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【初心者さん優先】冬山と真白のお姫様

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第一章 スタート ホイッスル
 夜も明けきらぬ午前6時。
 臨む空は薄い群青色で、まだ消えぬ星の瞬きが小さな灯火となって進む道に落ちる。
 冬季特別課外研修参加者たちは支給されたバックパックと野営道具を分担して持ち、山を目指していた。
 蒼空学園のグランドを出て、山道を進むこと1時間。
 一行は地図に記された野営場所へと辿りついた。

「よく来てくれたな」
「みなさん、お疲れ様です! では、涼司様。お言葉を」
 到着した一行を出迎えたのは蒼空学園校長山葉 涼司(やまは・りょうじ)とパートナーの花音・アームルート(かのん・あーむるーと)だ。
 花音に促され涼司は、咳払いを一つして口を開いた。
「みんな、よく参加してくれた! 感謝するぜ。
 知っての通り、今、この山では何かが起こっている。その何かを突き止めて欲しい。
 みんなの成果に課外研修再開がかかっている。一つ気合を入れて、よろしく頼む!」
「おぉー!!」
 簡潔で短いが込められた涼司の熱い思いが伝わり、頼もしい返答が湧き起こる。
 こうして、蒼空学園冬季特別課外研修の幕は上がった。

「涼司くん」
 少し離れた場所から、今後の方針を話し合う生徒達を見ていたその背中に火村 加夜(ひむら・かや)は声をかける。
「どうした? 話し合いは終わったのか?」
「ええ。大体はね。ただ、チョトツー退治の希望者が少し多いかしら。
 私も本当は戦闘でサポートに回るつもりだったんだけど……」
 野営の準備へ予定を変更したことを説明する。
「加夜は経験も多い。助言だけでも十分だ。それにベースを維持するのも立派なサポートだぜ」
 判断を褒められ、加夜の頬がほんのりと桜色に染まる。
「しかし、血の気の多い奴等が集まったもんだな」
「――ねぇ、涼司くん。この研修はみんなが楽しみにしている学校の伝統行事だよ」
「ああ。俺も毎回参加してたからな。わかるぜ」
 校長になる以前のことを思い出しているのか、懐かしい目をしながら涼司が答える。
「――私も、みんなも頑張るよ。だから、涼司くんも校長として、みんなの努力に応えて欲しいの」
「わかってる。――だから、頼むぜ」
「ええ」
「キャーッ!!」
 と、突然、その横で大声が上がった。声の主は花音だ。
 自分の荷物をひっくり返してながら、その場にしゃがみ込む。
「ど、どうした?」
「か、花音さん。どうしたんですか?」
「山に戻すはずの野鼠さんを学園に忘れてきちゃいましたー」  
 二人の問いかけに顔を上げると、てへっと花音は自分の拳を頭に当ててみせた。
 涼司は花音を連れて、山を降りることになったのだった。

「チョトツーは真直ぐに直進しますから、襲撃を受けたらひとまずは横へ。無理はしないでくださいね」
 退治に向う者たちは加夜の助言に頷くと、森や岩場へと消えていく。 
 最後尾を行く正木 直人(まさき・ただひと)をパートナーのローゼリット・リッツアが呼び止めて、念を押す。
「直人。私の目がないからと言って……」
「さぼらねぇよ」
「わかってるいるなら、結構。オリエンテーリングコースの巡回は頼みます」
「へいへい。そっちも後よろしくな」
 ひらひらと手を振ると直人も森へと消えていった。

「では、加夜殿。テントの設置をお手伝いいただけますか?」
「わかったわ。ロゼさん」
「……俺も手伝ったほうがええんちゃう?」
 そんな二人に不破 勇人(ふわ・ゆうと)は思わず声をかけた。
 強い母親とその友人のせいで異性に苦手意識のある勇人だが、流石に女の子に力仕事任せるのは気が引けたらしい。
「いえ。お心遣い感謝いたします。ですが、勇人殿はご自分の仕事を」
 にこりと微笑むとローゼリットはキャンプ用具を軽々と抱えた。
 行きは全員で分担して運んできた荷物である。ちょっと、いや、かなりありえない。
 どうして、勇人の人生で出会う異性はこうも強いのか。
「……あーほんなら、俺は調査に移らしてもらうわ」
 女は強い、という正しいような間違っているようなそんな認識をより深くしながら、勇人は気持ちを切り替え、自分の仕事をはじめた。
(荷物や食料が突然消えるなんてありえへん――必ず、痕跡が残ってるはずや)
 どんな小さなな手がかりも見逃すまいと、勇人は神経を研ぎ澄ます。
「ん?」
 ほどなくして、勇人はテントが張ってあった場所からどこかに続く小さな足跡を発見した。
 事前に教師たちから情報を集め、調査するポイントを絞っていたことも効を奏したのだろう。
「……なんやろ。……鼠か?」
 跡を追えば、野営地点のすぐ隣の低い藪へと辿りついた。
 そこには地下へと続く穴がぽっかりと空いており、周囲には食料の残骸が散らばっていた。
「犯人はこっかからやって来て、また逃げたんやな」
 勇人は荷物を探って、携帯食を取り出すと包みを破いて、穴の近くへと置いた。
「当座はこれで様子見や」
 手をパンパンと払うと勇人はその場を後にした。