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サンタクロース、しませんか?

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サンタクロース、しませんか?

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第2章 そんなツァンダ以外の5都市では


 同日同時刻。他の学校でも1日サンタクロース希望者が集合場所に集まっていた。
 ただし、そこにフレデリカの姿はなく、その前にプレゼント袋と貸衣装、そしてまだそりも引けないような仔トナカイが2頭、大型モニターの左右で皆を出迎えた。
 ある程度人が集まったのを見計らって、仔トナカイの1頭が前足で器用にモニターのスイッチを入れた。
「皆、集まってくれてありがとう! 私はフレデリカ。今回協力者を募集したサンタクロースだよ。録画でごめんね……」
 モニターに映ったフレデリカが、先ほど蒼空学園で説明したのと同じ事を皆に伝えた。

 フレデリカの説明を聞き終えた1日サンタクロース達は、サンタ服に着替え、それぞれの町へ向かう用意をする。



 イルミンスール魔法学校の協力者達もまた、同じく動き出していた。
「あーあ、ほんもののサンタさんに会えると思ったのになぁ」
 貸しサンタ服の中からやっと探し出した小さなサイズのサンタ服を着込んだ走瀬・ラルカンジュ(らんせ・らるかんじゅ)が、ズボンのウエストをたくしあげながらつまらなさそうに言う。
「向こうが来ないなら、こっちが行けばいいんだよ。はやく配って会いに行こう!」
 パートナーの翼・ラルカンジュ(つばさ・らるかんじゅ)の言葉に、走瀬の瞳が輝く。
「うん! じゃあさ、配り方だけど……」
 走瀬は思いついたイタズラを、くすくすと笑いながら翼に耳打ちする。
「………?」
 視線を感じて、2人が振り返ると、イタズラを咎めるように仔トナカイがじ〜〜〜っとこちらを見ていた。
「ぅ…うん、そうだね! 早く配ってサンタさんに会いに行こう!」
「そうそう、こっそり配って驚かせるのって楽しそうだよな!」
 2人は慌てて言い繕い、仔トナカイの視線から逃れるため、プレゼントの袋を持って走り出した。

「おぉっとぉ!」
 日下部 社(くさかべ・やしろ)は、勢い良く駆けて来た走瀬と翼を慌ててよけた。
「ごめんなさーい!」
「転ばんように気ぃつけやー!」
 声を合わせて謝る2人を、社とゆる族の望月 寺美(もちづき・てらみ)が温かく見送る。
「子供は元気ですねぇ」
「ま、風の子ゆうしな」
「私たちも頑張りましょうねぇ!」
「張り切るのもええけど、そのデカい頭が煙突に引っ掛かからん様に気ぃつけやぁ〜?」
 寺美の頭を社がうりうりといつものようにいじりだす。
「あぅ…社、やめてよぉ〜」
 寺美がこれまたいつものようにジタバタと抵抗していると、
「およ? あそこにいるのはフリッツさんとゆっきーやないの」
 社が旧友のフリードリッヒ・常磐(ふりーどりっひ・ときわ)と、パートナーのゴルゴルマイアル 雪霞(ごるごるまいある・ゆきか)を見つけ、2人に向かって大きく手を振る。
「お〜い!」
「あ! 寺美ちゃんだー!」
 寺美を発見した機晶姫の雪霞は、眼をキラリと光らせ、一直線に寺美に向かって突撃すると、そのままぎゅうううっと力いっぱい抱きしめた。
「わーい、ひさしぶり〜っ!」
「ふぎゅうぅっ、ゆ、雪霞…ちゃん、お、お久し…ぶりですぅ…」
 苦しい息の下、寺美がなんとか挨拶を返す。
「社も来てたのか」
 パートナーの行動に苦笑しながら、フリードリッヒが社の元へやって来た。
「おう、二人共元気そうでなによりや〜♪ なあ、つもる話もあるし、一緒に配りに行かへん?」
「ああ、その方が賑やかでいいな」

「社ちゃんじゃありませんか!」
 フリードリッヒと話す社に、身長190センチのスキンヘッドサンタ、ルイ・フリード(るい・ふりーど)が実にいい笑顔とポージングで声を掛けて来た。
「おー、坊さんも来とったんですか」
「ええ、子供たちに笑顔をプレゼント出来るこの素晴らしい日に、聖職者が参加せずして何としましょう!」
「ちょい微妙なとこやけど一応ツッコんどくわ。配るんは笑顔やなくてプレゼントやで」
「はっはっは! わかっています。笑顔とプレゼントをプレゼントです!」
 ルイの頭がキラリと光る。
「……社、知り合いか?」フリードリッヒは思わず社に訪ねた。
「うん。おもろい人やろ?」
 社はルイとフリードリッヒとそれぞれのパートナーをお互いに紹介する。
「すみません、社はもう僕と配りに行くことになっていて……」
 ルイのテンションに引き気味のフリードリッヒが言うが、
「なるほど。では、6人の大所帯ということですね。大丈夫、私は気にしません!」
 満面の笑顔に、フリードリッヒはそれ以上言葉が見つからなかった。
「すまん。ルイは僕が引き受けるから、一緒に連れていってやってくれ」
 ルイのパートナー、リア・リム(りあ・りむ)が申し訳なさそうにフリードリッヒに頼む。
「社、モテモテですねぇ」
 2人から誘われている社に寺美が言うが、
「いや〜、死ぬほど愛されとる誰かさんにはかなわんわ〜」
 雪霞にずっとぎゅうぎゅうと抱きしめられていた寺美は、落ちる寸前だった。

「う〜ん」
 椎堂 紗月(しどう・さつき)五月葉 終夏(さつきば・おりが)は、貸しサンタ服の前で悩んでいた。
「もう女性用しかないじゃんか……しかも全部ミニ……」
 紗月はふぅっとため息をつく。
「いいじゃないか、似合うんだから」
 終夏は自身の淋しい胸をカバーしてくれる服を探すのに疲れていた。
「似合っても嬉しくない」
 女の子ではないのだ。むぅっと紗月が終夏にいい返す。
「紗月、早く着替えないと置いてっちゃうよ!」
 パートナーの有栖川 凪沙(ありすがわ・なぎさ)に促され、紗月はしぶしぶ女性用のサンタ服を手に取り更衣室へ向かった。
「終夏、喜べ。君の服をこの私がわざわざ用意してやったぞ!」
 まだ悩んでいる終夏のもとに、黒いサンタ服を着たニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)がやって着て、これまた黒いサンタ服を終夏に手渡す。
「……墨汁臭い。しかもこれ、借り物じゃ……」
「急いでいたので仕方なかろう。だがな、その服の胸には、なんと6枚ものパットが入っているのだ! そこだけは手を抜かなかったぞ。これで君の絶望に等しき胸もかろうじて映えるというも」
 終夏が手にした空飛ぶ箒の柄が、ごすっとニコラの腹にめり込んだ。
「のぉぅ……」
 床に沈むニコラを置いて、終夏は立ち上がった。悔しいが、ニコラが用意してくれた服が一番ましに見えそうだ。

 会場の隅では、そんなサンタクロース達の動向を窺う、不穏な影が1つ。
「うふふふふ。しっかり聞いたよ〜。大人にプレゼントがないなんて、認めないんだから! 絶対、プレゼントもらってやる。……たとえ、力づくでもね。うふふふふ」
 如月 玲奈(きさらぎ・れいな)は、サンタ共に見つからないよう、そっとその場を離れた。



 ヴァイシャリーの百合園女学院では、仔トナカイが協力者達にモテモテだった。
「お洋服もぉ、トナカイさんもぉ、すごぉく可愛いですぅ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が仔トナカイの首筋をそっとなでると、仔トナカイは嬉しそうにすり寄ってくる。
「ほんと、どっちも可愛いよね」
 そう言って、サンタ服に着替えた七瀬 瑠菜(ななせ・るな)もメイベルの隣りで仔トナカイを一緒に撫でている。
「でもこのスカート、短すぎて寒くありませんこと?」
 メイベルのパートナーのフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、スカートの裾をドレスのように摘まんで見せる。
「それ、一番短いヤツだもんね」
 同じくパートナーのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)がせめてもの防寒にと、フィリッパにロングブーツを渡してあげた。
 瑠菜のパートナーのリチェル・フィアレット(りちぇる・ふぃあれっと)は、同じパートナーのフィーニ・レウィシア(ふぃーに・れうぃしあ)を助手に、ヴァイシャリーの地図をコピーしてエリアごとに印をつけ、サンタクロース達に渡して時間のロスがないよう段取りを組んでいた。
「これならきっと、早く配り終わると思うんです」リチェルは、穏やかに趣旨を説明し、
「ご協力、お願いするの!」フィーニがぺこりと頭を下げる。

「あの、それじゃあ、ボク、さっそく配ってこようかな……」
 脚出し・肩出し・ヘソ出しと3拍子揃ったサンタ服姿の真口 悠希(まぐち・ゆき)が、頬を染めながら愛しい桜井 静香(さくらい・しずか)の元へと向けた足を、仔トナカイがすこーんと払った。
「きゃうんっ!」
 床へ転がる悠希の額に、もう一頭の仔トナカイがぺしゃりと紙を張り付ける。
「な、なにするんですか〜?」
 半べそになりながら悠希が紙を見ると、
『プレゼントの配達は子供から』と大きく書かれている。
「で、でもっ、あのっ、」
 行き先を見透かされて動揺する悠希の顔にまた一枚、ぴしゃりと紙が押し付けられる。
 それには『個人的サンタはあとまわし』と、さらに大きな文字で書かれていた。
「うぅ〜、わかりましたよぉ」
 悠希は、仔トナカイに追い立てられ、白い袋を背負い歩き出した。廊下の曲がり角でちらりと振り返ると、柱の陰から仔トナカイがじっと悠希を見ている。
(監視されてるっ!?)
 悠希は仔トナカイのブラックリストに載ったようだ。
「待ってて下さい、静香さま。ボクは負けませんっ。早く終わらせて、必ずあなたの元に辿り着いて見せますからーっ!!」
 走り出す悠希の跡を、つかず離れず仔トナカイが追っていった。

 それを見ていた緋桜 ケイ(ひおう・けい)ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は顔を見合わせ、残った仔トナカイに気付かれないよう持っていたプレゼントをそっとしまう。
(こいつらもか)
 ソアのパートナー、ゆる族の雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が2人の様子にやれやれとため息をついた。
「仕方ない、俺達も急ぐぞ!」
「もちろんです!」
 ケイの声に、ソアが応じる。プレゼントを待っている子供たちはもちろん、プレゼントを渡したい『あの人』のためにも頑張るのだ。駆け出す2人の後を、力を貸すべくベアも追っていった。

「ちわーっす」
 サンタ服を着た羽高 魅世瑠(はだか・みせる)が、遅れてパートナー達と共にやってきた。
「あのさ、せっかくだから、あたらしらもこっちでサンタしたいんだけど、いいかな?」
 百合園のサンタクロースは、彼女たちを温かく迎え入れた。



「なんか、僕の出番が来たって感じだねぇ」
 ヒラニプラのシャンバラ教導団でフレデリカからのメッセージを見終えた相追 御黒(そうつい・みくろ)は、嬉しそうにパートナーのアヴェリア・ゼクステット(あべりあ・ぜくすてっと)に言う。
「まぁ、ミクロが好きそうな話ではありますけどね……」
 後ろ向きの守護天使・アヴェリアは、着なれない赤い服に落ち着かない様子を見せた。
「なに言ってんだよぉ、明るい話題のないこのご時世に、子供達の夢と希望を守るため、平和の為に立ち上がれるんだよ? 泣かせる仕事だよなぁ……」
 本気で感動する御黒に、アヴェリアはため息をつく。
「まあ、ミクロを見れば、ある意味、子供達に夢や希望を抱かせるきっかけになるかもしれません……」
「何か言った?」
 感動しすぎて聞いていなかった御黒の背を、アヴェリアがぽんっと叩いた。
「落ち着いて事にあたりましょうと言ったんです。ミクロは頑張りすぎて空回りするクセがありますから」
「なぁに言ってるんだよぉ、そのためにヴェリアがいるんじゃない」
 無邪気に笑う御黒に、アヴェリアの顔が上気する。
「あ、あんまり期待しないで下さいっていつも言ってるじゃないですか」
「大丈夫だよぉ!」
 本人でもないのに太鼓判を押す御黒を急かし、アヴェリアはプレゼントの袋を持って軍用バイクのサイドカーに乗り込んだ。続いて御黒も運転席側に乗り、エンジンを掛ける。
「覚悟しなよ〜、お子さんたち。僕たちがすぐに笑顔を届けるからねぇ! 行くよ、ヴェリア!」
「安全運転でお願いします、ミクロ」
 2人の乗った軍用バイクはヒラニプラの町へ向けて発進した。

「というわけでぇ、なんとかそこを、お願いできませんかねぇ?」
 皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)は、仔トナカイ相手に何やら交渉していた。
 2頭の仔トナカイは顔を見合わせて、しばらく悩んだのちに、ためらいながらも頷いた。
「ありがとうございますぅ! これで在庫処分&宣伝活動ができますよぉっ!」
 踊るような足取りで駆け出して行く伽羅に、慌てて掛け込んで来た青 野武(せい・やぶ)がぶつかり、伽羅の持っていた『パラミタ刑事シャンバラン』グッズのサンプル品が床に散らばる。
「きゃっ」
「おおっ、すまんな。おぬし、怪我はないか?」
「大丈夫ですぅ、私も浮かれていましたので……。お詫びに、これ召し上がって下さぁい」
 急いでグッズを拾い集めた伽羅は、野武ににっこりとほほ笑みながら、一番処分したかった本日賞味期限切れの『シャンバラン魚肉ソーセージ(シール入り)』を3袋ばかり手渡した。
「おお、すまんな」
「『パラミタ刑事シャンバラン』を今後ともどうぞ御贔屓にぃ」
 ほほほと笑いながら走り去る伽羅に呆気にとられていた野武は、はっと我に返り、慌てて仔トナカイ達の元へすべり込んだ。
「サンタクロースの仕事はまだ受け付けておるであろうな?」



 魔都タシガンにある、女人禁制の薔薇の学舎では、参加希望の女子の為、校門前が集合場所となっていた。
「やっぱり入れないか……」
 鳥丘 ヨル(とりおか・よる)は、薔薇の学舎の建物を残念そうに眺めた。ここまで来たが、知り合いには会えそうもない。
「ヨル、行くよー!」
 パートナーのカティ・レイ(かてぃ・れい)が、ベルや金銀色とりどりのモールで飾った籠付き自転車でヨルを待っている。
「今いくー!」
 ヨルは名残惜しそうに学舎を振り返り、プレゼントの袋を抱えてカティの元へ向かった。

「子供が先かぁ……」
 ハーポクラテス・ベイバロン(はーぽくらてす・べいばろん)もまた、浮かない顔でため息をつく。
「せっかくのクリスマスなのにな……」
 最近、何かと不穏な空気に包まれるタシガンに、ひと時でも幸せなクリスマスを贈りたいと思い、パートナーのクハブス・ベイバロン(くはぶす・べいばろん)を誘ってサンタクロースになったというのに、フレデリカの『子供優先は鉄則!』との言葉で、彼の用意したプレゼントを配るリストが使えなくなってしまった。
「ラドゥ先生に届けたかったな」
 落ち込むハーポクラテスの肩を、パートナーのクハブス・ベイバロンがやさしく包む。
「早く配り終えれば、そのチャンスもありますよ。行きましょう」
 こくんと頷くハーポクラテスを慰めながら、クハブスは、自分達の小型飛空艇にプレゼントの袋を積んだ。

「お待たせしましたわ」
 ルピナス・ガーベラ(るぴなす・がーべら)は、不機嫌な様子で万願・ミュラホーク(まんがん・みゅらほーく)と合流した。
 ルピナスの後ろでは、パートナーのリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が恥ずかしそうにしている。
「どうしたであるか?」
「どうもこうもありませんわ! 男性用にサイズがなかったおかげで、わたくし達、女性用を着るしかありませんでしたのよ!」
 ルピナスの言い分に、万願が困った顔をした。
「その服では、だめであるか? とても可愛いであるのに」
 その言葉に、ルピナスは頬をかぁっと染め、恥ずかしさにサンタ帽で顔を隠す。
「こ、こんな寒い服、納得できるわけがありませんわ!」
 そうは言っても替えはない。ルピナスはしぶしぶ、リアトリスは恥ずかしい気持ちのまま、万願とともに、これからの計画を話し合った。

「とてもお似合いですわよ、沙幸さん」
 魔女の藍玉 美海(あいだま・みうみ)は、フレデリカのサンタ服に負けないセクシーな超ミニスカサンタ服を着たパートナーの久世 沙幸(くぜ・さゆき)をうっとりと見つめた。
「でも、ねーさま、この格好はちょっと寒いんだけど……」
 露出した肩をさすりながら、沙幸が美海に訴える。
「あら、それでしたら人肌で温めあうのが一番ですわ」
 美海がするりと沙幸の身体に肌を密着させる。
「も、もぉっ、ねーさまったら、くすぐったいよ!」
 沙幸が頬を染めて身じろぐのを、美海は肌で楽しんだ。
「でも、温かいでしょう?」
 美海の囁きに、沙幸は恥ずかしさに視線を反らしながら、こくりとうなずいた。

「佐野さん、お待たせしました」
 麻上 翼(まがみ・つばさ)は、パートナーの月島 悠(つきしま・ゆう)とお揃いのサンタ服を着て佐野 亮司(さの・りょうじ)と合流した。
 真っ赤な顔で緊張している悠は、ミニスカートが恥ずかしいのか、そんな自分を亮司に見られるのが恥ずかしいのかわからない。
「じゃ、行くか」
 思いの外そっけない亮司の反応に、たちまち悠の表情が曇る。
「佐野さんたら、こんな可愛い悠くんを見て何も言ってくれないなんて罪作りですねぇ。それとも、もっと違う感じのがお好みでしたか?」
 からかうような翼の言葉に、悠がますます顔を赤らめる。
「あ、あの、私、ちょっと着替えてくるっ!」
 走り去ろうとする悠の腕を慌てて亮司が掴んだ。
「違っ、そうじゃなくて、逆だ、逆!」
「逆……?」
 小首を傾げて問い返す悠に、亮司は表情を隠すように顔を背けた。
「お前、可愛すぎだろ……」
「つまり、好みど真ん中でかえって正視できないということですねぇ」
 柄にもなく動揺する亮司に、翼が助け舟を出した。
「悠くん、佐野さんはちょーっぴり照れてただけで、本心はずーっと悠くんを見つめていたいはずですよ。今だって、可愛い悠くんに、どうやって一緒にそりに乗ってもらおうか考えてるんですから」
 亮司が何も言わないうちに、翼は2人を言いくるめて亮司のそりに押し込めた。
「それじゃ、佐野さん、悠くんのこと、よろしくお願いします」
「あ、ああ」
「よろしくお願いします」
 亮司の隣にちょこんと座る悠も、赤い顔のままぺこりと亮司に頭を下げる。
 2人を見送った翼は、上機嫌で自分の軍用バイクに跨り、地上から2人に同行する。
(きっと今頃空の上では、佐野さんの隣でドキドキと恥じらいに頬を染める悠くんが……)
 そんな可愛いパートナーの姿を想像するだけで、にやけが止まらない。
 今年のクリスマスは、お熱いことになりそうだ。



 サンタクロースは、シャンバラ荒野にもやってくる。
 廃墟と化した波羅蜜多実業高等学校にもフレデリカからのSOSは届けられ、賛同して集まった者たちを迎えたのは可愛い仔トナカイではなく、左目に切りつけたような古傷のある大きな老トナカイだった。
 若い頃の百戦錬磨ぶりをうかがわせる貫禄で、プレゼントを狙う邪なパラ実生を、大きな角と鋭い眼光で追い払っている。

「困りましたね」
 鬼崎 朔(きざき・さく)は、老トナカイを観察しながらつぶやいた。
「こりゃ、近づけそうにないな」
 鬼崎 洋兵(きざき・ようへい)は、すでに諦めそうな雰囲気だ。
「子供たちが待ってんだろ? 仕方ねぇ、こうなったら力づくで……」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が、拳を握り闘気を溜めると、老トナカイも、前足で地面を掻いて応じる姿勢を見せる。
「お待ちなさい!」
 ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)が、張り詰める場を諌めた。
「私に任せていただくわ。ジュスティーヌ!」
「はい、お姉様」
 ジュリエットに呼びつけられたジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)が老トナカイの正面に進み出た。
「おい、お譲ちゃん、あんまり前に出ると危ないぜ!」
 洋兵がジュスティーヌに警告するが、ジュスティーヌはひるむことなく老トナカイのもとへ歩を進める。
 ラルクはいつでもジュスティーヌを助けられるようにと臨戦態勢をとった。
「トナカイさん、私達はサンタクロースさんのお手伝いに来た者ですわ」
 ジュスティーヌが優しく声を掛け続けた結果、老トナカイはようやくプレゼントの前から身を引いた。
「すごい人ですね」
 朔がジュスティーヌの勇気に感心するのに、ジュリエットが微笑む。
「この中で一番の『良い子』を交渉役に選んだ私には及びませんわ」

 集まった者たちがサンタクロース希望者という事をようやく認めた老トナカイが、角の先で器用にモニターの再生ボタンを押すと、すでに他の学校に流れているのと同じフレデリカのメッセージが流された。
「うっし! じゃあ行くかな!!」
 映像を見終え、ラルクがその場を離れたのをきっかけに、朔が洋兵に声を掛けた他は、それぞれプレゼントを背負い、集まってきた時と同じように、バラバラに荒野へと向かっていった。