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3 空賊襲来

「おうおう、来なすったみたいだな」
 外の騒ぎを耳に、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)はもたれかかっていた壁から体を離す。 エヴァルトの他には、東 朱鷺(あずま・とき)も一緒に金庫の警護に当たっていた。
「朱鷺の……銀細工……」
「諦めろよ。お前のじゃねえし」
 どうやら 朱鷺は金庫の中身――銀細工の品物を見たかったようだが、中には入れてもらえなかったようだ。当たり前なのは当たり前なのだが、本気で落ち込んでいる様子を見るとなんだかエヴァルトまで落ち込んでくる。朱鷺がどれだけ落ち込んでもそこにあるのは鉛色の扉だけで、一向に開く気配はない。
(……変なのもいるもんだなぁ……)
 がしがしと頭を掻き、どんよりした朱鷺を励まそうと声をかけようとした瞬間、ぱっと朱鷺が顔を上げる。
「来ましたね」
「あん?」
 エヴァルトが耳をすませると、ばたばたと慌ただしい足音が近づいてくる。「なるほど」とエヴァルトは顎をさすると、いたずらに笑った。
「それじゃ、それなりに対策させてもらおうかな」
 そう言って金庫に手をかけると、金庫がみるみるうちに凍りついてしまう。おそらく、軽い爆弾程度ではビクともしないだろう。朱鷺は部屋全体にシャボン玉を生成し、空賊に備える。朱鷺が言うには、外の仲間のおかげか敵の数は少ないらしい。
「朱鷺は一度身を隠して不意を突きます。銀細工は死守してくださいね、必ず」
「言われなくともわかってるさ」
 朱鷺の姿がシャボン玉にかき消され、エヴァルトは拳を構える。その直後に空賊が二人、エヴァルトと朱鷺がいる部屋に乗り込んできた。
「さァて、財宝いただきたいんなら俺を倒してからにしな! 金庫凍ってるけどねー!」
 意地悪に笑いながら、エヴァルトはちょいちょいと指先で空賊を挑発する。空賊の一人が「この……ッ」と声に怒りを孕ませ、血煙爪をエヴァルトの脳天に叩き落とす。しかしそれをエヴァルトはひょいと体を逸らして躱し、クロスカウンター気味に空賊の顎へアッパーカットを一撃。ぐらりと空賊がよろけた隙に、
「おるぁっ」
 スパァン! と気持ちいい程の音をたててストレートが直撃。頭から床に倒れゆく空賊の後ろで、別の空賊がショットガンを構えるのが見えた。が、エヴァルトは倒れる空賊の影に隠れるようにスライディング、頭上を通り抜けていくショットガンの弾丸を紙一重でくぐり抜ける。そしてポンプアクションの途中の銃を握り、空賊の手から奪い取った。
「これでもう手はねえだろ? く、た、ばれ!」
 一発、もう一発と計二撃の拳を顔面に叩き込み、よろめいた空賊の腹に鋭い前蹴りを突き刺す。空賊は苦しそうに呻き、前かがみになって倒れ伏せた。しかしその影……エヴァルトの視界の外でジェン・ラルクヴェルト(じぇん・らるくぶぇると)はこっそりと金庫に忍び寄っていた。
(くそっ、めんどくせーめんどくせーめんどくせー! 空賊についていって横取りすれば楽だと思ったのに、まるでかなわないじゃねえか!)
 幸い、金庫にはエヴァルト以外に人は見えず、エヴァルトにはまだ気づかれていないようだとジェンは自分を落ち着かせる。とにかく、気づかれる前に金庫を破――ろうとしたが、エヴァルトが氷漬けにしてしまったためまるで歯がたたなかった。
「ああもう、めんどくせーな!」
「キミ、何をしている?」
 心臓を後ろから直接握られた。そう感じるほどジェンは驚いて後ろを振り返ると、今まで姿の見えなかった朱鷺が目と鼻の先でじっとジェンを見つめていた。
「キミ、空賊じゃないな? 横取りしようとしたな? 銀を」
 朱鷺の表情は変わらないが、その瞳には怒りが見える。そしてジェンが口を開く前に、朱鷺が召喚した神獣がジェンに牙を剥いた。



「そいつをよこせ!」
「それは承服できませんっ!」
 空賊が振り下ろしてきた斧をトレイで受け流し、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は敵をオーナーに近づけないよう空賊を弾き返す。
「お引き取りくださいませ!」
 そして鳩尾に肘鉄を一発、むせ返した隙にうつむいた鼻へと掌底を叩き込んだ。しかしそれ以上追撃は行わず、騎沙良はオーナーの側でトレイを構える。騎沙良の目的はオーナーを守ることであり、空賊の討伐ではない。それを意識しているからこそ、深追いしてオーナーから離れることはしなかった。
「敵は私が引き受けます。あなたは護衛に専念してください」
 騎沙良の前にヴォルフラム・エッシェンバッハ(う゛ぉるふらむ・えっしぇんばっは)が現れ、剣を構えて騎沙良とオーナーを下がらせる。騎沙良は「協力感謝です!」と元気に答え、オーナーと共に戦線から少し下がった。「さて」とヴォルフラムが視線を船長室の入口に向ける。
「盗賊風情相手に振るいたい剣は持たぬ。が、どうしても貴君らが、船と積み荷とオーナー殿を狙うのであれば止むをえまい。手加減はしない、かかってきたまえ」
 剣を空賊に向け、堂々と振舞う。空賊は騎沙良に受けたダメージからかヴォルフラムの声はまるで聞こえていないらしく、耳障りな雄叫びを上げて飛びかかるも斧は空を何度も斬りつけるだけ。それどころか、斬りつけているはずのヴォルフラムが増え、空賊を取り囲むではないか。
「なっ――」
 考える隙も与えず、滑るように空中を移動するヴォルフラムの剣が幾重にも重なり、横一列になって騎兵隊の突撃のごとく空賊を跳ね飛ばす。宙に浮いた空賊を追いかけるように、ヴォルフラムがミラージュを解除して空賊の着地前に斬り上げ、空賊はぐるんと縦に回転して頭から不時着した。
「ふむ、綺麗に韻が踏めましたね?」