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恋なんて知らない!

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恋なんて知らない!

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 所々がほつれが見える真っ黒な袴を着た武藏は、街の細道を走っていた。


「はっ、ぐっ、ぅ……流石に、頭ごなしに戦い過ぎ、か……」


 カリバーンは確かに強かった。
 だが、小町の安否を案じていた為に、戦闘自体に本腰を入れられなかったと言うのもまた事実だった。


「こ、小町殿は、何処へ……」

「愛する人は、何処へ……?」

「……!!」

「そう、心配しているのではないですか?」


 途中の脇道から武藏に並走する形で、魔銃士であるフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)が横に入って来たのだ。


「よかったら、僕が話を聞きますよ」

「……斬られたくなかったら、失せろ」

「……こちらは悩みを聞こうと言うのに、失礼な方ですね」

「……」

「そんな方は……」

「!?」


 『轢かれてしまえばいいと思います』。
 その一言が聞こえる前に、武蔵の視界は地面に覆われていた。


「武藏クン。君、ちょっとやりすぎちゃうん?」


 にこやかな笑顔を作りながら、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が武藏に馬蹴をかましたのだ。


「ぐっ……!?」

「あ、俺の後ろ、まだまだ渋滞しとってん」


 一呼吸する間もなく、後続のレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)の操縦するバイクは容赦なく武藏に襲いかかってくる。


「惨めな貴様の最後の締めに等しいのは、ひき肉になることかのう。轢き肉と、挽肉だけにな……くはっ」


 かろうじて身を翻してレイチェルの攻撃を避けたものの、三台目には讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が乗るタイヤに幾層にもなる刺のついたスパイクバイクが迫ってくる。


「ぐ、ぬううううううううううううううううううう!!!!!」


腰に差した刀で咄嗟に防御するが、打ち所が少し悪かったようだ。

「あーあ、自慢の刀、折れちゃったやん」


 何度にも渡る戦闘により弱っていた刀身は、度し難い威力に押し負けて真っ二つに折れた。
 切れ端は無惨な形で地面に突き刺さり、修復不可能な形状である事を言葉無くして表していた。


「三連攻撃、避けたってのは流石『剣聖』やな〜」

「しかし、そなたもそれまで。武器が無くては脅す事も戦うこともできないじゃろうて」

「さぁ!早く降参するのです!!」

「ぬ、……降参するなどという言葉は、武士道には無い!!」

「あっ!!」


 完全に油断していたシューベルトに襲いかかると思われたが、そうはせずに武藏は再び脇道に向かって走り去って行く。


「逃がさへんでぇ〜!」

「……と言っても、泰輔。悪いが、こちらのバイクはパンクしているようだ」

「あ、私の方もです……」

「な、何やて!?顕仁のバイクはまだわかるが、レイチェルのは何にもされてへんやろ!?」

「……どうやら、脇差しを潜めていた様ですね」

「……あの短い時間で切り裂いた、と言うのですか……」

「うーん……。腐っても武士、ってことなんやな〜」


 退屈そうに両手を後頭に当てながら、泰輔は歩き出す。


「どこへ?」

「決まってるやん。武藏んとこ。……今度はまともにぶっとばしたるわい」



――


「わ、私は早く武藏殿の所へ行かねばならぬのだが……」

「そんな慌てる事も無いでしょ〜よ!もーちょっとだけ話そーよ」

「そうそう。男を待たせるのも女の役目ってね」


 小野小町はとある家屋の一室の椅子に座っていた。
 目の前に座るのは、スカイレイダーのリネン・エルフト(りねん・えるふと)とスナイパーであるセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だ。

 二人は持ち前の目と鼻で逃げ回っていた小町を見つけ、この空き家に招き入れたのだ。


「まず、小町たちは何で街を荒し回ってるんだ?」

「それは、今の若者達が自由恋愛などを謳って、何かに努力しようとする気概が見られないからだ」

「恋愛することは努力じゃないの?」

「そ、それは……」

「そうだよね〜。まず恋愛すること自体、相当すり減るもんだよね。精神面的にも、体力的にも」

「ど、どういうことだ?」

「お互い相手が自分の事をどう思ってるかなんて分からないじゃない?だから、色々考えてるう内にすっごく疲れてくる時もあるんだよ。『あ〜!実際どうなんだよー!』ってね」

「体力的にだって、ちょっと古臭いけど朝お弁当作ったり迎えに行ったり、何かプレゼントを買う時に何件も店を梯子したり……」


 小町の真後ろに立っていたリネンのパートナー、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)もエルフトの言葉に続けて言う。


「恋と愛だって実際何が違うのか分からないしね」

「あ、そういえばそうだね。恋愛っていうけど、形的には『好き』と『愛してる』って違う気がするし」

「恋……。愛……」

「どっちが重いかって言われても分からないけど……。感覚的に愛の方が、少し力強かったり、重い気がするわ」

「そんな経験豊富だったっけ?リネンって」

「そ、そりゃ……!……」

「まぁまぁ、要するにどっちも相手を想ってるって意味の言葉なんだからいいじゃん!あたしはどっちも素敵な言葉だと思うな」

「そ、そうだわ!そうそう!経験なんて関係ないの!」


 仲裁をする形でシャーレットが口を挟むと、リネンはそれに上手く乗っかる。


「……相手を想う、気持ちか」

「そう言えば、小町と武藏って何処で知り合ったわけ?」

「し、知り合ったと言うか。その、たまたま会って気があっただけと言うか……それだけじゃ」

「今時そういう出会いって滅多に無いよ!!すごっ!!」

「くはーっ、武藏もやり手だわー」


 両目を片手で抑える様にして呆れ返るのはセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。ジャスティシアであり、シャーレットのパートナーでもある。


「い、いや!私と武蔵殿は、ただ同じ目的を持った仲間であるというだけで、そんな軽い関係では……!」

「軽い関係がないと、重い関係にはなれないよ」

「!」

「重い関係ってのは変な言い方!ストーカーみたいだわ!軽い関係って言うのもなんかチャラチャラしてそうで嫌だし!」

「あはは!リネン、それ言えてる」

「そ、そっか……言葉が悪かったね、親しい関係でも、最初はお互い知らない人同士、でしょ?」

「お、シャーレット、その言い換えはすごいしっくりくる!」

「でしょ?」

「……」

「……それに、今。小町は武藏の心配をしてる。それって、立派に相手を想ってるってことじゃないのかな?」

「!!」

「武藏が傷ついた時とかも、小町は嫌でしょ?それと同じこと、相手も考えてると思うんだ」

「…………」

「好きか嫌いか、って言ったら。……貴方にとって、武藏はどうなのかな」

「わ、私は……」

「それで、今。貴方たちは同じ様に相手を想い合ってる人たちを傷つけてるんだよ。……それって、被害に会った人たちは、どう思うかな?」

「……っっ!」

「過去に色んな風習とか、習わしとか。面倒な事があって嫌な思いしたのは分かるよ。だけど、それは今の人たちには関係ない事じゃん」

「今からでも遅くはないよ。まだ、やり直せるから。……頑張ってみる気には、ならないかな?」

「……」