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その正義を討て

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その正義を討て
その正義を討て その正義を討て その正義を討て

リアクション

 君は憶えているだろうか、君の心が初めて正義に震えたあの日のことを。
 君は憶えているだろうか、君の拳が初めて正義を宿したあの日のことを。

 正義と悪は表裏一体、世界には正義と同じだけの悪がひしめいている。
 だからこそ、今一度その拳に問う。


 ――正義とは、何か。


 『その正義を討て』

第1章

 のどかな街の昼下がり。12月の空は冴え渡り、冷たくはあるが心地のいい風を流してくれる。
「え、ええ? あの、困りますぅー」
 だが、その風が届かない場所もある。例えば、人の気配のない裏路地などがそうだ。
「のー? そう言わんとちくっと付きおうてくれたらええんじゃのー」
 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)は友人を訪ねて初めてこの街にやってきた。ツァンダ近辺では比較的大きいこの街を、手元の地図を見ながらきょろきょろする彼女はさぞかし頼りなげに見えたであろう。
 まさに餌食。
 早速ナンパと称したチンピラの連れ込みに引っかかった彼女である。
「わ、私、お友達に会いに来ただけなんです。だから急いでるんですー」
「ほやからワシらが連れてってやるっちぇっちゃるがねー」
 何語なんだそれは、という謎の言語でナンパ文句を並べ立てるチンピラ四人。
 結和は基本的にお人よしで断るのが下手で引っ込み思案。いくらチンピラとはいえ、にべもなく断って傷つけるのは本意ではない。だが、このまま放っておいたらどこに連れ込まれるか分からないのも事実。
「……困りましたねぇー」
 小声で呟く結和。チンピラは断りきれない結和を脈アリと感じているのだろうか、ますますしつこさを増してくる。

 その時、頭の上から声がした。

「よお、困ってんのかお嬢ちゃん?」
「え?」
 結和が顔を上げるのと、目の前のチンピラが上から降ってきた男に蹴り潰されるのとは同時だった。声も上げずに潰されたチンピラの代わりに仲間の三人がインネンをつける。
「何じゃあワレェいてこますぞコラァア!」
 上から降ってきた男は、問答無用で殴りかかるチンピラ三人をこれまた問答無用で殴り返していく。最後の一発は、すでに倒れかかったチンピラの頭上を通り越し、ビルの壁に大きな風穴を開けた。誰が修理するのだろう。
 こちらを見たその男は、あちこちにリベットの付いたレザースーツを着て、顔に仮面舞踏会で使うようなマスクをしていた。

「きゃあぁぁぁ!」
 数秒の後、結和は完全にノックアウトされたチンピラを尻目に、その謎の男に抱きかかえられて街の上空にいた。
 道に迷ったという結和を道案内するべく、その男は彼女を抱え大きく跳ね上がったのだ。
「俺に任しときな! 行きたいところに連れてってやるぜ!」
「み、道はご存知なんですかー!?」
 男の跳躍力とスピードは凄まじく、しっかりと抱えられていながらも結和は振り落とされないように必死だ。
「……いや、俺もこの街初めてだからなぁ」
「えぇー!? それじゃ道案内できないじゃないですかー!? あなたいったい何なんですかー!?」

「俺はブレイズ・ブラス! またの名を『正義マスク』! ――今日からな!!」
 いや別に名乗れと言ったわけでは。という言葉も発せぬまま、ブレイズに強制的に連れまわされる結和だった。


                              ☆


 もう大丈夫だから、と言い張る結和を降ろしたブレイズはまた次の人助けへと向う。
 その前は道を渡れないご老人のために車を止めてやった。力づくで。そのために車の一部がクラッシュし交通渋滞が巻き起こっている。 
 その前は同胞であるパラ実の生徒が他校生徒からカツアゲをしていたので、下らないことをするなと叩きのめしてやった。その後でカツアゲをするならもっと金持っていそうな奴にしろと指導もしてやった。実演つきで。そのため彼らのカツアゲ術は相当な腕前になったであろう。

 さあ、次は誰を助けてやろうか。
「俺にはこのマスクがある。これがあればどんな困ってる奴だって助けてやれるぜ」
 ごく単純で、いいか悪いかと言えばぶっちぎりで頭の悪いブレイズは、正義マスクというアイテムにすっかり心酔していた。そんな彼を、建物の路地裏から呼び込む声がある。
「ふっふっふ……頑張っていますね」
「……誰だ?」
 呼ばれるままに路地裏に入り込むと、そこには一人の男がブレイズを待っていた。黒衣とマントに身を包み、マスクで隠したその素顔、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)である。
「私はお茶の間のヒーロー、クロセル・ラインツァート。ヒーローとして頑張り始めたブレイズ君をアドバイスしに来たのです」
「アドバイス?」
 路地の付きあたりに積まれた木箱の上でマントをはためかせたクロセルは、芝居がかった様子でブレイズを鼓舞する。
「そうです……私はさっきから見ていました、あなたが困っている人を次々と人助けをしていくのを!」
 止めろよ。という話もある。
 何しろ、その人助けの結果で多くの人間が迷惑を被ったのだから。
「そこでブレイズ君に新米ヒーローとしての心構えを教えにきた、というわけなのです!」
「な、なるほど。是非教えてくれ! いや、下さい!!」
 勢いよく頭を下げるブレイズ。今の彼は産まれたてのヒヨコと同じであった。
 意外と礼儀正しいブレイズを前に、これは面白くなってきましたよ、と薄ら暗い笑いを浮かべるクロセルだった。


                              ☆


 ところで、『正義マスク』というアイテムはブレイズだけが持っているわけではない。ブレイズのように拾ったり、露天商で売っていたりと、何らかの手段で入手した者は意外と大勢いた。
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)もその一人である。
「でもねえ。これ、着けようとするとカタコト喋りするから気持ち悪いんだよねえ」
 ファミレスで食後のお茶を愉しんでいた弥十郎の兄、佐々木 八雲(ささき・やくも)はマスクを眺める。
「ああ、この間から持ち歩いているソレな。別に使わなければいいじゃないか」
「うーん、でもデザインは気に入ってるんだよなぁ。あ、ちょっと席を外してくる」
 トイレに立つ弥十郎、その後姿を見送った八雲の瞳がギラリと光った。そのマスクは片目だけを隠すタイプの、いわゆる白いファントムマスクであるが、それとそっくりなデザインのマスクが何故か八雲の懐からも出てくるではないか。
「……うん、見分けがつかん」
 先日弟がこのマスクを持っているのを見て、雑貨屋で似たようなマスクを探して買ってきたのである。そっとテーブルの上のマスクをすり変えて自分の懐に正義マスクをしまいこんでしまう八雲。
 俗に言うとことの横取りである。弥十郎が戻ってくるとそこに八雲の姿はなく、書き置きが一枚。
『急用を思い出した。先に帰るからゆっくりお茶でも飲んでいけ。会計は済ませておくから何杯でも飲んでいいぞ』
 そりゃあドリンクバーだからね、とマスクを改めて見ると何だか違和感を感じる弥十郎だった。
「あ……声がしなくなってる」
 ニセモノなので当然である。だが、これは具合がいいとホクホク顔の弥十郎。つい精神感応で八雲に話しかける。
「なんかマスクから声がしなくなったよ、あとお会計ありがとう!」
 すぐに八雲から返事。
「いやいや、お安い御用さ。のんびり午後を過ごして来いよ!」
 ああ、なんと微笑ましい兄弟だろう。兄の八雲はお昼代くらいでこのマスクが手に入るなら安いものだ、とこちらもホクホクするのだった。


                              ☆


「はーっはっはっは! あたしはマジカル★プリチー!!」
「はーっはっはっは! 俺は正義マスク!!」
 その頃、ブレイズは山本 ミナギ(やまもと・みなぎ)と共に正義活動の真っ最中である。
 ちなみに、ミナギは別に正義マスクを入手したわけではないが、目立ちたがりで自分が主人公でないと気に食わない彼女は、街で見かけた正義マスクことブレイズに触発されて自分も正義の味方を始めたのだ。
 こう言ってはなんだが、ブレイズと同レベルである。
「よぉーっし! 次は腹を空かしているヤツらのために、食いモン集めてこようぜ!! 慈善事業ってヤツだ!」
 そんな単語を知っていたこと自体が驚きだが、仲間を得て意気込むブレイズである。
「お、いいねソレ!! んじゃあの辺のパン屋さんから無料提供してもらうってどうかな!?」
 ビシっと形のいい指を伸ばして指差すミナギ。指されたパン屋はいい迷惑である。
「うっひょー! 無料提供とは恐れ入ったぜ! 天才だなオマエ!!」
「ふっふっふ、さあ行け! プリチー隊のみなさ〜ん!!」
 ぞろぞろと現れるプリチー隊。その正体はミナギの従者であるところのヤンキー達だ。早速、パン屋から無料提供されたパンを袋に詰め始めるブレイズとプリチー隊だが、別にパン屋から許可を得たワケではない。
 つまり端から見るとヤンキーの集団と仮面をつけた男がパン屋を襲撃しているようにしか見えないわけだが、その認識で間違っていない。
 襲われたパン屋はいい迷惑である。
 というか、悪い迷惑である。
 単純に、迷惑であった。
「おい、お前ら何をしてるんだ!」
 当然のようにやってくる警察官。シャンバラ地方の治安もまだまだ捨てたものではない。
「あ? 何って正義だよ。何だよ、邪魔すんのか? ……てめえ、人助けの邪魔するとは、さては悪人だな!!」
 言うが早いか、駆けつけた警察官を3mほどぶっ飛ばすブレイズ。本人としては軽く殴ったつもりなのだが、さすがに正義マスクの力は強大だ。

「あー、あれはダメですね。私の一番嫌いなタイプ」
 獅子神 玲(ししがみ・あきら)はその一連の騒動をもぐもぐと見守っている。
 もぐもぐ、というのは口の中のメロンパン。うまい。
「力を振りかざすだけで、まるで心が定まってない……精神的弱者め」
 お腹を空かせた皆様に無料で提供されたパンをもぐもぐと食べる彼女。凛とした姿からは想像もつかないが、実はかなりの大食漢だ。人の物を盗むつもりはないので、ちゃんとお金は払っている。
 まあ、パン屋も今それどころではないわけだが。
「何やってんの? あたしと一緒に正義やんない?」
 そこにやって来たのがマジカル★プリチーもと山本 ミナギ。ちなみにミナギと玲はパートナー同士だ。
「やりません。マジカル★プリン? だかプレート? だかプルトニウム? だか知りませんが、ミルキィー? が一人でやればいいでしょう」
 玲は、自分が興味のない人間や物事の名前を覚えるのが苦手だ。というか、覚える気がない。
「だからあたしの名前はミナギ! そしてマジカル★プリチー! いい加減覚えろ! ていうか無視すんなー!!」
 まあ、アレとコレと止めるのは私の役割ではないし、とピロシキをはむっと頬張る玲だった。
「……あ、このピロシキ……おいしいな」


                              ☆


 時刻は昼の一時。琳 鳳明(りん・ほうめい)はお昼を外食で済ませた後、銀行にお金を下ろしにやってきた。何だか今日は『正義マスク』とかいうのが暴れているそうで、外は騒がしい。
「……ヤだなあ。巻き込まれないようにしなくちゃ」
 独り言を呟きながらATMでお金を下ろした鳳明。財布をバッグにしまって一歩下がると、後ろにいた男性にぶつかってしまった。
「あ、すみません」
 それほど並んでいるわけではないのに、この人ずいぶん近くに立っていたなと思いつつも、ぶつかったのは事実なので振り向いて謝る鳳明。だが、次の瞬間その視線が凍りついた。
 目の前に、ナイフが付きつけられていたのである。男は左手で鳳明の首を抱え込み、ナイフの先端を目の前に突き付けて叫んだ。
「――全員その場から動くな!! シャッターを閉めろ!! 早くだ!!」
「へ!? あ!? は!?」
 何が起こったかというよりも、目の前のナイフの存在が彼女の意識を侵食し、あっという間にブラックアウトした。

 ――彼女は、極度の先端恐怖症なのだ。

 こうして彼女は、銀行強盗に捕まった。
 人質として。
 軍人としては情けない限りである。


                              ☆


 街で次々と『正義』を行なって暴れるブレイズの前に現れたのは、鳴神 裁(なるかみ・さい)とパートナーの魔鎧、ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)だ。
 ブレイズはちょうどパン屋騒動でさらに押し寄せた警察官の一団を蹴散らしたところである。

 レビテートで無意味に高い所から現れた裁は、高らかに宣言する!
「そこまでだ!」
 宙に浮かぶ裁を見上げるブレイズとミナギ。
「正義を名乗りつつも人様に迷惑をかけているようでは本末転倒言語道断路上駐車で焼肉定食! よって止めさせてもらおう!!」
「何だとぉ!?」
 己の正義を否定されてはブレイズも黙ってはいられない。裁はいきり立つブレイズを前にして変身ポーズを取る!
「変身☆」
 掛け声と共にドールが魔鎧として装着される。ポーズはいつか見たアニメを元にして即興で作ったので、正直言ってあまり格好良くない。
「健康促進戦隊、ソレンジャイ!! 惨状☆」
 一瞬で白地に蒼いフチが入ったヒロイン風衣装の魔鎧を装着した裁。すわ、戦闘かと思われたブレイズとミナギの前に差し出されたのは、爽やかな蒼空を思い出させるブルーも鮮やかなドリンクだった。
 一言だけ言わせてもらえば、飲み物の色ではない。
 面喰らっているブレイズとミナギに説明を始める健康促進戦隊ソレンジャイである。ところで一人なのに戦隊なのか、という疑問を投げかけるものはこの場にはいない。
「キミ達には栄養が足りていない! 主にアタマ! さあ、この『蒼汁』を飲んで健康になるんだ! 健全な精神は健全な肉体に宿るって言うしね☆」
 そのまま、ずずいと二人の前に爽やかに毒々しいドリンクを勧める裁。
「正しくは、健全な精神よ健全な精神に宿れかし、だよね」
 と、小声で突っ込むのは魔鎧のドールだが、そのツッコミどころも最早遠い。このアタマが不健康な連中が栄養でどうにかなるとも思えないけど、とぼやくのだった。
 そんなパートナーのぼやきをよそに、演説に熱を込めるソレンジャイ。ここが彼女の見せ場なのだ!!
「いいかい? 正義を行なうためにはまず自身が健康でなければいけないよね、健康でなくちゃ人助けなんてできないもの。そのためにはこれ、蒼汁☆」
 あからさまに怪しい液体を前に躊躇するミナギ。
「健康の秘訣はこの蒼汁! これを飲んで健康になればもう正義まっしぐら間違いなし! つまり蒼汁は正義!!」

そうか、蒼汁は正義か!! ならばいただくぜぇぇぇ!!!
「え、飲むの!? この明らかに健康を損ないそうな液体を!?」
 手にした蒼汁を一気飲みし始めたブレイズに突っ込んだのはドールとミナギである。

 ごくり、と最後の一滴がブレイズの喉を通過する。一瞬の沈黙のあと、街に響き渡ったのはブレイズの悲鳴にも似た咆哮だった。

「まっじぃぃぃ!!! 何じゃこりゃあああぁぁぁ!!!」

 すさまじい大音量と共に猛スピードで走って行くブレイズ。そのスピードと衝撃で商店街のディスプレイがあらかた破壊されていくのだった。
 まさに正義まっしぐら。
 後に取り残されたのは、ぽつりと呟くドールと裁である。
「ほら、やっぱダメだよこれ」
「そう? こんなに美味しいのにー」
 ぐびぐびとミナギの蒼汁を飲み干す裁だった。


                              ☆


「はー……はー……。ひどい目にあったぜ」
 ブレイズは街角で、肩で息をしながらうずくまっていた。商店街を破壊し、道行く人々を蹴散らし、走る車をいくつか貫通してようやく止まったのである。

 恐るべし、蒼汁パワー!!

「ふむ、ここにいたか。このオレの推理通りだな。」
 そのブレイズの前に現れたのが、万有 コナン(ばんゆう・こなん)である。正義を名乗り迷惑行為を繰り返す者がいると聞き、自称敏腕探偵である彼がついに動き出したのだ。
 ちなみに、頭髪は金髪を短く刈り上げており、身長は190cm近くある。
 体重は100kg以上の巨漢である。
 服装は半ズボンである。
 そして胸元には赤い蝶ネクタイである。
 そう、見た目はマッチョ、頭脳は子供。その名は万有 コナン!
「……誰? というか、何?」
 基本的にあまり細かいことは気にしないブレイズだが、さすがに目の前に現れたこの存在は異質だ。しかも見ると、後ろの路地には数人の人間が倒れているではないか。コナンが情報収集をしたあと、成果に関わらずポイ捨てされた一般市民である。

 情報が得られなかったらその辺にポイ。
 情報が得られたら丁重にポイ。まあ結果は同じだ。

「気にしなくていいよおじさん! それよりボク、ちょっと用事があって来たんだ!」
 コナンはあくまで小学生のフリをしてブレイズに近づいた。彼の変装はいつも完璧なのだ。と本人は思っている。
「よ、用……?」
 あどけない小学生のフリをしつつも、コナンの視線はブレイズと自分との距離にある。あと二歩、一歩……。
 射程圏内に入った。
「あ、空飛ぶ円盤!!」
「何ぃっ!?」
 突然あらぬ方向を見て叫ぶコナン。ブレイズはつられて振り向いてしまう。

「ふっ!!!」
「おふゥっ!?」

 その一瞬を見逃すコナンではない。気合一閃、隙を付いてブレイズの頭部を両手で掴み、何の躊躇もなく捻った。
 だらりと、ブレイズの両腕が力を失いぶら下がる。軽く一仕事終えたコナンはパンパンと両手を叩いた。
「ふー。ミッション・コンプリート」

 ところで、コナンのパートナー、公孫 勝(こうそん・しょう)は。
「あれー、コナン君どこに行っちゃったんでしょう……?」
 一緒に買い物に来ていたはずのコナンが姿を消したので、すっかり道に迷ってしまっていた。コナンは事件があるたびに公孫に黙って姿を消しては解決して戻ってくるので、彼女はいつもはぐれてばかりだ。
「ごめ〜ん! ちょっと友達がいたもんだから〜!」
 と、姿を現したコナン。
「あら、そうなのー? せめて一言断ってくれればいいのにー」
「あはは、ゴメンゴメン」
 とまあ、この辺のやりとりはいつものことである。
 じゃあお買い物に行きましょうか、とコナンと歩き出す公孫だが、その足がふと銀行の前で止まった。
 数人の警察官とパトカーが銀行の前にいる。どうやら強盗が入ったらしい。しかもその向いのアパートは炎に包まれている。火事だ。
 周囲は、警官と野次馬の一般市民で溢れかえっている。
「大変、コナン君! 早く帰りましょ!」
 と、コナンの手を取って走り出す公孫。
「ちょ、ちょっと!」
 抗議の声を上げながらも、ブレイズは始末したはずだが……といぶかしげな表情を浮かべるコナンだった。

 その頃の正義マスク……ブレイズは。
 コナンがポイ捨てした人々の上に重なるようにポイ捨てされていた。その首は『あれ、この角度ちょっとヤバいんじゃない?』という感じに回っている。
 銀行強盗と火事の騒ぎで賑わう街。しかし、その喧騒をよそに静かに横たわるブレイズだった。


 ――正義、死す。