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リアクション
アーデルハイト・ワルプルギスから話を聞いて校長室を出、イルミンスールを後にしようとしていた清泉北都とアキラ・セイルーンは、テラスのようになった一角の休憩スペースで、ハルカ達の姿を見かけた。
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とハルカが、カードゲームに興じている。
可愛らしい杖を机の横に立てかけたハルカは、リイムを膝に抱っこして、二人の勝負を、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)と御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナー、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が興味深そうに眺めている。
豹のしっぽをつけたルカルカが、ダリルと共にその護衛をし、隣のテーブルには、刀真とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、ゲームの様子を眺めつつ、ハルカを狙っている者についての相談を交わしているのだった。
ずっと警戒ばかりでは疲れてしまうだろうと、襲撃者に備えつつも、気分転換にと美羽はハルカをカードゲームに誘った。
「この前ショップで買った中にね、超レアカードが入ってたんだ!
でも、私のデッキには入れないから、ハルカにあげる。
このカードを入れたデッキで、私とデュエルしようよ!」
「まあ、素晴らしいですわね」
と、いつの間にかこの場に現れていたエリシアが、ハルカが受け取ったカードをじっと見ている。
「別にわたくしは、こんなカードがなくても負けたりしませんけど。
そちら、第一回大会の優勝者の方ですわね。
わたくしも相手をして差し上げたいですが、生憎、今回はデッキを持参しておりませんでしたわ」
「そうなの? 残念! じゃあ今度対戦しようよ」
あのカード大会で、不本意な一回戦負けを喫してしまったエリシアとしては、是非とも優勝者と対戦してみたかった。
デッキを持って来ていなかったことを悔やむ。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!」
満を持して、高らかな叫び声が響き渡った。
「来ましたわね!
というか、学校にいる時に来るとはやってくれますわね!」
負けじとエリシアが叫び返す。
意外性を狙ってくるのではと思ったから、学校内でも護衛を固めていたわけだが、流石はドクター・ハデス(どくたー・はです)、きっちりと押さえて来る。
「どうやら、前回ヨシュアとやらを狙ったのは無駄ではなかったようだな!
おかげで、ハルカとやらがミスリルの財布を持っていることが判明した! 我々には、全て筒抜けだ!」
「ハルカ、此処は俺達に任せてハルカは逃げろ」
今回も彼等が共犯であるのなら、ハデスは囮で、何処かに朝永真深が潜んでいるはずである。
刀真は、ハデスの口上を右から左に流しながら、密かにハルカを逃がそうとする。
「こちらですわ」
エリシアがハルカの手を引いた。
「ククク、ミスリルの財布ならば、きっと中に入っている金額も多いに違いない!」
確信するハデスに、
「え……財布自体の価値と中身は関係がないと思いますが」
ベアトリーチェが、うっかりマジ突っ込みをしてしまう。勿論ハデスは聞いていない。
「む、いや待てよ。
もしかすると、ミスリルの財布の中には、ブラックカードをも超える価値を持つ、ミスリルカードが入っておるやもしれぬ!」
「それ一体何処のカード会社のカードよっ!」
そんなクレジットカード、存在するわけがない。
美羽が思わず叫んでしまう。勿論ハデスは聞いていない。
「というわけで、今度こそ我等秘密結社オリュンポスの活動資金を得る為に、ハルカからミスリルの財布を奪うのだっ!
行け、我が部下及び戦闘員達、よ!?」
そこまで言って、ハデスはようやく気付く。
警備が手薄になる時を狙ったはずなのに、ハルカの周囲に護衛が固まっていることに。
「ええい、これしきのことで我々は怯まぬ! 行け!」
「了解しました、ハデス師匠。
これより、ハルカという少女を捕らえ、ミスリルの財布を奪取します」
サソリ怪人 デスストーカー(かいじん・ですすとーかー)が自らの戦闘員達にも、ハルカ誘拐の指示を出す。
「ハルカ、財布をこっちに!」
逃げ出すハルカにコハクが叫んで、ハルカは、持っていた財布をコハクに投げる。
ルカルカが用意した偽物だ。
「あれかっ!」
ハデスはギラリと笑った。ハデスの戦闘員達が、大挙して財布をめがけて群がる。
「数で勝負ってこと? 無駄だよ!」
先手必勝。
美羽はバーストダッシュで戦闘員達に向かった。
ベアトリーチェがすかさず『奈落の鉄鎖』で戦闘員達を押さえつける。
美羽は動きを封じられた戦闘員達に飛び蹴りを食らわした。
刀真やルカルカ達も、それぞれ戦闘員達を蹴散らして行く。
「ククク、今のはほんの小手調べ。
前回は戦力となる部下を連れて行かなかったのが敗因だったが、今回はそうはいかんぞ!
さあ、行くのだ! 最強の怪人、デス・ストーカーよ! 機晶解放!」
ユニオンリングによって、怪人デスストーカーと、ハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)が合体する。
半身が機械になり、背中からロボットアームや重火器を生やしたようなデスストーカーに、ハデスはプロフィラセクセスで再生力を強化した。
「おお、さすがはハデス師匠! 体から力が漲るようです!」
パワーアップしたメガ・デスストーカーは、コハクの持つ財布を視認する。
「僕が相手だ!」
コハクは、校舎の乗っていない、上空の枝へ飛んで攻撃を避けた。
周囲を巻き添えにしない場所へ、彼等を誘う意図もあったのだが、
「無駄だっ!」
メガ・デスストーカーは、空捕えのツタを使ってコハクを引きずり戻した。
「うわっ」
体が痺れて、コハクはツタを引きちぎりながらも半ば落下するように降りる。
降りた瞬間、全員の体に、雷撃の衝撃が走った。
「きゃ……!」
不意打ちの攻撃に動きが止まる。
「コハクさん……!」
ベアトリーチェが叫んだ。
コハクの背後から伸ばされた手が、財布を奪う。
「――真深……!」
イルミンスールに到着した綾原さゆみが、遠くから、彼女の姿を見つけて叫んだ。
真深は、財布を奪い、テラスから飛び降りて逃げようとする。
「……させないっ!」
美羽やルカルカが、真深を逃がさず、押さえ込む。
「ルカ、後ろだ!」
その時、ダリルが叫んだ。
「えっ」
ルカルカのしっポーチが、小物入れ部分ごと引き剥がされる。
全身黒髪、黒衣、黒い瞳。
全身黒ずくめの少女は、目が合ったルカルカに微笑むと、鳥のようにイルミンスールの枝に紛れ、消える。
あっという間の出来事だった。
「……もう一人いたの!?」
ルカルカは呆然とする。
ハデス達が囮なのは解っていたが、真深もまた、囮だったのだ。
「真深! あなた、どうしてこんなこと……!」
「どうして?」
走り寄ったさゆみに、押さえつけられたまま、真深は、くす、と笑う。
「先輩は、知ってるはずよ、私のこと」
「え?」
「興味があったのよ。すごくすごく、興味があったの」
何に?
と、訊ねる間はなかった。
突然、見えない攻撃を喰らった。
メガ・デスストーカーの、シュレーディンガー・パーティクルによる不可視の攻撃だ。
彼等を怯ませた隙に、メガ・デスストーカーは、真深を奪おうと突撃する。
「させるかーっ!」
だが、美羽がその正面に回りこみ、至近距離からのバーストダッシュで渾身の蹴りをぶち込んだ。
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