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第五章 フリースタイルと言えばいいのか、フリーダムと言えばいいのか

「さて、みんなの協力でアッシュくんのプロフィールも埋まってきたよ。最後のお題は『自由設定』! それじゃ行ってみようか!」
 ななながそう言うと、待ってましたと言わんばかりにドクター・ハデス(どくたー・はです)が手を挙げる。
「おっと気合十分! はいどうぞ!」
 なななに促され、ハデスがフリップを挙げた。
『フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!』
 フリップにはハデスの毎度の口上がそのまま書かれていた。
「それキミの情報だよね!」
『フハハハ! アッシュのことなら、俺に任せろ!』
 これもそのままフリップに書いてある。
「何で筆談みたいにしてるのさ!?」
「特に意味はない!」
「普通に喋れるのに!?」
「うむ! 意味など無い!」
 突っ込むアゾートに、ハデスはドヤ顔で胸を張る。
「あ、フリップの枚数ないから追加できないからその辺り気を付けてね」
「何!? いつもの名乗り上げをしたらもう枚数が無いではないか!」
「名乗り上げをフリップでやったのが悪いんじゃないか」
 アゾートのいう事は尤もである。
「まぁよい! アッシュの事なら俺に任せろ! とはいえアッシュって誰だっけか……」
「おぉい! なら何で自信満々だったんだよ!?」
 バン、とアッシュが曇りガラスを力強くたたいた。
「え? あ、ああ! 知ってるさ、良く知ってるよ……えーっと、アッシュだろ? うん、知ってる知ってる」
 そう言いながらハデスは完全に目が泳いでいた。口調まで変わっている。
「えーっとだな……た、確か……」
 そう言うとハデスは残ったフリップにマジックで何やら書きだしていく。
「えーっと……こないだ我がオリュンポスに入った新入りの怪人がそんな名前だった。確か、二つ名が『灰色の脳細胞』アッシュ。どんな困難な戦局でも、その頭をフル活用して戦況を打開する。ちなみに必殺技は頭突きだ! どうだ!?」
「どうだじゃねぇよ微塵もあってねぇよ! そもそも入った覚えがないわ!」
「何を言う! 入れた覚えもないわ!」
「威張っていう事じゃねぇだろ!」
「じゃあ知らんわアッシュなんて奴ぁ!」
 そう言ってハデスが地面にフリップを叩きつける。
「何でお前がキレるんだよ!? 意味わかんねーよ!」
「ハデスさん残念、不正解って事で。それじゃどんどん行くよー! 次は……まだ今日は一度も回答が無かったね、七尾 蒼也(ななお・そうや)さん!」
「え、俺? いやー最近ちょっと忘れっぽいから、記憶の整理みたいにして書いたんだけど合ってるかどうか……」
 そう言って蒼也が回答を見せる。

 俺の彼女と同じオーストラリア出身
 火術を使った料理が得意。クモサンマの塩焼きとか、乙カレーとか。あいつに狙われたサンマは裸足で逃げ出すって話。
 必殺技はモチッドミスト。こねまくった餅をアシッドミストとミックスする。相手を傷つけずに足止めできる。ベタベタして困るのが欠点だが、あいつは火術を使って後始末しているらしい。焦げすぎに注意だ。
 コミュニティは百合園推理研究会とぱらみったー
 無類の猫好きと聞いた。最近は鍵つきの猫のアクセサリーにはまってるそうだ。3000Gもしたとか?


「ほうほう、オーストラリア出身なのか!」
「惜しいけど違う! 俺様はオーストリアだ!」
「それに必殺技が凄いね、モチッドミストなんて魔法聞いた事ないよ。知ってた?」
「知ってるも何もそんな魔法ないでしょ」
 アゾートが疲れた様な表情になる。
「で、合ってるのか?」
「合ってるわけがない」
 アッシュに言われ、「違ったか」と蒼也が呟いた。
「……ところで、最後の鍵付き猫については触れないの?」
 アゾートがなななに言うと、静かに首を横に振った。
「触れていいのかわからないんだ、大人の事情的に」
 そういうわけでステマ失敗。すまぬ。
「はい気持ち切り替えていくよー! 次は誰かな!?」
「あ、必殺技って聞いてルカ思い出したよ!」
 そう言ってフリップを挙げる。
「ズバリ『白菜石鹸』!」
「意味が解らない!」
「あれ? 『悪砕鉄拳』だった気もするけど……ま、いっか」
「よくねぇ!」
「あ、そうそう、あとあだ名が金色のアッs――
 フリップを出した瞬間、レオーナがルカルカの身体を抱えて裏へと走り去っていく。
 きっと何か危ないネタに触れたに違いない。すぐに「アッー!」の悲鳴が聞こえてきた。
「気を取り直して次行くよー!」
「よし、今度こそ友人としてちゃんと答えるよ!」
 フィッツはそう言うと、回答を見せる。

 オーストリー出身。
 今は封印中だが、折畳み式軍用シャベル(Feldspaten)を使った接近戦も得意。


「合ってるよね!?」
「とりあえず出身に関しては間違っちゃいない。色々物議醸し出しそうだがまぁおいておこう……」
 アッシュは一呼吸おいて、言った。
「とりあえず某銃器会社ネタから離れようぜ!」
「シャベルを使った接近戦って確かコマンドサンボの奥義だっけ? 凄いねアッシュくん!」
「話膨らますなよ! 付き合える程知識なんてねぇんだから!」
「あれ、間違ってた?」
 フィッツが首を傾げる。
「出身はともかく他は違う! 次ぃッ!」
「出身の話が出たから言うしかないじゃん!?」
 そう言ってリナリエッタがフリップを見せる。

 オーストリア出身らしいが本人は毎年帰省するたびオーストラリアと勘違いしている。
 地球人の友達はカンガルーとコアラ


「どんだけ馬鹿野郎なんだよ俺様は!?」
 バン、とアッシュがまたガラスを叩く。
「うっさいわね! ってかあんたていうかオーストリアってどこにあるのか本当に分かってんの? ほら世界地図あげるから答えてみなさいよ!」
 そう言うとリナリエッタが世界地図をガラスの向こうへと放り投げる。
「それくらいわかる! ほれ、これだろ!?」
 そう言ってアッシュがガラスの上の方から世界地図を放った。地図にはオーストリアの位置に印がついていた。
「どうだ合ってるだr「普通に答えてどうするッ!」
 ガラスの向こうでパーンとハリセンの音が響く。リカインが殴ったに違いない。
「……あれ? オーストリアってここじゃなかったっけ?」
 地図を拾い上げ、なななが印のついたところと違う場所を指す。
「それ四国だよ……」
 アゾートに言われ、「え、違うの?」となななが首を傾げた。
「アッシュ君もそれくらいボケてくれれば違うのにねぇ……超がっかりじゃね?」
 リナリエッタは曇りガラスを見てそう言った。
「あー、出身の話で思い出したんだけど」
 エリスが挙手をして、こう言った。
「オーストリア=ハンガリー二重帝国の英霊だとか寝言言ってた」
「言った覚え全くない!」
「どの面下げて英霊だなんて言ってるのか……全く、寝言は寝て言えって話よね」
「だから言ってねぇっての!」
 アッシュが叫ぶが、エリスは全く聞いちゃいなかった。
「出身の話だったら茶子もするー」
 そう言って茶子がフリップを挙げる。
出身地はきっとどこかのスラムだね! 厳しい生活故に一人称を俺様にするなんて萌えるじゃん!」
「だからオーストリアだって言ってるだろうがぁぁぁぁぁぁ!」
「うんうん、アッシュくんがいい具合に壊れてきたね」
「何とも不憫だよ……」
 アゾートが憐みの目でアッシュを見る。
 けど悪いなアッシュ、もうちょっとだけ続くんだ。