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【ロリオとジュエリン】愛とは奪い合うもの

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【ロリオとジュエリン】愛とは奪い合うもの
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第1章 Fant^ome?Non・・・vis noir groupe!-お化け?いいえ・・・生きた黒い集団です!-

 寒い冬が終わり、暖かい春になってくると、やつらはどこからともなく現れる。
 カサカサッ。
 黒光りするその者どもに、もしも侵入されるとどうなるか・・・。
 その姿を見た時だけでなく、料理の中に紛れたり、残飯を食い漁る音が聞こえてきたりするという。
 世にもおぞましい、メンタルダメージを受ける前に、人々はやつらがやって来る前に“白い煙”を家中に焚く。
 妖怪と化した者たちは、家庭や野外に存在する者たちよりも、生命力が無駄にありすぎてしぶとい。
 家を制圧しようと家主たちと激戦を、何年も何年も・・・繰り返してきた。
 しかしっ。
 シュゥウウウッ。
 “全滅してしまえぇええ!”と、怒りを爆発させた家主によって、人々の秘密兵器を使われてしまう。
 白い煙によって何十匹も息絶えてしまった。
 まだ白い煙を焚いていない屋敷を見つけた妖怪どもは、イルミンスールの森へ逃げ延び・・・。
 カサッカササッ。
 ぞろぞろと侵入していく。
 不運にもジュエリンの屋敷がターゲットにされてしまう。
 それだけでは飽き足らず、彼女を妻として迎えようと企む。
 こんな事態になっているとも知らず、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は新作のトウフバーガーと豆乳クッキーを土産に、屋敷へ遊びにやってきた。
「今度こそ食べてもらわないとね♪」
 以前タルトを作ってきたのだが、ジュエリンの方にしか食べてもらえなかった。
 理由は・・・。
 プロテインが入っていない!
 と、それだけだ。
「(弥十郎を恐れさせるほどの者とは、いったいどのような相手なのか・・・)」
 熊谷 直実(くまがや・なおざね)は弟子が恐れている者の存在が気になり、“それは一度会ってみたい”と、彼についてきた。
「―・・・黒い虫の軍団?あっちの方って確か・・・ロリオくんの彼女の家がある方だよね」
 弥十郎たちがロリオの屋敷の方へ行こうとすると、見慣れた生き物たちの大群がジュエリンの家へ向かっている。
 家庭に出没しそうな小さなサイズから、シャチュウにしてはだいぶビックサイズのもいる。
「昔料理しちゃったから、化けて出たのかなぁ」
 あの孤島の施設で何十匹も料理してしまったから、“この恨み・・・晴らさでおくべきか”と現れたのか。
「ねぇ。そのお化けって、他の人にも恨みをぶつけたりする?」
 彼の言葉にフィン・マックミラン(ふぃん・まっくみらん)が不思議そうに首を傾げる。
「うーん・・・。あれだけ調理しちゃったのに、こっちに来ないのも妙だね。でも一般的な大きさじゃないみたいだし・・・」
「黒いやつが女の子に群がろうとしてるよ!」
「女の子?じゃあ、隣にいる人はロリオくんかな」
 弥十郎は門の外から目を凝らし、黒い虫からジュエリンを必死に守る彼の姿を見る。
「何やら黒髪の少年が、虫たちに指示を出しているように見えるが?」
「彼女を無理やり連れ去ろうとしているのかもね・・・。このままにしておくと、どうなるか分からないし。おっさん、何かいいアイディアないかな?」
 どうなるか分からない・・・というのは、狙われているミツ編みの少女の身以上に、切羽詰った彼によってその辺一帯が悲惨なことにならないか。
 ―・・・という不安だ。
「まずは、屋敷の中に入らなければな」
 軍団を排除する作戦を考えて欲しいと頼まれた直実は、渋い顔をして考え込む。
「弥十郎。お前は何時の間にか火を操れるようになったな。“フワラシ”とか言ったか」
「フワ・・・?あぁ、フラワシのことだね」
「何、フラワシ?言い方は何でも良い。ここから玄関までは一直線だ。分かるな。そのホワラシという奴で、進路の者供を排除しろ」
「(また間違えてるよ、おっさん。フラワシ、フラワシだから・・・)」
 彼の作戦説明に水を差さないよう、弥十郎は心の中でぼそっと突っ込みを入れた。
「どっちかというと料理専門だからね。もう一度料理してあげようかな、なんて・・・ちょっと思ってみたりね♪」
 扉に群がる黒光りする者どもを、焔のフラワシでテッカテカの身体を焼き貫く。
「フィン、お前は私と一緒に弥十郎が空けた道を扉まで進むぞ」
「うん、了解!」
 黒い生き物たちの間を通り抜ける。
「フィンは、屋敷内に入ったら台所を目指せ。そこに“中性洗剤”という名の武器がある」
「ん・・・。台所って料理を作ったり、お皿とかを片付けるところだよね?」
「そこに、やつらの鎧を破壊する最高の武器があるんだ」
「食器とかをキレイにするだけじゃなくって、武器にもなるんだ!?洗剤って凄いねーっ!」
 洗剤の新たな使い方を覚えたフィンは瞳をキラキラと輝かせる。
「お前ならできる。私の弟子だからな」
 バタァアンッ。
 扉を開けて弟子を中に入れてやり、小さく微笑みかけるとパタンと閉じた。
「(必ず見つけてきてね!)」
 その姿を見ただけで悲鳴を上げそうな生物に立ち向かう兄弟子の彼は、振り返らずグッと親指を立てて送り出す。
「オレ・・・頑張るよ!急いで持ってくるからっ」
 ギィイ、バタンッ。
 扉が閉まりきるとフィンは屋敷の中を駆け回り、一刻も早く2人の元へ戻ろうと台所を探す。
 残った2人は“さて、カッコつけますか”と、黒い集団を見据える。



「どこかな・・・」
 フィンはスンスンッと鼻をひくつかせ、超感覚で見つけようとする。
「なんだか食べ物の匂いがする・・・、こっちかな?」
 美味しそうな香りをたどっていくと・・・。
「うわぁ〜、美味しそう!!」
 カゴいっぱいに入ったババナを発見した。
「あむあむ♪」
 台所にたどりついたのに洗剤を探さず、バナナにかぶりつく。
 その頃、弥十郎たちは群がる集団に、早くも劣勢を強いられている。
「何匹倒しても、降って湧いてくる・・・。っていうか、飛んできすぎじゃないかな?」
 空を真っ黒に多い尽くさんばかりに、黒い群れがジュエリンの屋敷へ目掛けて飛んでくる。
「ボクの兵たちが、たかだか十何匹程度かと思っていたのかい?」
「あの子が命令してるのかな?人間・・・とかじゃなさそうだね」
 群れの中にいる顔の整った少年を見つめ、弥十郎は眉を潜める。
「あぁそうさ、ボクらは人間なんかじゃない。妖怪さ!ボクはこの者たちを従え、ジュエリンさんとこの屋敷を奪い取ってやるのさ」
「人のものをとるなんてよくないね。そんな子は、お料理・・・じゃなかった、お仕置きしなきゃね♪」
 その言葉に弥十郎は不愉快そうな顔をし、軍団の王子を軽く睨みつける。
「君なんかに止められるかな?まずはジュエリンさんを手放さないこいつから片付けてやるよ。いけっ、者ども!」
 兵に命令だけすると人間の姿から原型に戻った王子は、造園の中へさっと隠れてしまった。
「逃げても無駄ですよ。ていうか逃がすわけないだろ!」
 口調を一変させたロリオは魔女B、魔法少女に変身し、殺と文字の書かれた毒リンゴをブシッと怒りを込めて握り潰す。
「くたばれ、虫野郎ーー!!」
 ゴァアアアアァアアッ。
 造園の中に隠れる王子を抹殺しようと、さーちあんどですとろいの炎で焼き尽くそうとする。
「ぐほぁぁああ!!―・・・全ては王子のために。我が王国のために・・・。キブ・リーゴ王子万歳っ!―・・・っ」
 王子を守ろうと兵たちは自ら盾となり、数十匹も一瞬にして黒焦げになってしまった。
「(ほう、あれが弥十郎が恐れているという者なのか)」
 直実は目の前の惨劇を冷静に見つめ、弟子が恐れるその者へ視線を移す。
「あぁ〜・・・ロリオくん、倒すのはいいけど。燃えたのが飛んでこないようにしてもらうと助かる・・・かな」
「すみません、今片付けますよ」
 弥十郎の声に燃えながら扉に突撃してくる妖怪を、粉々に殴り飛ばす。
「散り際も汚いですね、まったく」
 死と大きく一文字書かれた日傘で、油虫の破片をガードする。
「ジュエリンってば、こんないいシーン見ないでまだ気絶しちゃってるのね」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はロリオが片腕に抱えている少女を見て、ふぅと息をつく。
「でも、ばっちり写真撮っちゃったからね♪後で特大ポスターにしてプレゼントしちゃうから」
「えっ!?やめてくださいよ!」
「どうして?カッコイイ姿を、彼女に見せたくないの?」
「なんていうか・・・。ポスターとか恥ずかしいんですけど」
「ふっふふ〜。実は戦い始めてからずっと撮ってるのよ」
「まぁ、その前に消しちゃえばいいんですよね。それこっちに貸してください!」
「やだって言われても、やめないわよ。だってもったいないじゃない♪」
 データを消去しようとする彼の手から逃れようと、美羽はカメラを抱えたまま、バーストダッシュでズギュゥウンッと逃げ去る。
「―・・・行ってしまった者は仕方ないですね。とりあえず、こいつらを片付けてからデータを抹消しにいきましょう」
「わぁ〜・・・切り替え早いね〜」
 あっさり一旦追うのをやめたロリオに、弥十郎がぽそっ呟く。
 一方、フィンの方は・・・。
「待っててね。すぐに戻るから」
 バナナを食べ終わり洗剤を抱え、急いで師匠と兄弟子の元へ戻ろうと走る。