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2・26反バレンタイン血盟団事件

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2・26反バレンタイン血盟団事件

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 団長のいる校長室への廊下では、鬼崎 朔(きざき・さく)の率いる血盟団と皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)を中心とした近衛軍が戦火を交わしていた。血盟団は10センチ刻みで死傷者を出しながらじわじわと校長室に兵をすすめる。
「これ以上賊軍の侵入を許すなーっ! 近衛の矜持に賭けても団長をお守りするのだ!」
 伽羅はバリケードの最前線に身を乗り出して羽根扇子を振るう。
パートナーの うんちょう タン(うんちょう・たん)皇甫 嵩(こうほ・すう)もいっしょだ。
「我々は団長にお渡ししたいものがあるだけだっ! 無用な死者を出さぬよう、道を空けよっ」
 鬼崎 朔(きざき・さく)が叫ぶ。
「それならばあなたたちが武器を棄てて投降しなさい。裁判は公平におこなわれますっ」
 伽羅の物言いに、朔は説得を諦め、総軍突撃の命令を下そうとしていた。
 そのときだった。
 白旗を掲げ、近衛軍のバリケードから十字砲火の中を進み出てくる少女がいた。
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)だ。
「全軍打ち方やめーいっ! 撃つなっ! 軍使であるッ撃つなッ」
 朔が血盟団側に叫ぶと、両陣営の銃火はぴたりと治まった。
 祥子は怖じ気もせず、血盟団側に歩いてくる。
 朔もそれを迎え入れ、向かい合って敬礼する。
「お待ちしておりました」と朔。
「それでは残念なお知らせになってしまいますね」と祥子。
「と言いますと?」
 祥子は懐から取り出した一枚の紙を拡げて朗読した。
「団長のお言葉を伝えます『『私ガ最モ信頼セル生徒ヲ悉ク倒スハ、真綿ニテ私ガ首ヲ締ムルニ等シキ行為ナリ。私自ラ近衛連隊ヲ率ヰテ、此レガ鎮定ニ当タラン』……以上です」
「……団長は誤解されているのです。どうかこのアタッシュケースを団長に。これで全てがよい方向に変わるのです」
 朔は万に一つの可能性を信じて、この敵将校にアタッシュケースを差し出した。
「……大変残念ですが、それは私の任務ではないのです。お許しください」
「わかりました。お互い、ご武運を」
 ふたりは姿勢を正し、敬礼をかわす。
 そして背を向けてそれぞれの陣地に帰っていった。
 そのときだった。
 血盟団側から一発の銃弾が発射され、その弾は祥子の背中に着弾し、体内組織をジグザグに引き裂いてから貫通した。
「くはっ……!?」
 お互いがにらみ合うちょうど真ん中で祥子は倒れた。
「誰だ! 誰が撃ったーッ!?」
 朔の悲痛な怒号も再び再開された乱戦に全てがかき消されてしまった。
 軍使の処刑に色をなした防衛軍がバリケードから飛び出して突撃してきた事が血盟団にとっての絶好のチャンスになった。
「ぬふふふふ。わしにまかせておくのじゃ」
「ファタ? いったい何をするつもりだ」
 びっくりした朔が聞き返すがファタは聞いていない。
「わきゃー! くらうのじゃー! ファイアーストームじゃー!」
 ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)はこの気を待っていたかのようにファイアストームを繰り出した。廊下で、である。
「んふふ。大戦果であるのう」
 自らも真っ黒焦げになったファタが感慨深げに言う。
「大損害だよ! 味方まで殺してどうする? ってオイ、大丈夫か?」
「ぶへごほぶは。ふにゅー。わしももう年貢の納め時かも知れないのうー」
 がく。
 ぱた。
 ファタ・オルガナ、壮絶なるマッチポンブ死であった。
 それによって両軍は戦意をそがれ、再び膠着状態に入った。

 ちょっと高見の見物のつもり、で混ざり込んでみたはずの羽高 魅世瑠(はだか・みせる)とそのパートナーフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)は、最高のアリーナ席に招待されてしまっていた。
 つまり最前線である。
 通路から顔を出したとたんに銃撃されるんじゃどうしようもない。
「おい、魅世瑠」
「なんでしょう?」
「援護するから突撃してくれないか? 教職員室まで行って橋頭堡を作って欲しい」
「えええええ」
「わかった。自分が行く。指揮官の役目だからな」
「ちょ、まってよぉ。解りました行きます行きます」
 と、言ってしまったのはいいけれど、階段に繋がる通路から教職員室のドアまでのほんの数メートル。銃弾の飛び交う中をなかなか走れる距離じゃない。
「煙幕だ。ガス弾投擲ッ!」
 煙幕で廊下が曇り、援護射撃が始まる。
「いくよっ! みんなっ!」
 魅世瑠がパートナーたちに呼びかけて走り出す。
 あと3メートル
 あと2メートル 
 銃弾が耳のそばをかすめる独特の音がする。
 あと1メートル
 たどり着いた!
 ドアを開けて中に転がり込む。
 だが、一安心したのもほんの束の間の出来事だった。その部屋に待ち構えていたのは【最終兵器】の称号を持つ者、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)とその護衛にあたる精鋭兵士鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)だったのだ。
「げ。これって死亡フラグ?」
「そうかもしれないねっ♪」
 ルーはかわいらしい声でそう答える。ルーは一見すればただの少女なのだ。その両手に五キロは軽く越える軽機関銃を装備していなければ。
 魅世瑠は奥歯をかみしめた。
 こんな上から目線のリア充ヤローに殺されてたまるかってーの。しかも可愛いしぜってー許せねー。
「死亡フラグ撤回。キミはアタシらのラスボス戦な」
「へえ。伊達に最終兵器じゃないのよ。悪く思わないでね?」
 ルーの目つきがぎらりと変わった。

 皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)とそのパートナー、そして昴 コウジ(すばる・こうじ)は、味方の近衛兵が全滅した中、たった4人で戦線を支えていた。
「昴、あなたは逃げるのです」
「僕は皇甫に弱みを握られているからな。そういうわけにもいかない」
 そういってコウジはにやりと笑った。
「昴……」
「ひとりでも多く道連れにして玉砕するであります」
「ならんならんのですぅっ! では弱みを握っている特権として命令ですうっ。昴、逃げなさいっ」
「逃げ道ってのはこっちでありますな?」
 そういってコウジは単身血盟団に突撃をかけた。
「まってっ! もう……最期まで。私も逝くですよぅっ!」
 伽羅たちも後を追う。
 血盟団の機銃陣地に向けて。 
 全身に銃弾を浴びた伽羅は涙を浮かべ、
「団長……お慕い申しておりました……」
 そう言い残して花のように散った。

 近衛兵全滅は朔たち血盟団にとっては血路が開いた瞬間であった。
 だが時すでに遅く、非常事態を聞きつけて戻ってきた空京派遣軍が新たに現れたのだ。
 今の血盟団に敵の増援部隊と交戦する戦力はない。
 血盟団は全軍撤収を決めると、あらかじめ撤収ポイントとして定めてあった砲術科実験棟へ引き上げていった。

 教職員室でも魅世瑠たちが無残に倒れていた。
 はじめから結果のわかった勝負だったのだ。
「俺はちょっと外の様子を見てくる……」
 鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)はそういって部屋を出た。
 脇腹をえぐり取られた深手を隠すようにして。そしてそのまま敵味方の死体が入り交じる廊下に倒れた。
「フッ……戦死者のベッドの上か。俺らしい死に方かも知れぬな。俺を見て父上は何というかな」
 真一郎は薄れ行く意識の中でほくそ笑んだ。
 そのころ、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は真一郎を待ちわびていた。
「おそいなぁ……なにしてるのかなぁ」
 イヤな予感が予感がよぎる。真一郎はいつも何も言わずに自分を守ってくれていた。何かあったときは必ず笑顔だった。
「まさか……」
「そういう事だよっ!」
 いつの間にか背後から抱きついてきたのは死んだはずの羽高 魅世瑠(はだか・みせる)だった。血まみれの手に持っているのは対戦車用集束手榴弾だ。じりじりと信管の燃える音がする。
「今どきのザコキャラはタダじゃ死なないのさ」
「……!?」
 爆発の轟音と共に、教職員室中の窓が吹き飛んだ。