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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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第五章 燃ゆる扶桑の都3

 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)たちが異変に気付き、綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)が管制の指示を飛ばしていた。
「紫音、あちらの空き地に誘導するどす、応援に行きましょう」
「ああ。まだ、制御経路に色々と問題があるようだな。しかし、これは演習ではない。戦闘中でも何とかしなければ」
 彼女たちは新しい『鬼の血』を持ち、鬼鎧ものとへ急いだ。
「く……燃料切れ?!」
 鬼鎧の中で睡蓮が呻いた。
 機晶石にセットされた鬼の血が僅かに光っている。
 紫音が搭乗口を開けてやり、九頭切丸が睡蓮を抱きかかえながら下ろしてやっていた。
 鬼鎧での初戦闘は、思いの外、搭乗者に負荷がかかるようだ。
 足が震え、しばらく、睡蓮はよく立てないでいる。
「よくやった、瑞穂に鬼鎧のプレッシャーをかけられてるし、、良いデータもとれている。あとは任せて。新しい鬼の血をセットし直して、調整の不具合を見ながらやってやる!」
 紫音と風花が入れ替わって鬼鎧の腹の中に収まった。
 操縦桿の代わりに、光る鏡のような円盤を操作すればいいとは聞いていたが、イコンとはかなり勝手が違うものだ。
「でもここで、あきらめたら天学生の名折れ。行くぞ!風花」
 紫音に応えるように、風花が新しいデータの入力しながら照合を行う。
 鬼鎧は軋み音を立てながら、再び動き始めた。

卍卍卍


「霧島という男は、瑞穂藩士の投影で数を多く見せ、短期決戦に挑む気だな。わしの考えと同じだ。現示、分かっているだろうが、戦いを無駄に長引かせても利はない。よいな」
 日数谷現示の傍らでは、三道 六黒(みどう・むくろ)のもつギロチンの刃が鈍く光った。。
 六黒の一振りが幕府兵の肉を断ち、血を噴き出させて、都の地面を赤黒く変えていた。
 獣人羽皇 冴王(うおう・さおう)が奇声を上げながら、爆弾を葦原陣営に向かって投げつけている。
「そうそうコレコレ! ダンナ絶好調だな! 戦はやるからにゃ盛大にやらないとな!!」
 黒煙を粉塵にまみれて、戦場では焦げくさい臭いが漂っている。
 現示は得意の殺法で刀を振るっていたが、ふと動きを止めた。
「どうした、何か気がかりなことでもあるか」
いつしか地祇戦ヶ原 無弦(いくさがはら・むげん)の奏でる琵琶の音が、血生臭い彩りを添えていた。
 無弦の問いに、現示は空を見上げている。
「葦原の鬼鎧だ。こいつら幕府や葦原の雑兵は雑魚だが、鬼鎧はまずい」
「貴殿がこの戦場を離れても、六黒が居る……存分に行かれよ」
 六黒は現示が以前に『鬼鎧についてためらうことがある』と言ったことが気がかりではあったが、自分がこの場の指揮を執ると宣言した。
「行ってこい。ここで後悔されても構わんからな。何、こちらはお前なんぞより余程戦を心得て居る」
 六黒たちの言葉を受け、現示は瑞穂の鬼鎧の元へ駆け抜けようとした瞬間、頭上から彼らをめがけて火嵐を投げつけてきた者がいた。
 ずっと現示を付け狙っていた葦原明倫館の霧雨 透乃(きりさめ・とうの)たちである。
 小型火空挺から緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が火を放ったのだ。
「あら、やはりこれだけでは物足りないですわね」
 陽子が魔眼で強化した炎を繰り出すために再び呪文を唱える。
「生きている限り立ち向かうという点では私達も同じかもしれませんね。そういうことですので、遠慮はしませんよ」
 それに併せて、透乃は降下していた。
「私は懲りずに行くよー! 日数谷現示、覚悟!」
「またお前らか! しつけえな!」
 現示はイライラとしながら刀を構えた。
真正面から挑んでくる透乃に対し、刀を突きを返す。
「そんなに俺のことが気になるなら、もっと素直になりやがれ。一晩ぐらいなら抱いてやっていいぜ」
「冗談いわないでよ、私はハイナちゃんが気に入ってるの! 葦原についてるのも、たまたま所属してるってだけよ。私にとって大事なのは戦うことだけで、この国の情勢なんか興味ないからね!」
「……ああ、そうかい。それを聞いて安心した。だったら女だろうと関係ねえな。そんなつまんねえことで、人の国にちょっかいかける奴は死んでくれて構わねえよ!」
 透乃の戦う理由にカッとなった現示は、本気になって彼女に斬りかかっていた。
 透乃も負けじと殴り返す。
「自分たちから戦争を始めておいて何いってんだか。戦争なんて人を殺す以外、他に何があるっていうのよ。合法的に行える唯一の殺人だというのにねえ」
 英霊月美 芽美(つきみ・めいみ)はケタケタ笑いながら、陽子の火から逃れようとしている兵をしらみつぶしに殺害している。
 三人の護衛として付き添っていた霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)は、女達の欲望に振り回されながらも、彼女たちを負傷させないように守ってやっていた。
「まったく、うちの人たちは欲求や感情に忠実すぎるぜ。まあ、そこがらしいといえばそうなんだが……」
 これがまた、現示の頭に血を上らせたらしい。
「戦いたい、殺したいだけっていいながら、男を盾に利用すんじゃねーよ! てめえもこんな女捨ておけや!」



「……これはいけないな」
 戦場に駆けつけていた蒼空学園桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は、現示と一対一の勝負に持ち込んで交渉するには、最悪の状況であることを察知していた。
 しかし、忍の考える理想のマホロバを実現するためには、現示をここで殺させるわけには行かなかった。
「あいつの心を救わない限りは、瑞穂は前に進めないし、瑞穂が同調してくれなければ、天子も扶桑もないだろう。国家神を失ったらどんなことになるか……」
 忍は、二メートルはあろうかという大剣を構える。
 ここで現示を仕留め、瑞穂の行動を止める。
 しかも殺さず、生かしたままでだ。
「マホロバを人も鬼も、仲良く暮らせる国にすることが、死んでいったウダの願いだと思っている。俺が、そうしてやる……!」
 忍が乱入したことで、現示は一度に三人を相手にしなければならず一方的に不利となった。
 いくら剣客といえども、多勢を相手するには困難である。
 しかも、現示は鬼鎧を気にしており焦っていた。
 刀の刃(は)が徐々にこぼれ、精才さを欠いていく。
 透乃の蹴りが現示の脇腹を捕らえた。
 すかさず、忍が大剣をふるい落とし、刀と左目の眼帯を吹き飛ばした。
「……ぐっ、てめら!」
「私はお前が死ぬまで止めないからね。ここで殺さないとまた刃向かってくるでしょ」
 透乃が止めを誘うと拳を構えていると、忍が彼女の腕を掴んだ。
「ちょっと、放してよ!」
「局地的なものの考えならそれでいいだろう。しかし、そのかわり一生、他の者から恨まれることになるよ。お前はマホロバの可能性を潰した人間だってね」
「私にはそんなの関係ないわ」
「そういう人間に限って自分の行動に責任を持たないもんだよ。分が悪くなったら逃げ出す。俺はお前がそうじゃないと思っている。だから、止めるんだ」
 忍は、パートナー達を呼び寄せ、現示に考えを改めるようにいった。
「マホロバが死にゆくというのに、こんなくだらん争いをして何になる。お前達が殺し合って喜ぶのは、あの帝国だけだということがなぜ分からん! このうつけどもめが!」
 英霊織田 信長(おだ・のぶなが)が一喝し、悪魔天魔 他化自在天(てんま・たけじざいてん)がくすくす笑っていた。
「エリュシオンの龍騎士団は各所で暴れ回ってるよ。龍騎士は変態さんが多いって言うし、漆刃羅 シオメン(うるしばら・しおめん)の案外そんなんじゃないかな。そういった連中のいいなりになって、マホロバの人が元気なくなると悪魔の私としてはちょっと困るんだよねえ。人の生きる世を覗くのが私の楽しみだからさ」
シャンバラ人のノア・アーク・アダムズ(のあ・あーくあだむず)も、シャンバラ人のやり方は気にくわないと言った。
「べ、別にうつけを手伝う訳じゃないけど、たまたま私の考えと同じなだけで。エリュシオンは、弱みを見せたら必ず襲ってくるわよ。どうしてそれがわからないの?」
 忍たちは現示の改心に期待したが、彼はじっとしたまま動かなかった。
 そのとき現示がちらを顔を上げ、大きな爆竹の音がした。
かと思うと、彼らの前に颯爽と現れた獣人が彼を担いで去っていった。
「ほら、みてよ! 逃がしたじゃない! 甘すぎるのよ、また奴がのさばったら、そっちこそ責任とるの?」
 透乃が忍を睨み付けたが、彼は諦めてはいなかった。
「いや、まだだ。希望を繋いだだけだ」
 現示の中に何かが芽生えてくれればよいと願った。



「へへへ……ダンナに借りが一つできたな」
 獣人羽皇 冴王(うおう・さおう)は現示を担ぎ上げたまま、瑞穂の鬼鎧まで、戦場を縦横に走っていた。
「まあ、日数谷のダンナにも、六黒のダンナにもここでくたばってもらっちゃ困るんでね」
 冴王はぺろりと唇をなめた。

卍卍卍


 戦闘が始まってから幾数時間が経過したが、両軍ともまだ拮抗した状態にあった。
 幕府・葦原軍も押し切ることができず、また瑞穂も押し返す決定的な戦力に欠けていた。
 戦いに参加していた女学園メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)も幕府・葦原軍に身を置いていたが、まったく状況が予想できなかった。
 パートナーの剣の花嫁セシリア・ライト(せしりあ・らいと)、英霊フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)、精霊ヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)と共に、前戦で戦っていた。