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【四州島記 完結編 三】妄執の果て

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【四州島記 完結編 三】妄執の果て

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第三章  魔神VSイコン

「こちらリンゼイ。魔神が、活動を開始しました。現在、北に向かって毎時20キロで移動中」

 リンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)が、仲間達に無線で連絡する。
 リンゼイは、【聖邪龍ケイオスブレードドラゴン】の背中から、上空から魔神の動きを監視していたのだ。

『もう動き始めたのか!?唯斗に細切れにされてから、まだ2日しか経ってないってのに!』

 無線の向こうのセルマ・アリス(せるま・ありす)が驚きの声を上げる。

『前回、封印が溶けてから動き出すまで何日もかかっていた事を考えると、かなり再生力が上がっていると考えられますね』

 これは、{ICN0004979#乙琴音ライダー}に乗る御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の声だ。

「あれだけ苦労したのに、稼げたのはたったの2日なの?」
「困りましたね……。今回は、唯斗もハデスもいないというのに……」

 乙琴音ライダーは、陽太と、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)の3人で運用している。
 いつもは、舞花を叱咤激励するのが仕事のエリシアも、今回ばかりは弱音が口をついて出てしまう。
 前回の魔神戦で大活躍をした紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、由比景継を倒すために東野に戻った。
 そしてドクター・ハデス(どくたー・はです)も、イコンの修理が間に合わないと言って、機動城塞オリュンポス・パレスに篭ったままだ。


「ハーティオンはまだ出れないんですか!?」
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が出撃出来るようになるには、まだ数時間かかるわ!お願い、みんな!あと少しだけ、時間を稼いで!!』

 舞花の問いに対して、高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が、悲鳴のような応えを返した。

『まぁまぁ皆様。時間稼ぎ位なら、私達の戦力だけでも十分。博士の策を信じて、あまり気負わずに、気楽に行きましょう』

 サタナエルを駆る中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は、あくまでマイペースだ。


『こちらエヴァルト!これより、陽動を開始する!みんな、しっかり足止め頼むぞ。本当にエサになるのはゴメンだからな』
 
 水竜ラグーに乗るセルマ、乙琴音ロボ、サタナエルの3体に、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)翔龍から連絡が入る。

 翔龍にはエヴァルトの他に、白姫岳の精 白姫(しろひめだけのせい・しろひめ)が乗っている。この白姫は、二子島(ふたごじま)にある活火山、白姫岳(しらひめだけ)の地祇(の分霊)であり、白姫岳から火山の力を引き出す事が出来る。
 その白姫をエサに、魔神を人口密集地から遠ざけようというのである。


「ほれほれ、同族がここにおるぞー!分霊じゃが、それでも悪者などには負けぬのじゃ!」

 翔龍に積まれた【ソニックブラスター】を拡声器代わりに、魔神に挑発の言葉を浴びせる白姫。
 まっすぐ北に向かっていた魔神の足が、止まった。
 頭を白姫の方に巡らすと、ゆっくりとこちらに向かって来る。

「やったやった、成功じゃ!見ろ、エヴァルト!これがわらわの実力じゃ!

「わかったから、ソニックブラスター使って自慢すんの止めろ!!」 

 挑発といっても本人の語彙が少ないから、聞いているこっちが恥ずかしくなる程拙いものだし、そもそも言葉が通じているのかどうかすら怪しいのだが、魔神は確実に白姫の方へと向かって来る。

(さて、上手く行ったのはいいが……。これで喰われちゃ元も子も無いからな――)

 エヴァルトは、白姫の持つ真の力の一端を、目の当たりにした事がある。
 もしあの力を魔神が手に入れたとしたら、それこそ再生力倍増では済まないだろう。
 エヴァルトは、徐々に速度を増してくる魔神に全神経を集中して、慎重に付かず離れずの距離を保ち続ける。

「魔神、毎時40キロに加速――速度、なおも上昇中」
「よしみんな、攻撃開始だ!行くぞ、ラグー!」

 リンゼイの報告を受け、一斉に攻撃に移るセルマ達。
 ラグーは未だ蒸発していない沼の中から、乙琴音ライダーとサタナエルは上空から、魔神の足元に集中して氷結攻撃を浴びせる。
 魔神の赤く溶けた溶岩が冷え固まって黒い火成岩と化し、さらにその表面が氷で覆われていく。
 しかし、それもほんの数分の事。
 魔神の体内から次々と湧き出してくる溶岩が、たちまち氷を蒸発させ、元通り歩き出してしまう。
 
「こいつ、やっぱり前より強くなってる!」
「前は、もっと効果があったのに……」

 ある程度予想していたとはいえ、氷結攻撃の効果が薄くなっているという事実は、セルマと舞花に、少なからぬショックを与えた。

「恐らく、地中の火山から得られる力が増しているんだと思います。やはり、元から立たないと――」

 《エセンシャルリーディング》の能力を持つ陽太が、問題の本質を鋭く指摘する。

「そのためにも、とにかく足止めですわ!」
「『エネルギーの続く限り、凍らせるのみ!』ですわね」

 一方、エリシアと綾瀬は淡々としたものだ。

「魔神、毎時30キロに減速。なおも翔龍目指して前進を続けています」

 リンゼイの報告は、彼等の作戦が順調に推移している事を伝えている。

『ほーれほれ、どうしたどうした!わらわはこっちじゃ!この鈍亀――じゃなかった、鈍龍め!!』
「おい、もうそこら辺にしとけ白姫!折角上手く行ってるのに、余計に煽ったりしたら――」

 調子に乗って挑発に拍車を駆ける白姫を、たしなめるエヴァルト。
 だがそれは、遅きに失したようだ。

 それまで、翔龍目指してひたすら前進を続けていた魔神の歩みが、突然止まった。そして――
 
 バサッ。

 今まで、一度も広げられた事の無い魔神の翼が、広がったのである。
 ゆうに、体長の3倍はあるだろうか。
 端から、ポタポタと溶岩を滴らせた巨大な翼が、二度、三度と大きく翻る。

「こいつ――飛ぶ気か!?」

 セルマが言う間もあらばこそ――。
 魔神が、一瞬で宙に浮き上がる。その巨体からは、想像も出来ない素早さだ。
 魔神は一気に急上昇すると、今度は急降下した。
 狙いは、当然翔龍である。

「と、飛んでる!?」
「驚いてる暇はありません、舞花!エリシア、翼に攻撃を集中して!」
「了解ですわ」

 陽太の指示に従い、翼に《冷凍ビーム》を浴びせるエリシア。

「なら、私はこっちを」

 反対側の翼を狙う綾瀬。
 魔神はその全てを、身体を翻してかわしつつ、なおも翔龍に狙い続ける。

「白姫、しっかり掴まってろ!!」
「な、なにを――ウワーーッ!!」

 間一髪、魔神の突進を、機体を横滑りさせて躱すエヴァルト。
 急激なGに、白姫の身体が機体に押し付けられる。

「これエヴァルト!もう少し優しく――」
「舌噛むぞ、黙ってろ!!」

 地上すれすれを滑空し、羽ばたきながら上昇に移る魔神。
 その魔神から逃れるように、機体を旋回させながら急上昇する翔龍。

 そうして幾度か魔神とドッグファイトを繰り返す内、エヴァルトは、地上に広がる景色が、溶岩から湖沼に変わっている事に気づいた。

(魔神のヤツ、こっちを追いかけるのに夢中で、溶岩から離れてる事に気づいてない!?)
 
 魔神のエネルギー源は、溶岩地帯の下にある火山である。
 何度魔神を倒してもすぐに復活してしまうのは、火山から常にエネルギーを得ているからだ。

(魔神が火山から離れた今なら――)

 エヴァルトは、思い切って機体を急降下させると水面スレスレで機首を引き上げた。
 水しぶきを上げながら、翔龍が水面を走る。
 その後を追い、水面まで降りてくる魔神。
 魔神のその動きを確認したエヴァルトは、今度はフルスロットルで急上昇した。

「あわわわわ!!」

 機体の急激な動きに翻弄される白姫。
 意識を失わないだけ立派だと言える。

 あくまで翔龍の後を追い、上昇しようとする魔神。
 だが、そこに落とし穴があった。エンジンと固定翼から推力と揚力を得る航空機と違い、魔神は、推力と揚力を得るために、翼で何度も羽ばたかねばならない。
 そしてその間魔神は、まっすぐ飛ぶことしか出来なくなる。
 それが、エヴァルトの狙いだった。

「今だ、みんな!」

 エヴァルトの言葉にあわせて、乙琴音ライダーとサタナエルが一斉に冷凍ビームを放つ。
 二筋の冷気の束が、ついに魔神の翼を捉えた。
 一瞬で凍りつく、魔神の翼。
 翼の柔軟性を失い、羽ばたく事が出来なくなった魔神は、一気に失速して、沼地に頭から突っ込んだ。
 たちまち沼の水が蒸発し、あたりに水蒸気が充満する。

「よし、今だ!ラグー!」

 ラグーは、セルマの声に応えるように一声甲高く鳴くと、立て続けに【ウォーターブレス】を浴びせた。
 急激に身体を冷やされ、苦悶の咆哮を上げる魔神。

「上手いぞ、みんな!」
「うう……気持ち悪い……」

 窮地を脱した翔龍の機内で、歓声(?)を上げるエヴァルトと白姫。

「魔神が、溶岩の海から離れた今がチャンスです!」
「お任せ下さい陽太様。今度こそ、氷漬けにしてみせますわ」
「ふふ〜ん、釣瓶撃ちですの〜」

 沼の中で足掻く魔神に、次々と冷凍ビームを浴びせる乙琴音ライダーとサタナエル。
 魔神の身体が一気に火成岩と化し、さらに氷に包まれていく。

「これなら行けます!」

 叫ぶ舞花。
 皆の脳裏に、『勝利』の二文字がよぎったその時――。

 突然の連絡が、宅美浩靖(たくみひろやす)から入った。

「大変じゃ、みんな!南濘城が、ドクター・ハデス(どくたー・はです)に占拠された!!」

 その信じがたい内容に、その場の全員が凍りつく。

「え゛!?」
「はぁ!?」
「な、ナニぃ!」
「こんな時に……。ナニを考えてるんですか、あの人は!?」
「流石はハデスさん……。なんと華麗な火事場泥棒でしょう……」

 突然の事態に、皆、ただただ驚きの声を上げる事しか出来ない。

 米軍が去り、南濘藩の艦隊も壊滅し、そして援軍のイコン達は皆、魔神との戦いに忙殺されている。
 これを絶好の好機と見たドクター・ハデスは、南濘藩征服に乗り出したのだった。