リアクション
三回戦 ○第一試合 藤原 優梨子 対 相田 なぶら なぶらが斬りかかった。優梨子はなぶらの手首を流し、彼の胸を掌底で打った。そのまま下半身に抱きつき、押し倒そうとするも、なぶらは優梨子の腕の中からするりと抜けだした。 だが、優梨子はなぶらを追った。――否、その首筋を。ここまでずっとお預けを食らっている。もう、我慢が出来ない。 上唇をぺろりと舐め、なぶらの首目掛けて飛び掛かる。 それがいけなかった。なぶらは体を捻り、すれ違いざま、胴薙ぎにした。 腹部に衝撃を受け、優梨子は我に返った。 「うむ……お見事です」 「キミもね」 やっぱり刃を引いていない得物で首を獲りあうのがいいかしらと考え、優梨子は退場するなぶらを見つめた。 首筋にえも言われぬ寒気を感じ、なぶらは振り返った。優梨子がにっこりと微笑んだ。 * * * エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は、観客席の一番後ろから試合を見ていた。輝夜は気づいていなかったが、一回戦からずっと見ている。 輝夜を応援していたのではない。試合に出る、女性を観察していたのだった。 * * * ○第二試合 緋王 輝夜 対 モードレット・ロットドラゴン モードレットの繰り出した槍を、輝夜は【ミラージュ】で己の幻を残して躱した。背後に回り、モードレットの首を狙う。 しかしモードレットは、その体勢のまま、槍を大きく後ろへ振り回した。ぶおんっ、と空気を切る音が輝夜の耳に響くや、 「!?」 こめかみに、強い衝撃が走り、吹っ飛ぶ。 倒れた輝夜は、ふらつきながらも目の前にあるモードレットの足にタックルを食らわせた。その腕をモードレットは踏みつけ、槍で輝夜の背を力いっぱい突いた。 「!!」 胃の中のものを吐き出しそうになり、輝夜の視界が霞んだ。その目に、エッツェルの姿が映った。 何だ……あそこにいたのか……。 そこで、輝夜の意識は途切れた。 * * * エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)は、「風靡」から少し離れた場所に席を取っていた。可憐な美少女ぶりに、周囲の客はどこの令嬢かと噂し合っている。 三回戦が始まってすぐ、十歳ぐらいの女の子がとことこと「風靡」の方へ向かっているのに、エヴァは気づいた。 何だ子供か、とエヴァは思った。そのまま会場へ視線を戻し、硬直した。 子供らしからぬ目。虚ろで、意思の欠片もない、その瞳。 咄嗟にアクセルギアとロケットシューズを全開にした。周囲の人間の飲み物や弁当が、煽られて地面にぶちまけられたが、そんなことは気にしていられない。 「おまえ!!」 エヴァは少女の体を後ろから抱え上げた。少女はぼんやりと振り返る。「なあに?」とでも言いたげな、いや、そう見えるのはエヴァの希望なのか、ぼんやりとした顔つきだ。 「風靡」を狙うバカが現れたら、スクイズマフラーで文字通り締め上げてやるつもりだった。だが、子供を相手にそんなことはできない。 「くそ……!!」 ギリ、とエヴァは歯噛みした。 * * * ○第三試合 イリス・クェイン 対 エリス・クロフォード プラチナムが何度声をかけても、イリスとエリスは睨み合ったまま動かなかった。観客席からは、「息してるのか?」「何やってんだ!」と声が上がる。 動きたくても、動けなかった。相手の隙はおろか、先に動いた方が負ける、と二人は分かっていた。 二十分も経過した頃、ようやく、エリスが木剣を僅かに傾けた。 だが、エリスが剣を持ち変えるより速く、イリスは彼女の膝を強かに打っていた。エリスの足から全身に衝撃が走る。その一発で、骨が折れたらしく、エリスはその場に倒れ込んだ。 「私の勝ちですね。危ないところでした」 「やはり、先に動いた方が負けだったわね。まだ修行が足りないかぁ……」 エリスは肩を竦め、イリスに手を借りて退場した。最後は二人を客の拍手が見送った。 ○第四試合 エメリヤン・ロッソー 対 シャーロット・フリーフィールド シャーロットがエメリヤンの周囲を走りながら、引き金を引く。走りながらの射撃は難しいものだ。エメリヤンは弾が当たることはなかったが、その輪が徐々に小さくなっているのに気付いた。 背後から、シャーロットが飛び掛かる。 「これで決めます!」 銃口がエメリヤンの額に向けられ、短刀が彼の首筋を襲う。 だが大山羊に変身したエメリヤンは、ショルダータックルでシャーロットを弾き返し、更に【奈落の鉄鎖】を発動した。 だが、シャーロットも既に引き金を引いていた。 眉間に弾を受けたエメリヤンはぐらりと揺れ、その場に音を立てて倒れた。 プラチナムが確認、相打ちを宣言し、二人共に次の試合へ進出となった。 ○第五試合 猪川 庵 対 カレン・ヴォルテール 三度目の試合なので、さすがにカレンも少し慣れた。 「うおおぉぉぉぉ〜〜〜!!!」 というより、半ば――いや、かなり自棄になって、庵へ殴りかかる。 庵はびっくりして、引き金を引いた。カレンの足に当たった。 二発目は避けられた。 「うおりゃああああ!!!」 カレンが【絶対領域】を発動したが、その前に三発目が当たった。 負けを宣言され、カレンはあははと笑った。 「お、終わった、終わった……よかった、そうか、終わったか〜」 何だかわけの分からない内に勝ってしまって、庵は首を傾げた。 ○第六試合 カタル、不戦勝。 三度目ともなると、観客席からもブーイングが上がる。特にカタルのことを知らない者からは、散々の言われようだ。 だが、ハイナは動じない。 もしかしたら、「風靡」をカタルに渡すつもりなのかもしれない、とエクス・シュペルティアは思った。 |
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