空京

校長室

創世の絆第二部 最終回

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創世の絆第二部 最終回
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30近くナイト

 吉井 ゲルバッキー(よしい・げるばっきー)に操られているのはイレイザーばかりではない。これまで幾度となく私たちの前に立ちはだかってきた、あのインテグラルナイトでさえも、今や彼の指示一つで狂気じみた眼をして私たちに襲い掛かってくる―――
「聞いてはいたけど……まさかこれほどだなんて……」
 驚くべきはその数だった。軍と呼ぶには小ぶりだが、30体ものナイトが契約者たちに襲い来ていた。
 端守 秋穂(はなもり・あいお)が言葉を詰まらせたのも無理はない。これまでならイコン数機で一体のナイトに挑んでいたのだから。
「……ま、まぁその分、細かい指示や連携を指示するのは難しいだろうから、僕たちでも十分戦えるよな」
 パートナーであるユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)に同意を求めたつもりだったのだが―――
「これだから……これだから嫌いなんだ……」」
「ゆ……ユメミ?」
「やっぱりあのわんこ嫌いだー! ニルヴァーナもファーストクイーンさん達も巻き込むなー!!」
「ちょっ、ユメミっ?!」
 叫び声をあげた勢いそのままにセレナイトを急発進! もれなく秋穂がシートに叩きつけられた。
「後であいつの毛、ぜーんぶ刈り取ってやるんだからー!!」
「ゆ、ユメミ、落ち着いて! その気持ちはわかるけど……
 交戦中の味方機の脇から飛び出して『新式ビームサーベル』で一閃。巨大な斧を握る太指を狙って打ち下ろしたが、捕らえたと思えた刹那―――
「!!!」
 僅かな動きで衝点を柄へと移されてしまった。
「後ろっ! 来てるよっ!!」
 秋穂が瞳を見開いている間にユメミが気付いて機体を操作した。すぐさま反撃に出たナイトとは別に後方から新手が迫り来るのをレーダーが感知していた。
「もーーーーーー!!! これもどれもあのわんこのせいだーーーー!!!」
「……って文句言ってる割にレーダーとかはちゃんと見てるんだね」
「それとこれとは話が別」
「今日に限って無駄に大人?!!」
 敵を倒すことはもちろんだが、自分たちの身を守ることすらも、この戦力差では難しい。数的不利な状況になった時点で墜機は覚悟した方がよさそうだ。
「そんな縁起でもないこと、言うもんじゃないぜ」
 大岡 永谷(おおおか・とと)はじっと戦況を見つめて「少なくとも戦場で言う言葉では無いなあ。あぁ間違いない」
 自分で処理している内にそれを見つけた。ナイトが2体で援護に向かっている場所がある。
! あそこだ!!」
「りょうかい」
 永谷が指差す地点めがけて熊猫 福(くまねこ・はっぴー)が一気に駆け出した。その周りを数人の傭兵と『スーパー鳥人型ギフト』が囲んで護衛している。
「よいしょっ―――」
 最短で距離を詰めるとそのままへと変形させた『スーパー鳥人型ギフト』をナイトの胸へと突き立てた。
 切っ先は刺さったものの、そこで止まってしまった。やはり新型ギフトと言えど貫くことは叶わないか―――
 いや、
「おぉおおおお……」
 両足で踏ん張り、強く握りて。切っ先が刺さったままの槍に力を込めて。
「おおおおおおおお、おおっ!!」
「!!!」
 二度目の突進。強引な力技だが勝負あり。ナイトの厚く硬質な胸装をは見事、貫いて見せた。
「グ……グギ…………ガ……」
 電源が落ちてゆくように肢体をビクつかせるナイト。絶好機だった。傭兵だけでなく他の契約者たちも加勢して一気に畳みかけると、すぐにナイトは膝から崩れて動かなくなった。
「新しい力、悪くないんじゃないかな」
 一撃で貫けはしないものの『スーパー鳥人型ギフト』は十分通用する。味方機との連携は必須だが、十分に手応えを感じた戦いだった。



 ラクシュミ空京 たいむちゃん(くうきょう・たいむちゃん))やルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)が乗る「機動要塞」に搭乗するだけでなく操縦士の一員として乗り合わせているクレア・セイクリッド(くれあ・せいくりっど)が、戦況を見つめて呟いた。
「これも……ゲルバッキーの力なのかな?」
 視界前方には天駆ける巨大なケンタウロスの群れ。そのどれもがインテグラルナイトな訳であるが。
「……明らかに速くなってるよね」
 かつてインテグラルナイトとの戦いから採取したデータを元に『Sインテグラルナイト』という乗り物が開発されたが、恐らくは今の方がずっと速いだろう。
 ゲルバッキーの制御下に置かれたことで能力値が向上したのだとしたら―――
「それはどうかしら」
 香取 翔子(かとり・しょうこ)が言った。要塞護衛隊の指揮官を勤める彼女の瞳はいつも以上に鋭く強い。
「どちらかというとゲルバッキーの狂気に当てられてるといった感じじゃないかしら。餓えた獣のように、ただ敵を滅しろと言われているだけじゃないかしら」
「それは……つまり?」
「制御下にあるというより、制御を解除されたという事かしら」
 リミッター解除の状態に近いかもしれない。しかしこれまでは少なくともビショップの指揮下で動いていたはずだが、それも無くなったと考えるなら―――
「えぇ。指揮系統の緩い部隊に負けるなんてあり得ないわ」
 翔子の視線の先、繰り広げられる空中戦のその中でノルトが躍動していた。
 4門の『ガトリングガン』で飛来する敵に弾幕射撃を浴びせゆく。操縦するゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)の任は「機動要塞に敵を近づけさせないこと」にある。
「強行突破の姿勢がないだけ守るのは容易ですね」
 そんな中にいて突破をはかろうとする敵は一目で瞭然。連弾射撃で出鼻を挫き、視界も奪えたなら一斉掃射。倒すことは叶わなくても後退させるには十分だった。
 空中戦を熟知しているだけに相手との距離の取り方が絶妙だった。
 それでもここは空中。ノルトが全方位を守れるはずはない。
 突然の爆音。そして機動要塞が大きく揺れた。
「何?!!」
「私が見てこようかのう」
 誰よりも早くに枝島 幻舟(えだしま・げんしゅう)が言った。年が年だけに動き出しこそゆっくりだったが、翔子が指示するより前に動き出した辺りはさすがといった所か。
 爆音にも聞こえたが、敵の特徴を考えると巨大な斧で破砕されたか、はたまたあの巨体で当たってきたか。
 艦体に損傷があれば、また負傷者がいるなら幻舟が処置するだろうが、実害が出ている以上、そこには今も敵が居るという事だ。
「それは問題ない。すでにたちが向かってる」
 モニターに目を向けたまま浜田 鬼麿(はまだ・おにまろ)が言った。モニターには要塞の左底部の様子が映し出されている。
「ナイトが体ごと当たってきたみたいだね。でもほら、さっそく到着だ」
 カメラの前を覇王・マクベスが飛び過ぎた、と同時に機体は『ミサイルポッド』を展開している。
みと、弾幕展開! 可能な限り敵を近づけるな!」
「了解です」
 火器砲撃を担当する乃木坂 みと(のぎさか・みと)が一斉掃射を開始した。狙いは要塞に突撃したナイトただ一人だ。
 通常の弾丸や剣撃が効かない事は知っている、しかし動きを止める程度ならばできる。その隙に―――
「ディンギルの起動開始を確認、出力安定。発動可能です」
「よし! ディンギル起動! カナンの聖剣へのエネルギー開放」
 メインパイロットの相沢 洋(あいざわ・ひろし)が叫ぶ。
「薙ぎ払え!!」
 覇王・マクベスの一閃がナイトの巨斧の柄を真っ二つに斬り裂いた。
「よし!」
「武器を破壊しただけです。続けましょう」
「おう!!」
 覇王・マクベスの勇姿、その様を鬼麿はモニター越しに確認すると、目の端で別モニターをチェックしてからに報告を行った。
「左底部の損壊も大きくはない、エネルギー漏れも無い。このままイケる」
 気になると言えば既に味方機の中に破損の激しい機体がある、といった点か。しかしそれも間もなくシャレン・ヴィッツメッサー(しゃれん・う゛ぃっつめっさー)の準備が整い次第にシャルルマーニュが出てサポートに回ることだろう。敵個体の情報も少しは集まっているはずだ。
「いいわ! このまま敵軍を撃滅する!!」
 防戦に追われる事は覚悟の上、その上で一体ずつ沈めていけたなら。
 指揮官の力強い声に応えるように味方機たちも一層に志気を高めるのだった。