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ちーとさぷり

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放課後1

 松田ヤチェル(まつだ --)が教室を出ると、誰かが隣に付いてきた。
「昼間、クラスの子たちが話してたことだけど」
 クロト・ブラックウイング(くろと・ぶらっくういんぐ)だ。
「何か、気にしてるみたいだな」
 と、ヤチェルを見る。
「……うん。カナ君がね、ちーとさぷり、飲んでるかもしれなくて」
 視線を下げるヤチェルだが、歩みを止めることはない。
「もしよければ、協力させてくれないか?」
「え?」
 クロトは携帯電話を取りだした。
「オルカも呼ぶよ。人は多い方が良いだろう」
 と、パートナーのオルカ・ブラドニク(おるか・ぶらどにく)へ電話をかける。
 その様子を見て、ヤチェルも携帯電話を手に取る。確かに少人数で行くよりも、大人数の方がいい。ヤチェルは友人たちへ連絡を入れた。

「ああ、心配だよ! ねぇ里也、一緒に探してよ!」
 と、電話しながら大きな声を上げるブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)。パートナーである鬼崎朔(きざき・さく)の姿をここ最近見ておらず、とても心配している様子だ。
 しかしカリンは、通話相手の尼崎里也(あまがさき・りや)から突き放されてしまう。
「えっ!? やることって、ちょ、心配してないの!?」
 そして一方的に切られてしまう。カリンは「あーもう! いいよ! ボク一人でも探すんだから!」と、携帯電話をポケットにしまうと、階段を降り始めた。
「うわ、それマジで本物?」
「もちろん。この前店に行って買ってきたんだ」
「でもそれって、確か……」

「飲むと副作用で記憶がなくなる、という薬ですね」
 ショートカット同好会の部室で本郷翔(ほんごう・かける)がそう言った。
「副作用、なの?」
 ヤチェルの問いに翔は答える。
「元々は能力を強化する薬で、空京でしか手に入らないものだそうです」
「なるほど。それで叶月は記憶を失くしてしまったわけだ」
 と、呆れたように里也は言った。カリンからの電話よりも、里也はショートカット同好会としての活動を重要視していた。今回は会長のパートナーが怪しい薬を飲んでいるという緊急事態である。
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が最も重要な疑問を口にする。
「能力って、何の能力なんですか?」
「体力強化や魔力強化など、いろいろな種類があるようなので、それは分かりません」
 と、翔が残念そうな顔をする。
「薬で強くなろうなんて、馬鹿げたことを……」
 と、溜め息をつくレン・オズワルド(れん・おずわるど)
「ヤチェルん、大丈夫?」
 通う学校は違うものの、ヤチェルから連絡を受けてやってきたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、落ち込んだ様子のヤチェルを心配する。
 ヤチェルはルカルカへ笑って頷いたが、心の中は不安で溢れていた。
「一発殴って、目を覚まさせなきゃならないな」
 と、ソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)は励ますように言ったが、やはりヤチェルの耳には入らない。
「何だか、大変なことになってるな……なぁ、エル?」
 事情を飲み込んだ土御門雲雀(つちみかど・ひばり)がパートナーのエルザルド・マーマン(えるざるど・まーまん)を見ると、彼は笑った。
「そうだね、叶月がそんな奴だとは思わなかった」
 しかしその目は全く笑っておらず、真剣だ。それに気づいた雲雀は何だか嫌な予感を覚える。
 ふいに扉がノックされ、如月正悟(きさらぎ・しょうご)が入って来る。
「失礼します。ショートカット同好会の方々に見せたいものが――」
 と、中へ踏み入り、室内の空気が重いことに気付く。
「もしかして、それどころじゃない感じ?」
「会長のパートナーが大変なことになってるんだ」
 と、一番近くにいたオルカが返す。「大変なこと?」
「ちーとさぷりを飲んで、記憶を失くしちゃったの」
「これから彼の元へ行こうとしてたところだ」
 正悟は納得した。
「ああ、聞いたことあるよ。俺も、付いて行っていいかな?」
 ヤチェルが頷く。
「うん、ありがとう」
 そして席を立ち、思いを振り切るように大きな声を出す。
「カナ君を助けに行くわよ!」

 部室を出て歩いていると、ヤチェルの行く手に邪魔者が現れた。
「ここで会ったが百年目! 今日こそ、ロングの良さを叩き込んでくれるっ」
 シャイニング・ケンリュウガーの衣装をまとった武神牙竜(たけがみ・がりゅう)だ。
「ごめん、後にしてくれる?」
 と、ヤチェルが言うと、ケンリュウガーは慌てた。
「じゃ、じゃあ、せめてこれだけでも!」
 そう言って手にしたポスターを広げて見せる。そこに書かれていたのは『ちーとさぷり撲滅キャンペーン』の文字。
「あ……!」
 それは牙竜が一人で立ち上げ、自らイメージキャラクターとなり開始したキャンペーンだった。
「それよ! カナ君がその薬飲んでるの!」
「何!? それは放っておけないな」
 すぐにケンリュウガーは状況を飲み込むと、ヤチェルたちに付いて行くことを決める。