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リアクション
第3章 ツァンダのサンタクロース
ツァンダのサンタクロースは頑張っていた。
「ええとね……このお家は、このプレゼント……ぅ…お、おっきい……おもい……」
小柄な天穹 虹七(てんきゅう・こうな)が、次に届けるプレゼントを、パートナーのアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)に渡すお手伝いをしている。
「ありがと、虹七ちゃん。あ、待って」
笑顔でプレゼントを受け取ったアリアは、虹七のサンタ帽子をなおしてあげる。
「うん、やっぱりすごく似合ってるよ、虹七ちゃん」
アリアが仕立てた小さなサンタ服は、虹七の愛らしさを更に引き立てている。
「……ありがとう、お姉ちゃん」
アリアに褒められ、照れながらも嬉しそうな虹七の顔を見て、アリアもますます嬉しくなる。
日頃お世話になっているツァンダの街や、小さい頃お世話になったサンタさんへの恩返しのつもりで参加したが、虹七とのサンタクロースは、予想以上に楽しいものとなった。
「サンタさん!?」
子供がトイレから出るとドアの前にサンタ帽が落ちていた。おそるおそる廊下を歩いていくと、テラスの窓が開いている。
「サンタさんだ。サンタさんが来てくれたんだ」
サンタクロースを探そうと家中を走り回る子供に 葉月 ショウ(はづき・しょう)は焦った。子供に見つからないように慌てて姿を隠す。
家の外で彼を待っていたパートナーの葉月 アクア(はづき・あくあ)がそれに気付き、小人の小鞄から小人を出した。今日の小人さんは、アクアがフェルトで作ったサンタの服を着ている。
アクアはショウが侵入するためにピッキングのスキルで開けた窓から小人を家に入れると、今度は光精の指輪を使って光の人工精霊を小人のそばにやり、子供部屋へと向かわせる。
それを見たショウも小人と光精を出し、子供の隙を見て部屋にプレゼントを置き再び物陰に身を潜めると、光精を使って子供を部屋へと誘導した。
「あっ! プレゼントー!!」
プレゼントに駆け寄った子供は小さな光に包まれた小さなサンタクロースを見つけた。
「わぁっ、小っさいサンタさんだぁ」
子供が小人に気をとられている隙に、ショウはそっと家から抜け出した。
「危なかったわね」
アクアがトナカイのそり風に飾った小型飛空艇でショウを迎える。
「ああ。アクアの小人サンタ、気に入られたみたいだな」
ショウは、プレゼントよりもサンタに夢中の子供に苦笑する。
しばらくして、光精と小人が子供をまいて家から出てきた。
「ご苦労さん」
ショウとアクアはそれぞれの小人と光精をしまい、次の家に向かう。
2人はあえて煙突の無い家の子供達にプレゼントを配っていた。煙突がないからサンタはこないなんて諦めさせたりはしたくなかった。サンタクロースはちゃんと『良い子』のところに来るのだから。
煙突にロープを固定し終えた今井 卓也(いまい・たくや)は、パートナーのヌイ・トスプ(ぬい・とすぷ)にプレゼントを渡す。
「ヌイ、見つからないように静かに置いてきてくださいね」
「わかってるデス。サンタさんはシーなのデス!」
謎のポーズをつけて元気よく言うヌイを見て、卓也に不安がよぎる。
ヌイの鼻が、渡されたプレゼントに反応してぴくぴくと動いた。
「いい匂いなのデス♪ 卓也、食べちゃだめデス?」
目をキラキラと輝かせてヌイが卓也に聞いてくる。
「それは他の人のプレゼントだから、だめですよ」
「……サンタさん、大変デス」
たしなめられ、しょんぼりと耳を伏せるヌイの頭を卓也は優しく撫でてやった。
瀬島 壮太(せじま・そうた)とパートナーのミミ・マリー(みみ・まりー)、ラピス・ラズリアン(らぴす・らずりあん)は一緒にプレゼントを配っていた。
ラピスが壮太から借りた光精の指輪で家人の気を引き窓におびき寄せ、ミミが光術で庭木に灯したイルミネーションで足止めをしている間に、隠れ身のスキルを使った壮太がプレゼントを置いてくるという作戦は、今のところ成功を収めていた。
初めは煙突掃除していない家に悪態をついていた壮太も慣れたようで、わめくより次の家のために体力を温存することにした。
「壮太、次の家は留守みたいだよ」
ミミが、励ますように壮太に言った。
その家には煙突がなかったため、壮太はピッキングのスキルを使って侵入した。
「おー、今回は楽勝だな」
2階の子供部屋のベッドにプレゼントを置いた壮太が部屋を出ると、いきなり横から激しい衝撃を受け、階段を転げ落ちた。
「うわあっ!」
「壮くんっ!?」
外で叫び声を聞いたラピスはすぐさま家の中に飛び込み、倒れている壮太をかばいながら、彼を襲った影を追って階段を駆け上った。影に追いついたラピスが得意の足技を繰り出す。影は何とかそれをかわし、担いでいた荷物をラピスめがけて振り下ろした。間一髪、ラピスはスウェーでそれを避けると、すばやく影の背後にまわり、脳天めがけてパートナー直伝の踵落としをキメた。
「いい加減にしろっ!」
ラピスのツッコミをくらった影は、すさまじい音を立てながら階段を落ちていった。
「やべっ!」
壮太が横に転がると影は今まで壮太がいた場所に落ちてきた。
影が気を失っている事を確認したラピスは、光精の指輪から光の精霊を呼び出し、薄暗い家の中に明かりを灯した。
「………こいつ、もしかして」
そこには、赤い服に白いつけ髭姿のサンタが伸びていた。ラピスがあせったのは言うまでもない。
「ごっ、ごめんね、乱暴な事して! 壮太、どうしよう」
仲間ヤっちゃった。この事態に2人は動揺する。
「そうだな、とりあえず手当…そうだ、ミミ呼んで来い」
「わかった!」
足手まといにならないようにと家の前で待機していたミミの元にラピスが走る。
「ん?」
その時、壮太は伸びているサンタの袋からこぼれおちた物に気がついた。
「壮太、ケガしたの!?」
ラピスと共に駆け込んで来たミミに、壮太が複雑な表情を見せる。
「オレの怪我はたいしたことないから心配すんな。それよりラピス、こいつには手当じゃなくて警察が必要みたいだぜ」
「警察?」
壮太が、床に転がった袋を指した。開いた袋からはみだしているものは、ピンクのレースがついた
「………………下着?」
よく見れば、男の着ているサンタ服もフレデリカが用意してくれたものとはまるで質が違っていた。
「ただの下着泥かよっ! まぎらわしいっ!!」
気絶したままの偽サンタのおっさんに足を振り上げたラピスを壮太が必死に止めた。
3人は庭木に偽サンタを縛り付けてから証拠の袋を横に置くと、匿名で警察に連絡して次の配達先へと向かう。
「仲間かと思ってびっくりしたよ」
ミミの小型飛空艇の後ろで、ラピスがため息をつく。
「こっちにも不埒な野郎がいるもんだな」
所変われど人変わらず。ラピスと壮太が苦い思い出に囚われそうになるが、
「ねえ壮太、あの人、どうして女の人の下着なんか配ってたの? 僕ならそんなクリスマスプレゼント、欲しくないなぁ……」
自分達の行為とさきほどのサンタ姿の下着泥棒の行動がごちゃまぜになったミミが、不思議そうに聞いてくる。
壮太とラピスは顔を見合わせて笑った。ミミは、真剣に聞いているのにとむくれてしまったようだ。
「今日は、壮くんとミミちゃんと一緒で良かったよ」
ラピスが笑いながら2人に言う。
1日遅れになってしまったが、ラピスにとって、忘れられない誕生日の思い出になりそうだ。
「だ〜れか〜、助けてぇ〜」
かすかに聞こえる声に、春美があたりを見回すと、足を滑らせたセキが、屋根にしがみついていた。
「大丈夫ですか?」
すぐにかけつけると、セキの腕を引っ張り上げた。
「ごめん、俺、どんくさくて……」
「っよいしょっ!」
力を入れてセキをひっぱった途端、春美の足が屋根につもった雪にとられ後ろに倒れこみそうになる。
「おっと、大丈夫か?」
先ほどのセキの声を聞きつけて助けに来た轟 雷蔵(とどろき・らいぞう)が春美を支え、ひょいっとセキを助け上げた。
『あ、ありがとうございます』
2人が声を揃えて礼を言うと、雷蔵は笑って応えた。
「危なっかしくて見てられねぇや。一緒に行くぞ、その方がお互いをフォローできるってもんだ」
セキと春美は顔を見合わせ、雷蔵にぺこりと頭を下げると、再び声を揃えた。
『よろしくおねがいします』
「えーと、次はあのお家ね。行こう、葉月!」
ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)がパートナーを振り返ると、菅野 葉月(すがの・はづき)が浮かない顔をしている。
「どうしたの?」
「……やはり、スカートが短いと不安というか」
女性用のサンタ服を借りた葉月は、スカート丈を気にして何度も裾を引っ張っている。
「大丈夫だよ、すっごく可愛いって!」
パートナーのミーナは、自信たっぷりに言う。普段は男に間違われている葉月が、可愛い服を着て仄かに頬を染める様子は、すぐにも抱きしめてお持ち帰りしたいほどの可愛さだ。
「お疲れーっすー!」
シャーっという音と共に、突風が2人の側を通り過ぎる。
「ひゃっ!」
葉月とミーナは慌ててスカートを抑えた。
「おっ! ラッキー♪」
近くを配達していた周が突然の幸運に、ついうっかり声を出した途端、顔の横にあった木にライトブレードがドスっと突き刺さる。
「見たの?」
目の据わったミーナが、周に囁く。彼の首の近くでは、光刃がヴォンっと危険に唸っていた。
「い、イイエ、何もミテマセン、ミエマセンデシタ……」
ミーナが発動させた鬼眼に圧されながら、周は声をしぼりだした。
「うわぁ、もしかして自分のせいっすか!?」
突風の主・遠澄 聖(とおずみ・ひじり)が、揉め事に気づき、ステッカーやクリスマス色のリボンで飾った愛用の自転車で戻ってきた。
「いえ、そういうわけでは……」
葉月が聖に状況を軽く説明する。
「そういう事っすか。同業のサンタ見つけたんで、挨拶しようと思っただけだったんすけど、このスカート短いっすもんねぇ、申し訳なかったっす」
謝る聖に、気にしないように言う葉月が、聖がスカートの下に着用しているものに気付いた。
「それは?」
「ああ、レーパンっす。えと、レーサーパンツって自転車競技用のレギンスみたいなもんっす」
「そうか、僕もそういうのを用意すればよかった」
「葉月は今のままでいいの!」
ミーナが葉月のところに戻ってきた。
「さっきの人はどうしました?」
葉月が周の生死を確認しようとあたりを見回すがその姿はない。
「……逃げられた」
悔しそうに言うミーナに、聖もなんとなく気まずさを感じて自転車に跨った。
「それじゃ、自分、配達の続きに行くっす。お互い頑張るっすよ!」
聖は小さめのプレゼントの袋を、前の籠と後ろの荷台に乗せたまま、器用に自転車を操り、ツァンダの町へと消えた。
くしゅんと小さくくしゃみをした葉月の腕が、温かいもので包まれる。見ればミーナが葉月の腕に腕をからめていた。
「ミーナ?」
「くっついていた方が、あったかいでしょ?」
ミーナが甘えるよう葉月の肩に頬を寄せる。
「そうですね」
2人は頬笑みを交わし、そのまま歩きだした。
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