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リアクション
第四章 決戦前夜3
扶桑の都では、瑞穂の軍が陣を構えていた。
龍騎士漆刃羅 シオメン(うるしばら・しおめん)もマホロバ城襲撃失敗について、日数谷 現示(ひかずや・げんじ)は、黙ったまま何も言わなかった。
瑞穂藩士にもそれは伝えられなかった。
瑞穂藩陣営では副将として迎え入れられた霧島 玖朔(きりしま・くざく)が、防衛戦について説明、鼓舞していた。
「防衛といっても、幕府軍を撃破すれば、瑞穂が次のマホロバを守る力を持つと証明できる。瑞穂藩士よ、野郎共……死ぬ気でやりやがれ!」
瑞穂藩士の間で歓声が沸きたつ。
玖朔は複雑な思いを抱きながら、陣羽織を纏った現示に向かって小声で囁いた。
「……これでいいんだな。てめえはこれで、自分だけでなく、たくさんの瑞穂藩士の命を巻き込んで崖っぷちの戦を挑むんだ。俺もこんなやっかい事に首を突っ込んだ以上は、全力でやるぜ」
「ああ、それでいい。教導団とやらの力を発揮してくれや。そのために、玖朔を副将に据えたんだ」
「じゃあ……遠慮なくやらせて貰うぜ。大将、しっかりな!」
卍卍卍
三道 六黒(みどう・むくろ)は戦意を高めながら、黙々と武器の手入れをしている。
先ほどから、六黒の周りは彼の殺気を恐れて誰も寄ってこない。
だが、現示は草履の音を立てて近づいた。
「なんで、副将になるのを断った。アンタが玖朔と一緒に立てば……」
「下らんことをきくな。わしはそんなものに興味はない。それより、ここにきておぬし、覚悟が揺らいだのではなかろうな?」
「それはねえよ。あるとしたら……」
「睦姫様のことか」
「……いや、それもねえ。やはり、俺は……俺なんかが」
現示は胸元の鎖を握りしめた。
指で何度も繰る。
「俺は……瑞穂の大殿様に恩がある。俺みたいな畜生でも拾ってくださった。あのままだったら本当に糞みたいな人生だったろう。俺は、瑞穂の地が……好きなんだ」
「そうか」
「この戦に勝つためにも、鬼鎧を使えるようにしねえといけねえ。それを迷っている。睦姫様には恨まれるかも知れねえが、これしか思い浮かばねえ」
現示は笑顔を見せていた。
自分自身を笑っているようだった。
「鬼城は鬼の一族というが、自分を人間と思ってる奴のほうがよほど下衆だな」
その夜、瑞穂藩邸に数人の藩士が慌ただしく出入りしていた。
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