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第3章 出撃前

 騎狼部隊の主力となった菅野 葉月(すがの・はづき)メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は、この二日間はお互いの学舎――蒼学、百合学へは戻らずに、砦に寝泊り・温泉に浸って戦いの疲れを癒したりしながら、峡谷で過ごしていた。
 メイベルはここで、思わぬ旧知と出会うことになる。
「メイベルさん!」
「あなたは、ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)さん!」
 プラチナブロンドの髪をポニーテールで纏めた少女、メイベルと同じく百合学所属の、騎士(ナイト)だ。
「一日遅れになってしまったけど、私も戦いがあるっていうのを聞いてきたんだ」
 もともとは名家の出身でお嬢様教育を受けていたが、親に反発してパラミタへ来た意志の強い彼女だ。戦いにも期待が持たれる。
「あ、ミューレリア、さん? 僕のことは、葉月と呼んでください。じきにまた、戦闘になるようです。同じ騎士の方と、百合学の方と、馬を並べられるなんて、嬉しいです」
「うん! 私もだ。じゃあ、メイベル、葉月、よろしくな」
「よろしくですぅ」
「あーちょっと、葉月、葉月! 馬じゃなくてー、狼だからね、オオカミっ」
 葉月が皆と仲よくしているのにちょっと嫉妬して、押しかけ魔女のミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が、葉月のマントをくいくい引っ張る。
「ゴ、ゴメン、ミーナも一緒に……では今から、騎狼のところに行きましょう。そこにアリーセさん達も、いるから」
「ふふっ」ミューレリアも、楽しそうに笑顔を見せた。


3‐01 騎狼部隊

 新たにミューレリアが騎狼部隊のもとを訪れた日の内には、総攻撃のいちばん手として騎狼部隊出撃が軍議で決定される。
 騎凛のとった策では、騎狼部隊は、総攻撃の先鋒として砦に一番乗りし、一撃離脱を加える。重大な役目だ。
 軍議にて無事発言を終え、騎狼部隊の責任者代行となった(された)イレブンは、アンテロウプから、今回から騎狼部隊に配属になったという、教導団の少年を紹介された。
相良 伊織(さがら・いおり)殿、か……? よろしくな。人工生命体のイレブンという」
「あ、は、はい。よろしくお願いします」
「今回が初参加になるのかな」
「いえ、先日は、集落にて、住民の方々に僕達教導団の来たことを伝えて回りました」
「そう。そして、戦は今回が初となるからな。みっちり叩きこんで頂かんと。イレブン殿、伊織をよろしく、びしびしとやったってください」
 ほら貴殿、軍人であろう、日本男児であろう! バシバシと相良を叩く、パートナーのグラン・ブレイズ(ぐらん・ぶれいず)
「グ、グラン、ちょっと、ひどいよ……うっ、う……」
「伊織くん? だいじょうぶっ。騎狼部隊のお兄さんお姉さんは、一見へんな人も多いけど、皆やさしいからっ」
「はい! あ、カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)さん、ですか。よろしくお願いします!」
「相良君。このお姉さんは、人工生命体より、こわいぞ」
「うっ、う……」

 しかし、ともかく相良には、まじめな意志があったのだ。
 相良は、小柄な体だが、れっきとしたナイトだ。騎狼を乗りこなすことができれば、武器であるランスに振り回されることもない。今後の戦いのためにも、極めていきたいと思ってのことだった。
 それには、騎狼と仲よくならねば。そして……一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)、メイベル、ミューレリアら騎狼部隊のお姉さん達の応援を受け、そっとおそるおそる、騎狼に近付く相良 伊織。
「だいじょうぶだいじょうぶ。怖くないよ?」
「騎狼……怖くない……怖くない……」
「まあ、見てなって。騎狼部隊のお兄さんこと俺、久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)が、手本を見せてやるよ? ……おいで。さあ。フフフ、こわくない こわくない」
 あ、このパターンは……と、アリーセが思う間もなく、
「ギ!」カプッ
「よう貴様ら」パルボン旗下のアンテロウプがやって来る。「いやしい獣と友達になれたか? 振り落とされて、つぶされぬようにするのだな」
「うっ、う……」
「さあ、これより出撃の準備を致せ!」





 進撃の準備をする騎狼部隊の、やや後方では……直前まで、銃の手入れに余念がない、歩兵科士官候補生ロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)
「……フ」
「さあ、いよいよ今から突撃ってわけですけど……」
 その姿はまるきり美しい女性騎士。騎狼の上から、アリシア・カーライル(ありしあ・かーらいる)。彼のパートナーだ。
「ロブ。…………乗る?」
 ひょいひょいと、彼女は自らの乗る騎狼の後ろを指差す。
「……」
 ロブは少し、かたまった。
「第一、追いつけないと思いますし……」
「……フ」





「さぁーて……オークどもに良い悪夢を見てもらうためにも……派手に暴れるか!」
 ランスをがっちりとかまえて見せるデゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)
「……あのデブ(パルボン)、来てないよな……?」デゼルをちらちらっと見ながら、ルケト・ツーレ(るけと・つーれ)。「オレ、あの視線に汚されてる気がして……」
「よかったなー、モテて」
「だーっ! テメェちったぁ気の聞いた台詞言えねぇンか!」
 ルケトは平時すっかり、デゼルにつっこみを入れる役回り(?)になっているようだが……
 しかし二人とも、今や騎士として完全に様になって見える。
 それは他の皆も同様で。
 少し緊張の面持ちなのは、一条アリーセ。今回は、騎狼に乗って同行する。だけど、いちばん騎狼と仲良くなっているのは彼女だ。前回の戦いでは、真っ先に騎狼に触れて、優しく接して見せ、鞍替え等の準備を、パートナーの久我グスタフと中心になって(二人で)行った。実質的な騎狼の世話をしてきたのは、パルボンではなくアリーセだと言えた。

 そして……
「あ。ロブさん」
 メイベルは、少し頬を紅らめた。
「……フ」
 ロブが来た。騎狼を操る、アリシアの後ろに乗って。
「どうされました? 行きましょう、皆様」
 皆も少し、頬を紅らめた。あまりにも様になっていた二人だったので……
「やるじゃん。ロブ」
「……いいなあ」
「あたしの後ろに乗りたい? イレブン」
「…………エッ」

 更に。
「おおっとぉ! 遅刻寸前。この狼ぁ、なかなかいうこと聞かねえもんだからっ。」
 騎狼に乗ったパラ実生!
「よう。待った待った、でかい喧嘩するんだろ?
 最強志願、駿河 北斗(するが・ほくと)。助太刀するぜっ!!」
 パラ実生にしては、見た目は少し小さめの少年だが、そこはパラ実生。一癖二癖ありそうな漢の登場だ。
「……ホクト、騎狼さんを乱暴にしないでね。……あなたが落っこちたりするぶんにはいいけど……」
 優しく騎狼をなでるが、パートナーである駿河には、何故か氷の眼差しを向ける、ベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)
「皆さん、この馬鹿を……ホクトをどうかよろしくお願いしますね……」
「あ、ああ。こちらこそ。
 パラ実の、えっと、駿河北斗? よろしくな。ところで許可は貰えたのか?」
「ああ、イレブン隊長殿にな」
「……何れにしてもあっちの本当の隊長さんには会わない方がいいだろうな」
「戦力は多い方がいい」
「ああ。さっさと喧嘩に出かけるとしようぜ!」
 教導団陣営に参戦しに来たパラ実生……オークに多大な驚愕を与える効果は間違いないだろう。

 これで、騎狼部隊が揃った。



3‐02 出陣に向けて

「もうじき、出撃になりますね。あの二人が来てませんが……レオンさん、どうしましょう」
 クライスが、レオンハルトに話しかける。
「何、レイディスとセシリーがいない!? 
 ……迷子だな。そのうち着くだろう。放っとけ。
 それよりクライスも、行かなくていいのか」
「あっ、そうだ。今日も別行動ですからね。レオンさん、心配しないで。イリーナさんのことは僕が守り」
「……クライス。前にも聞いたぞ。どうしてそう俺にイリーナイリーナと」
「じ、じゃあね。レオンさん!」
 駆け去っていく、クライス。
「なんだ? レイたち、まだ来てないのか?」
 そこには、出陣を見送る佐野 亮司の姿もあった。
 彼らが心配している(?)のは、今日蒼学から遅れて参戦するはずだった、レイディス・アルフェインと、セシリーことセシリア・ファフレータの二人。
 それから、レオンハルトが気にかけているのが……
「ナナ様。まったく、困った御仁で御座るな。――拙者も気をつけねば」
「そうですね。初陣ですもの。しっかりしなければ」
「あれ、ナナもあっちじゃないのか?」
「え。だって、進入隊員である私の面倒を、レオンさんが見てくださると聞いて……??」
 大人びた雰囲気のメイド、ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)。軍学科志望の彼女だが、今日は獅子小隊の一員として、戦いに参加する。
「ナナ様。では参りましょうぞ」
「ええ、逢様。」
 パートナーは、ヴァルキリーの音羽 逢(おとわ・あい)。拙者、方向音痴故、はぐれない様しっかり着いていきますぞ。
「うんうん」
 見守る、レオンハルト。そして彼がいちばん心配しているのが……
「(やっぱり携帯ゲームを持ち込んで徹夜でやっていたのがよくなかったのかしら。せめて電池が切れなければよかったのに、あと少しでボスが……)」
 眠そうに座り込んでいる、新米隊員の一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)だ。
 しっかりと遅刻して来た。
 ゆらりと近付く、レオンハルトの影。そして蹴りが……入ろうとしたとき、一ノ瀬すかさず、
「短気は損気よ。カロリーメイトでも食べなさい」
「ぐゎ(めかぶ醤油味!」





「レーゼマン。総攻撃には間に合ってよかったですね」
「私用があったものでな。ところで、先ほど看護婦さんをナンパしていたであろう。ルース?」
「……こないだ負った傷がまだ治っていないのを、無理言って出てきたのですよ。レーゼマンが知らないのは無理もありませんが」
「まあ、前回の分も働くとするさ。む、どうやら、騎狼部隊が出撃のようだな……」
 こちらは、獅子小隊、攻略班。
 クリスフォーリル、月島、ルース、レーゼマンら、獅子小隊の主力が揃うが、こちらに、隊長であるレオンハルトの姿はない。
 軍議での発言通り、迷宮班として、後に砦の内部に向かう彼に別れを告げた、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)。獅子小隊の副官として本巣攻めの隊員を率いる。"獅子の右目"の役目、果たさねば……!

 そして今日は、ノイエ・シュテルンから、盟友である獅子小隊に援軍として参加するのが……
「よろしくお願いするわ、イリーナさん」
 香取 翔子(かとり・しょうこ)だ。
「香取がいてくれるんなんて、本当に頼もしい限りだ。
 こちらこそ、どうぞよろしくお願いするぞ」

 そして前回の戦いで、正式に獅子小隊の一員となったクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)が、遅れてやって来る。
「イリーナさん、二人はやっぱり遅れているみたい。レオンさんは、放っておけばいいと」
「そうか。……迷子だな。そのうち着くだろう。うん、放っておけばいいと思う。
 それより、あといないのが……おっ。来た来た」
「ごめんなさい! イリーナ様。逢様が、少し道に迷ってしまいまして」
 ナナ様。ひどいで御座る。拙者今日はまだ迷って御座らん。
「あと、サミュがいないな?」
「たぶんまだ、レーヂエのところにいるんだろ」

 すぐ近くでは、ノイエ・シュテルンの者達が、ロンデハイネの兵達と、準備をしているのが見える。
 今回、歩兵を率いる者でも士官候補生の者は、騎狼に乗って任務にあたる。
 なかなかと様になっている彼らだが、その中で、少し様子が異なる者……
「クロッシュナー」
 彼に、言葉をかけるクレーメック・ジーベック。
 マーゼン・クロッシュナーの騎狼の後部には、旗のような突起がくくり付けられ聳えているが、その重たげな上部は黒い布で覆われている。
 このマーゼンが、昨日、捕虜のオークに尋問し、敵将の遺体を掘り出していたのは覚えているだろうか? すなわち、ここにあるのは……。
「ジーベック」……わかっているな、そう。これは私の仕事だ。マーゼンの目はそう語っている。昨夜も、彼は、ノイエ・シュテルンの隊長であり最大の友と言えるジーベックに、言った。……「いいか、ジーベック。ノイエ・シュテルンのリーダーがこんな汚れ仕事に手を染めてはいかん。ダーティー・ワークは全て私が引き受けるから、お前は白い手のままでいろ。いいな?」……
 隣では、そんな彼を、静かに見守る、アム。
 出撃前の彼らに、ロンデハイネ部隊長が声をかけに来ていた。
 その傍らには、一色 仁(いっしき・じん)。ロンデハイネと共に、兵站の担当を願い出た。
 ミラ・アシュフォーヂ(みら・あしゅふぉーぢ)は、彼に問うていた。「今回は前線にいかないんですの? 功績とかいろいろ必要なんじゃありませんの?」
 一色は答えて、「こちらも攻勢限界点に近い状態だから、補給が重要な時期だしね。
 それに計画やレビューといった仕事も大事だろ?」
 彼も、盟友のクレーメックらに、声をかける。

 出撃の順番は、騎狼部隊、ロンデハイネらの兵を率いるクレーメックらノイエ・シュテルン、レオンハルトに代わってイリーナが指揮を執る獅子小隊、レーヂエセイバーズ、それから、ロンデハイネ旗下のソフソが中軍になる。後詰は、ゾルバルゲラが引き受けた。彼には、とっておきの人物があるという。
 中軍でソフソと共にあるのが、イルミンスールから派遣されたウィザードのカイン・ファーレンハイト(かいん・ふぁーれんはいと)
 ドイツ生まれの、真面目で落ち着いた魔法学生だ。
「そなたの両親は、魔法に関する調査に携わり、そなた自身も幼少より魔法に関心を持ち知識を持った、と聞いた。
 敵にも魔法の使い手がおる。教導団には、魔法使いがいないのでな、期待しているぞ」
 カインは、緊張した面持ちで部隊長に返答した。そう言われても、彼にとっては初の実戦なのだ。
 集団戦の基本を把握したいとの思いから、部隊の所属へ志願した。
「間もなく出撃となる。今回は、主力部隊が総攻撃に出る。教導団の戦を、見ておくといい。戦場で学べることは、多いはずだ」

 そして、最後に出撃し、本巣攻めにとどめを刺すのは……
「そなたの働きに大いに期待しているぞ……岩造」
 ゾルバルゲラ期待の星は、松平 岩造(まつだいら・がんぞう)だ。
「ああ。この私に任せな!!
  フェイト!!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!!!
 岩造様。フェイトはここにございます」
 岩造の剣の花嫁、フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)も勿論、彼のそばに。
「では、行くぞ。貴様は、我ら【龍雷連隊】の戦いぶり、とくと見るがといい」
「い、威勢がよいことだな、岩造」
 岩造は思った。しかし、昨日会ったあの若造……(草薙、と言ったか。)本巣を内部から攻撃するなどと言っておったな。大丈夫か?
 しかしもしそうなれば、本巣にとどめを刺す、この岩造率いる龍雷連隊の勝利は間違いなし。あの若造に、ここは賭けてみるか……
 さて……この岩造、
「オーク本巣を陥落させることができるのか?」



3‐03 レーヂエと一緒

 三乃砦の外で、本巣攻略後の掃討戦の準備をする部隊長レーヂエ。少し、不満そうだ。
 レーヂエセイバーズに指示を与えると、独りポツンと、河面を眺めていた彼のもとを訪れる、剣士。
「おう。ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)、懐かしい顔だなあ。と言っても、まだついこないだのことだがな。オークの森で、最初に貴様とまみえたのは……」
 ベアは、解放戦の発端となった、オークの森遭遇戦で、キングを討ちにいったレーヂエを助けている。ベオウルフ隊の一員だった。
 にっこりと、気のいい笑顔を見せている。
 傍らにいるのは、剣の花嫁二人だ。もちろん、一人はベアの大事なパートナーである、マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)。それに、
「レーヂエサン。ハンセイシマシタカ??」
「げっ。マッゴゥ(※レーヂエのLC:剣の花嫁)。分校でおとなしくしてろと言ったのに……」
 ベアが切り出す。
「レーヂエ(さん、……は、まあ付けなくていいか。自分の柄じゃねえしな)。
 王の首は、レーヂエ、あんたが取るべきだと思う」
「……」
「レーヂエと初めてで会ったあの場所が決戦場か……なんだか運命を感じるな。
 ……ん? おいおいっあの時の事、根に持ってんのか? ははっあの時殴ってすまなかったな」
「いや、そうでなくてな。ベア貴様も、そう踏んでるのかね。……つまり王(キング)が其処に居ると」
 ベアとレーヂエは、目を合わさずしかし同じ微笑を浮かべる。
 マナとマッゴゥは顔を見合わせ、心配そうな表情……
「しかしな」、レーヂエ。
「上の連中が許さない?
 ははっそんなんわかってるぜ! 大丈夫だ! 結果を出せばいい事だっ……まぁ安心しろ俺達も一緒に怒られてやるぜ♪」
「ははは。気が合うなあ、ベアよ」

 そこへ、出撃前に部隊長に挨拶しに来る、教導団の士官候補生ら。
 前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)だ。
「レーヂエわっしょい レーヂエわっしょい」サミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)、それに、レーヂエセイバー数名を引き連れた御鏡 焔(みかがみ・ほむら)の姿もある。
 オークとの戦も、今回で一区切りが着く。なんだかんだでお世話になったと、風次郎はレーヂエに一声かけにきた。
「しばらくは会えなくなるが、次回会うまでに更に強くなっていたい。そうするためにも、あんたにはくたばってもらっては困る」
「ふっ。そうよな」
 河にぽちゃんと石を投げ打つレーヂエ。風次郎は、レーヂエの横に侍るベア、彼らの剣の花嫁達を見て、少しいぶかしむが。
 あんたは主力部隊には加わらず、今回は掃討戦に出ると聞いた、俺は、あんたと共に戦おうと思う……風次郎は、言おうかどうか迷う。
「レーヂエサン! また一緒だネ!」と、そこへサミュエル。「俺……凄く嬉しいヨ! だって百戦錬磨、一騎当千、天下無双のレーヂエさんだもん! えへへーまたカッコイイ所みたいナ」
 レーヂエの回りではしゃぐ彼は、子どもっぽさを残す、どこか人なつっこい大型犬みたいだ。
「レーヂエさんは背中を気にしなくてイイヨ。俺がいるから」
「サミュ。貴様はカワイイトコあるナ」
 レーヂエはそう言うと、自らの兜を脱ぎ、ぼんっとサミュエルに被らせた。レーヂエは、サミュエルの士官候補生帽を被る。それから更に自分の髭をばちっと取って、サミュエルにべちっと取っ付けた。
「……ェ?」
「サミュ。貴様は若い頃の俺にそっくりだ」
「レーヂエサン!」マッゴゥがプリプリと怒る。
「マッゴゥよ。男にはやるべき時があるのダ。ハハハ……」
「レーヂエ、まさヵ……」
 笑顔がすっと消え、不安そうな髭のサミュエル。ベアは、レーヂエににかっと微笑む。
「それから御鏡焔、俺のレーヂエセイバーズは、貴様に任せたぞ」
「ああ、またですか……俺が?」
「御鏡殿!」「御鏡殿!」「御鏡殿!」レーヂエセイバーは、御鏡にすっかりなついているようだ。
 が、一人、
「ベレーヂエ、……レーヂエ殿っ。自分はレーヂエ殿を守りとおしたく思いますっ」
「……ふむぅ。では、レーヂエセイバーを一人連れていくぞ。残りは、サミュエルいや、もといレーヂエ及び御鏡の指揮下で戦うように。
 では、ベア、マナ、マッゴゥ」
 マナは、ふてくされたマッゴゥの肩に優しく手をかけ「二人のことは、私達がしっかり、支えましょう」。
「……どうした、風次郎?」
 佇む風次郎の横で、レーヂエがふと立ち止まる。
「行かないのか」
「ああ。もちろんだ、決まっている」
 教導団軍服を脱ぐと、風次郎はフード付きの戦装束に様変わりした。
「よろしくネッ」付いてくることになったレーヂエセイバーの一人が、風次郎に声をかける。
「ああ」
 かくして三乃砦を離れ、レーヂエ一行は南の、オークの(、キングの……?)待つ森へ発つ。



3‐04 獅子とJOKER

 後方で待機するため、北の森の道を行く、獅子小隊迷宮探索班一行。
「レオン」
 頭上から声が聞こえ、レオンハルトが見上げると、そこにはピエロメイクを施し、赤と緑のツートンカラーに身を包んだ謎の女。
 ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)だ。
 樹の枝に腰かけて、こちらに手を振っている。
「ぞろぞろと引き連れて、一体何処へお出かけかな?」
「レ、レオン……敵? 味方?」
 今回獅子小隊に参加し、イリーナの分まで、皆を守って頑張ろうという意気込みの、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)。心配そうに、レオンハルトと、樹上のジョーカー姿とを見る。
「放っておくさ」
「つまらんヤツ」
「そうじゃん! そうじゃん!」
 ナガンの後ろからふいに現れたのは、彼女と同じピエロ衣装、青黒2Pカラーのクラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)。枝にぶら下がり、くるりと回ってみせた。
「お前等は、せいぜい高みの見物でもしているがいい。相手にしても仕方のないことだ、行くぞ。ほら、一ノ瀬座りこんでるんじゃない」
 そう言うと、レオンハルトはナガンに目もくれず、すっと歩き出した。霧島 玖朔(きりしま・くざく)も無言でレオンに並んだ。
 ヒュゥっと口笛を吹くナガン。
 最後尾にいた、長身のソルジャーが振り向くと、カチッとカービンを構える。
「レオン。俺が撃ち落してやろうか?」
 彼も、この戦いから合流し獅子小隊に加わった、ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)
 一同振り返る。ルカルカは止めようとするが、ウォーレンはふっと笑顔になると、
「冗談さ。愛してるぜ! あー、教導団に危害加えるやつは別だけどさ☆」
「おもしろいヤツ!」
「それに比べてレオンはつまらんじゃん! レオンはつまらんじゃん!」
 レオンハルトは見向きもせず、ウォーレンはナガン達にウィンクしてみせると、迷宮班一行は再び森を歩き出した。