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2・26反バレンタイン血盟団事件

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2・26反バレンタイン血盟団事件

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 上空のゲルデラー艦は街の中心部の激戦区の頭上に差し掛かっていた。
「戦局はどうか?」
「我々が押されています。時間の問題かと」
「ナパームだ。真上に落とせ」
「閣下!? それでは味方が?」
「味方? 所詮は寄せ集めの雑兵にすぎん」
 その数分後、無慈悲にもその一帯にナパーム弾が投下され、敵も味方も全員炎に焼かれた。

 ゲルデラー艦隊の二番艦、青 野武(せい・やぶ)が指揮官をつとめる飛行船は、大きく迂回して風上から街を見渡せるように進路をとっていた。
「絶対防衛空間禁猟区バリアー出力異常なし」
「風向き進路と同調。現在2ノット」
「KMガスシステムスタンバイ」
黒 金烏(こく・きんう)シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)青 ノニ・十八号(せい・のにじゅうはちごう)四条 輪廻(しじょう・りんね)が状況を報告する。
「ぬぁーはっはっはっはっは! まさに快調ですな! ドクター四条」
「ええ。俺の計画には1%の狂いもないのですよ。ドクター青」
 不気味なメガネっ漢、青 野武と四条 輪廻(しじょう・りんね)が艦橋でにやりと笑う。
「後方より敵機1」
「なーぜ迎撃せん」
「直援機が行方不明です」
「機銃でいいッ」

 エミナイル・フランディア(えみないる・ふらんでぃあ)は空飛ぶ箒にまたがり、機銃砲火をかいくぐって青野武艦に急接近、そして飛行船最大の弱点であるはずの胴体部に『火術』を発動させた。
 だが、一瞬きらめくような網の目が炎をはじき返す。
「どういうことよ?」
「俺たちもさっきからやってみてるけどな。どうも炎攻撃がまったく通じないみたいなんだ。この船は」
「俺たちって! 僕も一緒にするなぁっ!」
 胴体部の向こうから互いに火術を押収するマイトとニコが叫んでいる。
 まてよ。エミナイルは考え込む。こんな巨大なバリアはあり得ない。絶対に弱点があるはず。
 そんなことを考えながら飛ぶうち、いつの間にか接近しすぎた飛行船に接触、はじき飛ばされてしまう。
 悲鳴をあげてスピンする箒をコントロールするエミナイル。
 ようやく立て直したときには飛行船は遙か向こうだ。
「でもまてよ。わたくしが飛行船に接触したときバリアは発動しなかった。発動してたら生きていないはず……」
 エミナイルは携帯電話を出して電話をかける。
「もしもし、司令部ですか?」

 一方、青野武艦艦橋。
「さて、見せてもらおうではないですか。ドクター四条」
「科学と魔術、人類の2大文明の融合に乾杯ですな。ドクター青。KMガス、噴射!」
 その飛行船からでろでろとガスが降りてくる。紫色のガスである。どうみても毒ガスである。パニックになって逃げ出す住民たちだったが、たちまちガスに呑まれて咳き込み、倒れる。
 すると、そのガスの効果で全身の至るところから毛がもじゃもじゃ生えだしたのだ! 被害者は総じて原始猿人かマリモにみえる。
「ぬぁーっはっはっはっはっ。お見事ですぞドクター四条。実にくだらない! そこがよいっ!」
「うひひひひひひっ!? これですよっ。俺が孤独の最果てに求めた探した究極! ケー・モッサリーノガス。略してKMガス! みんな壊れてしまえばいいのであるっ!」
 ふたりの博士は高らかに笑い続けていた。

 そのころ、司令部ではエミナイルからの情報を受け取った小次郎が野戦砲群の砲口を青野武艦に向けていた。エミナイルは、魔術は防げても物理攻撃なら防げないのではないか? というものだった。小次郎は、
「まあ、元々広場にぶち込む予定だった大砲だ。敵さんが片付けてくれたようだし有効利用させてもらいますか」
「角度30装薬4!」
「よし、始めろ」
「てーッ!」
 ばん。ばばん。ばん。ばん。
 小次郎の砲兵隊が放った榴弾は飛行船の船体を貫き、爆発した。

 青野武艦の艦橋では非常を告げるアラームが鳴りっぱなしだった。
「第2から第8区画までのエアが抜けています」
「出力低下。第1エンジン停止。右舷傾斜10度」
「方向舵が効きません」
「ぬぬぅ……我々としたことが……ドクター四条」
「うかつでありましたな……ドクター青」
「火薬庫の温度上がっています。このままでは誘爆の恐れも……」
「黒君、兵を連れて脱出したまえ。我々は艦と運命を共にする」
「……はっ!」
 ふたりだけが残された艦橋で、青がつぶやく。
「ふふ。失敗か。だが科学には失敗はつきものである」
「俺も誰かを恨んでいたわけじゃ無い。言いようのない憎悪が、俺を魔術に駆り立てたのであろう」
「しかし、よい日であった」
「嫉妬に狂った男には上出来すぎる日だな」
 青野武艦は爆沈した。その破片は高見の見物を気取っていた小次?の砲兵陣地に飛び込んでもう一度爆発した。

 黒こげの死体が折り重なるショッピングモールでは、負傷したイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)がフラフラと歩いていた。
「誰か、誰かいないか?」
「……ここに、イリーナ隊長」
 イリーナは血盟団の負傷兵に近づく。
「どうした? 重傷か? 助かりそうか?」
「医者に行けばきっと……」
「なら死ね」
 ぱん!
「他に負傷者はいないか!? 敵味方どちらでもよい」
 イリーナは声がするほうに行って、助かりそうな場合だけ、処刑をした。
 しばらくそれを続けているうちに広場は静かになった。
「誰もおらんな?」
 しんとした広場で誰も応答するものはいなかった。
「では最期のひとりだ」
 ぱん!
 イリーナは自分のこめかみを打ち抜いた。
 それを影から見ていた椿 薫(つばき・かおる)は、恐ろしくなってその辺に止めてあった小型飛空挺を奪い、ゲルデラー艦に戻った。
 ゲルデラー艦で待っていたのは手錠だった。
 薫はゲルデラー博士の前に連れ出されると、
「貴様か。裏切り者というのは」
「何故でござる?」
「知ってるんだよね。ナガンはちゃーんと。椿薫はあっちの世界でイベントいってきたろ?」
「な、何のことでござるか?」
「声優さんからチョコレートもらったろ?」
「いや、あれはギリギリの義理チョコってヤツでござって」
「閣下。ご采配を」
「皆まで言わせるか?」
「御意。連れていけっ」
 薫はそのまま連れて行かれ、後部デッキで射殺された。
「ん? まだ用か?」
「ええ。閣下にも少々……」
 ナガンのいやらしいニヤニヤ笑いにゲルデラーは気分を害して、
「回りくどいのは好きではないのでな」
「では先に解答を」
 ナガンは拳銃でゲルデラー博士を撃ち抜いた。そしてその側近のパートナーアマーリエとロドリーゴもその場で射殺した。
 息を呑む艦橋のなか、ナガンは血の滴る艦長席のマイクをとり、
「本官、ナガンウェルロッドはゲルデラー艦隊の特別政治将校である。残念ながらゲルデラー博士は部下のチョコ受け取りを隠匿していた。これは重大な背反行為であり、即決裁判によって粛正された。よって本飛行船はナガンの直轄指揮とし、新たな命令としてヒラニプラへの進路回頭を命ずる!」