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第7章 クリスマスヒーローショー! ツァンダ編


 一方、ツァンダの町の影では、よからぬ計画が実行されつつあった。
「貴様に指令を与えよう」
 手にした携帯端末型機晶姫の小型 大首領様(こがた・だいしゅりょうさま)から、厳かな声が聞こえる。
「貴様はサンタクロースとなり、子供達の家から他の奴らが配ったプレゼントを奪い取るのだ。プレゼントを奪われた子供達は『サンタは本当は悪い奴』と絶望に染まるだろう!……ククク、ゆけ、怪人・ファントムアクトよ、子供達の夢をその手に奪い取るのだ!」
「大首領様の仰せのままに」
 怪人・ファントムアクトと呼ばれた男は、にやりと笑い、通話を終えた。


 十倉 朱華(とくら・はねず)とパートナーのウィスタリア・メドウ(うぃすたりあ・めどう)は、小型飛空艇に乗ってプレゼントを配っていた。
 困っているサンタさんの力になろうと、蒼空学園の生徒として世話になっているツァンダでプレゼントを配る手伝いをする事を選んだ朱華は、子供のいない間にベッドの真ん中にプレゼントを置き、くすくすと笑った。
「どうしました?」
 ウィスタリアが朱華に問う。
「今、僕らはサンタさんなんだなって改めて思ったら、なんだかくすぐったい気分になっちゃって」
 契約者になってパラミタに来た時は、まさか、サンタさんになるなんて想像もしていなかった。
「サンタさんの手伝いが出来て凄く嬉しいよ。子供たち、喜んでくれるといいな」
 楽しそうに言う朱華に、ウィスタリアがつられてほほ笑む。
「きっと、大喜びですよ」
 ウィスタリアの言葉は、しばらくすれば正しいと証明されるだろう。
 朱華とともに部屋を後にしようとしたウィスタリアは、自分からの贈り物として、プレゼントに禁猟区のスキルを使った。
「些細な力ではありますが、降り懸かる災いから未来ある子ども達を守りますように」


 朱華とウィスタリアが部屋を後にするのを物陰から伺っていた景山 悪徒(かげやま・あくと)が、入れ違いに子供部屋へ侵入した。
「子供はいないのか。……残念だな」
 赤いサンタ帽子にサンタ服姿の悪徒は、サンタらしからぬ邪悪な笑みを浮かべて朱華の置いたプレゼントを手にすると、代わりに1枚の紙を置いた。
 それには、『今年のクリスマスプレゼントは頂きました。ありがとうござます サンタより』と書かれている。
「簡単すぎてつまらん仕事だ」
 しかし、子供部屋を出た悪徒を咎める者がいた。
 禁猟区の知らせる危険を察知して戻ってきた、ウィスタリアと朱華だった。
「キミ、何をしているんだ!」
「サンタから子供へのプレゼント、どうするもりです!」
 ほのぼのとしたクリスマスの雰囲気が一変し、その場に緊張が走った。

「巽、向こうで何かあったみたい!」
 煙突にはまって抜けないおもちゃの袋と格闘していた風森 巽(かぜもり・たつみ)は、パートナーのティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が指し示す方向を見た。確かに、不穏な気を感じる。
「行こう、ティア!」
 ヒーローの勘を信じ、巽はティアとともにそりを走らせた。

 リターニングタガーを手に、笑いながら朱華とウィスタリアの追撃をかわす悪徒の前へ、空飛ぶそりから飛び降りた巽が立ちはだかる。
「武器を手にするサンタとは、穏やかじゃないな」
 追いついた朱華達が、取り急ぎ、事の次第を巽に話した。
「なるほど、子供のプレゼントを奪い取るやり方。貴様、さてはニセのサンタだな!!」
 びしりと言い放つ巽に、悪徒が地を這うような声で笑った。
「俺は、目の前の偽善者野郎どもと同じ、本物の公認サンタだぜ。ただし、その実態は……」
 悪徒が勢いよく、サンタ服と帽子を脱ぎ棄てると、その下に着ていた、漆黒の全身タイツの目の部分に赤光を仕込んだ怪人形態が現れた。
「秘密結社・ダイアークの怪人、ファントムアクト参上!」
 巽は険しい顔で悪徒を睨みつける。
「これも宿命というやつなのか…っ!」
 巽もまた、己のサンタ服を掴み、仮の姿を脱ぎ棄てた。
「聖なる夜にやってきて、夢と玩具を配る者! サンタツァンダーソークー1、只今参上!」
「くっ、まさかこんなところに正義の味方がいるとはな……」
 2人は仮面の下で睨みあい、じりじりと間合いを測る。
 一触即発の中、騒ぎを聞きつけた近隣の住人が集まり始めてきた。
 このまま戦っては、怪我人が出ないとも限らない。
「巽、どうする?」
 焦燥する巽に、トナカイのそりに乗り、上空で待機していたティアが声をかける。
「おっ、お…おんなっ!?」
 突然、悪徒に動揺が走った。
「お、おのれっ! よくぞ俺の弱点を見破ったっ!」
 ティアは、ミニでもなければスカートでもない自分で用意した普通のサンタ服を着ているのだが、悪徒の動きは目に見えて硬くなり、取り落としたタガーを慌てて拾うありさまだ。
「見事だ! 覚えておくぞサンタツァンダーソークー1! 俺の名は怪人・ファントムアクト! また会おう!」
 とうとう悪徒は捨て台詞を残し、光学迷彩を使ってその場から消え去った。
「ティアのおかげで助かったな」
「ボク、なにかしたっけ?」
 巽の言葉に、ティアがきょとんと小首を傾げた。

 こうして、子供たちの夢は魔の手を逃れたのだった。