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終章・2 密かな守り手と懲りないやつら

 ――季語はナシ つはものどもが 夢のあと
「一句できたじぇ。でも季語がないから、俳句じゃなくて川柳なんだじぇ」
 巨大な城郭の如き「蒼空サッカー試合会場」。それを遠目に眺めながら、メトロ・ファウジセンは呟いた。
 イベントが無事に終わって本当に良かった。彼女は心底そう思ってた。
 若干の怪我人は出たものの、(一部警備員の暴走もあるが)大抵が観客自身の暴走をきっかけとしているし、試合中の選手のケガもほとんどが選手の間で治癒が為されている。
 だが、彼女が一番心配していたのは、選手のスキルシュート、スキルキックの類が客席に飛び込んだら、というものだった。
 試合中、選手達がエキサイトしてきて、プレー内容がだんだん人外の境地に近づくのは誰もが――そう、実行委員幹部会の誰もが予想していた。
 が、メトロ・ファウジセンが本当に恐ろしかったのは、「もしも観客がその巻き添えを受けたら」という発想が誰にもなかった事だった。
 ――大会企画のかなり早い段階から、メトロ・ファウジセンは実行委員幹部会の補助員として招聘されていた。「経理」ができるということから、金勘定の処理の補助をして欲しい、という主旨だった。
 彼女は必死になって、幹部会を説得した。通常のフィールドの広さでは、間違いなく大惨事になる、と。パスカットやシュートブロックなどで行き場を失った人外のボールは次々に観客席に直撃し、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がるだろう、と。
 ――そんな事態を避けるにはどうすればいいか? 観客の安全を守り、大会を成功で終わらせるには?
 考えに考え抜いた彼女が出した答えは、「競技フィールドを巨大にする」という事だった。
(実際にプレーが展開される領域をあらかじめ編み出し、その領域からフィールドの境界――すなわち観客席までの距離を限界まで広げ、例え「流れ球」が飛んで行ったとしても、観客席まで届かないようにする)
 その発想は間違っていなかった、と自負していた。実際、試合で選手達の動き回っていた領域は、両ゴールを結ぶ直線を軸とした、南北500メートル程度。何度も繰り返したシミュレーションの精度は、かなり高かった。
 これまで、何度耳にした事だろう。「広すぎる」「巨大だ」「このフィールドの広さはない」etc――
「でもね、これは必要だったんだじぇ?」
 メトロ・ファウジセンは、もういない選手や実行委員、観客達に向かって話しかけた。
 観客の安全を守り、大会を成功させる為のよりよい方法は、おそらくあっただろう。
 けど、現時点では「フィールド巨大化」が最善手だと思った。
 これからもまた批判はされるに違いない。時には嘲笑され、罵られる事もあるかも知れない。
 けど、自分は最善を尽くし、望む結果を勝ち取った。例え誰が何と言おうと、それは揺らぐ事はない――
「ふっ」
 自分だけが知る誇りに、彼女はひとり微笑む。
 そして会場に背を向けて、歩き出した。
「でもまぁ――今度はもっと、うまくやるじぇ」

 同じ頃。
 その通達を受けて、彼らは言葉を失っていた。
「……これって本当でしょうかね?」
 神和綺人が、少し強張った声で言った。その手元には、一枚の書類がある。
 「夢のあと」とメトロ・ファウジセンがうたった、「蒼空サッカー試合会場」。試合が終わった今、ここは「蒼空学園第八キャンパス(仮称)建設予定地」に戻った。
 そのはずなのに。
「本物じゃないですか? 蒼空学園校長のハンコついてありますし」
 クリス・ローゼンが書類の一画を指さす。
 書類の要旨は以下の通り――
  「現在、蒼空学園ではスキル使用のスポーツ大会の次回の企画を検討中。
   大会会場はそのままで維持」
「またやるのか」
 ボソリとユーリ・ ウィルトゥスが呟いた時、神和瀬織は「ごほん!」と大げさに咳払いをした。
「怒らないから、みなさん正直に答えて下さい。
 次は選手として出たい、出ようかな、と思った人は手を挙げて」
 ――誰が手を挙げた、という事は、詳細には語るまい。
 ただ「手を挙げない者はいなかった」、と記すに留めておく。

 ――蒼空トンデモスポーツ大会、次回開催の気運有り。
 そのニュースは、瞬く間にシャンバラ地方全体に広まった。
 知恵と力と経験と、そしてスキルが衝突しあう熱狂と昂奮が再び来るのか!?
 知らせを聞いて、シャンバラの片隅で立ち上がる者がいる。
「今度こそ……今度こそ!」
 ボロボロの着ぐるみをまとったゆる族が、大地を踏みしめ己に誓う。
 その名は、キャンディス・ブルーバーグ。張り倒されても、その心は折れていなかった!
「今度こそ、きっと空京オリンピック競技種目に違いないのネ! 代表選手選考会を兼ねているだろうから、今度こそ、コレをキッカケにしてミーはマスコットに……!」
「そんなわけあるかっ!」
 茅ヶ崎清音は、その後頭部を力の限り張り飛ばした。

 もうひとつ、付け加えておこう。
 シャンバラ地方の一隅に、頭がなぜかモヒカンになっているゴブリンの一団が存在する。
 最近そのゴブリンが、少し変わった事を始めた――という噂が一部に流れ始めていた。
 何でも長い事姿をくらましていたゴブリン達のリーダーが復帰し、彼らにサッカーを教えているのだという。
 練習試合をする時には、リーダーが審判を努めている。
 笛を吹く前には、そのリーダーは毎回必ずこう口にするのだ。
「正々堂々と、試合開始」




(「蒼空サッカー」・完)

担当マスターより

▼担当マスター

瑞山 真茂

▼マスターコメント

 お待たせいたしまして、本当に申し訳ございません。
 「蒼空サッカー」のマスターを務めました、瑞山真茂と申します。
 新人の分際で10日以上も締め切りを遅らせて、恥じ入る思いです。
 以前より考えていた
 「剣と魔法の世界で行うスポーツってどうなるのかな?」
 「とにかく大きなフィールドでやるサッカーってどうなるんだろう」
なんていうネタのストックと、
 「キャラが立つのは戦闘シーン! だったら戦う両者をプレイヤーキャラクターにすれば効率的!」
 「ガチの戦闘は後味悪い、それならスポーツならいける?」
 「ストーリーの伏線とか考えなくていいから、スポーツものって楽じゃないか?」
という思いつきを組み合わせたものが、今回のシナリオ「蒼空サッカー」でした。

 リアクション本文を書き終えた今、上述の思いつきが極めて短絡で危ういものだった事を強く強く思い知らされております。
 ボール動きひとつにも、試合参加プレイヤーの様々な思惑が交錯し、関わってくる情報量は膨大かつ多層に渡る事をつくづく痛感いたしました。
 また、曲がりなりにもサッカーという題材を扱うのに、マスターサッカー知識といったら学校の体育の授業程度だった事も、色々と見通しが甘くなった原因と思います。
 そして何より驚き、自分の力不足を痛感したのが、プレイヤーの皆さんが送って下さったアクションの数々でした。その込められた熱たるや新人マスターの想像を遙かに超えるものであり、「サッカーってこんなに人気のあるものなのか!?」と世間知らずのマスターは心中で腰を抜かしたものです。
 その熱に答えるべく、できるだけ力を振り絞りましたが……少なくともマスターの第一条件である「締め切り」を守れなかった事は反省しております。
 改めて、本当にすみません。

 書き方について。
 本シナリオは、場面ごとに登場人物が入り乱れるめまぐるしい構成となりました。
 書いてるマスターの方ができるかぎり混乱を避ける為、
 1.初登場でなくても、日本人名はフルネームで記述
 2.初登場で日本人名でなくても、久しぶりの登場と思われた時にはやはりフルネームで記述
という体裁を取りました。
 また、作中「紅の○番」「白の○番」という呼称が頻出します。
 こちらについては、
   その場面で主体or語り手っぽい立場になっている人物から見て
   呼称される人物が「知り合い」以上の関係にない(初対面と判断される)場合
「〈チーム名〉+x番」という呼び方と致しました。
 読者様にとっては理解しにくい書き方となりましたが、臨場感を高める為にマスターなりに努力した、という事で何卒ご容赦下さいませ。

 あと、念のために申し添えておきます。
 若干名のプレイヤーキャラクターが「会場設営担当」という事で作中でアクションされておりますが、「城郭のような」と謳われる試合会場は、そのキャラクターだけで建築されたわけではありません。
 主要な建築は専門の業者が急ピッチですすめたものであり、「会場設営担当」各位はあくまでそのお手伝い、という事ですのでお間違えなきようお願い申し上げます。

 また、本リアクション内で各種スキルの効果その他がかなりオーバーに表現されておりますが、実況担当のキャラクターが言っているように、「この試合は、一種の奇跡」「選手達の濃ゆい時間が為せる技」「コンビ技なんて、多分二度と出せません」という事でご理解下さい。
 他のマスターのシナリオにおいては、複数のキャラによるスキルを組み合わせたコンビネーション技はもちろん、「奈落の鉄鎖」で時速200キロ単位の移動をしたり、「バーストダッシュ」「軽身功」で数十メートル単位のハイジャンプというのもなかなか難しいかと思います。どれほど絆が強かったとしても、突然精神感応で会話をするというのも実現は困難かと。
 一種の「お祭り」限定の各種奇跡、という事でどうかご了承下さいませ。

 さて、新人マスターの二本目シナリオにも関わらず、参加を表明して下さったプレイヤーの皆様には、どう感謝の言葉を申し上げれば良いのか分かりません。
 中には、前回私が担当しました「バーサーカーとミノタウロスの迷宮」に引き続いて参加して下さったプレイヤーもいらっしゃいまして、当方感謝感激の至りでございます。
 膨大な長さとなってしまったのは当方の力不足による所が大きいですが、それでも最後まで書けたのは、皆様方の「自分のキャラにこんな事させたい」という熱いアクションをいただけ、その熱に支えられたからなのは間違い在りません。
 遅延を筆頭に、色々と反省の多いリアクション執筆となりましたが、今後の糧としていきたいと思います。

 次のシナリオで皆様とまたお会いできることを願いつつ、ひとまず筆を置く事にします。
 お付き合いいただき、ありがとうございました。