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第1回 ヤマハGP~空京・秋の陣~

リアクション公開中!

第1回 ヤマハGP~空京・秋の陣~
第1回 ヤマハGP~空京・秋の陣~ 第1回 ヤマハGP~空京・秋の陣~

リアクション

 1.スタート!


 10月の空は青く、日差しは穏やかであった。
 
 御神楽777号線「並木道側始点」。
 午前11時半。
 
 閑静な住宅地にあるそこは、ごくありふれた空京の公道だ。
 2車線しかないのは、交通量が少ないことを現わしている。
 そこが注目を浴びるのは、「紅葉」の時期と、年に数回あるイベントに使われるような時。
 
 そう、例えばこんな風に――。
 
 ――さーあ、あと30分で!
 いよいよ、『第1回 ヤマハGP』のスタートです!
 
「実況席」の卓上マイクを前に、鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)はアナウンサーとして熱弁を奮っていた。
 机上に片足をかけて、ノリノリだぞ!
 
 ――……会場となるここ、御神楽777号線『並木道側始点』の車道では、只今レース前の『開会式』が開かれています。
 車道の中央では、現在咲夜 由宇(さくや・ゆう)さんによる『幸せの歌』が熱唱されていますね。
 ええ、ギターを用いての弾き語りです。
 由宇さんはこの日にかけて、『演奏』の特技と超感覚を使って音感を高めたそうで……
 おお! そういえば、こころなしか会場も盛り上がってきたぞおーっ!
 
 さ……て、では『第1回 ヤマハGP』のコースを説明しましょう!
 スタート予定時刻は、正午。
 ここ、『並木道側始点』を出発した後、参加選手達は第1ポイントの『S字カーブが続く並木道』を。
 第2ポイントである『底なし沼』を。
 第3ポイントである『急こう配の坂道』を。
 それぞれ抜けて、短い直線勝負を経て、ゴール!! となります。
 
 あ、と。ここで、中継の狐樹廊さんとつながったようですよー!
 狐樹廊さあーん!!
 ……音声の調子が悪いようですね。
 救急箱を抱えた春日井 茜(かすがい・あかね)さんが、混戦の予想される底なし沼付近に待機しているとの情報でした。
 なお狐樹廊さんは、レースある所どこへでも飛んで行って、勝手に「空京を乱すような活動をする者」達を制裁しに行くそうですよー♪
 これで、安心して皆さまレースに臨めますね!
 
 それではここで、今回注目のレーサーを紹介しましょう!
 
 まず、志方 綾乃(しかた・あやの)高性能 こたつ(こうせいのう・こたつ)選手のペア。
 綾乃選手は『しびれ粉』をばら撒き、こたつが『加速ブースター』でロケットスタート!
 『機晶ロケットランチャー』、『六連ミサイルポッド』、『クロスファイア』で乱射して、独走する算段だ――っ!
「これで、史上初!
 こたつさんの優勝は、ほぼ間違いないです!!」
 
 南 鮪(みなみ・まぐろ)選手はスパイクバイクで参戦だ!
「夜魔覇慮迂餌」と書かれたのぼりをはためかせ……。
 ……て、え? 最下位を目指すため、と紹介文にはありますが?
「おお! そうだぜぇ!
 山葉の唇を独り占めするために、俺より後を走る奴は許さねぇ!」
 
 葉月 ショウ(はづき・しょう)選手は「配達用ローラーブレード」でゴールを目指します。
「バーストダッシュでロケットスタート!
 沼は氷術凍らせて、ラストは飛空艇にでも鉤縄を引っ掛けて引っ張らせるぜ!」
 
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)選手も、同じく「配達用ローラーブレード」での出場です。
「スポーツの秋だよ♪
 それに、道路の修繕個所もチェックしなくならないしね。
 これも大切な親友・涼司のためだよ! 頑張らなくっちゃ!」
 
 ジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)選手は自転車に跨り、周囲を見渡しています。
「俺は魔王だからな!
 妨害に屈し、レースをあきらめようとする者がいたら激励するのだ!
 さらに、鬼神力を開放し、乗り物ごと担いでいってやるぞ」
 
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)選手は、レッサーワイバーンの前にイルミンスール生の参加者達を集めて、
 何やらごにょごにょ話し込んでいますね。
「いいか?
 底なし沼では必ず橋を渡るんだ!
 他校の選手は落としてやるからな……て、取材はシャットアウトだぞ!」
 
 ……以上、注目選手達へのインタビューでした!
 
 いま入ったニュースです。
 参加の予定でしたロイ・グラード(ろい・ぐらーど)選手は、前夜に機昌ロケットランチャーで道の破壊活動に出たとのことで。
 前夜のため「ヤマハGPの何でもあり!」ルールが適用されないことから、現在、テロリストとして空京警察に現在拘束中です。
 また道にあらかじめ大量にばらまかれてありました、
 
 ・バナナの皮
 ・こんにゃく、
 ・塗りたてペンキのゾーン
 ・ゴキブリホイホイ
 ・蜂の巣
 
 の障害物は、アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)の偵察としてレッサーワイバーンで見回っていた葉月 可憐(はづき・かれん)選手が、破壊工作、光条兵器(ガトリングガン)を使って取り払われたそうです。
 イタズラをしかけた当事者の遠野 舞(とおの・まい)選手に、インタビューしてみましょう!
 遠野選手、いまのお気持ちは?
 ……溜め息です、か。
 ちなみに遠野選手は「徒歩」で参加の予定でしたが。
「乗り物」による参加ではないため、既に失格が決まり、委員により「失格者」席へ拘束されております。
 なお、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)イルマ・レスト(いるま・れすと)は、山葉の「賞品」の噂が本当かどうか?
 判官として確かめるべく、沿道で待機。
 日下部 社(くさかべ・やしろ)はディテクトエビルで警戒し、山葉が万一の時に備えて身代りになるべく、メガネをかけて変装する準備に入ったそうです……。
 
 ……開始、5分前ですか!
 山葉校長が……車道脇のスタート台に向かった……ですか?
 信号機が、あ! 今赤から黄色へ変わりました!
 そろそろスタートのようですね……。
 
 ■
 
 ……信号が総て「青」に変わる。
 
 パンッ!
 
 山葉がスターターピストルを鳴らす。
 かくして「第1回 ヤマハGP」は幕を開けたのだった。
 
 さあ、皆様!
 優勝目指して頑張って下さいね♪
 
 ■
 
 まず、開始早々勝負に出たのは、鬼崎 朔(きざき・さく)
 蒼空学園からイルミンスール魔法学校に転校した彼女は、大の山葉ギライだ。
「イルミン生の優勝を誓って!
 私は手段は選ばないですよ!」
 そう宣言して、「花咲じじい」の如くしびれ粉を撒き散らしてから、ワイバーンに飛び乗った。
 小型飛空艇ヴォルケーノのスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)と、小型飛空艇オイレのアテフェフ・アル・カイユーム(あてふぇふ・あるかいゆーむ)が後に続く。
「恨むなら、私をはめた山葉校長を恨むですよ!
 詳しくはシナリオ『ホワイトバレンタイン』を参照です!!」
 
 これで、レッサーワイバーン以外の乗り物で参加したか、殺気看破等の危険回避スキルを使用していなかった参加者達の行動が遅くなってしまった。
 スタートダッシュを図ろうとした者達も、一様に歩くこと以外ままならない。
 
「おのれ! 朔!」
 志方 綾乃は高性能 こたつを抱きしめて悔しがる。
「けれど、私は諦めません!
 私の大事なこたつさんの、優勝のため!!」
 ていっ!
 綾乃は、先頭目掛けて『毒使い』で毒を塗った『アウタナの戦輪』を『サイコキネシス』で誘導。
 『ブラインドナイブス』で、死角から飛ばした刃で攻撃を掛けた。
 が、これはレッサーワイバーンの速度と自身の行動の遅さで、距離が出来てしまって届かない。
「けれどしびれ粉の影響は、10分程度で収まるはず!
 ここは、後半の巻き返しに備えましょう!」
 
 だがその時、こたつの後ろに魔性の影。
「ふっふっふ、そうはいかないのですよ、綾乃さん」
 しびれ粉でままならぬ体を、やっとのことで起こすと、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)はスパイクバイクのエンジンを吹かせた。
「これで! 皆様も道連れです!
 ごめんあそばせー♪」
 
 バンバンバンバンッ!
 ぎゅるるる……っ!
 
 スパイクバイクを暴走させつつ、奪魂のカーマインで見境なく参加者達を攻撃する。
 急な行動ゆえ、気づかぬ参加者達も多い!
 その結果、朔の術にハマった者の内で、『バイク系』より遅く禁猟区などの危険察知手段のなく、『ディフェンスシフト』等の防御魔法さえ無い参加者達が犠牲になった。
 対象者は、以下の者達。
 
 綾乃、こたつ、南 鮪、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)伊東 武明(いとう・たけあき)、葉月 ショウ、ルカルカ・ルー、ジークフリート・ベルンハルト。
 
「これもすべては、山葉校長様の偉大なる『ルール』のお陰ですね。
 何て素晴らしいのでしょう! おほほほー……」
 高笑いしつつ、自身もコースアウト!
 優梨子を含む9名は、車道脇に併設された「失格者席」へと移動した。
 
「ダリルぅーっ! 涼司のため、調査は頼んだよ!」
「ま、俺ぁよぉ。山葉とキス出来るならよぉ、どっちでもいいぜぇ!」
「えーん、こたつー……っ!!」
「い、いや俺は魔王だ!
 こんなことでは、諦めんぞおおおおっ!!」
「では、武明さん。お弁当は席でゆっくり食べましょうねー♪」
「はい、歩さん。ここからでも紅葉は見られそうですしね!
 あなたもいかがです? ショウ」
「っるせー! こうなったら、弁当でも自棄食いしてやらぁ!」

 ……等々。
 様々な怨嗟の声を飲み込みつつ、ほとんどの乗り手達は席へと移動して行くのであった。
 
 だがその一方で、極めて少数ではあったが。
 スキルはなくとも、優梨子の魔の手を逃れた者達もいる。
 ユニコーンに乗ったアリス・テスタインと岬 蓮(みさき・れん)だ。
 
 どうして助かったのか?

「アインが用意してくれた氷術で作った壁に、激突したからだよ☆」
 蓮は割れて溶けはじめた氷のかけらを指さす。
「優梨子さんはこれで、コースアウトしちゃったみたいだね。
 ワザと氷にぶつかってきたみたいだったけど?
 頃合いを見て『失格』になるつもりだったとか……考え過ぎかな?」
 蓮は首を傾げつつ、レースへ復帰する。
 対照的に、アリスはいつまでもパートナー達に礼を言っていた。
「だって私の場合は、パートナー達のお陰。
 可憐と魔鎧のリンフォースが、危険を知らせてくれたのですからぁ〜!」
 ニッコリと笑顔。
 葉月 可憐はレース参加者ではあったが、主にアリスを勝たせるべく偵察を中心に働いていた。
 ゆえに可憐はいち早く危険を空から察知して知らせ、魔鎧のリンフォース・アルベルト(りんふぉーす・あるべると)はエンデュア、ファランクス、博識でアリスを守りきったのだった。
 何事も備えあれば憂いなし、の好例だろう。
 
 ではレースは序盤戦、最初のストレートへ。