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2 暗雲

「陽子ちゃん、どうー?」
「まだ見えませんー」
 飛空艇周辺、空中。緋柱 透乃(ひばしら・とうの)はブーツの力で、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)はレッサーダイヤモンドドラゴンに乗って、周辺の空域を索敵していた。周りは清々しい程の青空で、しかし霧のような雲もたくさん漂っている。 透乃も索敵はしているものの、メインは陽子のイーグルアイ。自分はいつでも飛び出せるよう、豊満な体を慣らしながら陽子と並行していた。
「……?」
「どうしたの、陽子ちゃん」
「もしかしたら、あれ……いえ、間違いありません。側面三時の方向、空賊と思わしき飛空艇です」
 陽子が敵を発見したと同時にドラゴンが翼を開いて上昇、味方飛空艇の上を取る。そして敵発見をしらせるべく、太陽よりもはっきりと強烈なフラッシュを瞬かせた。
「了解っ」
 そしてそのフラッシュが、 透乃がスタートする合図にもなった。
 陽子が指し示した方角へ体を向け、空を蹴って弾けたように飛び出す。雲の影に隠れた空賊の母船へと弾丸のように飛び込み、甲板で油断している空賊の一人を瞬く間にかっさらっていった。
 忽然と姿を消したように見える空賊だが、 透乃は殴っただけ。ただ十分な加速をもったそれはもはや砲撃に勝るとも劣らず、殴られた空賊はそのまま船の外へと投げ出された。
「もういっちょ!」
 かかとでブレーキを踏み空中に雲の轍を描いて、 透乃は体を捻り方向転換。 透乃の急襲に驚いたその他空賊が機関銃をバラ撒くも、 透乃はあえてその中を突っ切って再度急襲。機関銃を構えた空賊に頭上から飛来し、強烈な拳骨をお見舞いした。甲板が割れるほどの拳骨に、空賊は受身など許されるわけもなくバウンド。蹴鞠のように跳ね上がって、他の空賊にぶつかった。透乃は凹んだ甲板に一度降りると、残った空賊たちに一言。
「死にたい奴だけ、かかってこい」



「来たか」
 フラッシュが空に瞬いてすぐ、敵の母船が飛空艇へと接近、並行する。それを見た鬼院 尋人(きいん・ひろと)は聖邪龍ケイオスブレードドラゴンに乗り空へ出ると、既に空賊を乗せた小型飛空艇が小蝿のように飛空艇へ取り付こうと集まってきていた。
「さあ、オレが相手だ!」
 槍を抜き、空賊たちへ威嚇。手始めに一番飛空艇に近い小型飛空艇へと接近し、そのまま体当たりして空賊を跳ね飛ばした。弾き飛ばした空賊は他の空賊にもぶつかり、体勢を少し崩して持ち直す。そして鬼院に狙いを定め、左右から挟撃に入る。
「甘いっ」
 鬼院は槍を腰だめに構えると、ドラゴンから離れバックステップ。ふわりと空中に浮かび、挟撃に来た空賊の交差点で槍をなぎ払った。一薙ぎの槍は二機の飛空艇の駆動部を引き裂き、空賊たちは悲鳴を上げながら遥か下の大地へと吸い込まれていった。
 しかし鬼院一人では到底空賊の侵入を防ぎきれるわけもなく、二機を落としている間に他の空賊たちに楯板をかけられ飛空艇に乗り込まれてしまう。「やはり、厳しいものがあるか」と鬼院は唇を噛んだその瞬間、鬼院と味方飛空艇に大きな影が落ちた。鬼院が見上げるとそれは一瞬空を飛ぶ鯨のように見えたが、すぐに飛空艇の船底だと理解する。新手か、と鬼院は体を強ばらせるが、そこから聞こえてきた声は鬼院の予想を裏切った。
「あーっと、そこの飛空艇聞こえる? 我ら、無法をもって無法を討つもの! 【『シャーウッドの森』空賊団】、救援に入ってあげるから感謝なさい!」
 そこから現れたのは、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)と義賊と思われる人間たち。それらはヘイリーの指示のもと、それぞれ空賊の相手を始めた。
「リネン、外の連中の頭を潰して! フェイミィ、あんたはそのバ火力で大型飛空艇を制圧!」
「おうよ!」
 ヘイリーの指示で飛んできたのは、バルディッシュを携えたフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)。フェイミィは鬼院の隣、楯板にどすんと着地すると、にまあと笑ってバルディッシュを構えた。
「加勢するぜ兄ちゃん」
「助かる……!」
「んじゃま、とりあえず……アイランド・イーリ、『ガンファイア・サポート』を要請だ!」
 フェイミィの指示により、上空の飛空艇から腹の底に響くような轟音が鳴り響く。撃ち出された砲弾が空賊の母船や小型飛空艇に命中し、一気に空賊たちの足並みが乱れた。
「よし、上々だな! そのままブリッジまで制圧だ。行くぞ兄ちゃん」
「お、あ、わかった」
「しゃきっとしろよ! 船守るんだろ」
 唐突に現れた義賊に鬼院は少し戸惑うも、彼女たちが作ってくれた勢いに乗り楯板を渡ってくる空賊をなぎ払っていく。戦況はゆっくりと、しかし着実に鬼院たちの優勢に傾いてきていた。