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リアクション
強い風が、荒野を吹き荒れる。
草は枯れ岩がごろごろ転がり、砂に覆われた地面……。
そんな荒野のやや高い岩の上に、ロッテンマイヤー・ヴィヴァレンス(ろってんまいやー・う゛ぃう゛ぁれんす)が立っていた。
「鷹、行けっ」
紙鷹が、彼女の頭上を旋回する。
「ついでに紙ペットを捕まえてこいよ!」
ロッテンマイヤー・ヴィヴァレンスの指示に、紙鷹は一声鳴いて空を滑るように進む。
鋭い瞳を光らせ、下界を睨んでいる。
「待っていりゃあ接触も宝探しも鷹がやってくれるって寸法だ。ヒャハ! あたい、頭いいぜぇぇ!」
狂ったように笑いながら、紙鷹の行方を追う。紙鷹は獲物を探して目を光らせた。
一方地上でも、怪しげに瞳を光らせる者がいた。
「どこかにお人好しはいないかな」
周囲を見回しつつ紙蛇を腕に巻きつけ歩くニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)。その視界の端に、一人の人影が映る。
「くふふ、さぁゲーム開始だよ!」
楽しげに言い放って、彼は一人で紙狸と歩いていた笹島 ササジ(ささじま・ささじ)に近寄った。
「よかったら、一緒に探索しない?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
深々と頭を下げて、笹島ササジが応じる。早速、紙ペットを接触させようと近づけたその時……。
「ゥグヤァアアア!」
「わっ!」
岩の隙間から、岩が飛び出した……。
「……亀かな?」
岩が掠めた笹島ササジに【ヒール】を施しながら、ニコ・オールドワンドは首を傾げた。
岩でできた甲羅を持つ亀が、二人を睨んでいる。
亀が飛びあがったその瞬間、二人の前に三人の影が立ちはだかった。
彼らの放った【光術】と【雷術】が炸裂。強烈な光と音に驚いた亀は回転して元の岩の隙間へと帰って行った。
「魔物は、俺たち【紙ペット同好会】に任せろ!」
「追い払ってやろうではないか」
「大丈夫ですか?」
紙鴉を連れた緋桜 ケイ(ひおう・けい)、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)、紙熊を連れたソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が二人に声をかけた。二人は頷き、その場を後にする。
同時に魔物の気配が消えた。ソア・ウェンボリスは紙熊と向きあい、頭を下げた。
「申し遅れました、私はソアっていいますっ」
すると紙熊は真似るようにぺこりと頭を下げた。
「ふふっ、可愛いですねー。あ、木の実とか食べますか?」
彼女は用意した数種類の木の実を取り出す。その瞬間、亀が再び飛び出してきた。大小合わせ、五匹ほどいる。
「ちょっとの間だけ、ごめんな」
岩のような亀……ガンセキガメに言って緋桜ケイは詠唱を始める。慌ててソア・ウェンボリスも詠唱。
紙ペット二匹はてくてくとガンセキガメの目前に歩いていき、動きまわった。亀達の意識を彼らに集中させる。
「わらわもサポートするぞ」
悠久ノカナタは、やや遠くにいるガンセキガメ達を睨んで紙ドラゴンを取り出した。その数、八体。
「飛べ!」
悠久ノカナタに応じた紙ドラゴン達は飛翔。
ガンセキガメ二体の周りを、紙ドラゴン達はぐるぐると回り、他者を襲わないよう引きつける。
「行くぜソア!」
「はいっ!」
声を掛け合い、魔法発動。緋桜ケイの【光術】とソア・ウェンボリスの【雷術】が強い光と轟音を生み、ガンセキガメ達を驚かせる。
「ゥグヤァアアアァ!」
甲高い鳴き声を上げ、ガンセキガメ五匹は岩の隙間に逃げ帰っていく。
「邪魔はさせないぜ」
【紙ペット同好会】の傍で、飛び出してきたガンセキガメと対峙する虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)。片手にライトブレードを構え、片手で紙猫を護る。
「ゥグヤアァアア!」
高速回転し飛びかかってくるガンセキガメを【バーストダッシュ】で避ける。
できた隙に【博識】で得たガンセキガメの弱点、柔らかい尾に【チェインスマイト】を放つ。
「アァァアア!」
痛みに耐えかねてひっくり返ったガンセキガメの腹に、ライトブレードを突き立てる。ガンセキガメはそのまま動かなくなった。
「よし……。無事か?」
「ミャー」
虎鶫涼が戦闘を終え紙猫に向き合う。紙猫は喉を鳴らし、嬉しそうに鳴いた。
「このあたりの魔物は倒したか?」
注意深く周囲を見渡す。宝探しの前に、荒野の安全を確保するためだ。
「もう少し、待っててくれ」
紙猫に言って、虎鶫涼は再びライトブレードを構えた。
一方、荒野の岩場。
強い風に耐えながら、紙蛇が地を這っていた。
「蛇さん、宝探しですよ!」
張り切って荒野を進む柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)。
その後ろから、アーミーショットガンを持った東條 カガチ(とうじょう・かがち)が、周囲を見渡しながらついていく。
「なぎさん、宝探しは任せるよー」
言って東條カガチはアーミーショットガンを構えた。岩の隙間から、回転しつつガンセキガメが姿を現す。
「魔物は頼むね!」
柳尾なぎこは狭い岩と岩の間を進む紙蛇を追いかけて行った。それを確認して、東條カガチが銃弾を撃ちこむ。
射程距離に入ったガンセキガメはいくつか弾を弾きつつ失速。甲羅が硬い地面にドスンと落ちる。
ガンセキガメは甲羅に入ったまま動かない。
「おーい、出てこーい」
呼びかけつつ【クロスファイア】による十字砲火を甲羅の穴に撃ちこむ。
「ゥウグヤアァァァ!」
叫びは火の中に消える。亀は動かなくなった。
「……ところでこれ、食えんのかな?」
焼けた亀の頭を覗きこむ。と、前方から声。
「カガチー! 見つけたよ!」
大きく手を振り、紙蛇と共に柳尾なぎこが駆け寄ってきた。
「はい、カガチ。あげるー」
満面の笑みを浮かべ、彼女は宝箱を差し出した。
「おー、なぎさん、ありがとー」
釣られて笑い、東條カガチは宝箱を開く。
「……洗濯機?」
首を傾げる。宝箱の中に、おもちゃの全自動洗濯機が入っていた。
喜ぶべきかどうか悩む東條カガチ達。その前方で、紙アルパカと共に立川 るる(たちかわ・るる)が楽しそうに荒野を歩いていた。
「よろしくねー、もふもふさん」
彼女はにこにこ微笑んで、ゆったり歩く紙アルパカを見る。
本物と同じ色の、ラベンダーの香り漂う紙アルパカ。
素材が紙のためもふもふというより、もさもさといった様子ではあるが、立川るるの望んだ通りの紙ペットだった。
「もふもふさん、宝はどうやって見つけるの?」
問いかけると、紙アルパカはぴょこんと跳ね、地面に顔をつけた。
「……もしかして、見つけた?」
こくり、と頷いた紙アルパカに従い、スコップで固い土を掘り返す。力を込めて土を掘ると、金属性の宝箱が姿を現した。
「何が入ってるかなぁー」
紙アルパカを撫でながら、宝箱を開ける。中身は、スーパーボール。
「もふもふさん、これで遊ぼう! ほらっ」
立川るるがスーパーボールを投げる。紙アルパカは喜んで、ボールを追いかけた。
「これでよし、っと」
柴犬の姿をした紙わんこの首に、リボンが取り付けられた。その先を持って、双葉 京子(ふたば・きょうこ)は紙わんこを地面に下ろす。
「きゃん!」
紙わんこは、くるんと巻かれた尻尾を激しく振り、瞳を輝かせた。
「かわいい……!!」
双葉京子は紙わんこの頭をわしわし撫でる。紙わんこは嬉しそうにもう一声鳴いた。
「そろそろ行こうか、京子ちゃん」
「うんっ!」
椎名 真(しいな・まこと)の呼び掛けに頷いた双葉京子はリボンの先を引く。紙わんこは走り出した。
双葉京子は、まるで本物の犬の散歩をしているかのように、てくてくと歩いて行く。
「……魔物の気配は、ないみたいだな……あれ」
周囲を見渡していた椎名真は、ボールで遊ぶ立川るると紙アルパカの姿を見つけた。
「京子ちゃん、ちょっと……」
双葉京子を呼びとめ、立川るる達に近付く。
「もしよかったら、この子と接触させない?」
「いいよ」
立川るるは頷いて紙アルパカを差し出した。双葉京子も紙わんこを差し出す。
紙わんこの肉球がアルパカの足に触れると光が溢れ、二匹を包んでから、二匹の体の中に浸透していった。
「よかったね、もふもふさん!」
立川るるが撫でると、紙アルパカは鼻をぴくぴく動かした。そして駆け出す。
「待って!」
走って行く彼女達を見遣り、椎名真達は顔を見合わせた。
「きゃん!」
と、紙わんこが鳴き、地面を掘るような仕草を見せた。
「あれ、見つけたの?」
「掘ってみようか」
椎名真が固い土を掘り返す。宝箱が二つ、出てきた。
「一気に二つも! 凄いな」
椎名真が紙わんこを撫でる。嬉しそうに尻尾を振った。
「折角だから、開けてみよう」
それぞれ宝箱を手に取り、開ける……。
椎名真の宝箱にはチョーク、双葉京子の宝箱には鏡が入っていた。
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