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美少女サンタのプレゼント大作戦!

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第三章 ――配る者、求めるもの

・現在時刻:23時30分 ――ゲーム開始から四時間半経過

 この時間になって雪は強くなってきた。このまま降り続ければ、明日には積もる事だろう。
 配達をしながら生徒達に追いかけらているフレデリカは、今の状況に戸惑いを覚えていた。
「プレゼントを欲しがって来るものだと思ってたけど……」
 シャンバラの学生達に挑戦状を送りつけ、その後にパラミタの広大さを改めて目の当たりにしたことで、密かに子供達へプレゼントを配ってくれるお手伝いを探してもらったりはした。
 プレゼントを貰いに来る生徒達に対しては、あくまで「プレゼント配りを手伝ってくれたら」いいな程度にしか考えていなかった。自分の今の状況を考えれば是非とも、と言いたいところだが、自分からプレゼントを取りに来た生徒にお願いするのも図々しい気がするし、何よりもその見返りとしてプレゼントがあるとは思われたくなかった。プレゼントをだしにするのは、あくまでも最終手段だ。
 ところが、彼女の予想はいい意味で裏切られる事となった。
 現在、シャンバラ地方の至る所でサンタクロースの姿をした人がプレゼントを配っている。
 

・22時30分 ――ゲーム開始から三時間半経過

 まず、一時間前に遡る。フレデリカが手伝いを申し出た二人の生徒を送り出して間もない頃だった。
 ハーポクラテス・ベイバロンはパートナーのクハブス・ベイバロンのアドバイスのおかげで、ピンポイントでフレデリカのもとへ到達した。
 ほぼ同じタイミングで、ミレーヌ・ハーバートの一行と浅葱 翡翠もやってきていた。
「そう、おじいちゃんが……よし、あたしも手伝ってあげる!」
 事情を聞いたミレーヌが最初に口を開いた。
「ここは俺たちが手伝うっていうのはいい考えだぞ! よし、俺に任せておくんだ。女の子に重労働は似合わないしね!」
「アル、珍しく頼もしい事言うじゃねーか」
 パートナーのアルフレッドとアーサーも乗り気のようである。
「わ、私にもやらせて下さい!」
 と翡翠も手伝いを申し出る。
(どうしよう、手伝わないと……) 
 その様子を見つつ、ハーポクラテスもまた口を開く。
「えっと、その……僕……君を手伝ってもいい?」
 その様子をパートナーのクハブスは冷静に眺めていた。
「……手伝うんですか、お人よしですね」
「困ってる女性を放ってなんか……おけないよ」
 フレデリカは困惑していた。一気に六人もの人間が来たと思えば、こぞって手伝いを申し出たのである。その前にも、なぜか自分が少し困った状況にあるという事を見抜かれていた。
 彼らと話している間に新しい影がそこに現れる。ウィング・ヴォルフリート、橘 恭司、真口 悠希の三人だった。
(ん、あの真ん中の女の子が……サンタクロースか? ほんとに女だったんだな)
 恭司は探し当てた人物が女の子であったことに驚いた。
「あ、あなたがサンタさん、ですか?」
 真っ先にフレデリカに声を掛けたのは悠希だった。
「あ、うん、そうだよ」
 いきなり多くの人間が来た事で、フレデリカはどう反応していいか分からなかった。人見知りの彼女にとって、これだけの人数の前で緊張しないのは難しい。
「とりあえず今の状況は?」
 恭司が彼女に尋ねてきた。先程、説明したばかりだが、順を追って説明していく。
「ふむ、なるほど……」
 彼は頭の中で整理しているようだった。サンタ=ひげのおじいさんという図式が多くの人の中で成り立っている以上、困惑する人間がいても仕方がない。
「よし、手伝わせてもらえないだろうか? このパラミタの多くの子供達に配るのは大変な事だ」
 続いてウィングが口を開く。
「パラミタには怪鳥や盗賊みたいなのもたくさんいて危険ですからね。私も手伝いますよ。それと」
 彼はフレデリカにあるものを手渡した。
「バイト先のホットココアです。寒い中、大変でしょう?」
 まさかプレゼントを配る側が何かを貰う事になるなどと、彼女は予期出来なかった。
「ボ、ボクも手伝います。あ、サンタの衣装の方が、いいですよね」
 彼女を手助けする声が次々と聞こえてくる。
「みんな、ありがとね! ほんとに」
 今いる場の人達に感謝の言葉を送る。それとともに、全員にプレゼントを小分けする。プレゼント用の袋にはある種の魔法がかかっており、見た目以上にプレゼントを詰め込む事が出来ているらしい。あくまでも祖父の受け売りである。
「衣装で思い出しました。私たちもサンタの格好になった方がいいですね」
「よし、着替えるか」
 ウィングと恭司はサンタ服を持っていたため、着替えに行く。
「ボクも、衣装探して来ます」
「大丈夫だよ、何着かならこっちにあるから」
 とフレデリカは袋の中からサンタの衣装を取り出した。
「ありがとうございます。着替えますね」
 悠希もまたその場を少し離れる。
「キミ達も、どう?」
 先にいた五人にもサンタ服を勧める。子供達に見られることはないとはいえ、サンタクロースの格好をするに越したことはない。
「あ、それじゃあせっかくだから……」
 ミレーヌ達はサンタ衣装を貸してもらった。これでこの場にいる全員がサンタ服姿になったのである。
 しばらくした後、着替えが終わった順に戻って来た。同時に、何人かが近づいてくる気配を感じ取っていた。
「これはプレゼントを貰いに来てる人達でしょうか? かなり近くにまで来ていますね」
 ウィングが口にする。
「来やすいように、準備が出来た人から配達よろしくね。特に、遠くの方は私にもまだ分からないから、そっちをやってくれると助かるよ」
 フレデリカは自分に到達しようとする者の存在を知り、出発を促した。
「乗り物がある人は空京を出る事も出来るだろう。あとは、この場を中心に手伝うのが良さそうだな」
 恭司が助言をする。何らかの乗り物がなければ、空京の外へ出るのはなかなか難儀な事である。
 そうこうしているうちに、全員が着替え終わり、集合した。
「あ、あれ? これ、女の子ものなのです。それに、サイズが……」
 悠希が着ているのは、へそ出し、肩出し、ミニスカと何やら妙な三拍子が揃ったサンタ服だった。
「あれ、普通の女の子用渡したはずだったのに……でも、よく似合ってるよ」
「ありがとうございます……うう」
 悠希は恥ずかしそうであった。とはいえ、フレデリカには今から新しいものを渡して着替えてもらうほどの余裕はなかった。
「この住宅街も結構広いんだよね。まだ多分半分も行ってないと思うんの。それに、近くには他にもプレゼントを取りに来る人達がいる。だからさっき言ってくれたように、何人かは私の近くを手伝って欲しいの」
 そこでそれぞれ、自分の今のコンディションに合わせて行く場所を決める。
「あたし達三人は、遠くでも大丈夫だよ」
「僕達も飛空艇があるから……行けるよ」
 ミレーヌら三人と、ハーポクラテスらは空京以外まで足を運ぶことにした。
「私はフレデリカさんをお守りします。いくら郊外とはいえ、何が出るとも限りませんから」
「ボク達は、この近くから当たっていきます」
 悠希と翡翠はフレデリカの様子が見えるところから手伝っていく事を決めた。
「ならば俺は屋根の上から離れた場所まで行くとしよう」
 恭司はこの段階でカバーしきれていない場所へと回る。
 各々、自分の配達すべき場所を見据えて、各自散っていった。
(それにしても、この感じ……まるで皆特定出来たかのようにこの近くに集まり始めているな。どういうことだ?)
 恭司はあまりに多くの人間が一斉に向かって来ている状況を不思議がっていた。
 遠くからは声も聞こえてくる。
『サンタ! どこだ! 居やがったら返事しろ!!』
『サンタさん、待っていた、俺は待っていたんだぞおおお!!」
 その姿なき声の主が誰なのかは、遠過ぎて確認することは、この時点では出来なかった。



 時間をさらに十分ほど遡る。ちょうどその頃、ネットワークを経由してある情報が届けられた。それは今回のゲーム参加者に限った事ではない。
 しかしそれは空京にいる人達をざわつかせることとなった。映像は繁華街のディスプレイにも一時的に映し出されたりもしてる。
「この映像は……サンタクロース、ですかね?」
「この格好、きっとそうですよ〜」
 空京の街中でサンタ探しをしていた緋桜 遙遠、メイベル・ポーター、菅野 葉月らの一段である。
「雪のせいで、ちょっと乱れちゃってますね。声も聞こえますけど、音が途切れ途切れになってしまってます」
 葉月は残念そうに肩を落とす。そのせいで、サンタクロースの赤と白のコントラストは分かるのだが、顔までは分からない。どちらにせよ、アングルは後ろからなのだが。
『現在…サンタ……スら……は……郊外……移』
 携帯の機能から眺めてはいるが、どうにも場所が悪いらしい。降り続けている雪もまださほど強くはいため、音声の乱れに関してはそちらが原因だろう。
「これは街中じゃないな。住宅街っぽいけど……」
 出雲 竜牙もまたその中継映像を見ていた。
「行ってみるのですよ」
 パートナーのたまに促され、郊外へと向かおうとする。街中のサンタ姿を探したが、これと言ってめぼしい人物はいなかった。どうやら映像に映っているのは本物っぽいと感じた。
「なるほど。分かりにくいものはあるが……予想通り、若い人ではあるようだな」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)もまた、街中からその映像を見ていた。
(雰囲気的にも、街中にいるサンタとは違う感じだ。行ってみるとしよう)
 彼女は映像と自分のプロファイリングをもとに、その場所へと歩を進めた。
「ふう、やっと終わったのはいいが……これは郊外の辺りか?」
 人形配りを終えた毒島 大佐もサンタクロースの姿を発見した。
(随分と時間を食ったが……よし)
 毒島もまた、その映像の場所を探して奔走する。
「これは……どこだろう? 家がたくさん立ち並んでるけど」
 獲狩 狐月もまた、街中からそれを見ていた。ただ、彼女にはそれがどこなのかをピンポイントで絞り込む事は出来なかった。
(でも、これだけ家があるのは、郊外の住宅街、よね?)
 確信は持てないが、それでも郊外を目指す事にした。
「これを見るですよ」
 あい じゃわはそれを指差して、藍澤 黎に知らせた。
「なるほど、郊外の街を移動中か。それに、遠くてぼんやりとしか見えないが、他にも複数のサンタクロースがいるな。袋を見るとどれも本物のようだ」
 映像の中心にはサンタの後ろ姿が確かに映っている。が、その奥や画面端の辺りにも時たま赤と白が映り込んでくる。
「声も聞くですよ。今、このサンタさんを追ってる人がいるみたいです」
 今度は他の参加者と思しき姿が映し出される。
「これは当たりであろうな。行くぞ、じゃわ!」
 こちらもまた、郊外を目指していく。

 映像だけでなく、携帯からでもアクセスすれば地図の上にサンタの現在位置が分かるようになっていた。しかし、これが蒼空寺 路々奈の手によるものだとは、街中にいる人間は思いもしなかったことだろう。