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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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第三章 龍騎士シオメンの襲撃1

 エリュシオン帝国が誇る軍事力。
 その核となるのが大空を自由に翔る龍騎士の存在だ。
 帝国人にとって龍騎士になるのは誉れであり、上層の人間であることの証でもあった。
 漆刃羅 シオメン(うるしばら・しおめん)は瑞穂藩の人間であったが、改宗し、エシュシオンに帰化してからは、自分のことを帝国人であると思っていた。
 その龍騎士シオメンのもとへ、イルミンスール魔法学校ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)が帝国とアメリカとの間に秘密裏の同盟を求めていた。
「ほほう、貴殿は面白い男だな」
 シオメンは「アメリカは葦原に協力しており、今、帝国が手を結べる相手ではないだろう、同様にアメリカにもこの話を持ちかけたのかね」と、答えた。
「アメリカがこの話に乗り、大帝の前にひざまずくならまだしも、帝国の方からが持ちかける話ではなかろうな。だが、貴殿はなぜ、この話を思いついたのだ」
「ア、アメリカも帝国も、中国の息のかかった教導団が目障りであるという事実があるからね。アメリカ軍によって量産化に成功した鬼鎧があれば、帝国にも利があるし、アメリカも死の商人としてウラの世界で暗躍できるんじゃないかな」
 ウヒヒ……と笑いを堪えるブルタ。
 シオメンはこの男が見た目によらず、随分と頭の回る人間であることを理解した。
 同時に、崇高さを何よりも大事と思うシオメンには、この男の本心が別にあるのではないかとも疑った。
 闇のような世界の混迷を願う、人の心の深淵を、だ。
「貴殿の考えはわかった。帝国とアメリカが手を結べるような外交ルートは現在はない。しかし、マホロバは将軍家を牛耳ることで、帝国の属国とすることができよう。それには穂高様にぜひともお立ちいただかねば。我らの努めは穂高様をお守りし、立派な君主足る人物に成長されるようあらゆる手助けを行うことだ。そうは思わないかね?」
 ブルタのパートナー悪魔ステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)はブルタの付き添い、助言を行っている。
「本音を言えば、私たちはアメリカのみにこだわっているというのではなく、シャンバラの西側勢力……つまり地球人による侵略を牽制したいのです。マホロバがエリュシオンに付けば、帝国にとっても悪い話ではありますまい」
 ステンノーラはそのために自分は東シャンバラロイヤルガードとして働きたいと申し出たが、シオメンにやんわりと押しとどめられた。
「地球人どもにエリュシオンほどの大帝国が揺るがされるとは思えんが、煩わしい存在であるのは確かだ。彼らは偉大な世界樹ユグドラシルも、心から信じ感じ入ることはあるまい。そんな人間が、パラミタの地に足を踏み入れることすら誤りなのだ。いずれ神罰が下る」と、シオメン。
「故に、貴殿も、醜いシャンバラ地球人の紛争に巻き込まれて神罰を受けるより、ユグドラシルと共に生きればよい。大帝もお心の広いお方だ」
 龍騎士は二人に改宗をせまった。
「どのみち東シャンバラロイヤルガードといって『功績』を求められるのであろう? そんな無駄なことに力を注ぐより、瑞穂のように、帝国に身をゆだねるが良い」

「慈悲深きシオメン様、私も、お願いがあって参りました」
 瑞穂藩を継ぐであろう穂高(ほだか)の生みの母ファトラ・シャクティモーネ(ふぁとら・しゃくてぃもーね)
 貞継将軍との子を瑞穂藩に預けようとして、瑞穂睦姫(みずほの・ちかひめの子と取り替えられてしまった。
 実母とは言い出せないが、彼女は、穂高の身の上を常に考えていた。
「穂高様は、安全なユグドラシルに送り、アスコルド大帝の側で来るべき日に備えておいた方がよいと思いますわ」
 ファトラは、穂高は瑞穂藩の希望であり、万が一のことがあっても穂高を中心に再起をかけることが可能だといった。
「穂高様はマホロバ将軍の『天鬼神の血』をひくお方。神の血を持った穂高様なら、立派な龍騎士となって、いずれマホロバを手にする時がくると信じます」
 シオメンは自慢の顎鬚を触りながら、ファトラの話を聞き、自分も同意見だといった。
「穂高様は、誠に瑞穂を継ぐに相応しいだろう。瑞穂藩は、つい数年前に大殿様が逝去されて若殿様が継がれたが、若殿様はご自身の信仰から生涯不犯とおっしゃっておられるしな」
「では、ユグドラシルに連れて行くのですね」
「ああ……約束しよう。このシオメン、嘘はつかん。龍騎士の誇りにかけてな」
 ファトラは安堵したように呟いた。
「……従来の『扶桑』と鬼鎧の力で、マホロバを守れるはずがないのです。帝国の力が必要なのですわ。エリュシオン帝国とはずっと、このパラミタで共存・繁栄していくことを目指すべきなのです……」


 龍騎士はマホロバ城へ向かって飛び立った。
 シオメンはまず、将軍継承権のある子を赤子のうちから亡きものにすれば良いと言ってちた。
「まだ生まれて間もない赤子であれば、この世で重ねた罪もない……ナラカに落ちて苦しむこともないだろう」