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四幕一場:ニクラス空賊団大型飛空艇内


 とさ、と軽い音を立てて、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)はニクラス空賊団の大型飛空艇の中へと降り立った。
 なにやら飛空艇周辺がゴタゴタしている隙にワイルドペガサスで飛空艇の下へ潜り込み、光学迷彩を使用した上で飛び移ったのだ。
 機体を揺らすことも無く、誰に咎められることもなく堂々と船内を進んでいく。
 大型飛空艇は、見た目こそ仰々しいのが、中に入ってみると男所帯の所為もあるのだろうが薄汚れていて、塗装もそこここで剥げているし、お世辞にも綺麗だとは言えない。
――ジャンク寸前、って感じね。掃除くらいしたらどうなのかしら。
 やれやれ、と思いながらも祥子はずんずん操舵室とおぼしき方向目指して進んでいく。

「あ、あの、こっちですぅ〜」
 一方、別の侵入口から、一人の空賊と、若い女性があっさり入ってきた。
「まあ、助かりますわ……本当に、困っていたんですのよ」
 女性――崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、侵入口のドアを開けた空賊の腕に、艶めかしい仕草でしなだれかかる。
「いやぁ……こんな物まで貰っちゃって……へっへっへ……」
 下心丸出しの下品な笑いを浮かべる空賊が手にしているのは、先ほど空中で亜璃珠が手渡したテロルチョコ。……鏖殺寺院特製の毒入りチョコレートなのだが、哀れな空賊は微塵も気付いていない。
「美味しいチョコレートが食べられなくなるだなんて、不幸なことだと思いませんこと?」
 その手にそっと自分の手を重ねると、亜璃珠は空賊の手を自らの腰へと滑らせるように運ぶ。
「え……ええ、実に、その通りだと思いますぅ……」
 亜璃珠の豊満な身体にすっかり骨抜きにされた空賊は、ほいほいと自分たちのお頭の元へと亜璃珠を案内する。

 ガシャン、と窓を割って豪快に侵入したのは円と歩たち四人だ。
 本当は静かに侵入したかったのだが、入れそうな箇所を見付けられなかったのだ。
 手際よく侵入は果たしたが、窓硝子を割った所為ですぐに船内に待機していた空賊三人ほどが駆けつけてきた。
「あっ……あの、これ、チョコレートなんですけどっ……!」
 咄嗟に、歩は配ろうと持ってきていたお菓子を取り出す。
 一瞬、空賊達は呆気に取られるが、すぐになんだコイツら、と警戒の色を強めた。
 慌てて円とオリヴィアが歩を背中に庇う。
「気持ちは分かるけど、今はちょっと下がっててねっ!」
「すぐに片づけますんでぇ〜」
 二人の言葉に、歩と巡は一歩下がる。
 のしのしと近づいてくる空賊達にむかい、オリヴィアが駆ける。
 ウルクの剣を手に、空賊の一人と切り結ぶ。
 降り立ったのはそう広くない廊下だ、空賊は三人居るが、一人と立ち回りしていれば、残りの二人はこちらへ来ることも手出しすることもできない。
 オリヴィアはウルクの剣で相手の攻撃をいなすと、反対の手に持ったスタンスタッフで思い切り殴りかかる。モロに脳天に一撃を喰らった空賊は、あっさりその場に沈む。
「オリヴィア!」
 さて次、とオリヴィアが体勢を整えた時、背後から円の声が響く。
 オリヴィアは咄嗟に切り隠れの衣を纏ってその身を霧状に変えた。
 その間に、円が放ったフラワシ、ティアーズ・ソルベの長い右腕が、二人の空賊たちに向かい強烈な冷気を放つ。
 一瞬でカチコチに凍り付いた空賊達を確認して、オリヴィアは切り隠れの衣を脱いだ。
「あらぁ〜、一撃でしたねぇ〜」
 手応えのない、と言いながらオリヴィアは武器を収める。
「さ、行こう行こう! 目指すは親玉のお部屋!」
 円の声に、四人はニクラスの部屋を目指して歩き出す。

 ヴァルは光る箒を駆り、音もなく大型飛空艇の開口部へと取り付いた。
 しかし、取り付いた箇所が悪かった。侵入するなり、見張りに立っていた空賊と鉢合わせる。
「ぅわっ……く、くせ者!」
 が、こちらが相手方に侵入することは想定していても、侵入されることなど想定していなかったのだろう、見張りの空賊はとんちんかんな悲鳴を上げる。
「……くせ者、とは心外だな」
 思わず呆れ、そのまま素通りしようかとまで思ったヴァルに、それでもなんとか侵入されてはまずいという判断が働いたのだろう、見張りは腰に下げていた古びた剣を振り上げる。
 が、ヴァルの手にした栄光の刀が神速で閃くと、次の瞬間にはもう、見張りの空賊は地に伏していた。
 ヴァルはそのまま、ずんずんとニクラスが居るであろう場所を目指して歩き始めた。