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楽しい休日の奇妙な一時

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楽しい休日の奇妙な一時

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 ここは空京にある、巨大なショッピングモール。
 雲一つない空は晴れわたり、ガラス張りの天井から差し込む光がいつもにも増して広大な面積を照らしている。
 開店直後から人の溢れるこの商業施設は、今日も賑やかな顔を見せていた。



 第一章



 恐ろしいほどの荷物を抱え、局地的な紛争地帯から姿を現したのは満足そうな笑みを浮かべたルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。
 足元ではザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が息も絶え絶えに倒れている。

「うわああ、ザカコ君しっかりするんだ」
「大丈夫だ死んではいない」

 慌てて駆けつけるエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が冷静な声をかける。
 エースが肩を貸してダリルが腕を引っ張ると、ザカコがよろよろと起き上がった。

「すみません、ありがとうございます。ちょっと様子を見て引き返そうと思ったら、押し寄せる人の波に飲まれてしまいました……」

 この世の地獄を見てきたような表情で、ザカコはバーゲンの人だかりに目を向ける。
 その手前では、ケロリとした顔で生還したルカルカとリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が、にこやかに話をしていた。

「ビキニとワンピースタイプで迷ってるのよね。ルカルカさんはどっちが好き?」
「ダリルに言わせたら、皮膚癌になる確率が低いからワンピース……なんだろうけど、ルカとしては断然ビキニがオススメね! 夏だし!」

 盛り上がる二人に、銀の懐中時計を取り出したエースが近づく。

「そろそろお昼だけど、食事に案内してくれるって言ってたよね」

 エースの問いかけに、ルカルカがどーんと自分の胸を叩く。

「任せてっ! 面白い所に連れて行ってあげる」

 ルカルカが意気揚々と連れてきたのは回転寿司の店だった。
 店内に入ると、初めて見る光景にエースとリリアが目を輝かせている。

「どうしてお寿司がぐるぐる回っているの? あ、お寿司以外の物も乗っかってるわ!」
「これが日本の合理性ってやつ? 不思議なスタイルだね」
「まあまあ、まずは座りましょう」

 落ち着いた様子で椅子に座るザカコだが、お寿司自体に馴染みが薄いのか、やってくるお寿司とメニューを見比べている。
 ルカルカが簡単に注文の仕方と食べ方を説明すると、それぞれが好きなものを食べ始めた。

「このお寿司は中々に刺激的な味だと思いますよ」

 ザカコが海苔巻きの乗ったお皿を取ってダリルに渡す。
 見ればザカコの手元にも同じものが置いてあり、美味しそうに食べている。

「しかし、これは……」

 匂いに気付いたダリルは、お皿をそのままエースに渡す。

「お前の分だな」
「おや、ありがとう」

 マグロばかり食べていたエースはお礼を言ってお皿を受け取ると、何の躊躇もなく海苔巻きを口に運んでいった。

「――――!!?」

 鼻をつまみ、必死に涙を堪えるエースの姿を見て、ルカルカが注文用のパネル画面を連打する。

「そんなに急いで食べなくても大丈夫よ。どんどん注文するからいっぱい食べてね」

 ◇


「内緒で来ちゃったけど、見つかってないよね?」

 不安そうな表情を浮かべた六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)がぽつりとつぶやく。
 今日はある目的のために、パートナーたちには内緒でこのショッピングモールへやってきたのだ。
 全館案内図で目指す場所を素早く確認すると、早歩きで移動していく。

「あ、あそこですねっ」

 目の前にはオープンしたばかりのランジェリーショップが待っている。
 胸を押さえ、駆け出そうとしたそのとき、後ろからいきなり肩を掴まれた。

「えっ?」

 振り返った先には、半透明の太った男が立っていた。
 肩を掴んでいるのと反対の手には、なぜかオバチャン下着を持っているが、そのデザインがまた最悪の一言。

「下着買いに来たンだロ? これ買わナい? サイズもピったり合っテるよ、***だヨね? ひヒひ」
「!?※%#」

 オバチャン下着のデザインにでも幽霊のくせに鼻息を荒くしていることにでもなく、サイズをピッタリと当てられたことに対して、声にならない悲鳴をあげる。

「いやあああ、ダメ、言っちゃダメですっ! 誰か助けて〜」

 そして優希は叫びながら胸をぎゅっと押さえて、変な幽霊から逃げ出した。

 ◇


「はっ、女の子の悲鳴がっ!」

 叫びを聞いたユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)が、反射的に駆け出す。
 突然のことに、隣に並んで歩いていたトリア・クーシア(とりあ・くーしあ)も釣られて走り出した。
 二人は声のした方へと人込みを抜けていく。
 すると、泣きながら胸を押さえて走る少女と、それを追いかける怪しい幽霊の姿が見えた。

「やめなさーい!」

 瞬時に事態を把握したユーリが、手にしたステッキで幽霊に殴りかかる。
 だが。

「え、消えた?」

 幽霊は突然姿を消してしまい、ユーリの攻撃が空振りをする。
 逃げていった少女が人込みに紛れるが、その後を追っていった気配もない。

「ユーリ、後ろ、後ろよ!」

 その声にユーリが振り向くと、何故かデジカメを手にしたトリアが撮影状態に入っている。
 それにしてもやけに足がスースーするなあ、と下を見ると……。

「うわああ」

 先ほどまで正面にいた幽霊が、ユーリのスカートを捲り上げていた。
 さらには下着に手をかけている。
 ユーリはとっさに蹴りを入れるが、幽霊はまたもや素早い回避で反対側に移動し、スカートを捲っていく。

「トリアー!! 見てないで助けてよぉー!!」

 ユーリの叫びに重なるように、トリアのデジカメからシャッター音が響くのだった。