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1 出航、船旅

 船を固定していた留め具が外され、マストの上に取り付けられたプロペラが回転を始める。船員が帆を張り、風を背に船は空へと旅立っていく。その様子を、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は船長室の小窓から眺めていた。
「うん、無事出航できたようだね」
 その後ろで、業務用の机に腰掛けたオーナーがにこやかに頷く。船長室にはもうオーナーを護衛するために何人かの学生が待機していて、時には操縦許可を取りに来たり、普通に挨拶したり、成果を上げれば報酬の上乗せを交渉に来る者もいた。
「ではオーナー殿。タシガン到着までの間、俺たちが楽士として歌をひとつ送らせていただきます」
 そう言ってクリストファーはハーモニカを取り出し、隣のクリスティーも一歩前に出る。本当はこの場の誰もがタシガン到着よりも早く空賊が来るだろうとは思っていたが、クリストファーもそれはわかっていたし、あえて口には出さなかった。
 二人が調律を奏で歌を披露しているのを横目に、堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)は来客用のテーブルにボードを広げ、敵がどう攻めてくるかを予測していた。もし自分が空賊だったならば――と思考を巡らせ、ボードの指を漂わせる。ふと窓の外に目を向ければ、他の学生たちが空を飛んで辺りを警戒していて、中には人間でないものも飛翔しているが、この様子だと少なくとも空賊に先手を打たれることはないだろう。
(僕が空賊なら、ちまちま盗むよりは船ごと貰う方が楽だ。船も財宝も、ついでに船そのものも手に入るから)
 堀河が窓から目を離すと同時に歌が終わり、ぱちぱち……と周りの者が拍手を鳴らす。部屋の中央で笑顔を見せるクリストファーに、堀河も拍手を鳴らして歩み寄った。
「いい歌だったよ」
 と、手をクリストファーに差し出し、「ありがとう」とクリストファーもそれを握り返す。
「俺とクリスティーはみんなの援護や護衛に専念するつもりだ。怪我をしたら言ってくれ」
「僕は船が奪われないように努力しようと思う。空賊は船そのものも狙ってくるだろうから、暇があればみんなにも気をつけるように伝えてくれないかな」
 堀河がそう言うとクリストファーは了承し、クリスティーと共に部屋を去っていく。その後ろ姿に、「ああ、それと」と声を投げる。
「そっちの銀髪の人も、いい歌声だったよ」
 振り返ったクリスティーがにこりと笑って手を振り、「お互い頑張ろうね」と言ってクリストファーについて出て行った。それを見送った堀河は、振り返した手を下ろし、もうそろそろかなとこぼしてもう一度窓を見た。