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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第2回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第2回

リアクション


・邂逅


「ここがポータラカですか」
 ノヴァやローゼンクロイツと共に、東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)はポータラカへと足を踏み入れた。
「さすがに、僕達は招かれざる客みたいだね」
 街の中にある警備システムに引っ掛かったようだ。
「とはいえ、ローゼンクロイツが場所を整える間に、調べものくらいは出来るんじゃないかな?」
「そう余裕に構えている場合じゃなさそうですよ」
 周りを見渡せば、既にポータラカの警備担当の機晶姫に包囲されている。
「ジズ」
 ノヴァの呼び掛けに、白銀の髪を持つ少女が頷く。
 直後、戦闘態勢にあった機晶姫達が動きを止めた。
「バルト、ドゥムカ!」
 その隙にバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)ドゥムカ・ウェムカ(どぅむか・うぇむか)が機晶姫達に攻撃を行う。
 ドゥムカが光術で相手の視界を封じ、バルトが神速で加速。さらに加速ブースター、疾風の覇気で速度を増していき、疾風突きを繰り出す。
 勢いに乗せて、動きが鈍っている警備機晶姫達を薙ぎ払っていく。
「今、一体何をしたのですか?」
 なぜ機晶姫が身動き出来なくなったのか、雄軒はノヴァに尋ねた。
「ジズの干渉能力だよ。イコンも機晶姫も、同じ機晶石を動力にしてるでしょ。それに、今の警備機晶姫はあまり人格というか意思が強いわけじゃないみたいだから、結構簡単に干渉出来るんだ」
 隣の美少女がこくりと頷く。
(侵入者達へ告ぐ。直ちにこの地を去れ。さもなくば、排除する)
「案外手荒な連中ですね。ポータラカ人というのは」
 シャンバラは然るべき手段で門を抜けてきたのだろうが、雄軒達はそうではない。ローゼンクロイツ曰く、「ちゃんと交渉すれば通してもらえますよ」とのことだったが、ノヴァが「無断で入った方が面白いことになるんじゃない?」と言って空間を裂いてポータラカ入りしてしまったために、侵入者扱いされているのである。
「こういう反応されるんなら、ちゃんとした方法で入れば良かったね。あ、君が欲しがってたポータラカの技術についてなら多分大丈夫だよ。ローゼンクロイツからカードを預かってるでしょ?」
「これですか?」
 雄軒は一枚のカードを取り出した。ノヴァ達についていくと申し出た際に、ローゼンクロイツから受け取ったものだ。
「ローゼンクロイツの術式が刻まれてるから、あとはそれをポータラカ人の体内に入れて引き抜けば、情報が得られるはずだよ。ナノマシンで身体が構成されてるみたいだから、身体の表面に触れるだけでも読み込めるかもね」
 次の瞬間、上空から光が飛来した。
「ノヴァ様!」
 どうやら粒子ビームで一行を焼き払おうということらしい。すぐにドゥムカがラスターエスクードを構えて防御を行おうとする。
「ち、防ぎ切れねェ!」
 さすがというべきか。盾ごと彼らが消滅するくらいの威力である。ラスターエスクードもポータラカの技術の技術が使われているが、それを見越しているかのようだった。
 だが、全員無傷であった。
「ほんとに容赦ないね、ポータラカの人は」
 涼しい顔でノヴァが呟いた。
「当たる直前に、空間を断絶した……ということですか」
 ノヴァの力、【フォーディメンションズ】は空間を自在に操る超能力だ。それによって攻撃が身体に到達する前に空間を切り離すことで、それを防ぐことが出来ている。
 ある程度の範囲までカバー出来るらしく、それによって雄軒達も無事だったというわけだ。
「そうだよ……ん?」
 ふと、ノヴァが向けた視線の先に一人の少年がいた。
 月谷 要(つきたに・かなめ)である。

(まだ施術が終わったばかりなんだ。そんな急に動いたらいかん!)
 要はポータラカ人に止められるも、侵入者の知らせの際に施設に映し出された『白銀』の姿を見て、思わず駆け出したのである。
 彼の四肢は、一見すると生身のものと遜色ない。が、ナノマシンを変化させてそういう状態にしているのである。
 流体(液体金属)製の義肢であるため、仮にダメージを受けたとしても自己修復が可能。また、感覚は生身の四肢とほとんど変わらないものである。もっとも、長い間義手での生活をしていた要には、生身の腕の感覚は皆無と言っていいのだが。
「まさか、ここで会えるとはね」
 少年にも少女にも見えるその人物こそが、白銀のパイロット。
「おっと、残念だけど時間みたいだ」
 次の瞬間、風景が切り替わる。

* * *


 天井にはステンドグラス。
 ポータラカの中にある、巨大なホールのような場所に、シャンバラの一行とノヴァ達は移動していた。
(招かれざる客よ。一体何のつもりだ?)
 鷲頭がローゼンクロイツを睨んだ。
「いえ、シャンバラの皆様がこちらにお伺いしているはずでしたので、少々様子を見に来たのです。今回のイレギュラーも、確認しておきたいところでしたから」
 シャンバラ側とノヴァ達の間に立つローゼンクロイツ。
「――――っ!」
 ノヴァの姿を見たルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)は、戦慄した。
「どうしたの、ルイ姉!?」
「いえ、何でもありません。けれど、あの人達は……次元が違います」
 フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)を守るようにして、この場から一旦引こうとする。

 ――人間って、脆いんだね。

 ルイーザは目の前の中世的な人物を知っている。敵意や殺意といったものを持たず、ただの興味だけで何の躊躇いもなく人間を殺せる、その人を。
「そう警戒しなくていいよ。君達がどれだけ頑張ってるか、見に来ただけだから」
 無防備な様子で、笑みを浮かべるノヴァであるが、シャンバラ側は警戒を緩めない。
「ノヴァ……」
 ホワイトスノー博士が動揺しながら、呟いた。
「こうやって会うのは何年ぶりだろうね、『しょうさ』」
 懐かしむような声で、ノヴァがホワイトスノーを呼ぶ。
「博士、下がって下さい!」
 彼女の護衛をしているルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が博士の前に出る。
 同じく、教導団の叶 白竜(よう・ぱいろん)世 羅儀(せい・らぎ)もだ。
「おや、シャンバラの軍人さんは真面目なんだねぇ」
「……何者ですか?」
 白竜が問う。
「そっかそっか。自己紹介がまだだったね」
 羽織っている白銀色のコートを翻し、大仰に振る舞う。
「僕はノヴァ。ノヴァ・ホワイトスノー。周りの人からは『総帥』って呼ばれてるよ」
 ホワイトスノー。
 それは博士と同じ性だ。そして、博士とノヴァの関係を知る者も、今回の研修参加者にはいる。
「お前の目的は、なんだ?」
「『世界平和』だよ、しょうさ。ちょっと遠回りだけど、そのために色んな人達に『協力』してもらってるんだ」
 まるで子供が自分の夢を語るような、そんな無邪気さがノヴァの顔にはあった。
「はは、みんな『信じられない』って顔をしてるね。僕を笑うかい? それとも、嘘つき呼ばわりするのかな?」
 そして続ける。
「僕は彼のような『破壊者』じゃないし、大帝のような『支配者』でもない。ただ純粋にこの世界を変えたいだけなんだ。この偽りの世界を。強いていうならば、僕は『変革者』になるのかな」
 そのための下準備を今進めている、ということらしい。
「それで、ローゼンクロイツ。貴方は一体何者かしら?」
 罪の調律者が訝しげにローゼンクロイツを見やる。
「なるほど……やはり、私のことは分かりませんか」
 ぼそりと呟いた後、続ける。
「罰の調律者。君と同じ『存在しないはずの』調律者ですよ、罪の調律者」
「彼はそんな気持ちの悪い、思わせぶりな話し方はしない。貴方の名前を聞いたときは、彼だと思っていたのだけれどね」
「永遠にも等しい時間を過ごせば、人は変わるものですよ。それに、君も私が知る彼女ではありません」
「……お互い様ってところね」
 パラミタの正史には存在しない、二人の調律者の、一万年の時を超えた邂逅。
「全ての条件は揃いつつあります。近いうちに、その日は来るでしょう。新世界への扉が開く日が」
「そして、それはこの世界の終焉を意味する。違うかしら?」
 ローゼンクロイツが不敵な笑みを浮かべた。
「そのときになれば分かります。
 さて、そろそろですか。この状況はあまり好ましくはありませんね。それに、このポータラカの住人のことですから、『この状況すらも観察している』かもしれませんから。ここでイレギュラーを増やすわけにはいきませんので」
「終わったかい?」
 ノヴァの視線の先では、雄軒がこっそりとポータラカ人の背後に回りこみ、ローゼンクロイツのカードを使ってナノマシンから情報を読み取っていた。
「それじゃ、失礼するよ。僕達を止めたかったら、もっと頑張ってね――ジズ」
 白銀のイコンへとノヴァが飛び乗る。
「待って下さい!」
 そんなノヴァ達を呼び止めたのは、中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)だ。
「私は好奇心を満たし、そして物事を傍観し楽しめればそれでいいのです。今の口振りからすると、あなた方は『世界の真実』を知っているようですわね。私の好奇心を満たすことが出来るのでしたら、是非とも私を連れていっては頂けないでしょうか?」
「傍観……ね。君と似たような人を、僕は知ってるよ。ローゼンクロイツ、彼女を」
 ノヴァ達の元へいくのは、彼女だけではなかった。
「あなたが……ノヴァ。僕も、行きます」
 御空 天泣(みそら・てんきゅう)だ。
 単独で調べものをしていたが、騒ぎを受けてここまで来ていたのだ。
「来る者は拒まないよ。
 それじゃあね、シャンバラのみんな。それと……またね、しょうさ」
 白銀のイコン、そしてローゼンクロイツ達の姿が一瞬で消えた。
(ポータラカ内から反応が完全に消えました)
(空間跳躍……いや、テレポートとは異なる原理のようだ。それに……あの白銀のイコンとローゼンクロイツなる人物でまったく違うのも興味深い)
 あのような状況の中でも、ポータラカ人は侵入者達を分析していたようだ。

「何も……出来なかった」
 ホワイトスノー博士が悔しそうに俯いていた。
 いざノヴァを前にして、ただ立ち尽くすことしか出来なかったことに、不甲斐なさを感じたのだろう。
 世界を変える。一体ノヴァ達は何をしようというのだろうか。

* * *


 ポータラカを去った直後。
「ノヴァ様」
 雄軒はノヴァに問うた。
「貴方が、傀儡師ですか?」
 かつてシャンバラで暗躍していた夢幻糸と呼ばれる糸を操る請負人。その正体がもしやノヴァではないのかと、直感的に思っていた。
「そうだよ」
「その節は、ありがとうございました。糸術は今でも鍛錬を積んでおります」
 しかし、そうなると疑問がある。人を食ったように相手を煽っていた傀儡師が、なぜ『世界平和』などと言い出しているのか。
「なぜあのようなことをしていたのですか?」
「世界を知るには、人の感情を知らないといけない。痛みも、苦しみも。みんなが平穏な心を持つには、そういったあらゆる負の感情をまず僕が理解しなければいけない。それと、人の『生』と『死』がどんなものかを」
 淡々と語るも、感情は読めない。まるで、興味だけで人を喜ばせることも、苦しめることもしてきた、そんな印象だ。「知る」ためには何でも平気で行えるという点において、雄軒とノヴァは似た者同士かもしれない。
 だが、ノヴァの中には純粋さ以上に、狂気があるようにも思えた。