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ナラカの黒き太陽 第二回 委ねられた選択

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ナラカの黒き太陽 第二回 委ねられた選択

リアクション

 タングートでも、異変はおさまりつつあった。
 カルマとレモの目覚めをきっかけに、ニヤンもまた攻撃を止め、ナラカへと退却していった。目的が果たせなかった以上、これ以上ここにいても意味はないからだ。
「もー、悔しいったらありゃしないわ!! ラー・シャイのほうも間に合わなかったみたいだし!」
 地団駄を踏むニヤンに、「そうね。このままでは、終わらせませんわよ」とナダも同意する。
「……ナダ。なんか珍しくキれてない?」
「そうかしら。たしかに、正直……それなりの因縁ができましたわね」
 ナダはそう答え、酷薄な笑みを浮かべた。



 そして、タングートでの戦は幕を下ろした。
 都は半壊し、今後は復興に時間を費やすことだろう。
「皆、よく戦ってくれた。犠牲はあったものの、我らは穢れた者どもを駆逐し、勝利したのじゃ。今はその美酒に酔いしれ、そして明日より、再び手を取り、以前よりさらに美しい都を作り上げてまいろうぞ。今宵は無礼講じゃ」
 共工の言葉に、人々が歓声をあげる。
 無礼講の言葉通り、再び巡った夜は、飲めや歌えやの宴会となった。
「……まぁ、前よりあんたたちのこと、認めてあげてもいいわ」
 窮奇がそうつっけんどんに言いつつも、ともに戦った早川 呼雪(はやかわ・こゆき)の盃に白酒を注ぐ。
 窮奇だけでなく、共に戦った悪魔たちは、ややその態度を軟化しつつもあるようだ。
 そんな、宴会の中。
「……ソウルアベレイターのところに?」
 花魄は、スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)が掴んできた情報に息をのんだ。
 正気にもどった生徒たちを介抱し、話をきくと、数名の生徒がぼんやりとした記憶のなかに、ニヤンが白黒の獣のような者を使役していたと覚えていたのだ。
「確証はないですけど。料理みたいなものを作っていたっていう話もあって」
 裏声でスレヴィは語る。
 ソウルアベレイターは基本的に食事を必要としないが、ニヤンは単なる趣味で、美食ごっこをするのがどうやら好きらしい。
「店長が……そんな……」
 震えながら、花魄は肩を落とした。無事だったのは喜ばしいが、それ以上に悪いかもしれない。
「花魄!」
 だが、そんな彼女に、料理人仲間が声をかける。今回の件で、紅華飯店は再びその名をあげていたし、花魄もまた、一目置かれる存在になりつつあるようだ。
「あ、……スレヴィさん、ありがとうございました」
 店長の行方を気にかけ続けてくれたことを感謝して、花魄は戻っていく。その後ろ姿を、スレヴィは見送ったのだった。

 その頃、レモは珊瑚城の露台にいた。
 共工と乾杯の後、薔薇の学舎の面々と無事を喜び合ってから、一人ここに抜け出してきたのだ。
 いや、一人ではなかった。そこには、先客がいたからだ。
「……そろそろ顔を出しなよ、カール」
「できるかよ」
 カールハインツは、責任を重く感じていた。どう言いつくろうと、レモの前におめおめと顔を出せる立場でもない。
 隣に並んだレモは、暫しなにごとか考えている様子だ。
「なんだよ」
「いや、大きくなったけど、カールの背は越せなかったなって」
「……もうオレより大きいぜ、お前は」
 カールハインツは、そうため息をつく。
「悪かった。……約束、守れなかった」
 そう前置きをして、カールハインツはようやく己の過去をレモに話し始めた。先に唯識とかつみには話したことだ。
 かつて地球で、義賊として泥棒を繰り返していたこと。しかし結果として、その報復として、愛する恋人を殺されてしまったこと。
 カールハインツへ囁いた闇の声は、こう言っていた。
『彼女を取り戻してあげる』と。
「……死を司る世界の奴らなら、できるのかもしれないって、一瞬思った。それで、隙を与えたんだ」
 その裏には、皆が思うように、焦燥もあったのかもしれない。レモが独り立ちし、自分の手を離れていく不安。置いて行かれる、弱い自分への苛立ち。
「でも今は、もう正気なんでしょ?」
「一応な」
 唯識たちにあれだけ面倒をかけさせて、寝ぼけたことはさすがに言えない。
「後悔してる時間なんかないよ。まだ、なにも終わっちゃいないんだから……」
 レモの瞳は、遙か遠くを見据えている。
 ウゲンとの記憶を取り戻し、カルマを目覚めさせたレモには、次に自分がやらなくてはならないことが、すでにはっきりと見えているようだ。
「レモ……」
「そばにいてよ」
 出し抜けに、遠くを見たまま、レモは小さく言った。
「……怖いんだよ? 僕だって」
「…………わかった」
 お互いに視線はあわさないまま、カールハインツは、レモの手を握る。かつては手のひらで包み込めるようなサイズだったそれは、今はもう、ほとんど大きさが変わらない。その内側に潜む力も、カールハインツでは到底敵わないものだろう。けれども。
 守るのではなく、支えることなら、できるだろうから。
「好きに使えよ、オレのこと」
 それが、カールハインツなりの、贖罪だ。
「そうさせてもらう」
 レモはそれを受け止め、微かに、笑った。


 まだ宴は続いているようだ。
 だがそれが、ひとときの安らぎであることは、誰もが理解していた。



担当マスターより

▼担当マスター

篠原 まこと

▼マスターコメント

●ご参加いただき、ありがとうございました。
またしてもリアクションをお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。

●レモとカルマは目覚めることに成功しました。
また、カルマはただ起動しただけでなく、今後は人間型の分身を持ち、研究所から出ることもできます。ただしあくまで本体は水晶柱であり、いわば子機のようなものです。
タングートの都は、リアクションにもありましたように、半壊しました。復旧には、それなりの時間がかかることと思われます(ただ、半分くらい共工自身が壊したような)。
NPCの変化および追加NCPに関しては、マスターページを後日更新いたします。

●ひとつのターニングポイントをこえて、次回は最終回です。長く続いてきたタシガンのエネルギー装置および、レモの物語も、ここで一つの区切りになるかと思います。第三回のシナリオガイドは、7月19日(金)の公開予定です。なにとぞ、よろしくお願いいたします。