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リアクション
第二章 デコイ フード ピロシキ
「えーい! やー!」
元気な掛け声が西ルートの森に響いた。声の主は綾瀬 小涼(あやせ・りら)だ。
声に合わせてカルスノウトが振るわれる度に枝や草が薙ぎ払われ、道が拓かれる。
その後に暁 誠吾(あかつき・せいご)とパートナーのエリーゼ・シュバンシュタイン(えりーぜ・しゅばんしゅたいん)が続く。
小涼が障害物を片付けてくれているため、予想していた道行よりはずっと楽だ。
「助かるが。キミ、疲れないか?」
「あたしなら全然へーきだもん。頑張るよ! えーと……あっかん!」
みんなの役に立ちたいと今回の研修に参加した小涼は労いの言葉に笑顔で答えた。
「キミだけに仕事をさせるわけにはいかない。よーし、俺も頑張るぜ!」
言いながら誠吾は懐から取り出した袋の中身を撒いた。
「何してるの?」
突然のパートナーに行動に、マフラーに顔半分を埋めていたエリーゼが首を傾げる。
「撒き餌の種もみだ。猪用なんだが、チョトツーの生態は猪とほぼ同じだからな」
「なるほど……寒い……お腹すいた……」
マフラーから顔を出して頷くいたエリーゼだが、また直ぐに顔を埋めてしまう。
「寒いって、靴とマフラーが用意してやったろ。あと、腹減ったならおやつでも食ってろ」
「うー……うん」
ごそごそとバックパックからピロシキを探り当てたエリーゼは一口頬張る。
周囲に美味しそうな匂いが漂いはじめた。
「んー。おいしー」
(――いい作戦だ。携帯食よりも効果が期待できるぜ)
二人のやりとりを眺めながめていた七篠 類(ななしの・たぐい)は一人頷く。
類も誠吾と同じようにチョトツーを誘き出すことを考えていたのだ。
(事情が何であれ、危害を加えるモンスターは駆除すべきだ)
と、危険感知で絶えず周囲を警戒していた類の網に何かの気配が掛かった。
「来るぞ! 前方、一時の方角」
「え?」
「きゃー!!」
突然の大声にエリーゼはピロシキを持ったまま首を傾げ、先頭を進んでいた小涼は手近な大木の陰に身を躍らせる。
次の瞬間、類の言葉通り、藪の中からから四つの影が飛び出してきた。
大型犬より少し小さい体に下の犬歯が大きく伸びた顔。体毛は赤茶で背中に四本の黒縞――チョトツーだ。
四匹中、二匹が食べ物を持っていたエリーゼに突進してゆく。
「エリーゼ!」
誠吾がパートナーを庇ってその前に立つよりも一瞬早く、駆けつけた類の手から何かが投げられた。
ブランケットだ。バサリと空中で広がったそれは二匹のチョトツーの上に落ちる。
視界を奪われたチョトツーの進路がエリーゼからほんの少しだけ逸れた。
「もらった!!」
類の声に久我内 椋(くがうち・りょう)の声が重なる。
走り込んだ勢いのまま蹴り上げた爪先がチョトツーを跳ね飛ばし、続く光の刀が見事にその身を斬り裂いた。
――ふごー!?
平行して走っていた片割れが沈黙したことで動きを封じられたしまったもう一匹が唸りを上げる。
が、ブランケットが邪魔をして進むことはできない。
「突進がなければ――」
「どうということは、ない!」
目も眩むような一閃の後に、間髪いれずに拳が叩き込まれ、チョトツーの体が吹き飛ぶ。
そこの落下音に――ドンッ、ドンッと二つの鈍い音が重なる。。
類と椋が視線を上げれば、パートナーと小涼を庇うよう構えた誠吾の背中があった。
右手と餌に食いついた二匹のチョトツーの急所から細い煙が上がっていた。