|
|
リアクション
ゾディアック・ゼロ
アラムとともにゾディアック・ゼロの攻撃を申し出た契約者たちは、まだかなり離れていても威圧感を感じるほどの存在を痛いほど意識していた。バロウズのコクピットで夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)はゼロを睨みつけ、腕を組んだ。
「犬コロの復讐劇に世界もろとも巻き込むなどと言う戯言は許さん。
ニルヴァーナもパラミタも、どちらも救う方法を見つける。そのためにも今はゾディアックを止めないとな!」
ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が鉄の守り、不屈の精神で防御を高めている。
「とにかく接近してヴィサルガ・イヴァを使いませんと。近づく前に撃墜されるのでは意味がないです」
「ビショップにさえ歯が立たなかったのだからな……。第三世代機でないバロウズでは相手にもされない可能性もある。
稼働時間は短くなるようだが相手にもされんよりはいいだろう」
「確かに強力ですが、パワーをほぼ使い切りますからね」
「わかってる。撤退の分だけ残して、後は攻撃だな」
共に攻撃をする予定のゴールデン セレブレーションの白鳥 麗(しらとり・れい)も、おおむね似たような趣旨だった。
「年月をかけた念入りな復讐ですって?!
『ワンちゃん』ごときにこのわたくしの、大事な学友達のいるパラミタを、潰させるような真似はさせませんことよ!」
早川 あゆみ(はやかわ・あゆみ)がレントから声をかける。
「私は支援効果のある歌で、皆さんのサポートに回りますね」
「支援はありがたいです!」
ホリイが嬉しそうに言った。そのとき麗がふと、アラムに尋ねた。
「そういえばアラム様? 敵に近づけさえすれば、何か策があるとおっしゃいましたわね?」
「そう。そのために僕はここへ来たのだから」
アラムが答える。トニトルスのエルサーラ サイジャリー(えるさーら・さいじゃりー)からも声がかかった。
「貴方、無理してない? なにも与えられた役割だからってそれに従わなくてもいいのよ?
まあ、貴方が心から望んでるんなら、丁度クジラ船長にも会いたかったところだし。
これを使ってあげくもないわよ? クジラ船長は可愛い子の味方よ。きっと」
終盤はエルサーラの個人的感想が大いに混じっている気もするが、アラムはそれには触れずに答えた。
「いや、無理はしていないよ。僕の存在意義は、まさにこのためにあるのだから」
「だったら、いいわ。近づけるようこれを使うわ」
「ありがとう」
「バカ言ってないで、チャンスが来たらアレを何とかしなさいよ」
素直な返事にエルサーラはどぎまぎし、真っ赤になってそっぽを向いた。それを見てペシェ・アルカウス(ぺしぇ・あるかうす)がくすくす笑う。
(素直じゃないなー)
あゆみがアラムに話しかけた。
「アラムくん、あなたは確かに今日使命を果たす為に生み出された存在だったかも知れない。
でも、それで終わりじゃないわ。
明日からは『アラム・シューニャ』として、自分自身の為に生きていく人生が始まるの。
だから……頑張って来てね!」
「ベストを尽くすよ」
アラムは短く答えた。
「アラム様は見つかりにくいとおっしゃっておられましたが……それだけに賭けるのは危険ですわ」
麗が言う。
「万が一の事を考えて、私たちはアラム様が近づくタイミングでゼロに攻撃を仕掛けて、意識をこちらに向けますわ。
このわたくしのイコンの鉄拳で横っ面をひっぱたいて差し上げれば、きっとこっちに注目致しますわ!」
言うなり麗は実際にそれを行動に移した。隣に座っていたサー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)が目をむく。
「お嬢様……囮を買って出られると思ってはおりましたが……。まさか『横っ面をはたく』などとは……。
よろしいですかお嬢様。百合園の学生として、白鳥家のご息女としてもっと慎みと穏やかさを持ってですな!
ああ、もう、その血の気の多さを少々控えてくださらねば、私は執事として旦那様に顔向けが……」
アグラヴェインは説教モード全開で、くどくどと麗を譴責しながらも、その手と目は忙しく働き、最小限の動きでゴールデン セレブレーションを細かく操作しつつ、ゾディアック・ゼロからの攻撃を回避している。エルサーラがすぐさまクジラ船長の召還を始めた。
「クジラ船長。私よ、エルサーラ。悪いんだけど可愛い子を虐める奴が居るのよ。
ちょっとだけ貴方の力を貸してくれないかしら?」
「エル……ちょっと、それがそれが召喚の言葉なのかい?」
ペシェが突っ込む。
「何よ。悪い?」
「悪くはないけどさ……」
召還に応じて、クジラ船長の船が空中にまばゆい光をまとって現れると、回避行動を取りつつゾディアック・ゼロに接近していた甚五郎も、ヴィサルガ・イヴァを発動させた。
「これで、どうだっ!!」
パワーをほぼフルで、攻撃を行う。同時に召還されたクジラ船長の船も光の柱のような砲撃を見舞った。攻撃によるダメージは認められないものの、ゾディアック・ゼロの動きが一瞬止まる。すべるようにアラムのストークが近づく。十分な距離まで近づくと、アラムのストークからまばゆい光がほとばしった。アラムがストークに搭載していた装置を作動させたのだ。
ゾディアック・ゼロが突然むちゃくちゃに動き出した。巨大な物体が激しく動くのだ、周囲にいては巻き込まれる。
「くそっ! この程度か!」
甚五郎が悪態をついて撤退する。エルサーラのイコンも外部スピーカーからアグラヴェインの説教を中継しながら驚くほどの華麗な動作でゾディアックから退いた。異様なハム音を撒き散らしながらしばらく激しくその場できりきり舞いを演じた末、ゾディアック・ゼロは呻くような、ため息のような音を立て、完全に停止した。
ゾディアック・ゼロの至近距離にいたアラムのストークは最初に吹っ飛ばされ、宮殿あとの外壁に衝突して止まっていた。イコンの緩衝機構はきちんと働いたようだが、アラムの機体は未だ微動だにしない。