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【初心者さん優先】冬山と真白のお姫様

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第五章 ミッション コンプリート
 西の空が茜色に染まり、東からどんどん濃い夜の帳が下りてくる。
 すっかり準備の整った野営場所には続々と研修参加メンバーが戻ってきていた。
「おーお疲れさん。食材はそこ置いたってや」
「よかったら、どうぞ。お疲れ様です」
 竈の火を任された勇人が食材を運んできた仲間に置き場所を指示する横で、加夜がお茶を差し出す。
「……こりゃ、凄いな」
「凄いですー」
 積み上げられたチョトツーを見上げるのは学園から戻ってきた涼司と花音だ。
 花音の肩の上には真っ白い野鼠がおり、その周辺にはあゆみとミディアが連れてきた野鼠たちが集まっている。
 ちなみに、野鼠とは言葉は通じなかった代わりに絵を描くことでなんとなく意思疎通が図れるようになった。
 が、この絵が解読できるのは今のところミディアだけである。 

 それぞれが冒険譚に花を咲せている中、ローゼリットは一人浮かぬ面持ちで黒くなった山頂を見上げた。
 そう、彼女のパートナーだけが未だ戻ってこないのである。
「……まさか……いや……ありえます」
 ぶつぶつと呟くその顔はいつもにまして暗い。よほど心配しているのだろうか。
「――サボりましたねぇぇぇぇ!! 直人ぉぉぉぉ!!」
 地を這うような低い声が轟いた。
 と、そこに、実にタイミングよく直人が飛び込んでくる。 
 しんと静まりかえる一同。
 全員が直人が迎えるであろう結末を思って目を逸らした。
 だが、ローゼリットの怒りの制裁はいつまでも経っても下されなかった。
 その代わり、押し殺したような笑い声が聞こえた。
「っ……直人っ、そ、その姿は?」
 おそるおそる視線を戻せば、――大量の野鼠をぶら下げた情けない男の姿があった。
「俺が知るか!! って、いててててててて。こら、噛むな! 引っ掻くな! 一体全体俺が何したってんだー!?」 
 野鼠たちは直人の叫びを知ってか知らずか、がりがりと必死にその体にしがみ付いている。
――チュ! チュチュウチュー!! チュ
 そこに鈴を転がすような鳴き声が響いた。
 真っ白いメスの野鼠が花音の肩を蹴り、直人の前に着地する。
 その背後にはミディアが連れてきた野鼠たちがずらりと控えていた。
「な、なんだ?」
――チュ!
――チュー
 彼女(?)が小さな手を振ると、張り付いてた野鼠たちは一匹、また一匹と直人から離れていく。 
「んーとね。あの野鼠さんたちは、怪我した野鼠さんを探してたんだって」
「そうか。そんで、先生たちが連れ去った思うて悪さしたんや!」
なるほどと勇人が手を打つ。
「うん。で、元々の原因はチョトツーだから、敵討ちしようとしてたの」
「……それをあゆみたちがお手伝いしたのですー!!」
「そうそう。えーと、自分達のお姫様を助けてくれてありがとう、って」
「「「お姫様!? まじで?!」」」
「うん。だって」
 砂の上に描かれた絵文字をミディアが訳して伝えると、野鼠達はぺこりと頭をさげた。
「――よぉーし。みんなご苦労だったな! 今日、この時刻を持って、課外研修の再開を宣言するぜ!」
 涼司の宣言にその場は拍手に包まれた。