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リアクション
・22時50分 ――ゲーム開始から三時間半経過
「あ、あなたがサンタさん?」
「まさか、こんなかわいい女の子が……」
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)と鬼崎 朔(きざき・さく)は、目の前にいるサンタクロース姿の美少女に驚きを隠せなかった。
フレデリカもこれまでの生徒達の反応から、そろそろ慣れてきた。これまでのように、自分がパラミタにいる理由を話す。
「なるほど、あの聖ニコラウスのお孫さんか。それで、おじいさんに代わってプレゼントを配りに来てたんだ」
「爺さんさんかと思ったら女の子だったってのは、そんな理由だったんだな」
本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)はフレデリカの話を聞き、サンタが女の子であることに納得したようであった。
「ミルディ、どうしましたか?」
「実はね……」
ミルディアはパートナーである和泉 真奈(いずみ・まな)に、フレデリカのおかれている状況を説明する。
「あら……ニコラスさまがそのような容態に。それでしたら私も微力ながら力をお貸し致しますね」
「みんなで力を合わせれば、早く終わりそうだしね。手伝わせてよ!」
二人はフレデリカに手伝いをする事を伝えた。
「トナカイもサンタ服も持ってきました。是非お手伝いさせて下さい」
ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)もプレゼント配りをすることを申し出る。
「私たちも手伝いましょう、シェリス」
「……わしもやらねばならんのかのう?」
「これだけ人数がいるとはいえ、大変な事に変わりはありませんから。一人でも多い方が、フレデリカさんも助かると思います」
フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)はパートナーであるシェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)を説得しつつ、プレゼント配りを手伝おうとする。
「重いものを持って歩くのはダメなんじゃ……」
「そんな事言ってると、プレゼント貰えませんよ」
プレゼント、という言葉に反応し、シェリスは渋々手伝いを承諾した。
「なんと健気な……感動した! そういうことなら自分もお手伝いしますよ」
朔もまた、フレデリカの事情を知り、自ら進んで手伝おうとした。
(サンタが女の子、しかも朔ッチ好みのかわいくていい子とは)
(ふふ、とっても可愛いじゃない。サンタクロースっていうのですな、ああなでなでしたいわ)
(ほんとにかわいいであります。しかも困っているようであります)
そんな彼女の様子を見ながら思い思いの言葉を発しているのは、パートナーであるブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)、尼崎 里也(あまがさき・りや)、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)の三人だ。
「ん、三人とも、何の話をしている?」
「みんなで手伝ってあげようと話していたであります!」
その声はどうやらフレデリカに聞こえたようだ。
「地図とプレゼント出しなよ。うん? ……配達手伝ってやるって言ってんだぜ?」
俺に任せろ、という感じで箒をフレデリカに見せ、ウィルネストは笑ってみせた。
「もちろん、私たちも手伝うよ。私もプリーストの端くれ、困っている人は放っておけないからな。ちょうどサンタ服もある」
「私も手伝うよ、サンタさん」
涼介のパートナー、クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)も彼と一緒に手伝う旨を伝える。
「あ、サンタの服持ってませんでした」
ふと、フィルが口を開いた。
「大丈夫、服ならここにあるよ。良かったら着てちょうだい」
フレデリカは持っていない人の分だけサンタ服を取り出した。
「ありがとうございます! 一度着てみたかったんですよ」
サンタの衣装は、この場にいる女性陣からは公表だった。無論、それを眺める男性陣にも眩しく写ったのは言うまでもない。
「あれ、私の分は?」
カリンは朔に問い詰めていた。
「自分のがあるじゃないか」
彼女はちょうど自分のサンタ服を持っていたため、フレデリカが持ってるサンタ服を着る事が出来なかったのである。
「それで、配達の仕方についてだけど」
そこまで言いかけた時に、フィルが口を開く。
「すぐ近くにかなりの数の人がいます。プレゼントを取りに来た人たちでしょうか」
少し前からではあるが、多くの参加者はピンポイントで今フレデリカ達のいる郊外まで向かって来ている。
「全員がそうとは限りません。私達が護衛につきます」
朔と三人のパートナーは近くの様子を見に行く。サンタクロースであるフレデリカに危害を加える人間がいないとは限らない。
「そろそろ動いた方が良さそうだぜ。あんまり一気に押し寄せられると、なかなか配り始めらんなくなるだろ?」
「そうだな。私達は準備は済んでる。後は飛ぶだけだ」
「私もトナカイがあります。遠くまで行ける人は、そろそろ行きましょう」
箒を持っている涼介達やウィルネスト、トナカイを持っているセリナはもう飛び立つ準備が出来ていた。
「じゃあ、まだ誰も行ってないこの辺りをお願い」
フレデリカが差したのは、ヴァイシャリーやツァンダなど、シャンバラ地方の主要都市だった。
「何人か手伝ってくれてる人がもういるんだけど、まだ足りなくて……大丈夫?」
申し訳なさげに彼女は尋ねる。怪訝な顔をする者はいなかった。
「お安い御用だぜ」
「任せて!」
「頑張って配ってきます!」
続いて、他の者達も準備が完了する。
「あと、孤児院がまだなの。空京にもあるんだけど、誰かお願出来ないかな?」
「あたし達が行くよ!」
名乗り出たのはミルディアと真奈だった。
「私達もご一緒します。孤児院にはたくさんの子供達がいるので、何人かいた方がいいでしょう」
フィル達もそちらへ向かうことを選んだ。
「それじゃ、よろしくね!」
これで今いた全員を送りだす事が出来た。護衛をしてくれている、朔達はすぐ近くにいながら配達を手伝ってくれいている。先程のウィングも自分の事が見える範囲にいることだろう。
再びフレデリカは人から見えるようにしながら、家を回り始めた。
しかし彼女には疑問があった。
(どうしてこんな一気に来るようになったんだろう……?)
・23時00分 ――ゲーム開始から三時間経過
「サンタクロースは現在、空京郊外の住宅街を北へ向かって進んでおります。ご覧下さい。あの後ろの大きな袋が見えるでしょうか?」
路々奈はカメラを手に多少距離をおいてサンタクロース――フレデリカを撮影している。ヒメナは何やらツールのようなものを使ってそれを補助している。どうやら、路々奈の取った映像を送信しているようだった。
「二人とも、何をやってるの?」
一緒に乗っている空が質問する。
「サンタウォッチよ。今こっちで撮影したのを、生中継してるの。きっと、プレゼントを欲しがってる人達はここに集まってくるわ」
「アクセス数すごいですよ。『詳細きぼん』とか、コメントも帰ってきてます。生徒のみんなは必死で探してるみたいですね」
二人は上空からフレデリカを見下ろしている。表情は実に生き生きとしており、この状況を楽しんでいるかのようだった。
「サンタさんを撮影してるだけでいいの?」
「うーん、一度挨拶しにいこうかな。多分撮られてる知らないと思うしね。それに、もっと近くで顔、映したいじゃない?」
この言葉に空は安堵した。これでサンタクロースに会って、配達を手伝える、そう思ったのである。
「それにしても、サンタクロース、さっきよりも増えたわね」
サンタ姿が増えたのは、それだけフレデリカを手伝おうという意思を持った者がいることに他ならなった。
「郊外までは来れたが、思ったより手こずったぜ」
「途中で女達ともはぐれちまってたからな。つってもこうやってまた合流出来て、しかも本物はもうすぐそこだ」
ショウや祐太達もまたフレデリカを捉えられる位置まで来ていた。
「よし、まだ玲奈は来て……って玲奈!?」
ふとショウが斜め後ろを振り向くと、玲奈がいた。
「げ、ショウ! まさかこんなところで」
玲奈もまた、勝負をしかけた相手とこんな目前で出会うなどとは考えてもいなかったようだ。
「く、あと少しなんだ。負けないぜ!」
「私も負けないんだから!」
だが、単独飛行をしている玲奈の方が多少有利有利かもしれない。ショウは同じく飛空艇に乗っている朱華を一瞥する。
(頼む、屋根の上につけてくれ。負けられないんだ)
口には出さず合図をする。
(了解。ここまで来たら、キミなら走った方が早いはずだよ)
屋根すれすれのところまで近づいたところで、ショウが飛び降りる。若干ではあるが、玲奈の方がリードしている。
「ケーキぃぃぃいいいいい!!!」
甘党な彼としては、この土壇場ではプレゼント以上にケーキを叫んでしまっていた。バーストダッシュにより、加速する。そしてすぐに――並んだ。
「あの二人、面白いことやってんな。で、あの先にいるのがサンタクロースってやつか? 後ろ姿でよく分かんねえが、随分と細っこいんだな」
ナタが目の前で繰り広げられる勝負に感嘆する。
「サンタクロース、かなり若そうだな。それに髪も長い……女か?」
グレンもまた、バイクから目視出来る距離にいるサンタクロースに注意を向ける。
「何にしても、俺が思ってるよりも大変そうだ。早く行ってやらないとな」
「そうですね。後ろからもたくさん来てるようですし、急ぐに越したことはありません」
隣のリュースもグレンに同意する。彼はすぐ後ろまで迫っている気配に気づいていた。
「前にもサンタ姿がいるな。何かを追っているようだが……その先にいるのが本物のサンタか?」
クレア・シュミットはすぐ前のグレン達を追跡していた。サンタ服を着ていたため、気になっていたこともある。
「かわいい女の子を追いかけてここまで来たのはいいけど……まさか本物のサンタまで見つかるとはな」
周もまた、その姿を追っている。
「サンタさんじゃ! サンタさんがいっぱいおるぞ!」
「こんなにたくさん集まってるとは思わなかったぜ。でも、本物は一人。多分……あいつだ!」
上空からトライブとベルナデットは他とは雰囲気の違う一人を発見した。距離があるため、まだ男か女かは確認出来ない。
「あ、いました。あの子ですぅ〜」
明日香も同じくフレデリカの姿を捉えた。トライブ達よりも近い位置にいたため、サンタクロースの姿がはっきりと見える。
「この中に本物のサンタクロースがいるのであろうか? 早く会って手伝ってやらねば」
皇祁 黎(すめらぎ・れい)とパートナーの皇祁 万太郎(すめらぎ・かつたろう)は、まだサンタクロースが女であるという事を知らないため、特定するために人が集まり行く場所へ飛び込んでいく。
これらの様子は、郊外へと向かう全ての参加者が知ることとなった。ほぼ全員が、今の段階で郊外の住宅街で競争を繰り広げている。そしてその様子は、上空から撮影され、リポートされることで、さらに激しさを増していった。
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