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リアクション
第四章 裏切りのハデス
ドクター・ハデス(どくたー・はです)率いる、秘密結社オリュンポスの手際は、驚く程鮮やかだった。
まずは、天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)率いる【無敵艦隊】が南濘の王城を包囲。
続いてハデスの機動城塞オリュンポス・パレスが、天守閣の直上に乗り付け、そこから、魔法少女に《変身!》した高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)に率いられた【特戦隊】が次々と垂直降下し、城に乗り込んでいく。
首尾よく城内に突入した隊員と咲耶達は、城内の武士達と戦闘になったものの、《優れた指揮官》であるハデスの《士気高揚》で限界まで戦闘力の高まった隊員達は、瞬く間に城内を制圧。近習諸共、藩主鷹城武征(たかしろ・たけまさ)を捕えたのである。
「ククク、鷹城武征よ。おとなしく降伏し、我らオリュンポスと手を組め!」
咲耶に続いて城内に乗り込んできたハデスは、いかにも悪役らしい笑みを浮かべ、高らかにそう宣言した。
「……もし断れば?」
「断れば――こうなる!十六凪!」
『畏まりました』
十六凪は、オリュンポス・パレスを旋回させると、【ビッグバンブラスト】の発射スイッチを押した。
オリュンポスから発射されたミサイルが弧を描いて飛び、大沼沢地に着弾する。
ピカッ!という閃光に遅れて、物凄い爆発が巻き起こる。
そのキノコ雲は、天守閣からもはっきりと見て取ることが出来た。
「どうだ、鷹城武征。この城諸共、城下町を丸ごと吹き飛ばす事など、我等オリュンポスにとっては造作も無い事。大人しく降伏するのが身のためだぞ」
得意の絶頂というカンジで武征に迫るハデス。
「なるほど。確かにスゴい威力だ。だが、魔神はどうする?例え南濘を手に入れても、あの魔神をどうにかしなければ、早晩ここは溶岩の海に沈む事になるぞ?」
武征は、捕えられていてなお、鷹揚とした態度を崩そうとしない。
「それなら、心配せずとも良い。魔神は直に、あのお人好し達が封印してくれる。後はこの南濘に腰を据えて、ゆっくりと魔神を支配する方法を考えれば良いのだ」
「随分と、信頼しているな」
「ついさっきまで、連中とは連絡を取り合っていたからな。ヤツらの作戦については、完璧に把握しているのだ!」
「ほほぅ。『完璧に』か……。作戦については完璧だったようだが、仲間の動向までは手が回らなかったようだな」
「ナニ?」
武征の意外な言葉に、ハデスに動揺が走る。
「は、ハデス様!アレを!?」
「何事だ――」
と言いかけながら窓の外を見たハデスの目の前を、一筋の巨大な光条が横切った。
一瞬の間を置いて、光の進路上にいた無敵艦隊が、次々と爆炎を上げ、墜落していく。
何処からとも無く現れた戦艦ラグナロクの【艦載用大型荷電粒子砲】が、火を吹いたのだ。
「全く、ラグナロクの飛行訓練で『偶然』立ち寄ってみれば、この有り様だ。相変わらず、油断も隙もない」
『偶然』の所に妙に力を込めて、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は呟いた。
仮もに教導団の一部隊を構成する『鋼鉄の獅子』の旗艦であるラグナロクを、上層部の命令も無く勝手に動かす訳にはいかないからだが、少なくともこの船に乗り合わせている面々の中に、そんな事を気にする者はいない。
「なんだダリル。魔神とガチでやりあえるって言うから期待して来たのに、ハデスが相手かよ」
カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は、不満を隠そうともしない。
「俺達以外にハデスを抑えられる戦力がいないんだから、仕方ないだろ」
「ま、見殺しにする訳にもいかねぇしょ〜」
ダリルと夏侯 淵(かこう・えん)にたしなめられたカルキノスは、仏頂面でブリッジを出て行く。
「何処へ行く、カルキ?」
「決まってんだろ。あのデカブツを、片付けに行くんだよ」
アゴでオリュンポス・パレスを示すカルキノス。
「なら俺は、南濘公の救出かな」
淵も【神弓『妙才』】を手に取ると、口笛を吹きながらカルキノスの後を追った。
「十六凪!何をしていた!あんな戦艦が出てくるなど、聞いていないぞ!」
『私の方にも、そんな報告は入っていません。入っていれば、お止めしています』
「じゃあなんでだ!!」
ケータイに向かって叫ぶハデスの声は、最早悲鳴に近い。
「恐らく、軍所属の兵器の無断使用が露見する事を怖れて、誰にも報告する事なく、秘密裏に船を動かしたんだと思います」
事実はまさしく、十六凪の読み通りだった。
怪我の功名、でもないだろうが、結果として、ダリルの独断専行が功を奏したのだった。
「なんとかしろ、十六凪!」
『なんとかしろと言われましても……。敵はあの『鋼鉄の獅子』の旗艦ラグナロク。戦力的には、このオリュンポス・パレスと同等か、それ以上でしょう。そして、あの船がここに来ていると言う事は――」
十六凪が《戦況把握》で予測した通り、オリュンポス・パレスの目の前に、身の丈50メートルはあろうかという、カルキノスが姿を現した。
【巨大化カプセル】を使ったのである。
「せーのっ……!」
カルキノスはオリュンポス・パレスに手をかけると、両の腕に、渾身の力を込めた。
腕の筋肉が小山のように盛り上がり、オリュンポス・パレスをジリジリと押していく。
「くっ……。なんという力……!」
十六凪はオリュンポス・パレスのスラスター出力を全開にして、カルキノスに抗おうとするものの、それでもパレスは少しずつ押されていく。
既にオリュンポス・パレスのエンジンは、オーバーヒート寸前だ。
「最早これまでです、ハデス様。パレスが持ちこたえている間に、速やかに城から脱出して下さい」
「何を言う!せっかくの好機を――」
「何言ってるんですか兄さん!ほら、戦闘員のみんなが持ちこたえているウチに早く!」
ハデスを守ろうと、彼の廻りには特戦隊が人壁を築いているが、城の横に【幻龍比翼】で乗り付けた夏侯淵の正確無比な弓の一撃によって、特戦隊は一人、また一人と倒れていく。
「兄さん急いで!」
「は、離せ咲耶!俺はこの南濘を――」
「離しません!!」
咲耶に襟首を捕まれ、ズルズルと引きずられるようにして連れて行かれるハデス。
「ハデス!逃すか!」
逃げようとするハデスと咲耶に狙いを定める淵。
矢をつがえた弓を引き絞り、手を離そうとしたその時。
淵の視界の端を、何かが横切った。
「おやつ食べ放題、もらった!!」
意味不明の言葉を叫びながら、鷹城武征にまっしぐらに突っ込んで行く黒い影――。
《隠形の術》・《壁抜けの術》・《殺気看破》を駆使して城内に忍び込んでいたデメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)が、【ブラインドナイブス】による【先制攻撃】を仕掛けたのだ。
デメテールは、十六凪から『おやつ食べ放題』の報酬と引き換えに、鷹城武征暗殺を命じられていたのである。
あくまで、ハデスの交渉が失敗した時のための次善の策だったのだが、結局事態は、十六凪の危惧した通りに運んでしまったのだ。
「クソッ!」
慌てて目標を変え、デメテールに矢を放つ淵。
「グウッ!」
だが、その矢がデメテールを捉えるよりも早く、武征の身体深くに【龍神刀】が突き刺さる。
「デメテールさん!一体何を!?」
十六凪の命令を知らない咲耶が、驚きの声を上げる。
「全ては、おやつ食べ放題のため――。任務たっせーい!長いは無用、しからば!!」
「逃すかっ!!」
逃げるデメテールの背に向けて、二の矢三の矢を放つ淵。
だがすんでの所で、デメテールは壁の向こうへと消えてしまう。
《超視覚》を持つ淵には、城外目指して、《疾風迅雷》の速さで次々と壁を抜けていくデメテールの姿がはっきりと見えるが、かといって矢が壁を抜けられる訳ではない。
そして淵がデメテールを狙っている間に、ハデスと咲耶もまた逃げ去ってしまっていた。
憎々しげに、壁の向こうを睨む淵。
「か、カハッ……」
「殿!?」
ドサリ、と倒れる武征。
その音で我に返った淵は、武征に駆け寄った。
幸い、傷は急所を外れていたが、出血がヒドい。
このままでは、命に関わる。
「ちょっと、どいてくれ!」
淵は【ナノ治療装置】を取り出すと、素早く武征に投与した。
これで傷が完治する訳ではないが、時間稼ぎにはなる。
「誰か、医者はいないか!」
淵は、無線機に向けて怒鳴った。
「でいりゃあーーー!!」
気合の声と共に、担ぎあげたオリュンポス・パレスを、天高く投げ上げるカルキノス。
その軌道を、ラグナロクの射撃制御コンピューターが、素早く計算する。
「軌道計算、良し!ターゲット、ロック!」
「良しっ!【ラグナロク砲】、てーーーっ!」
ダリルの指示に合わせて発射されたラグナロク砲が、オリュンポス・パレスを直撃する。
膨大な量のエネルギーにさらされ、至る所が焼け焦げ、融解していくオリュンポス・パレス。
だが、光の束が要塞を貫通し、四分五裂してしまう前に、オリュンポス・パレスは異次元へとその姿を消した。
目標を失った光条は、青い空を一直線に突き進むと、キラリと輝いて消えた。
「逃したか……」
「ふん。相変わらず、逃げ足だけは一人前だな」
オリュンポス・パレスの消えた空間を、苦々し気に見つめるダリルとカルキノス。
こうして、完璧に思われたドクター・ハデスの野望は、思わぬ伏兵の登場の前に、潰えたのだった。
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