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リアクション
第4章 小ラズィーヤの事情と静香とラズィーヤの契約
■□■1■□■ ラズィーヤ、百合園へ
そのころ、
桐生 円(きりゅう・まどか)と
伏見 明子(ふしみ・めいこ)が、小ラズィーヤと話していた。
(とりあえず、
私の両親が校長のご両親に保証人やらせてたことは伏せといた方がいいわね。
小ラズィーヤさんのお祖父さんお祖母さんなわけだし)
明子は、しかたがないので、
ちゃんと事件を解決しようと思ってるのだった。
「おねーさんと一緒に、お話ししない?
いろいろ矛盾があっておかしい気がするんだけど」
「な、なんだ、そのこんにゃくは!?」
「嘘発見器。嘘ついたらこれで顔をぺちんぺちんするよ!」
円が、小ラズィーヤに迫る。
「んー、過去に起こった事なんて確率的にはぽこぽこ変わりそうな物なんだけど、
それが未来に影響を与えるっていうのは結構あることなの?」
明子も、疑問を口にする。
「常識の範囲内で起こる出来事でいちいち未来が変化してたら、
未来はぐっちゃぐちゃのぬったぬたになってそうな物だけど」
「我々が介入する程度なら問題はない。
だが、桜井静香とラズィーヤ・ヴァイシャリーの契約は、
未来の世界に大きな影響を及ぼすのだ」
「なに、『我々』って。
なにその一人称。7歳児のくせにー」
「やめろー! 嘘ついてないだろ!」
「まあまあ」
円にいぢめられる小ラズィーヤを、明子が止める。
崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が、切れ長の目を細めて言う。
「未来と違って過去の改変は私達に影響を及ぼす恐れがあるから、
あまり積極的に干渉しない方がいいと思うんだけど……」
コツ、と、亜璃珠が靴音を鳴らして小ラズィーヤに迫る。
「と、言うかね。
そもそもラズィーヤさんが静香さんと契約しなければ
財政破綻以前に百合園パラミタ校自体が設立しないじゃない。
それにラズィーヤさん自身も、わざわざ新百合ヶ丘を訪問して、
敢えて一見何のメリットも見出せない一般市民の『桜井静香』を選んだのよ?
そこにはきっと大きな理由があるし、多少のことでその選択が揺らぐはずがありませんわ」
小ラズィーヤの瞳を、亜璃珠が覗き込む。
「それこそ、これから大人数で妨害でもかけない限り……ね、ポシブルさん?」
小ラズィーヤが、唇をかみしめる。
「ああいえ何も、やっぱり聞かなかったことにしてくださいな」
「え? どういうことなの?」
明子が亜璃珠に問うが。
「小ラズィーヤくーん」
「ギャーッ!?」
「あ、ちょ!?」
円が小ラズィーヤに襲い掛かったため、明子が振り返った隙に、
亜璃珠は歩き去ってしまった。
★☆★
新百合ヶ丘の百合園女学院に向かった亜璃珠は、
中等部の生徒だった過去の自分に接触する。
「ごきげんよう」
「誰ですか?」
「パラミタから来たの」
亜璃珠は、にっ、と笑って、怪訝な顔をしている過去の自分に近づき、腰に手を回し、唇を重ねる。
「ひゃっ……!
何するんですか!?」
「あなた、かわいいんだもの」
過去の亜璃珠は、強気な視線を向ける。
「くだらないこと言ってると警備員さんを呼びますよ」
「そう言わないでよ。
お礼にイイコトを教えてあげましょうか」
現在の亜璃珠が、笑みを深くする。
「シャンバラの女王の末裔である
ラズィーヤ・ヴァイシャリーが来日しているそうだから、
お友達も誘って見に行ってはみてはどうかしら。
もしかしたら、パラミタ進出へのきっかけを掴めるかも知れませんわよ?」
「え、それって……」
「またね」
現在の亜璃珠は、過去の自分を置き去りにして、身をひるがえした。
★☆★
過去の亜璃珠は、しばらく考え込んでいたようだったが、
現在の亜璃珠が提案したとおりに、
友人たちを連れて、ラズィーヤの元へと向かった。
「ごきげんよう」
笑んだラズィーヤを見て、過去の亜璃珠は思う。
(さっきの人と似ている……いえ、違うかも)
優等生の過去の亜璃珠は、
ラズィーヤに対して、丁寧にあいさつを行い、
結果として、ラズィーヤは、百合園女学院に興味を持つのであった。
★☆★
一方、元百合園生の
神代 明日香(かみしろ・あすか)も、
ラズィーヤに、接触していた。
「この新百合ヶ丘には、桜井静香ちゃんという子がいるんです。
とってもいぢりがいのある子なんですよ」
「まあ!」
この時代のラズィーヤが、目を見開く。
(ふふふ、興味を持ちましたね)
腹黒い笑みを浮かべる明日香だが。
そこに、現在の花子が走ってきた。
「分銅でつぶされてたせいで遅くなっちゃったわ!
ラズィーヤおねえさま!
待ってください!
桜井静香なんかより、私と契約してください!」
「あなた、お名前は?」
「さ、佐藤花子です」
ラズィーヤに微笑まれて、花子が、顔を赤らめて言う。
(あ、興奮していて、つい本名を……)
花子がそう思った直後。
「わたくし、名前も中身も普通の子には興味ありませんの☆」
「そんな!?」
ラズィーヤは去っていき、
花子はその場に崩れ落ちた。
「中身普通なんでしょうか……」
そうつぶやく明日香だが。
「みつけたですよー、現在の花子!」
「過去も現在もいっしょになりましょー!」
「きゃああああああ!?」
「え?」
2人の桐生 ひな(きりゅう・ひな)が、
過去の花子ごと現在の花子に分銅アタックした。
「過去の私と2人の花子で、ダブルな分銅なのですよー、むぎゅ」
「これで、みんな仲良く潰れるのですよー、ぎゅむ」
「もうやめ……ぎゅう」
「ちょ、私、傷心なのに……ぐにゅ」
「って、いくら天丼ネタだからって6年も同じ事してんじゃねー!!」
日比谷 皐月(ひびや・さつき)が走ってきて、時空を超えたツッコミを炸裂させていた。
★☆★
そうこうしているうちに、
過去の静香がやってきた。
現在の静香も、離れてついてきている。
「きゃー、ちこくちこくー」
そこに、トーストを加えた小学生の明日香が走ってきた。
「いたっ」
「はうっ」
小学生の静香と明日香がぶつかってしまう。
「ちょ!?」
現在の明日香が衝撃を受ける。
「なんでこんなフラグが!?
私には『ふぇふぃふぁふぇーふぉ』ちゃんがいます!!」
過去への介入を恐れて、特に名を伏せつつ、明日香が叫ぶ。
しかし。
「ああ、トーストが……」
「ご、ごめんなさい」
「トースト……」
過去の明日香は、過去の静香のことはスルーして、とぼとぼと歩いていった。
「ナイスです、過去の私!」
「でも、なんで、こんな時間にトーストを?」
親指を立てる現在の明日香に、現在の静香が苦笑しながら言う。
「下校時刻ですから、お昼の残りじゃないですか?」
「まさか、時空のゆがみが発生してるんじゃ……」
どうでもよさそうに言う現在の明日香だが、現在の静香は、ふと思い至って、冷や汗をかく。
★☆★
そうしていると、
冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)が、
過去の静香にぶつかり、わざと白杖を落とす。
「あれ……杖、杖……」
「大丈夫?」
過去の静香が、同い年くらいに見える日奈々に、優しく語りかける。
「ありがとう……。
あの……急な、お願いで……悪いんですけど……
百合園女学院まで、案内してくれませんか……?」
「うん、いいよ」
静香が、優しく日奈々を、百合園女学院まで案内する。
(これで……ラズィーヤさんと、静香校長が……。
百合園女学院で……会えるはずですぅ)
日奈々の作戦が成功し、過去の静香を誘導できたのだった。
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