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リアクション
三週間が経過している。
虚無霊や屍龍の襲撃は続き、更に、ナラカが近づいてきたことで、敵が増えた。奈落人だ。
「奴等には接触しないようにしないといけない。触れると乗っ取ってくる」
かつての、教導団主導のナラカ降下作戦の時を思い出し、旭が、周囲にそう注意を促す。
パラミタでは、誰かに寄生していないと存在できない奈落人だが、此処は彼等の本来の世界だ。
本来の姿で存在し、そして、異物である生きた存在に、憎悪や執着のようなものを以って襲撃して来る者も多い。
人間とは、別の感覚を持ってしまった者も多かった。
がくん、と艦が大きく揺れた。
「何だ?」
艦内を見回っていた唯斗が周囲を見渡す。
次いで、がくがくと揺さぶられるように揺れ出した。唯斗は壁に身体を寄せて転倒を防ぐ。
「何があったのです!?」
仮眠していた真司とヴェルリアが艦橋に駆け込んだ。
「解りません、操縦桿が動かないんです。何かに引き寄せられているようで」
舵を取るの必死なアルマの代わりにヴェルリアはレーダーに飛びつき、真司と旭は肉眼で艦外を見る。
「何か大きな反応があります。八時の方向、角度35、距離十キロ」
「下か!」
やがて確認できたそれは、虚無霊ではなく、島だった。
近づくにつれ、どんどん引き寄せる力が強くなり、アルマは、バランスを維持するので精一杯だ。
「でかい……! どうして、こんな所に島が?」
「オーストラリア大陸とほぼ同じ大きさです」
レーダーから目を離さないまま、ヴェルリアが島の規模を測る。
「スキャンできるか?」
真司は、ディメンションサイトで観察してみる。
「あれもナラカの化け物なのか?」
「いや、あれ自体は、ただの巨大な岩の塊だ」
旭の言葉に、真司が言うと、ヴェルリアがそれに続ける。
「恐らくあの中に、この艦を引き寄せる何かが巣食っているのだと思われます」
「駄目です、回避できません!」
アルマが叫んだ。
格納庫の小さな窓から、トゥレンとカサンドロスも、その島を見ていた。
「沈んだ世界、かな」
「恐らくな」
「パラミタもあんなんなっちゃうのかね」
世界の、残骸。滅亡してナラカに沈み、端から少しずつ崩れて行きながら、幽霊のように彷徨っている。
ナラカに飲み込まれたその世界に、僅かに残っていただろう生命力を奪い糧とし、今も中に巣食っているものの存在にも、二人は気付いていた。
「連中には、荷が重かろう」
トゥレンは黙って肩を竦め、壁に預けていた背中を浮かす。だが、カサンドロスがそれを止めた。
「お前は残れ」
トゥレンはぽかんと彼を見る。
「何言ってんの」
「二人出る必要は無い」
「だから俺が行くんでしょうが」
「お前は、イルダーナ様に生還を命じられているだろう」
「そうだけど。あんたの命令が優先だ。俺に行けと言えよ」
言い争うような声に、ゴスホークの整備に追われる桂輔とアレーティアが、何事かと顔を向けた。
「あそこは、何をもめておるのじゃ?」
「何だか、様子がおかしくないか」
突然、艦内放送が響いた。
『不時着します! 皆さん、衝撃に備えて!』
強い衝撃に、体が揺れる。壁際の手すりに掴まって、何とか転倒を逃れた桂輔は、すぐに体勢を起こして、艦橋に連絡を入れた。
「大丈夫か!? 被害は!」
「左舷外装にえぐれ、及び本体部への接続部分に歪み、損傷16パーセントです」
「すぐ応急処置に向かう」
通信を切った桂輔に、アレーティアが表情を曇らせる。
「まずいぞ、外側からの修理が必要な状況なら、我々ではどうにもできん」
二人は、ナラカの瘴気への対応が無く、艦外へ出ることは出来ない。
「とにかく見てくる。応援が必要だったら連絡する」
言いながら、桂輔は工具箱を抱えて飛び出して行く。
『アレーティア、ゴスホークは出せるか』
「うむ、何とかいけるじゃろう」
そこに真司から通信が入り、アレーティアは応答した。
ちっ、と外へ視線を走らせながら、トゥレンは舌打ちした。
「副団長!」
「相変わらず、お前の優先順位はおかしいな。
私はもう、副団長でも、龍騎士でもない」
「関係あるか、そんなこと。
俺に命令できるのはあんた達だけだと、龍騎士になった時にそう決めた」
彼等が所属していた、エリュシオン第七龍騎士団は、イコン専用部隊となった時に解体された。
かつての第七龍騎士団はもう存在せず、彼も、自分も、二度と龍騎士に戻ることはないと知っている。
今や、シャンバラ人ばかりか、異世界人である地球人すら受け入れて、エリュシオンの龍騎士団は、神々の騎士団ですらなくなっていた。
エリュシオンも、シャンバラに影響され、変わって行くのだろう。
トゥレンは、シャンバラや契約者達に、善意も悪意も持っていないが、同じように、カサンドロスのようにはエリュシオン国家を尊信してはいなかった。
皇帝のことも崇敬してはいない。けれど、団長セリヌンティウスと副団長カサンドロスにだけは従うと、そう、自分に誓ったのだ。
龍騎士になったあの時に。
「ならば命じよう。
トゥレン、今後はイルダーナ様の命令を最優先としろ」
「副団長!」
「ジャバウォック。暫くの間こいつを踏みつけていろ」
カサンドロスは顔を上げ、トゥレンの龍にそう言った。
じっと二人を見下ろしていたトゥレンの龍は、前足を上げ、その下にトゥレンを押さえこむ。
「てめっ、何言うこと聞いてんだっ」
「誰も外へ出るなと伝えよ。修理を済ませておくがいい」
様子を見ているアレーティアに向けてそう言うと、びくとも動けないトゥレンに背を向けて、カサンドロスは艦を出て行き、そして戻って来なかった。
応急修理は、ギリギリで間に合った。
固まっていた操縦桿が動くようになり、代わりに、ピシピシと、何かがひび割れるような音が響く。
音の大きさが、規模の大きさを物語っていた。
「巻き込まれるぞ、急げ!」
「全速離脱します!」
ウィスタリアが島を離れると同時に、まるで爆音のような轟音と共に、島が砕け始める。
島の崩壊に、何とか巻き込まれず脱出して、安堵したのも束の間、ドシン、と船体が揺れた。
「今度は何だ?」
「艦上に何かが降りたようです」
「虚無霊です。複数の屍龍も確認、騎乗している者有り。奈落人と思われます」
休む暇もない。
「ゴスホークで出る。ヴェルリア!」
「はい!」
真司達が艦橋を飛び出した。
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