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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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「おお、マナさん、こんな所で会えるとは奇遇です」
 思いもかけず格納庫でマナ・ウィンスレットを見つけたクロセル・ラインツァートが、彼女に駆け寄っていった。
「クロセルぅ、よかったのだあ。さあ、早く帰るのだ」
 ピョンとクロセル・ラインツァートにだきついてマナ・ウィンスレットが言った。
「そうしたいところですが、マナさん、またおっきくなれます?」
「任せるのだ。今専用パジャマに着替えるのだ」
 マナ・ウィンスレットがそう言うと、雪だるま王国兵たちがきちんとたたんでおいたパジャマを運んできた。
 すぐに着替えようとして、マナ・ウィンスレットはクロセル・ラインツァートたちがじっとこちらを見つめているのに気づいた。べしっと、まじかるステッキで、マナ・ウィンスレットがクロセル・ラインツァートの頭を叩く。
「乙女の着替えをのぞいてはいけないのだ」
「お、乙女!?」
 思わず聞き返してしまって、クロセル・ラインツァートがべしべしとまた叩かれた。
皆の者、懲らしめてやるのだ
 マナ・ウィンスレットに言われて、雪だるま王国兵たちがクロセル・ラインツァートをぼこる。
「ちょっと待って、俺は騎士団長……。うぼ、ぐ……。な、なんの、痛くも痒くもありません……
 やせ我慢をしたクロセル・ラインツァートが、なんとか逃げだした。
「むこうをむいているのだあ!!」
「あ、はいはい」
 そう怒られて、仕方なくクロセル・ラインツァートたちがくるりと後ろをむいた。
 ごそごそとマナ・ウィンスレットが着替えている音が聞こえる。振り返ってどんなふうに巨大化するのか見てみたいという誘惑に駆られるクロセル・ラインツァートであったが、そこはグッと我慢……できなかった。
「もういいですか、マナさん」
 勢いよく振り返る。
「いいのだ。じゃーん、しゅわっち」
 ヒーローパジャマに着替えた巨大マナ様がポーズをとった。
「チッ」
 決定的瞬間を見逃したクロセル・ラインツァートが陰で舌打ちした。
「では乗り込みましょう。脱出です」
 クロセル・ラインツァートが言うと、巨大マナ様がクロセル・ラインツァートと雪だるま王国兵たちを一人ずつつまんでポケットにしまった。
「行け、巨大マナ様!」
 ポケットの中から、前方を指さしてクロセル・ラインツァートが叫んだ。
「しゅわっちなのだあ」
 ちっちゃな翼をパタパタさせて、巨大マナ様が格納庫から飛びたっていった。
 
    ★    ★    ★
 
「ジュレ、迎えに来てくれたんだあ」
「もちろんだとも」
 深き森に棲むもののコックピットハッチから顔だけのぞかせて、ジュレール・リーヴェンディが言った。
「どうして、そんな格好しているのよ」
「なんでもいいから早く乗り込むのだ」
 ジュレール・リーヴェンディに急かされて、カレン・クレスティアは深き森に棲むもののコックピットに入っていった。
「ああ、ちゃんとパイロットスーツ着ててくれたんだ」
 カレン・クレスティアの言葉に、ジュレール・リーヴェンディが、「これがパイロットスーツ?」という顔をした。確か単なるレオタードでは……。だからこそ、さすがに男性の多い所では恥ずかしいのだが……。
 バタバタとハッチを閉めると、ジュレール・リーヴェンディはさっさとコントロールをカレン・クレスティアに渡した。
「じゃあ、ここから、本気モードだよ!
 そう言うと、カレン・クレスティアは深き森に棲むものを発進させた。遺跡の外には、まだ多数のリーフェルハルニッシュがいる。素早くその一機の肩に飛び乗って足の爪でしっかりと押さえると、頭部に剣を突きたてた。
「次行くよー」
 カレン・クレスティアは動きの止まったリーフェルハルニッシュを蹴り落として、上空へと舞いあがっていった。
「アルちゃんは迎えに来てくれないかなあ」
「無理だろう。なんだか、いっぱいいっぱいだったからな。ここはおとなしく、どこかに便乗させてもらおう」
 深き森に棲むものを見送りながら少し困ったように言う秋月葵に、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が言った。
 魔装書アル・アジフは一人でのイコンの操縦であたふたしていたから、とうていここには辿り着けそうもない。
 
    ★    ★    ★
 
「お疲れ様。さあ、早く乗ってください」
 上空から下りてきた陽炎が、ホバリングで軸合わせをしてから格納庫内に着地した。
「助かった、リーン。狭くてすまないが、カチェア・ニムロッドと後部シートに移動してくれ」
「分かりました」
 緋山政敏に言われて、席の移動が行われる。二人乗りの陽炎に三人が乗るのは無理矢理なので、結果的にシートに座ったカチェア・ニムロッドの膝の上にリーン・リリィーシアが乗ることになる。
「ちょっとだけの辛抱だ。いったん降りるぞ」
 キャノピーをあけたまま離陸すると、緋山政敏はゆっくりと陽炎を移動させて地上を目指した。
 
    ★    ★    ★
 
「ティー・ティー。レガートはもう大丈夫なのか」
「完全では……。でも、鉄心やイコナちゃんのために頑張ってくれました」
 ちょっと驚く源鉄心に、ベースで脱出者がいると聞いて駆けつけてきたティー・ティーが答えた。
「早く乗ってください」
「俺よりもイコナを……」
 うながすティー・ティーに、源鉄心がイコナ・ユア・クックブックを乗せるように言った。
「わたくしなら大丈夫ですわ。氷雪比翼があるから飛んでついていけます。お茶娘に借りを作ったりはしないのです」
 結局役にたたなかった魔石をじっと見つめていたイコナ・ユア・クックブックが、源鉄心たちに言った。
「よし、長居は無用だ。行くぞ」
 源鉄心が、レガートの後ろに乗ると、ティー・ティーを軽くだきかかえるようにして手綱を取った。
 レガートが、力強く翼を広げると、格納庫から外へとかけだしていった。その後を、氷の翼を背中につけたイコナ・ユア・クックブックが追いかけていく。
 
    ★    ★    ★
 
「ツバメちゃん、迎えに来たですぅ」
 ライゼンデ・コメートを格納庫に入れて、キャノピーをあけたフィーア・レーヴェンツァーンが新風燕馬に言った。
「おお、助かった……って、こら、お前たち、なんでライゼンデ・コメートに乗っている。ブラウヴィント・ブリッツはどうしたんだ!?」
 迎えに来てもらったのを喜んだのも束の間、ザーフィア・ノイヴィントとフィーア・レーヴェンツァーンの乗っているイコンがいつの間にか変わっているのに気づいて、新風燕馬が問い質した。
「ええっと、それはであるが……」
「撃墜されちゃったですぅ。てへっ」
 言いよどむザーフィア・ノイヴィントに代わって、フィーア・レーヴェンツァーンがあっけなく白状した。
「なんだってえ! 最新鋭の第二世代機だぞぉ!! それで、機体はどうなったんだ!」
「湖に沈んじゃった」
「終わりましたね……」
 ちっちゃく舌を出して嘘を言うフィーア・レーヴェンツァーンの言葉を聞いて、サツキ・シャルフリヒターがぽつりとつぶやいた。
「お前ら、降りてこい!」
 激怒した新風燕馬が、ライゼンデ・コメートによじ登っていく。
「蒼姐さん、脱出だよぉ!」
 そう叫ぶと、フィーア・レーヴェンツァーンが空飛ぶ箒ニーシュで逃げだした。
「なんで僕まで……」
 あわてて、ザーフィア・ノイヴィントが機晶姫用フライトユニットで後を追う。
「サツキ、追いかけるぞ、早く乗れ」
 サツキ・シャルフリヒターを急きたてると、新風燕馬がライゼンデ・コメートに飛び乗った。サツキ・シャルフリヒターがシートベルトを締めるのもそこそこに、キャノピーを閉めつつ反転する。
「ライゼンデ・コメートから逃げられると思うなよ!」
 スロットルを一杯に押し込むと、新風燕馬は格納庫を飛び出していった。