シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

オークスバレー解放戦役

リアクション公開中!

オークスバレー解放戦役

リアクション


第7章 戦いの周辺で

「ロンデハイネ部隊長。オークスバレー南部の砦とオークの森の補給部隊を護衛したいと思いますが、許可いただけますか?」
 今回の戦いにおいては、兵站を担当することになった、ロンデハイネ。
 それを聞いた一色は、軍議が終了した後、彼にそう願い出ていたのだ。
「そうだな。まずはその前に、チョコレートの護衛をして貰おうか」
「はい? 何でしょうか」
「チョコレートだが?」
 ロンデハイネ部隊長は至って真面目にそう言った。


7‐01 お城を作ろう

 前回の戦いで焼け落ちた北岸は二乃砦。
 遠くに軍馬(狼?)の足音を聞きながら、その築城にあたるのは、ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)だ。
 そこにはすでに、シャンバラ住民達の姿も見える。
「村人たちにとっても、特産品が増えて地域が豊かになる事は悪い話じゃないだろう。
 もう何年かしたら、この辺り一帯はセメント産業の中心地として賑わうようになるかもしれないな」
 そう語るハインリヒ。素行に少し問題ありの彼だが、工兵科所属、その成績は優秀で、築城の任に就くにあたっては、充分にその能力を発揮している。
 ここは先日の戦いでは、彼もその一員であるノイエ・シュテルンの火攻めにより、陥落した。
 だが今度はここを、オークに代わって教導団の峡谷支配の拠点としなければならない。
 火攻めでも決して落ちない砦に。
「しかし、石や煉瓦を使ったのでは、費用や人手がかかりすぎる……」
 そこで彼が選択した建材のが、「石灰石と砂利さえあれば製造可能なセメントとコンクリート」であった。
「セメントの焼成には、そうだな、傭兵をかかえている南西師団のこと。その中には火術の使い手もいる」
 またハインリヒは商才を発揮し、周辺のシャンバラの住民達に製法を教える見返りに、建設現場の労働力を提供してもらおうと考えたのだった。

 このハインリヒの提案はまた、周辺住民と、峡谷へ入ってきた教導団との新しい交流の場を提供することにもつながった。
 築城や建材の製法について、現地の代表者とハインリヒが話す一方で、住民達と一緒になって汗を流しているのが、本名をゴッドリープ・フォン・フリンガー。航空科に所属する士官候補生の一人だ。
 普段は気弱な面があり、自分に自信を持てないでいる彼なのだが、住民の人達と働く彼は生き生きとして見える。
「私達、地球人にとってはあたり前の工事でも、このシャンバラの住民達にとっては、初めての経験だからね。ここは一つ私がしっかり自信を持って、取り組んでいる姿を見せないと」
 また、彼はこまめに現場を見回って、不慣れな作業で体調を悪くした者を見つけたら、仮設の救護テントまで付き添って連れていく。事故には、細心の注意を払う。
「皆さん、無理はしないで、ゆっくり慣れていきましょう」
「ゴッドリープ君。どうだね?」
「あっ、ロンデハイネ部隊長。直々においでくださるとは……」
「やあ、ゴッドリープ君。はかどっておるかね」
 隣で騎狼に乗る一色も、ロンデハイネを真似て言った。
「あ、一色部隊長、じゃないです……一色さんも」
「はは、冗談だよ。チョコレート、持ってきたぜ? 皆に、休憩してもらったら」
「それはどうも。では、シャンバラ人の皆さんに、そう呼びかけてきます」
 元気に走っていくゴッドリープ。
「仁、ちょっと……真面目なお方なんですから、からかってはいけませんわ。ほんとに失礼ですよ」
「ああ、ごめん、ごめん。ミラ。まあ今日はしっかり補給部隊護衛としての任務を果たしているんだし、そんな厳しく言わなくったっていいじゃないか」
「チョコレートの護衛、ですわね。
 とにかく、他人をからかったりするのは駄目です。私は、そういう仁は、きらいですわ」
「ふふふ。本当に? 俺のことがきらいなのか、ミラは」
「いえ、仁のことがきらいなのではなくて、そういう他人をからかったりする仁はきらいですと、言ったのですわ」
「……あの、住民の皆さんを連れてきました」
「あ、ああ……」「そ、そうですわね……」
 二人を見て、パートナー依存心の強いゴッドリープも、少しパートナーのことを恋しく思うのだった。
 さてそんなゴッドリープがロンデハイネ部隊長に進言したのが、慣れない経験で緊張や不安を強いられる住民達への、栄養価の高い食事や、チョコレートやお菓子類を支給できれば、とのことだった。
 オークスバレーの戦いも、この一日二日が勝負になる、だろう。
 そうすれば、もっとおいしい食事が、住民の人達と食べられるはずだ、とゴッドリープは思った。働いた後の食事は、おいしいし、ね。

 こうして、まだまだ作業は始まったばかりだけど、ハインリヒには、峡谷に立つ砦の形がすでに見えている。
 ……完成の暁には、この砦を、「フォルク・レーテ要塞」と名付けるとしよう。
 そう、ハインリヒは思った。
 わたくしハインリヒが、フォルク・レーテ要塞を、必ずや峡谷一の砦として、完成させてご覧にいれる。



7‐02 兵站と、これからのことと

 チョコレートの護衛から帰ってきた一色。
 軍議のあった昨日のこと……
「兵站線がオークスバレー全域に広がり、非常に延びています。
 さらにオークの森に不穏な勢力があるなど、兵站線は安定しているとも言い難く、重大な攻撃があれば前線が弱体化するでしょう」
 それに、と言い一色は微笑してみせると、
「いつも世話になっているロンデハイネ部隊長の担当が兵站なら、それを成功させなければなりません」
 補給部隊の護衛を願い出た一色であったが。
「そうだのう」
 ロンデハイネは顎に手をあて、
「実際のところ、オークの森の勢力に関してその実数は不明であるが、すでに侮り難しとのことで、ここを補給部隊が抜けることはできん。
 やつらはこの峡谷を窺っておるので、まとまった数でこちらから移動すればまず襲われる。
 とは言え、現時点でこの峡谷内にて物資を調達するわけにもゆかず、兵站は危うい状況にある。
 騎凛殿のとった策の内実は、それを覚悟でこの二日三日のうちに敵本巣を攻め落としてしまおうということになるな。危うい」
「それはロンデハイネ殿は軍議でその……発言をされなかったのでしょうか」
「ふむ。うちの軍の体質かも知れぬな。私も半分はそうだが、レーヂエなどは戦っていればいいという武官であり、そういう戦いをしてきたのが我々南西分団なのだろうな。
 位のある者で策を巡らすのは今までは専らアンテロウム殿のみであったし……。それからこの土地の豪族ユハラ、あの者が今後どう出るか、というのは興味があるが……」
「うーん……なかなか難しい状況にあるのでしょうか」
 一色も、今は真面目に話に付き合っている。
「そうだの。ともかく、一色の進言してくれたことは、尤もな事実であり、そのことを他に気づく者もなかった。
 一色には戦の全局を見る才があるかも知れんな。
 恥ずかしながら言いづらいながら、騎凛殿の率いる我らが南西分団は元々、辺境の賊や魔物の討伐隊から成り上がって……認められてきた軍といったところがある。本校に負うところも多かったが、兵站の管理等はアンテロウム殿が一手に引き受け、財政面に関してはパルボン殿がいた。我が団にはもともとシャンバラに領地を持つ彼の私兵である者も多い。
 が、あの老黒羊殿……アンテロウム殿も最近引退を考えておるといい(これは内緒だぞ)、また、我々が師団として立つ以上はいつまでもパルボンの私兵で補っているのもまずいし、限度がある。
 今後は、我ら南西分団そのものを整理し、再構成していく必要があるだろうな。
 兵馬に関しても、新たに騎狼部隊が組み込まれることになったし、土地のシャンバラ人、ミャオリ族、詳細は不明だがハーフオークの存在などもある。
 私を始めレーヂエなども前線の指揮官しかしたことがない。はっきり言えば、知識だけでなく人材そのものが不足しておるのだな。
 それから、これから師団を率先しなければならない隊長(騎凛)のことも皆心配しておる。あの人は前線の戦は上手いと言われてはいるが、その他のことは、おそらくまるっきし駄目な人だからな」
 一色は、三乃砦一階のオークカフェを仮改装したシャンバラ喫茶店でコーヒーを飲みながら、普段寡黙なロンデハイネの長い話を聞くことができた。
「ということで一色殿。どうか頼むぞ」
 一色は、兵站担当に昇格した。
「とりあえず、現在のところ、食料等物資に関しては、主にこの南岸三乃砦に集めてある。砦については、比較的南岸の砦の方が(二乃砦は焼けてしまったが)安定しているようだ。一色は、補給部隊を率い、北岸で防備にあたる砦や、それから築城中の隣の砦等に向かってもらうことになるな」
 こうして一色は、騎狼とにゃんこ部隊を借り受け、パラミタ全土を踏破……とはいかないが、峡谷中を駆け巡ることとなった。
 




「と、いうことだ」
 一色は、ミラと共に騎狼を駆りながら、上述のことを説明する。
 護衛計画の案を作ったのは、パートナーのミラだった。
「まあ。あなた、昇進おめでとうございます」
「何かその台詞……軍人という感じがしなくないか?」
 夫婦みたいだし。一色はミラをからかった。ミラはちょっと赤くなるのだった。
 ミラは女王の加護を用い、一色はランスを手に、警戒しつつ三乃砦と各砦を行き来したが、オーク兵には出遭わず。追従するにゃんこ兵。今までは戦場を駆けたが、今日の二人は平和であった。
「ミラ。これからのことでも話そうか?」
「……戦の、ですわよね? もうからかおうったって無理ですわ」
「ブヒヒヒ」
 ミラはさっさと先へ行ってしまった。



7‐03 古兵と新兵と、そしてパートナーと

 一乃砦から、本巣へと至るまでの丘陵帯。
 続々、北岸の方から、丘陵を渡って北へと逃げてくるオーク。
 どうやら、一乃砦における勝負は無事決したらしいと見える。
 本巣まで、逃げられると思っているのだろう。
 だが……
 さっと手を挙げる青。
「それぃ!
 一兵たりとも逃すでぬぅおゎいい!!」
 空気が変わる。
 丘陵から現れた青率いる一隊に、凍りつくオーク。
 容赦なく、攻め込んでいく教導団。
 それまでの穏やかな丘陵が、瞬時に戦地となった。
「これが本当の戦場なんだ……」ようやく得心したアクィラも、はっとして銃を抜く。
「えぇい何をしておる、アクィラ。今こそ出番であろう!」
 に、と笑いかける青。
「ようし!」
 アクィラに、すでに迷いはなかった。
 こういう役目を引き受ける者あってこそ、確実な勝利が掴める筈だ。
 また、逆にどんなほつれ目から、戦が負けに転ずることもあるかも知れない。

 青とアクィラは、本巣や砦攻めの間にあって、見事にこの役目を果たしたと言えそうだ。

 それからすぐに、アクィラは、クリスティーナと連絡を取り合った。
 クリスティーナは、本巣の様子を伝えてくる。
 すでに、先手の騎狼部隊が戦場を走り、敵の投石器を潰し、集まっている兵を撹乱して戻ってきたという。主力部隊が投入され、前方はすでに乱戦になりかけていて、後方にまで戦場の熱気は伝わってくると。クリスティーナは、冷静とまではいえない様子だが、できる限り的確に伝えようとしてきている。それよりも、先ほどの戦いの熱気が冷めやらないのは自分の方だと、彼女と話していてふとアクィラは、気づいた。クリスティーナの言葉から、本巣の戦いの様が少し見えてくる気がして、アクィラはまた、血が騒いだ。が、今は自分に与えられた任務をこなすしかないんだ。こうして、実戦の中で学んでいかないと……と。報告を終えると、クリスティーナが心配になり、会いたいという思いも。彼女も、心細く思っているんじゃないだろうかな……
「ぬぅおゎにぉを悩んでいるね、若者!」
「あ、青殿。いえ、これからもお願いします!」
「……。
 どうしたんであろう。黒、何かあったろうか?」
「いえいえ、野武さん。少年は何かを掴みつつあるのでしょう。アクィラ殿、良いことです。でも、まだまだこれからでありますぞ!」



7‐05 プリモ温泉へGO!

「久多さん。温泉へ行きましょうか」
「……え、は、はい?」
 砦の最上階。
 向かい合う、騎凛と久多。
「久多さん? どうしました? 温泉、行きません?」
「……こんな昼間から、え、や。じゃなく、……任務は?」
「んー。暇ですし。ちょうど、温泉に行きたいなと」
 騎凛と久多、砦の階段をつたつたと下りて行く。
 (結局ついて行くことになったぞ……騎凛がこんな積極的だとは。これなら再ナンパする必要もなく、……じゃなく。
 騎凛嬢の護衛として、当然の行動。フッ。)
 砦の門を出る二人。
 門番、騎凛に、「これは騎凛様。どちらまで?」
「温泉行ってきます」
「(え、騎凛、ちょっ……)!!」
 騎狼にまたがる騎凛。
門番A「お、おい。警護に付いていかなくていいのか……?」
門番B「それとも、遠慮した方がいいのか……?」
「久多さん。行きましょう、後ろに乗ったらどうですか?」
「あの……行ってきます」
門番A「くっ!!」
門番B「蒼学生め、蒼学生め……!!」

 かくして、温泉着。
「あ、あれ? 何か工事中とかなってるな。騎凛、こりゃ駄目だな。日を改めるか」
「ええ。プリモさんが、すでに技術科温泉の開発に着手されていますから。
 プリモさん? いらっしゃいますかー??」
「あ、騎凛ちゃん。あたしはここだよー」
 ヘルメットをかぶり、ぶ厚い温泉計画書を携えた、技術科所属プリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)が現れた。
「どうです? 温泉の進み具合は」
「うん、とてもいい感じだよ♪
 今、西の宿屋さんや、東のお店やさんの方々にもお集まり頂いていて、温泉に出店してくれるための話し合いの方も着々と進んでいるよ」
 温泉の脇に建てられた仮設の温泉開発本部には、"鉱山の町から技術と温泉の町へ"という、スローガンが掲げられている。
「あのスローガンはあたしが書いたんだっ」
「へえー」感心する騎凛。
 本部から、峡谷で宿や商店を経営してきたシャンバラ人達が出てくる。
「これは隊長殿。プリモさんのアイデアは素晴らしいものがありますね。私どもにとっては、この温泉など、時に老人が湯治に訪れたり、手負の獣がおったりというばかりのところでしたが、ここを温泉の町にしてしまおうとは」
「これで教導団が更に出資してくだされば、この峡谷そのもの一帯が、あのスローガンどうり、温泉の町として生まれ変わりますな。はっはっは」
「お、おか、お金がないのでお金がないので」
「もう一方の、技術の町、っていうのを見落としたらいけないよ。
 ここは鉱山が近いわけだから、そこで見つかる機晶石や希石の研究に役立てるため、技術科の研究施設も作っちゃいますね」
「エ〜〜ン。お金……」
「そうすれば、ひいては南西分校の弱点である軍備を補うことにもつながるかと」
「あ、それはなるほどですね。
 んー、お金、どうしましょうねぇ。困ったわ……」
「技術科としての見地から……機晶石等を研究していく上で、出力が低いとか小さくて仕えない欠けらとかを、携帯ストラップとか温泉の元とか、お土産として売るのも忘れずに、だよ!」
「あ、それは……
 儲かるかも知れませんよ。ウフフ」
 騎凛の目がキラリと輝いた。へへへ……宿やお店を出すシャンバラの経営者も、にやつきを隠せない。
「んー、でもまずは、どうやって金を作るかなんですよねえ、かねを。
 このあたりは、集落の方で活動されている佐野さん達や、鉱山制圧に向かった沙鈴さんや皇甫さん達が、何とかしてくださるといいのですけど……」
「じゃあ、騎凛ちゃん。あたし達は、開発計画の方を進めていきますね?」
 プリモは、宿屋、お店の人達と、再び本部の中へ入っていった。
「久多さん。開発計画は無事進んでいるようですね。では、帰りましょうか?」
「……」
 工事現場から、ヘルメットをかぶったにゃんこ達が現れた。ミャオリ族の工兵だ。
「あっ久多ニャ」
「久多が来たニャ」
「あっ久多ニャ。来たニャ」
 ぞろぞろと、集まってくるにゃんこ。
「そ、そうだな、帰ろうか。こらにゃんこ、しっしっ」
 プリモが、今度は女将の格好で、再び出てくる。
「騎凛ちゃん。せっかくですから、温泉に入ってく?
 仮設の宿泊施設に、お布団も二つ敷いておきますね」





 帰りの道。
「あのな、騎凛……実際のところ、俺はまじめに教導団に尽くしたいと思い、この戦いに参加してるんだ」
「ええ、そうなのですね」
「最近は、教導団に入れればとも、考えるようになってさ」
 と、ちょっとおあつらえ向きに出てくる、オーク三、四匹程。
「オオォォォォク!!」
「くっ……まかせろ!」
 スパ スパ スパー ン。
「一、二、三……」ナギナタに突き刺さるオークの首。 
「……」
「オノレェ死ネォォォォク!!」
 茂みから、騎凛をボーガンで狙うオーク。
「させるか、」スプレーショット!
 どざっ、「……ふぅ。
 とにかく、騎凛に護衛は要らんのかも知れんが……蒼学の俺でも教導団のために戦うつもりは、ある」
「久多さん……」



7‐04 誰が為に戦うか

 本巣近くの北の森では、教導団の思惑とは全く別に、独自の戦いを繰り広げる者達もあった。
 本巣総攻撃の前にも登場したこの二人だが、それぞれどんな想いで、その戦いの場に至ったのだろうか。
「!? おい、カーマル!」
「えっ」
 カーマルに銃を向けるラルク。「な?! なんだって、ボクにっ、あっ」
 だんっ カーマルの背後で、地に伏すオーク。
「ちっ……馬鹿野郎! 背後は一番重要だろ! ……オラ、背中合わせて死角無くすぞ!」
 カーマルの方に歩み寄るラルクに、今度はカーマルが銃を向け、
 だん だんっ ラルクを挟み打とうとしていたオークを撃ち倒す。カーマル、引け目を見せる様子なく、
「お互い様だ」
「は! まさか俺が助けられるとはなーもっと修行しなきゃいけねぇな」
「よく言う、この状況ですら修練の一環だろうに」
「あ? ばれたか? まぁ、強くなりたいからな……こういう死線をひとつやふたつくぐりぬけねぇとよ!」
 この……体力バカめ。
「ははは! ……ん? 何か余計なこと、言ったか?」
「い、いや? 何も」

「……若干オレはぶられてる気がするのは気のせいだろうか??」
 まぁ、そんなこと気にする余裕は無いか……二人のやり取りを見守りつつ、自身も、迫り来るオークとドラゴンアーツで戦うディスガイス。
 彼は、思う。
 しかし、カーマルは知っているのだろうか、ラルクが、誰のために強くなろうとしているのか、ということを。
 それとも、ラルクの求める本当の強さ、とは何か?
「砕音……俺はもっともっと強くなる。お前を守れるぐらいにな!」



7-05 俺の名は

 誰が為に戦うか、と問われれば。己が為に戦うと、答えるのだろう。
 オークスバレー某所。
「地獄ノ水先案内人、オーク四天王ガ一人、土ノ ブブリカイネ トワ、我ノコトダ!
 ウフフフ……貴様ノォ顔ニ死相ヲ見タリ!! ユクゾ、クルーゾォォォォ!!!!」
「……オークの歴史の最後の一ページに、俺の名を刻むが良い……
 ……俺はクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)だ!! ……」
 妖しく手招くブブリカイネ。剣を抜き放つクルード。
 ガッ 閃光が飛び交う。打ち合う二人。
「……むう……」
 クルードのカルスノウトが、ボロボロと錆び、腐り落ちていく。
「ウフフフ。クルーゾ? 勝負アッタ、カナ? サア、コッチエオイデナ?
 ウフフフフフフフ、地獄ノ入リ口迄ナラ、付イテッテアゲルウフフフフフフフ」
「……さて……今度の奴は少し楽しめそうだな……もう一度言う、俺はクルード……覚えておくんだな……貴様が地獄へ行く前に……」
 クルードは、ふっと笑うとカルスノウトを投げ捨てた。
「……俺にはこんなものはもう要らない……
 ユニ!銀閃華だ!……【閃光の銀狼】の爪牙……見せてやろう……その身に刻め!【駿狼】!」
「はい!任せてください!行きます!……銀の炎が、この世の全てを照らし出す……銀光の華よ、開け!」
 ユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)の胸から、光る銀閃華の柄が現れる。「クルードさん、抜き取ってください!」
 光条兵器を受けとると、クルードは高速移動してオークに迫った。
「オノレ! コシャクナ若造共ガ!! 二人仲良ク地獄ヘ新婚旅行スルガイイ!!」
 ブブリカイネの黒い右手が剣に触れるが、銀閃華はその輝きを失うことはない。
「ナニ!! 光条兵器ダト、クッ、ソノ女、剣ノ花嫁カ……!!」
 クルードは、ただ静かに微笑んだ。その後ろで見守るユニ。
「冥狼流奥義!【銀狼連牙斬】!」
 冥狼流奥義・銀狼連牙斬……すなわち、爪狼連牙斬(前回の最後に使った技)を銀閃華で使った技が炸裂する。
 ブブリカイネが四つ切りになった。
「……一人殺った……これであと、三人、いや何人でもいい……もっと強いやつ、俺のところまで来い……このクルード・フォルスマイヤー、いつでも相手になってやるぞ……」