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リアクション
「此処まで逃げれば、ハルカは大丈夫ですわね。
元々、連中の狙いは、ハルカではなくて財布ですし……」
ハルカを連れてあの場を離脱したエリシアは、ツインバイクを停めて、背後を振り返った。
残った連中は、上手くやっただろうか。
「――自爆シマス。
タダチニ100めーとる以上遠クヘ避難シテクダサイ」
刀真やルカルカ達から駄目押しの連続攻撃をくらい、ズシン……、と、地に沈んだメガ・デスストーカーが、不穏な音声を発した。
敗北時の自動プログラム、【ハルマゲドン】が作動したのだ。
「ちょっと待って、ここ学校……!」
人が逃げても、校舎が。
咄嗟、コハクが翼を広げて、メガ・デスストーカーをイルミンスールの外、広い場所へ連れ出そうとする。
ざっ、と上空からスレイプニルが舞い降りて、乗っていた十文字宵一が、がしりとメガ・デスストーカーの腕を掴んだ。
「任せろ!」
ヴァルキリーの翼よりは自分の方が早い。
「10、9……」
とカウントダウンを始めているメガ・デスストーカーを連れて飛び去った。
「あら?」
エリシアは上空を見上げた。
その声に、解決の連絡を待って携帯を持っていたハルカも顔を上げる。
「何かが近づいて来ますわ」
「あの馬は、リーダーなのでふ?」
ハルカの腕の中で、リイムが言った。
五十メートル程先で、スレイプニルが何かを地上に落とす。
宵一は、この辺ならいいだろうと、残り三秒でメガ・デスストーカーを捨てたその直後に、五十メートル先にハルカ達がいることに気付いた。
「伏せろ!」
慌てて叫ぶのと同時、メガ・デスストーカーは自爆した。
爆風が過ぎて、エリシアはバイクの影から身を起こした。
「……ちょっとびっくりしましたわ。ハルカ、大丈夫?」
「大丈夫なのです」
「だいじょうぶでふ」
「すまん、大丈夫か!」
宵一が降りて来た。
エリシアは、リイムが作ったハルカの杖で、宵一の頭を、ぽこ、と殴る。殺傷力は、無論無い。
「驚かさないでくださいな」
「リイムさん、ちょっと汚れちゃったのです」
ハルカが、イルカのアクセントのついたピンクのポシェットからハンカチを取り出し、もふもふの毛並みの埃を払う。
「ハルカさん、何か落ちたのでふ」
ハンカチを取り出した際に、一緒に何かが零れ落ちたのを見て、リイムが言い、ハルカは拾い上げて首を傾げた。
「ハルカのじゃないのです」
「見せてくださいませ」
エリシアと宵一が、それを受け取って、眉をひそめる。
盗聴器だった。
財布奪取の目的は果たした。
高らかに勝どきを上げつつ鮮やかに去りたいところだったが、メガ・デスストーカーが破れ、真深も捕らわれた状態だ。
「ククク、肉を切らせて骨を絶つ!」
ドクター・ハデスは、既に半ば逃走体勢に入りながら、びし! とルカルカ達を指差した。
「だが! 秘密結社オリュンポスは、仲間を見捨てて逃亡したりなどしない!
我が最強のオリュンポス特戦隊よ! 特! 攻!」
「言ってることとやってることが違う!」
ハデスの特戦隊の者達は、ルカルカ達に猛攻をかけて体当たりし、どさくさに紛れて内の一人が真深を引っ張り出して担いで行く。
まるで大海嘯のような勢いだった。恐らく慣れているのだろう。
「……財布。取り戻さなくちゃ!」
コハクが、はた、と我に返った。
すると、ルカルカがにっこり笑う。
「大丈夫。こんなこともあろうかと、あの財布には、発信機を仕込んでおいたの」
ザンスカールよりも森の奥、人の気配の無いところまで逃げて、ハデスの部下は、抱えていた真深を下ろした。
「…………助けてくれてありがとう」
見捨てられるかと思ったわ、と、真深はハデスに礼を言う。
それくらいの覚悟ではいた。目的は達せても、自分は捕まるかもしれないと。
「真深。逃げられたのね、よかった」
そこに、黒衣の少女が現れた。
「カラス」
「うん? 仲間か?」
ぱちくりと瞬いたハデスに、カラスと呼ばれた少女は財布を投げる。
「あげるわ。用は済んだから」
「おお!」
ミスリルの財布を手に、無邪気に喜んでから、そういえば、とハデスは思い出した。
ヨシュアを誘拐した時、真深は“私達”と言ったのだ。
私達には、私達の都合がある、と。
真深は、単独で動いていたのではなかった。
「……ちなみに訊くが、そっちの都合と何だったのだ?」
真深らは、何故この財布を欲したのだろう。もう用は済んだと言ったが。
真深達は顔を見合わせる。
「まあ、ここまで関わったのだものね」
カラスが笑った。
「サイコメトリしたのよ」
「サイコメトリ」
「この財布の持ち主は、シャンバラ古王国の宮廷魔導師。
でも、ただの財布に、五千年分の記録が全部蓄積されるわけないわ。人間の脳だって、忘れるでしょ。
でも、それの素材はミスリルよ。魔法銀なら、五千年前の記録も抱えておける。
ただ、欲しい記録を探し出して見るのは、大変な熟練が必要だけれど」
「ふむ。
つまり古王国時代の情報で、欲しいものがあったわけか。で、得られたのだな」
「忌々しい話よね。シャンバラが滅びさえしなければ……」
カラスは笑う。
「コーラルネットワークに介入できる場所があるはずなの。そこに行く方法が知りたかったのよ。
でも、シャンバラが滅亡した時に無くなってしまったようだわ」
「コーラルネットワーク?」
「それじゃ、どうするの」
真深が訊ねる。
大丈夫よ、とカラスは頷いた。
「エリュシオンの、霊峰オリュンポスに行くわ。あそこからも行けるらしいの」
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