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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第3回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第3回

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・避難誘導


 海京東地区。
「また無理な要求してくれたようだな」
 シェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)が顔を歪めて呟いた。
「関係ない奴まで巻き込むなよ。まったく、やりにくいな」
 こちらから攻撃の意思を見せなければ、相手は危害を加えないつもりのようだ。逆に言えば、一般人であろうと「抵抗の意思を見せれば」即座に動くだろう。
「強化人間の精神不安定なところを逆手に取り……操りますか? 皆一様に……表情を失っています。こんな風にしてしまうとは……許せないですね」
 神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)もまた、声を発した。
 海京にいる強化人間が全て敵になったのかもしれない。その中には、自分の友人もいる。出来る限り避けられる戦いは避けたい。
 あくまでも買い物中だった一般人を装い、海京で起こっている事態を把握していないように振る舞う。
「紫翠、どうする?」
「そうですね……多分……外より建物の中とかの方が安全……なはずです」
 地図を広げながら、風紀委員に包囲されていない建物を探す。クーデターの報はもう海京中に広がっていると思われるが、まだまばらながら通りには人がいる。
「クーデター、何かの間違いだろ?」
「でも、風紀委員の様子、いつもと違くない?」
 状況が飲み込めていないのか、困惑している様子だ。周囲をきょろきょろ見回している人も多い。
「じろじろ見てると……怪しまれます……」
 一般人の姿を見つけると、小声でそう告げた。とはいえ、着物姿の麗人から声を掛けられ、一層戸惑っているようでもある。
「風紀委員が見張っていない建物の中で大人しくしていた方がいいだろう。この辺りだ」
 シェイドが地図で強化人間達の目の届いていなさそうな場所を指す。あくまでも指定するだけだ。自分達は建物が見える場所まで行き、無事に到着したかどうかを見届ける。
 風紀委員に警戒されないためには、あくまでも「自然に」そこへ向かっているかのように見せかける必要があった。あからさまに誘導した場合、「抗戦のために一般人を遠ざけようとしている」と判断されかねないからである。
 もう一つ重要なのは、建物の中にいる人が外に出ないようにすることだ。それは二人ではなく、避難誘導する一般人に伝えてもらうように仕向けている。
「気休め……かもしれません……けど」
 街を巡回して気付いたのは、人質となっているのは地区の重要拠点となっている施設にいる者達だということだ。東地区であれば、海京の大企業の社員寮や天御柱学院の学生寮、西地区であれば役所や研究所、海京警察署といった具合に。
 国軍のいる北地区と大部分が天御柱学院の敷地である南地区に至っては、おそらく地区内ほぼ全域だろう。中央地区は当然、天沼矛だ。
「状況は……掴めてきました。あとは……彼らが動いたときに備えて……警戒します」
 二人は戦うことが必要になる場合に備え、すぐに行動が取れるように周辺警戒を強めた。

* * *


 たまたま海京に出向いており、クーデターに巻き込まれた者もいる。メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)もその一人だ。
 天御柱学院の生徒ではなく海京の住人でもないため、一般人に紛れることもそう難しくはない。まだ街中にいる人を見かけては、強化人間エキスパート部隊の目の届かない所まで移動するように促す。
 シャンバラ政府がどういう反応をするかはまだ分からない。が、要求が拒否されれば「彼らの視覚に入っている」一般人が攻撃されかねない。また、秘密裏にクーデターを鎮圧しようと動いている者がいる場合、一般人が街中にいたら動きにくくなるだろう。
 彼女の場合は、そうやって街中の人達を誘導していった。

 一方、クーデターが起こったときに、エキスパート部隊の占拠対象の施設にいたのはハーヴィット・カンタベリー(はーびっと・かんたべりー)だ。
「外の様子は私が見張っています。皆さんは、じっとしていて下さい」
 ガラス越しに、建物の外を見やる。
 万が一外のエキスパート部隊が中に入って来た場合に備え、彼は建物の入口付近で待機し始めた。