護国の聖域と庇護者を使って、セシリアを守るべく前衛を務める。
路地の左右から飛んでくる矢を叩き落とし、その隙にセシリアがバニッシュで反撃するという戦法だ。
うねうねと曲がる路地を飛びながら、周辺をグルグル回っていると、工場の屋根に不穏な人影を見つけた。
黄金の鎧と白銀の鎧のヒゲ面の大男が二人……、ガルーダ直属の奈落人【羅刹兄弟】である。
「まったく不甲斐ない奴らだ。現世の連中をここまで頭に乗らせるとは死人戦士は役立たずだな」
黄金の鎧のほう【ラーヴァナ】が言った。
「所詮、現世上がりのにわか共よ。ナラカの祝福された我らとは格が違う」
白銀の鎧のほう【クベーラ】が言った。
セシリアは二人に近付き、マジマジと見つめる。
「むむっ……、おぬしらが噂の稚拙兄弟じゃな?」
「違うわ!」
「じゃあ、螺旋兄弟……、天を突くドリルを持ってそうじゃのぅ」
「それも違う! 我らはナラカのモストデンジャラスコンビ、羅刹兄弟よっ!」
「ああ、それじゃそれじゃ。スッキリしたところで退場してもらおうかのぅ。これでも食らえい!」
ほとんど不意打ち気味にバニッシュ。思わぬ攻撃にクベーラはギャッと悲鳴を上げて屋根から転げ落ちる。目が点になってるラーヴァナに続いてブリザードを放射、たたでさえ冷たい死人の身体がますます冷たく凍てついていく。
「うぬぬぬ……、さ、さぶいわ!」
ガチガチと歯を鳴らしながら、ラーヴァナは火天魔弓ガーンデーヴァを引き絞り放つ。
冥界に伝わる伝説の弓であり、番えた矢に魔法をかけ衝撃波と共に炎の矢を放つ剛弓である。
「危ないっ、おねーちゃん!」
咄嗟に飛び出したミリィは辛うじて矢は叩き落としたものの、矢が巻き起こす衝撃波までは防ぎきれなかった。
ドォンと鉄板をハンマーで殴ったような轟音と共に、二人は吹き飛ばされていく。
「な、な、な、なんじゃぁぁぁ!!」
「うわぁぁぁぁぁん! やっぱり帰っておけば良かったー!!」
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